第2565話 様々な強さ ――二つの加護――
皇国主導で行われることになっていた合同軍事演習。それに参加する冒険部一同であったが、その最後の調整としてカイトは小規模な遠征を企画。マクスウェルから飛空艇で一時間ほどにある空き地にてティナが作成した魔道具を使った各種の演習を行っていた。
そんな中でカイトはソラとの神に連なる戦士としての戦いを繰り広げていたわけであるが、これはソラのスタミナに限界が訪れたことにより終わりを迎えていた。
「あー……まーじ無理……お前どんだけスタミナあんだよ……」
倒れ込んだ当初は肩で息をする様な状況だったソラであるが、カイトから投げ渡された回復薬を口にして更に暫く横になっていると随分と楽になったらしい。まだ完全復活とまでは行かないものの、悪態をつけるぐらいの余裕は取り戻せていた。
「これはスタミナもあるが、慣れの影響もデカイ。この間言っただろ? とりあえず神使化にせよ神器の解放によるブーストにせよ、身体を慣らさないとキツいって」
「聞いたけどさ……そんな問題じゃないだろ……」
カイトの助言にソラは変わらず悪態をつく。そんな彼に対してカイトは遊ぶ様に右手を回して無数の真円――といっても手のひらサイズと先程よりかなり小さいが――を生み出していた。そんな様子に、ソラは改めて呆れ返る。
「片手でもできるのかよ……」
「別に右手では蒼銀しか出せない、って決まりは特に無い。両手でやった方が倍速で良いってだけの話だ」
「マジか……うおっ」
唐突に輝きを放つ無数の真円にソラが思わず身構える。が、そうして迸った淡い光は彼を攻撃するではなく、優しく包み込むだけだ。
「ああ、寝てろ。単に回復を支援する効果があるってだけだ」
「べ、便利すぎんな……」
『この様な使い方なら我もできる……お前が使えぬだけだ』
「そうなのか」
どこかすねた様な<<偉大なる太陽>>の言葉に、ソラが驚きをあらわにする。どうやら神器は使用者ができるのであれば様々な使い方ができるらしく、今の様な回復支援もソラが学びさえすればできるらしかった。とまぁ、そんなわけで月光に似た光に包まれ身体を休めるソラであるが、暫くすると動ける程度には回復したようだ。起き上がって一つ礼を述べる。
「ふぅ……サンキュ。なんとか動けるぐらいには回復した」
「ああ……ま、オレ相手でもないとあんな全力なんて出せないだろ。そういう意味じゃ良い訓練になったろ?」
「お前な……まぁ、そうっちゃそうなんだけどよ……」
確かにあれほどの全力は相手を選ぶ。それこそ酒呑童子が乗っ取った瞬であれば使うのも良いかもしれなかったが、そうでもなければ瞬相手にも使い難かった。と、そんなことに納得したソラであったが、しかし少し気になったことがあったようだ。一つ問いかける。
「って、そうだ。そういや結局スルーしちまってたけどさ。結局なんで風の加護と<<偉大なる太陽>>が同時に使えなかったんだ?」
「ああ、それか……こればっかりは仕方がないことなんだが……お前、どこかで神様もまたシステム側の存在って聞いたことあるか?」
「お師匠さんから聞いてる」
「そか……それに起因するんだ」
ソラの返答にカイトはそれなら前提はあまり詳しく話さないでも問題はなさそうか、と判断。そこらの話をすっ飛ばして、一気に原因の言及に入ることにする。
「どういうことだ? 世界と世界のシステム同士なら相性が良いんじゃないのか?」
「そう思うよな? だがこれはかなり複雑な関係なんだ。一概には言えない。今回の場合は相性が悪くなってしまった、と言っても良いかもしれない」
「……つまり状況に応じて異なるってことか?」
「そう言って良いだろう。今回は、相性が悪かったって話だ」
嫌に今回は、って所を強調するな。ソラはカイトの言葉からそんな印象を得る。が、実際これについては本当にそうと言うしかなかったようだ。というわけで、カイトが続ける。
「何事にも相性がある様に、加護に関しても相性があるんだ。だから例えば同じ神の加護でも水を司る、もしくは水に関係のある神の加護に水の加護を足せばそれは抜群の相性になる」
「同じ属性だからか」
「そういうことだ。では他属性……例えば水属性に属する神の加護に火の加護を使ったら、どうなると思う?」
「そりゃ火と水だろ……? 相性は最悪だから……反発する?」
「そ。属性としての相性が悪すぎてお互いの効果を半減させちまったり、上乗せ出来なかったりする」
確かにカイトの言葉は筋が通ってる。ソラはカイトの解説を聞きながら、なるほどと頷く。というわけでこの話に照らし合わせれば、と彼が口を開いた。
「ってことは……太陽神ってぐらいだからシャムロックさんの加護は火属性に属するって感じか?」
「正確には火と光の複合だが……おおよそはそれで間違いないだろう」
「なるほどな……光属性と風属性に相性が悪いって聞いたことはないから……火と風? 相性悪いのか」
「いや、実は違うんだ」
「はい?」
今までの話の流れを考えれば、これしかない。そんな様子で結論を下したソラであるが、カイトの回答に一転して首を傾げることになる。
「お前もわかるだろうが、火に風を送れば火の勢いは増す……だから本来相性が良いんだ」
「でも弾かれたぞ?」
「弾かれたわけじゃない。シャムロック殿の加護が強すぎて、風の加護が入り込む余地がなかったんだ」
「余地がなかった?」
「ああ」
ソラのオウム返しの問いかけにカイトははっきりと頷いた。そしてだからこその今回は、という強調だった。
「当然だが、世界のシステムに関してもいろいろな位階がある。例えば精霊であれば大精霊が頂点であるように、神々であれば主神や最高神を頂点としているわけだ。なのでその授けられる加護も最高神から順に下に行けば行くほど弱くなる……これは良いか?」
「そりゃ、当たり前の話だからな」
「ああ……で、<<偉大なる太陽>>は最高神が保有する武器の中でも最高位の神剣だ。その加護の強度は当然、最高位の加護となる。これも良いな?」
「ああ」
ここまでは言われなくても理解している範囲だ。ソラはそれ故にただカイトの確認に頷くだけだ。
「そ……じゃあ、次……大精霊と神々だとどっちが上だと思う?」
「そりゃ、大精霊だろ」
「そう……だから基本大精霊の加護と神の加護は両立し、強化される。されるんだが……」
ソラの返答に頷いたカイトであるが、一般論を口にした後にどこか苦笑気味に続けた。
「流石に主神や最高神の加護になっちまうと、その強度が強すぎて大精霊の加護が押し負けるんだ」
「そんなことあんのか」
「ああ……主神や最高神なんかの最上位の神々限定だがな。だから基本属性としての相性が悪くない限りは神の加護と大精霊の加護は両立する」
「ってことはシャムロックさんの力だったから起きたってわけか……」
シャムロックは言うまでもなく最高神。最高神から授けられる力はその神話群の中でも最高位だ。だからこそ起きた事態だと言われれば、ソラとしてもすんなり受け入れることが出来たようだ。
「ってことはもしこれが火の加護だったり光の加護だったりしたら、行けてたのか?」
「まぁ、お前が思ったほどの強化は得られないだろうけどな。少なくとも強化は出来ただろう」
「なるほどなー……なんか手は無いのか? それ防ぐ方法とか……」
こういった大精霊に関する話であればカイトこそが第一人者だし、何より彼自身が女神の加護と大精霊の力を使いこなす稀有な存在だ。何かしらの対策を知っていても不思議ではない。そうソラは思ったようだ。そして事実、彼はそれらを両立させ使うことができる稀有な存在だった。
「簡単だ……契約者になること。それだけだ」
「……契約者? それってあれか? お前の言う契約者ってことは……あれだよな?」
まさか正気で言ってるのか。そんな様子でソラが確認の意味を込めて問いかける。これに、カイトははっきりと頷いた。
「ああ……大精霊の契約者。それになること……ぶっちゃけてしまえば大精霊の加護が押し負ける理由は単に一方的に大精霊が与えているだけだから、という所が大きい」
「制限でも掛けられてるのか?」
「それは勿論掛けられてる……ま、だからかな。ある一定の力を超えちまうと必要無いよね、って感じで強化出来なくなっちまうんだ。あくまでも手助け、って範疇だから手助けを超えちまうとアウトなんだと」
「へー……」
元々大精霊達が世界のシステム側の存在であり、本来使える力も大きく制限されていることはカイトから聞いてソラも知っていた。それと同じ様に加護にもいろいろな制限があるのだ、とどこか納得するような様子であった。
「とまぁ、そんな感じで。最高神の力を借り受けてる状態じゃ大精霊達の力は基本使えないものと思った方が良い。かといって、完全に使えないってわけでもないからややこしいんだが……」
「あくまでも自己強化みたいな形には使えない、って感じか」
「そうだな。そんな所と捉えておく方が良いだろう」
あくまでも自分を強化するためには使えないだけで、それ以外の例えば風を操る補佐などにはソラも使えていた。あくまでも身体能力の強化に使えない、というだけなのであった。
勿論、加護の使用を念頭に入れる状況下において求められるのは身体能力の強化であることが多いので、結果的に使えないと見ても良いかもしれなかった。というわけで、そこらを語ったカイトは少し笑いながら自身の所感を告げた。
「まー、実を言えば神使にならないなら大丈夫かな、とか思ってたんだが……流石にそうは問屋が卸さないか」
「マジか」
「おう……<<偉大なる太陽>>の解放で得られる程度なら問題ないかもー、とか思ってたんだが……さすがは最高神の保有する最高位の神剣か。第一解放でも得られる力は加護を跳ね除ける領域だったか」
どうやらここらに関してはカイトもあまり例を知らなかった――そもそも加護と神使を両立させた例が少なかった――からか、ほとんどそうかもという所だったようだ。
「んー……まぁ、どっちにしろあのまま加護まで使っちまってたら多分身体が保たなかっただろうから、あそこで止めてもらえてよかったのかもな」
「だな……今のお前には手に余る力だ。大精霊達からドクターストップが掛かったものと思っとけ」
「おう」
元々ソラとしても加護と<<偉大なる太陽>>の力の解放で自分がどうなるかは未知数だったのだ。あくまでもできるかも、という想定でやろうとしただけで、大精霊側からストップが掛かったのは内心で少しだけ安堵していた。というわけで、そこらの話を更に少しだけ繰り広げ、両者は再び次の演習へと向かうことにするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




