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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2559話 様々な強さ ――一戦目終了――

 皇国主導で行われる合同軍事演習。それに先駆け、カイトは冒険部のギルドメンバー達の最終調整を兼ねた小規模な遠征を企画。飛空艇にて一時間程度の距離の所にある草原にてティナが試作した魔道具を使い最終調整を兼ねた模擬戦を繰り広げていた。そんな中、カイトは同じく遠征に参加していたアリスと遭遇。彼女と市街地戦を模した模擬戦を繰り広げていた。


「ほらよー」

「っ!」


 建物の瓦礫を魔術で持ち上げられ投擲され、アリスが慌ててその場を飛び退く。そうして彼女が立っていた場所に激突し砕け散って粉々になった破片を、カイトが風で巻き上げる。


「ほら。単に避けるだけだとこうなる。瓦礫を巻き込んだ竜巻は非常に厄介だ」


 四方八方から襲いかかる瓦礫だ。いくら旧文明の遺産で作られた盾だろうと、全周囲を防ごうとすれば膨大な魔力を消費してしまう。流石に厳しかった。


「はぁ!」

「ほぅ……」


 切り上げる様な斬撃を放ち、アリスが瓦礫を巻き込んだ竜巻を真っ二つに両断する。このまま放置すればいつかは手に負えない状況になる。それを厭って、まだ萌芽である間に対処しようとしたのだ。が、そんな彼女の後ろにカイトは回り込んでいた。


「はい、チェックメイト」

「……参りました」

「はい、よろしい」


 後ろから漂うヒヤリとした気配だけで、アリスはカイトが納刀したまま告げている事を理解していた。一瞬でも動けばその時点で首が落ちる。そんな未来が垣間見えたのだ。


「今回の助言としちゃ瓦礫を上手く利用する、という所だな。市街地戦になると基本建物は崩れ、障害物となる。が、障害物も使いようだ。さっきアリスがしたみたいに遮蔽物を使って身を守ったり、こうやって攻撃したりする事もできる。防御はよくやられるが、攻撃に使うのは意外と誰もやらない。覚えておくと良い」

「覚えても使うんでしょうか……」

「滅多には使わんが、知っておくことと知らないのとじゃ話は変わってくる」


 アリスの尤もな指摘にカイトは笑う。基本エネフィアでの戦いは街の外で行われる。なのでここまで大規模に街が破壊されるほどの市街地戦を想定する、というのは中々に無いものだ。

 今回の模擬戦も大前提は市街に甚大な被害を与えてはならない、という点が課せられている。カイトのように大規模に破壊する行為をして良いか、と言われれば彼自身首を傾げた。が、決して使わないわけではない事もまた事実だった。


「ま、それに……もしもの時は多少市街への被害を織り込んで行動に出なければならない時もある。そんな時、さらなる被害を抑えるための次善策を知っておく事も大切だ。それは抜きにしても、こういった障害物の多い環境化での戦いは経験を積んでおいて損はない」

「はい」


 これについてはアリスも尤もな意見と受け入れたらしい。カイトの言葉に一つ頷いた。


「ああ……ま、流石にこれ以上ここでアリスの訓練ってのも一つ手は手だが……あまり長く居座っても次の相手が先に進めないままか」

「そういえば……模擬戦が終わった後はどうするんでしょうか」

「そういえばそうだな……」


 通路があって入り口があった以上、どこかに出口があるはずだと思うんだが。カイトはアリスと共に周囲を見回す。市街地を模したエリアの大半を吹き飛ばした事によりわかるようになったのだが、どうやらカイトとアリスがそれぞれ入ってきた入り口はエリアの中心を介して一直線になっていたらしい。が、それ以外の出入り口は見当たらず、どこから出れば良いかさっぱりだった。


「……しゃーない。ティナ! 確か見てるんだろ!? こういう場合、どうすりゃ良いんだ!?」

『すまんすまん。聞こえとるからそんな大声出さんで良い』


 カイトの求めに応じて、ティナの立体映像が再度現れる。無論、アリスが居るのでいつものちびっこ状態だ。


『で、出口じゃが本来は一定時間経過で出るように設定されておるんじゃが、お主の所に限ってはオプションで出ないように設定しておった。それを言うの忘れとったわ』

「あ、そうなのか……あれか? 非常口から入って出れるか、って話の流れか?」

『そうじゃな……が、確かに思えばお主以外もおるからのう。出入り口を出すようにしておこう』


 どうやら指定したポイントに入って出られるか、という先のホタルの件を確認させるため、本来なら出現するための出入り口を出さないようにしていたらしい。ティナが通信の先で何かを弄る様子があり、しばらくすると入ってきた場所と似た、ただし上部に『EXIT』と書かれた看板がある扉が現れた。


『アリス。お主はこちらから先に出ておけ。すまぬな』

「あ、いえ……ということはカイトさんはこのまま?」

『うむ。あくまでもこれは試験品。色々とテストをやらねばならぬのでな』

「はぁ……」


 元々試験品である事は言われていたのだ。なのでアリスも色々としなければならない事があるのだろう、と素直に考える。というわけでアリスは一足先に先に進み、カイトは再び暫くそこで待つ事になるのだった。




 さてアリスが先に進んで少しした頃。カイトは相変わらず瓦礫に腰掛けホタルの到着を待っていた。が、単に待つのも暇なので彼はティナから各所の模擬戦の状況を聞いていた。


「で、どんなもんだ? 模擬戦の様相としては」

『そうじゃな……まぁ、各個人の話についてはあまり触れまい。お主からすれば各個人というよりも上昇部付近……ソラらやカルサイトらの事の方が気にかかるじゃろうからのう』

「ま、確かに逐一誰がどうとか言われてもな」


 知っておくのは良いだろうが、基本冒険部では技術にせよ情報にせよ上から下へ流れるように構築している。なので基本カイトが関わるのは上層部やエース級の人員、各部の部長級だ。ギルドメンバー一人一人の把握は統率役である彼らに任せているため、カイトが殊更聞く必要はなかった。


『じゃろうて……で、それで言えばまだおおよそが初戦が終わった程度。取り立てて報せる必要はあるまいな。こちらとしてもまだそこまで特殊な想定では場を構築しておらん』

「特殊な想定ねぇ……どんなのだ?」

『例えば雷雨の中などの想定じゃ。天候関連、という所じゃな。魔術的に言えば周囲の属性が極端に偏った状況、という状況かのう。強風、炎天下、積雪……そんな塩梅じゃな』

「なるほどな……それ以外には?」

『そうじゃな……後は多対多を想定した戦闘か。それも当然できるようにしておる。ま、これについては三戦目以降に設けるつもりじゃ』


 確かにこの魔道具は複数人を送り込む事ができるようになっていたし、確かに各種の状況を想定できるのであれば、一対一だけしか出来ないというのもおかしな話だろう。


「なるほどね……とりあえず個々人での戦いを一回やっておいて、で特殊な状況下での個人戦を一回。そこからは完全ランダムって感じか?」

『よくわかったの。設定としてはそんな感じじゃ。ま、更に言うと初戦は意図的に上層部同士がぶつからぬようにしておいた。下手に長引かれてもこちらも困るからのう』


 どうやら初使用であるためか、ティナはあまり全員が全力を出しすぎないように意図的に実力が近い者同士がぶつからない様な組分けをしていたらしい。なのでそういった面もあり初戦闘では目立った報告ができるようになっていないそうだ。


「そうか……ってことは二戦目からは色々と特殊な状況になりそうかね」


 次からは面白くなりそうだ。カイトは次からは特殊な状況も発生し得るようになっている、というティナの言葉にわずかに期待を寄せる。と、そんな所でふと彼が気が付いた。


「……って、それなら下手にこっちも長引くと相手がきつくないか?」

『ああ、それに関してじゃが、流石に想定しておる。なので特殊環境下における演習の場合は一度両者が顔をあわせてから状況を構築。戦闘開始となるようにしておる』

「あ、そうなのか」


 やはり特殊な環境というのは居るだけで体力と魔力、精神力を消耗してしまうのだ。そこに長く居れば居るほど相手側が不利になってしまうのは仕方がない事だった。


『うむ。やはり今後を想定すれば一戦一戦が同じ時間で終わるとも限らぬ。となると先に終わらせた方が不利というのは中々不思議な話じゃ』

「魔力や体力を多く回復できる、温存できるって事でもあるが……」

『ま、そうじゃがのう……早く終わらせた方が損となってしまえば下手すると誰も進まぬ様な状況も想定されてしまうからの。そうならんようにはいくつかの思案はやっておるよ』


 どうやらカイトが考える程度の話はティナも考えており、色々と対策をしていたらしい。と、そんな事をしていると明後日の方角の空間に亀裂が入り、ホタルがそこから飛び出した。


「マスター」

「ああ、来たか……ほら」

「ありがとうございます」


 ホタルはカイトから人形を受け取ると、再び地面を蹴って空中へと舞い上がる。これでカイトがこの場に留まる意味はなくなった。というわけで、彼もまた立ち上がりアリスが出ていった出口から外に出る。そうして出た先は先程と同じく無機質な空間だった。


「アリスの姿は……まぁ、無いか」

『基本入ってきた場所が違えば出る場所も違うようにしておる……右手を見てみろ』

「ん? これは……」

『回復薬じゃな。これを設置するかどうか、どの品質の物を設けるかはこちらからの設定でやることになるが……今回はこれの試験も行いたいので一般的に普及しておる回復薬を出しておいた』

「出しておいたって自動で生成されるのか?」

『流石にそんなわけあるまい。外側から入れられるようにしておる。ま、大規模な模擬戦を想定しておるので数百単位で用意せねばならんがのう』

「金掛かりそうだが……数百人単位で模擬戦やろうってんなら必要か」


 このキューブ型の魔道具はあくまでも軍や数百人規模のギルドなど、ある程度大々的に組織的な活動が可能な組織を顧客として見込んでいる。なので費用として用意は可能と判断したようだ。ちなみに、今回は流石に試作品の試験なのでヴィクトル商会から供与された回復薬を使っている。


「で、後はまっすぐ進めば良いんだな?」

『うむ……ん。ホタルもたった今帰って来た。時間としては先より早いぐらいか』

「見つけやすかったからか」

『そんなとこじゃな』


 先程通路に居た時はセンサー類を使わずに探していたため時間が掛かってしまっていたが、それに対して今回は演習場だったので探すまでもなかった。そこがタイムの差として出ていたようだ。というわけで、カイトは今の所聞きたいことは聞けたと改めて歩き出し、次の模擬戦の舞台へと向かう事にするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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