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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第98章 演習編

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第2558話 様々な強さ ――模擬戦――

 合同軍事演習開幕まで後少しと迫ったある日。カイトは公爵としての仕事の傍ら、冒険部のギルドマスターとして合同軍事演習に参加するギルドメンバー達のための最終調整として小規模の遠征を企画。飛空艇で一時間ほどの距離の所でティナがヴィクトル商会とマクダウェル公爵軍との共同で開発したというキューブ型の魔道具を使って最終調整へと乗り出していた。


「さってと……」


 カイトは少し興味深い様子で無機質な通路を歩いていく。一応は模擬戦やら各種の状況を想定した演習ができるようになっている、という事だが実際に何が起きるかは知らないのだ。というわけで、興味深いのはそれ故だった。というわけで少し歩いていくと、扉が現れる。


「……」


 おそらくここから先が模擬戦の舞台なのだろう。カイトは現在自分の方が出遅れている事を鑑みて、扉を開けた瞬間に奇襲を受ける可能性を鑑みる。


(<<(まろばし)>>による気配察知……も無理か。なるほど、どうやらこの扉の先もまた別の異空間か……異空間を連続させ様々な戦場を構築している、という所かな)


 それで拡張性が高いのかもしれない。カイトは自身でさえ読めない中の状況を鑑み、そう判断する。如何に神陰流と言えど、限度はあったようだ。


「……ふぅ」


 一度だけ深呼吸して、呼吸を整える。問題はないと思っている。が、それと問題は起きないかというと別問題だ。誰が何を準備していても良いように、カイトは音もなく扉を開ける。


「……」


 瞬間。カイトは気配を読んで中に誰かが居る事を理解する。が、中の何者かは一瞬の警戒を露わにしたものの、不意打ちなどの手を使おうとは思わなかったようだ。ただ静かに待ち構える。これに、カイトも次の一手を決めた。


「……お? アリスか」

「カイトさん」

「何だ、その安心した表情は……不意打ちでもしようと思ったか?」

「あ、いえ……」


 そういうことはしないだろう。アリスの性格を知っていればこそあり得ないと断じれるカイトだが、同時にだからこそこう言ったのだ。安堵したのは単に人見知りの彼女がカイト相手だと理解した事によるものだった。


「あははは……うん。良い天気だ。いつもならここらで少しお昼寝、と洒落込みたい所ではあるが……流石にそんな場ではないな」

「え、っと……何をすれば?」

「おいおい……訓練に来たんだ。模擬戦以外になにかあるか? ま、オレ達はいつもやってるから、いつもやってる事をいつもの通りやれば良いだけだ」


 流石にアリス相手に初手から搦め手を使うのはな。カイトは一応は師匠分である事もあり、今回は自身の訓練ではなくアリスに稽古を付ける感覚でやる事にしたようだ。いつもの馴染みの刀を取り出す。


「さ、やるか。市街地戦は経験した事ないだろ?」

「というよりもこんな町並み教国にはほとんどなかったので……」

「あはは。それはそうかもな」


 教国の町並みであるが、これは中世ヨーロッパから近現代ヨーロッパの町並みと似たようなものだ。それに対して今回の魔道具はマクダウェル家、ひいては皇国で使う事を主眼としており、市街地戦で使われる町並みもそれに合わせた構築がされている。

 なのでコンクリート・ジャングルとまではいかずとも、地球のビル群に似たどこか無機質な印象を与える市街地だった。テンプレート化しやすく用意しやすい、という利点が大きかった。


「とはいえ、やる事に変わりはない。市街地戦の要点は障害物が多い状況で如何にして戦うか。思えばこれはほとんどやっていない訓練だ。丁度よいな……アリス。最初は三十秒考える時間をやる。それで手を考えろ」

「あ、はい」

「じゃあ……お願いします」

「お願いします」


 慌て気味に頷くアリスであるが、ここ数ヶ月ほぼ毎日暦と共にカイトの下で訓練していたのだ。カイトが頭を下げると同時に頭を下げるのが癖になっている様子だった。というわけで、ほぼほぼ同時に両者が頭を下げた所で模擬戦がスタートする。


「ふっ」


 とんっ。アリスは軽い様子で地面を蹴って、近場の建物の屋根の上へと移動。更に屋根を伝っていくつかの建物を経由し、カイトが見えるギリギリの所へ即座に身を隠す。

 基本的にこういう模擬戦でカイトがアリスや暦相手に<<(まろばし)>>を使う事はまずない。そんなことをしなくても勝てるし、何よりそれをするとアリス達の訓練にならなくなる。そしてそれはアリス達も言われていないものの勘付いており、今回もそうだろうと判断していた。


(カイトさんならこういう場合、どうするでしょう……)


 基本タイマンなら相手がどうするか、というのを考えて自分の手を考えろ。アリスはカイトから教えられた教えに沿って、次の一手を考える。


(基本は……魔術? でも魔術ならどうすれば……使い魔の多重使用? ううん。カイトさんならそんな非効率の極みはしないはず……)


 単に物陰に隠れているだけでやり過ごせる相手ではない。アリスはカイトの事をそう理解していた。そしてであるのなら、何か必ずカイトは現状の自分を見つけ出す一手を打ってくるはずなのだ。それを読みぬいて攻略しない事には、一撃を与える事なぞ夢のまた夢だ。


(どうやって……っ、センサーだっけ……確かそんな魔術を使えたはず。原理は……)


 もっときちんと聞いておくべきだった。アリスはカイトからセンサーという単語を耳にしていた事を思い出したものの、それ以上先を思い出せず思わず歯噛みする。が、悔やんだ所で今思い出せないのだから一緒だ。故にアリスはひとまず影を増幅して闇で自身の身体を覆い隠す。


(トラップは愚策……カイトさんならそれが手がかりになってこちらの居場所を掴まれる……だとするのなら……一旦は待つしかない)


 なるべく呼吸を殺し、アリスは残り時間は意識を集中させる事に費やす事にする。そうすれば三十秒なぞあっという間だった。


「よし……三十秒経過だ。まずは安牌な所からやってみるかね」


 一応だがカイトはこの三十秒意図的に聴覚を制限し、アリスが隠れたり何かしらの支度をしてもわからないようにはしておいた。なので本当に彼女がどこに隠れているかはわかっていない。というわけで、彼はまずは高く飛び上がって周囲を確認する。


「……」


 まぁ、この程度で見付けられるわけがないよな。カイトは流石に上空から探して見付けられない事に逆に安堵を抱く。これで敢えて隠れず不意を打つ、というのも一つ手なのだろうが、アリスの性格上そういう事はせず一旦様子見を選ぶ事が多かった。


「後は……どの手を使うかね」


 カイトの持ち味はやはりそのあまりにも多い手札だろう。それこそアリスが愚策と断じた大量の使い魔を召喚しての人海戦術から、果ては地球から持ってきていた偵察用ドローンを使っての調査。魔術でも科学でもどちらでも選び取る事が出来た。


(ま、流石に赤外線センサーだの搭載のドローンはやめておくか……慣れない市街地戦だしな)


 意外な事なのであるが、魔術で何から何まで科学を全て騙せるわけではない。きちんとした対応を知っておかねば、科学で作られたセンサーは巧妙な魔術による隠蔽も見抜く事はできる。

 例えば赤外線であれば下手に光という概念を吸収する事で対応してしまうと、ぽっかりとなにもない空間の出来上がりだ。目視出来ずともそこに何かがある、と判断させるには十分だ。

 こういった対応が出来ているか見たい所ではあったが、流石に今回カイトはしないでおいた。が、完全に科学無しで対応するのもあれなので、別の一手を選ぶ事にする。


「……」


 指をスナップさせる動きのまま、カイトは一瞬だけ停止する。そうして、眼に指先から放たれる音波を可視化する力を付与。次の瞬間に指をスナップさせる。


「ふむ……」


 どうやらスナップ音が返ってくる範囲にはアリスはいないらしい。カイトはアリスの姿が見えない事からそう判断する。そうして移動しながら数度指を鳴らすと、アリスが隠れる建物の窓際が怪しいと判断する。


(多分、居るんだろうが……まぁ、そこまで本気でやらないでも良いか)


 いつものカイトであれば、このまま壁ごと切り裂いてしまうのも手だったろうが、今回はあくまでも弟子との模擬戦。それをせずに敢えてアリスの次の出方を見たい所だった。というわけで、彼は一度地面へ降下して入り口から建物の中へと入る。


(動きは無し……さて、どうするつもりか)


 罠を仕掛けてこない、という事は時間がなかったかそれとも罠を痕跡として警戒されてしまうかのどちらか。カイトはアリスの考えをそう読み解く。そうしてそんな彼はわずかに警戒するように歩いていき、アリスの潜む部屋の前へとたどり着いた。


「はぁ!」

「っと!」


 たどり着くと同時。扉ごと貫かんとアリスが扉越しにカイトへと細剣を突き出す。が、これは流石にカイトには通用せず、いとも簡単に防がれる。そうして、直後。アリスの細剣は消え去るように引き抜かれ、動きがなくなる。


(……うん?)


 微妙に長い間にカイトはアリスが逃げたのか、と小首を傾げる。が、先とは違いもうすでに模擬戦は開始されているのだ。ここで敢えて間を空ける意味がいまいち理解出来なかった。


(……逃げたか?)


 戦う気配もなく、魔術の兆候もない。そんな様子にカイトはアリスが細剣を引き抜く動きを利用して逃走した事を理解する。そうして警戒しながら開いた扉の先では、案の定アリスの姿は見えなかった。


「ふむ……」


 何を考えているのだろうか。カイトはアリスの次の一手を考える。が、こちらは考えるまでもなかった。


(とりあえずこっちがどうやって姿を見つけ出しているか、というのを探るつもりか。まぁ、音波はすぐに理解するだろうな)


 カイトとしては自身ではなくアリスらギルドメンバー達のために最終調整の場としてこの場を設けている以上、基本アリスがよほどの愚行を行うか諦めない限りは彼女が選ぶ手に敢えて乗ってやる事にしていた。

 というわけでカイトから再度距離を取ったアリスはカイトの今回の探索方法が音波と判断。これに対応する策をすぐに考え出す。


(多分あのスナップ音がこちらの姿を割り出すのに使われている……なら音を通す? ううん。そんな事をしてしまうと私にも聞こえない……)


 どうすれば良いのだろうか。アリスは考える。そうして、カイトはその後暫くの間アリスへと市街地戦での要点などを伝えるべく模擬戦を繰り広げる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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