第2568話 様々な強さ ――雪原の戦い――
皇国主導で行われる合同軍事演習に参加するべく、最終調整を行っていたカイト率いる冒険部。そんな彼らであるが、ティナが製作した魔道具の中で各種の状況を想定した演習や模擬戦を繰り広げることになっていた。そこでカイトは最後の模擬戦としてソラ、瞬の二人と共に吹雪く雪原の中での演習を繰り広げることになっていた。
「……そろそろ大丈夫か。カイト。最後にもう一回確認なんだけど、もし使い魔同士で遭遇しても、こっちに誘い込ませるとかは無しで頼む」
「わかってる……が、そっちもわかってるな? もし使い魔が出たら、その時点でおおよその居場所は特定できる。向こうも、相手もな」
「おう」
カイトの最終確認にソラははっきりと頷いた。吹雪こそ収まったものの、まだチラホラと雪は降っているし何より雪原の上を無策で歩くのは危険過ぎた。なので使い魔で周囲を確認し、敵の居場所を掴んでから行動するつもりだった。
「……そうだ。カイト……そういえば低空飛行で雪原すれすれを飛ばすことは出来ないのか?」
「できるが」
「それで頼めるか? そうすればどこから飛んできたか、とある程度は隠せると思うんだが……」
カイトの返答に瞬はそれなら、と一つ提案する。これにソラも同意した。
「あ、なるほど……確かにそれもそうっすね。その分カイトに負担掛かるんっしょうけど……」
「ま、それについてはしゃーない。問題でもないしな」
ソラの指摘にカイトは一つ笑う。というわけで、吹雪が収まったことを受けてカイトは使い魔を顕現させる。ただ、この使い魔はいつもと違って照りのない白銀の小鳥だった。雪に偽装してなるべく見付からない様にするためだった。そうして、白銀の小鳥が曇天と雪化粧に紛れて飛翔する。
「「……」」
後はこれで何かが見つかれば良いんだが。ソラと瞬はカイトの使い魔から送られてくる映像を見ながら、そんなことを考える。が、飛ばせど飛ばせど一面の銀世界が広がるばかりで、一向に何も見付からなかった。そうして瞬がしびれを切らした様に、口を開く。
「……見つかりそうに……ないな」
「っすね……」
これは多分相手は雪原専用の魔術を使って身を隠している。二人はそんな考えを一致させる。そうでなければあまりに見付からなかった。
「ソラ。ウチでこういう局地戦向きの隠形ができる奴を何人知ってる?」
「どの領域で、って話になってきますね」
「俺達を騙せるという話だが」
「なら、多分お互い同じと思いますよ……ソーラさんとことカルサイトさん……後はウチでも極少数っしょうね」
「か……」
おそらく当たりは<<太陽の牙>>の魔術師か、カルサイトさんか。瞬はソラの返答を聞きながら内心そう思う。そしてソラもまた、このどちらかだろうと考えていた。
「どう来ると思う」
「……そっすね。どうやってかこっちの居場所を掴まないことには話にならないとは思うんっすけど……」
「どうやって、か……」
今の所、使い魔から送られてくる映像に一切の変わりはない。一面に銀世界が映るだけだ。というわけで、瞬が一つ問いかける。
「この状況。何が考えられる?」
「そっすね……考えられる可能性は二つ。一つは隠れてて出てきてない可能性。向こうも同じ様に天候が落ち着くまで待って、こちらが焦れて出て来る可能性に掛けている」
「もう一つは?」
「どうやってかこっちに近づいて来ている……方法はわかんないっすね。わかってりゃ対策立ててるんで」
魔術だろうが、その魔術がどういった類の物かがわからないと対策が立てられない。ソラは瞬の問いかけにそう答える。と、そんなタイミングだ。瞬が反応する。
「っ……誰か、っ! 二人共、飛べ!」
誰か近づいている。近付く何者かにばれない様に小声で告げようとした、次の瞬間だ。瞬は自らが近付く何者かを食い止めるべくそちらへと槍を構え突撃し、合わせて残る二人へと即座に声を掛ける。そうして瞬が天井を破ったその穴から見える曇天の中に、一人の巨漢の影があった。
「っ! カルサイトさん!?」
「ちっ! ワンテンポ間に合わなかったか!」
飛び上がりカルサイトを迎撃するソラに対して、カルサイト当人は楽しげに――どうやってこちらの接近を悟られたかわからなかったため――笑っていた。その一方、瞬は忍び寄っていた人物に驚きを浮かべていた。
「カナン!?」
「はっ!」
「っ!」
完全に失念していた。瞬はカナンがもう長いこと冒険部に所属していたため、彼女がその実十年近くも冒険者としての実績があり、そして獣王と呼ばれる男の娘であることを忘れていたのだ。
それはソラもであり、彼女が雪原においてほぼ完璧な偽装を施せる可能性を全く頭に入れられていなかったのである。そうして不意打ちを受けた格好の瞬とカナンが交戦する一方で、カイトの前には一人の青年が立っていた。
「おっす」
「うーっす。こりゃむちゃくちゃ面白い組み合わせになったなー」
「ユリィ一緒じゃないんだよな、今回」
「流石になー」
のんきな様子のカイトの相手は言うまでもなくソーラである。というわけで、最後の模擬戦の相手は冒険部の最高幹部三人対冒険部所属エネフィア出身の冒険者の中でも最高位の戦闘力を誇る三人組だった。
「風下に居たみたいだな」
「おう……で、カナンちゃんが嗅覚でお前ら見付けてくれた」
「だろうな」
流石にカイトも相手が誰かと判別するまではどういう手を取られるかわからなかったものの、相手がわかってしまえばどうやったかがわかったようだ。特に驚いた様子もなかった。
「懐かしいなー……いつぶりだ? 兄貴とバトるの」
「さぁな……俺寝てたし」
「あっははは……ま、たまにゃ旧交を温めるのも悪くはねぇか。今回は後方支援に徹するつもりだったんだがなぁ……」
「……どういう意味?」
「え? あ、ああ……旧交を温める?」
今更であるが、ソーラは戦争時代に少年兵として徴兵――もしくは拉致かもしれないが――されている。なのでまともな教育が受けられているわけもなく、いまいち難しい言葉などには疎かった。まぁ、冒険者でまともな教育を受けている方が珍しいので、今の所ソーラもこれで困ったことはなかった。
「えー、まぁ、久しぶりに会ったダチとはしゃぐ的な。そんなとこ」
「あー……」
確かに俺とカイトはダチだし、久しぶりに会ったことに間違いはない。というわけで、ソーラもカイトのざっくりとした説明で納得したようだ。というわけで、納得した彼は改めてカイトへと向かい合う。
「ま、いっか……とりあえず。久しぶりにいっちょやろうぜ」
「おう」
どうやら自然、対戦相手は固まっていたようだ。カイトは往年の大太刀大剣に軽鎧スタイルではなく敢えて今の姿で相対する。それに対して、ソーラは大剣を握りしめ黒龍の力を身に帯びていた。
「「……」」
ひりつくような空気が両者の間を満たしていく。そして先にしびれを切らしたのは、ソーラだった。
「おぉおお!」
雄叫びと共に、ソーラの身体から漆黒の龍が解き放たれる。それは彼の持つ大剣に纏わり付いて刀身を漆黒に染め上げた。
「<<黒龍牙>>!」
漆黒の刀身から解き放たれた漆黒の龍が牙を剥いて、カイトへと襲いかかる。これに、カイトは軽く切り払う。
「はっ」
「やっぱ強くなったな」
「おうよ。あんたが死んだと思ってから十年、走り続けたからな」
黒龍を囮にして自らに肉迫していたソーラに、カイトは楽しげに笑う。所詮あんなものは小手調べ。牽制球だ。そうしてソーラは左手一つで身の丈以上の大剣を軽々持ち上げると、細身の身体には似合わぬ剛力でそれを振り抜いた。
「おらよ!」
「はっ!」
流石にソーラほどの猛者の一撃をカイトも軽々受け止めることは出来なかったようだ。そうして金属同士がぶつかり合う甲高い金属音が鳴り響くが、その次の瞬間だ。ソーラの右手が漆黒に覆われるのをカイトは見た。
「そいつは!」
「<<黒龍拳>>!」
がぁん。自動車がビルにでも激突したかの様な轟音が鳴り響き、カイトが積雪を舞い上げながら吹き飛んでいく。そうして吹き飛んでいく彼へと、ソーラが大剣を両手で握りしめながら再度接近する。
「<<黒龍斬>>!」
「ネーミングセンスもうちょっとなかったのかよ!」
切り上げる様な漆黒の斬撃に対して、カイトは大剣を取り出しそれを左手一つで受け止める。そうして空いた右手で、彼は魔銃を取り出した。
「っ! <<黒龍弾>>!」
カイトの魔銃に応ずるように、ソーラが左手一つで大剣を握りしめ空いた右手で漆黒の魔弾を至近距離から発射する。これに、カイトはそれを撃ち落とす様に魔弾を発射。更に続けて引き金を引いて、いくつもの魔弾を発射した。
「っ! そういや、それお前が量産化したんだっけか!」
「聞いたみたいだな! ウチは天下のマクダウェル家! 世界一の技術都市だ!」
こちらも同じく漆黒の魔弾を右手から連射するソーラとカイトは左手の大剣で打ち合いを行いながら、逆の右手では極至近距離で魔弾の応酬を行うという芸当を披露する。そうして数十の斬撃と数百の魔弾を応酬し合った所で、ソーラが先に次の手札を切る。
「っ! やっぱ強くなったな!」
「あったりめぇだ!」
「じゃあ、俺もそれに応えないとな!」
ここまでは単なるウォーミングアップ。そんな様子でソーラが笑う。そうして、彼は今まで魔弾の応酬を繰り広げていた右手を引いて、敢えてカイトの魔弾をその身で受け止めた。
「っ……おらよ!」
肉を切らせて骨を断つ。まさしくそんな様子で魔弾を受けたソーラは一瞬だけ顔を顰めるも、その次の瞬間に漆黒に染まっていた彼の腕が肥大化してカイトへと襲いかかる。そして流石にこの状況でいきなり肥大化してきたのだ。再度カイトは大きく吹き飛ばされることになった。
「<<黒龍滅爪>>!」
鉤爪の様に鋭い爪を持つ黒龍の腕が、カイトへと襲いかかる。これに対してカイトもまた次の札を切ることにした。
「ふぅ……はっ!」
ごぅ。迫りくる漆黒の腕に対して、カイトの身体から業火が迸りその身を包み込む。<<炎武>>だ。そうして炎を纏ったカイトは迫りくる漆黒の腕に向けて炎の拳を振り抜いて食い止める。
「っ……」
「こいつはオレの仲間が使った……いや、作った大技だ……双子大陸に<<暁>>の大支部があったなら見たかもな」
見たことあるよ。ソーラはカイトの言葉に一度だけ<<暁>>の支部長が振るった<<炎武>>とカイトの使った<<炎武>>が同質、ないしは同じ物であると理解する。そうしてそんな彼はそれならと次の手札を切った。
「なら!」
「ん?」
左手で持っていた大剣を放り投げたソーラに、カイトは一瞬だけ虚を突かれた様子で首を傾げる。そんな彼に対してソーラは今まで競り合っていた右手を引いて、逆の左手も巨大な漆黒の腕へと変貌させる。
「<<黒龍の大槌>>!」
これだけ巨大な腕であれば、確かにこの大剣も見合ったサイズだろう。そんな巨大な腕を振るうソーラが一気にカイトへと大剣を振り下ろす。
これにカイトは<<炎武>>の出力増加に加え、しっかりと雪の上を踏みしめる。所詮この炎は魔術の炎。やろうとすれな雪を溶かさず、ということもできるのであった。
「ふぅー……」
呼吸を整え意識を集中し。カイトは真正面から受け止める気らしい。そうして迫りくる巨大な大剣に対して、彼は身体全体でひねりを利かせ拳を突き上げる様にして、そのまま飛び上がる。
「おぉ!」
雄叫びと共に、カイトの拳に炎が集中する。そうして生まれた炎の巨大な拳が大剣と激突。数秒の膠着の後、押し勝ったのはカイトだった。
「っ! やるな!」
「まだまだ!」
「っと!」
わずかに浮かび上がった状態のカイトが、拳を振り下ろす様にして炎の拳をソーラへと放つ。それに腕を元のサイズ――ただし漆黒には染まっているが――に戻したソーラが切り裂いた。そうして、カイトとソーラの戦いは暫く続くことになるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




