第2553話 様々な強さ ――武器――
『夢幻鉱』やエンテシアの魔女に関わる一件を終わらせ、再びいつもの日常に戻ってきていたカイト。そんな彼はほぼほぼやる事が無い状況になっていた事もあり、たまさか外に出て訓練を行う事となる。
というわけでソラと瞬の飛空術の訓練を見守りながら自身の訓練をしている最中。一旦飛空術の訓練を終わらせたソラから<<偉大なる太陽>>の解放について問われ、それに答えていた。
「まぁ、こんな感じか」
「へー……ってか、お前の銀髪姿初めて見た」
「そりゃ、滅多な事じゃやらないからな」
どこか驚いたような、違和感を感じる様な様子を浮かべるソラに、カイトが笑う。そんな彼はソラの言う通り、銀髪灼眼に変貌していた。
先にソラが『子鬼の王国』でしたように、神器の第一解放を行ったのだ。が、大抵はこんなことをしなくてもなんとかなる彼なので、非常に珍しい姿だった。
「てかお前は銀髪に赤目なんだな」
「そりゃ、オレはシャルの神使だからな。使う神器が異なれば解放状態もまた異なる」
「あ、そりゃそうか……俺は単に金髪金眼ってだけなのか」
『小童がもしもう少し我を扱えたのなら、そなたの髪は金ではなくより白金色に変わるのだがな』
「ま、マジか」
たはは。<<偉大なる太陽>>の指摘にソラはどこか乾いた笑いを浮かべていた。あれでまだ中途半端な解放だったらしい。が、<<偉大なる太陽>>の言葉に含まれていた笑いに、彼は気付いていなかった。というわけでそれをカイトが指摘する。
「そう言ってやるな、<<偉大なる太陽>>の精よ。あれはどちらかというとお前がまだ完全に解放できない状態にあるからこそという所も大きいだろう?」
『ははは。そうだな……うむ。まだ我とて完璧ではない。その点については認めよう。まぁ、だからと言って小童の未熟さが薄れるものでもないが』
「あ、あはは……」
結局はそうなのね。楽しげにうそぶいた<<偉大なる太陽>>に、ソラは半笑いで頷くしかなかった。それにこれにカイトも笑う。
「あはは。そうだな……ま、結局の所色々と要訓練って所だろう」
「おう……ってかお前の場合、やっぱ威圧感とかねぇのな」
改めて神器の解放を行っているはずのカイトを見て、ソラが感心したように口を開く。先にソラが第一解放を果たした時にはとんでもない力が周囲に放出され一撃一撃もとてつもないものになってしまっていたが、今のカイトは神器を解放しながらも特別何かが変わった様子はなかった。強いて言えば、髪色と眼の色が変貌しているぐらいだろう。
「そりゃ、訓練したからな。ここまで至れば一人前で良いだろう」
『まぁ、そこまで至るに相当な修練が必要だろう。言っておくが、月の神使殿の領域まで辿り着こうとすれば相当な修練を積まねばならんぞ? わかっているだろうがな』
「そりゃわかるけど……どれぐらい?」
『ふむ……見るに十年以上は掛けて辿り着いた境地であろうな』
「うがっ」
十年以上。そう言われてソラが思わず愕然となる。これにカイトは更に追い打ちを掛けた。
「実際はそんな掛かっちゃいないがな……とはいえ、それを言ったら驚かれたもんだ」
『ほぅ……流石は月の女神の寵愛を受けるだけはあるか。流石よ』
「すごいのか?」
『すごいなぞというものではない。我が先に言った十年。あれとて本来は何百年と修行を積み神々の身許に辿り着いた者での話だ。月の神使殿なのでかなり短めに見積もったつもりなのだが……それをも上回ったか』
「はー……」
どうやらそれぐらいにはカイトはすごかったらしい。とはいえ、これについてはきちんと理由があっての話なので、そこまですごいすごいと言われるとカイトとしても座り心地が悪かったようだ。一応、執り成しを行っておく。
「まぁ、そう言ってもすべてがすべて努力でなんとかしたってわけじゃない。オレはそもそもでシャルの寵愛を受けていたから、解放そのものは容易だったんだ。更に言えば<<偉大なる太陽>>のようにそもそも力が使えない様な状態でもなかった。他の神使達と比べるにしても、そこらを勘案しないと一概に比較するわけにもいかんさ」
「なるほどな……ってことは俺もしかして神使じゃないから解放状態の程度? そんなのが低いとかってあるか?」
「それはあるだろう……あ、いや……どうなんだろう……」
『第一までならそこまで言うほどの影響はない。第二以降は影響も出る。第三に至っては無理だろう……どうにせよ今の我で出来る事でもないが』
もしかしたら段階によって影響の有無があるかもしれない。言っておいてそこに思い至ったカイトが考え込んだのを受けて、<<偉大なる太陽>>が実情を明かす。これにソラが頷いた。
「ってことは、今の俺にはほとんど影響ないのか」
『そう言って良いだろう。敢えて言うのであれば、都度口決を唱えねばならぬという程度かもしれん。が、何分我としても神使でない者がこうも長く使う事があったわけではない。確定した話ではないのは許せよ』
「わかってる」
そもそも神使でもなんでもない自分が使っている事自体、長い神話の歴史を見てもイレギュラーな事態なのだろう。ソラはそれをしっかり理解していた。というわけで、おおよそカイトから聞きたい事は聞けたのかソラは一つ頷いた。
「おっしゃ。とりあえずありがと。大体は理解した……とりあえずは身体を慣らして使えるように、って所か」
「だな。とりあえずは身体を慣らさん事には何も始まらん。そして身体を慣らすにはその力を使う事が何より重要だ。場所は確保してやるから、それで頑張れ」
「おう」
兎にも角にも身体を慣らさない事には話にならないのだ。いつまでもあの力に振り回されるわけにはいかない以上、ここは素直に世話になっておくべき。ソラもそう判断したようだ。というわけで、彼は再び飛空術の訓練に戻っていくのであるが、どうしてか動こうとしなかった。
「……どした?」
「……足が痺れた。お前なんでそんな正座してられんだよ」
「……あはは」
うっかり釣られて正座していたが、こんな長時間正座して何も無いのはこれもまたカイトが訓練していたからだったようだ。ここまで長話になるとも思っていなかったらしく、足が痺れてしまっていたようだ。というわけでもう少しだけ話をする事にして、ソラの足の痺れが取れた頃合いで彼は再び飛空術の訓練に戻っていくのだった。
さてそソラが再び飛空術の訓練に戻って少し。今度は瞬がこちらにやってきた。
「カイト。大丈夫か?」
「ん? ああ。ちょうどソラの話も終わった所だしな」
「そうか」
何を話していたか瞬には定かではないが、話が終わった事は理解できた。というわけでこちらも座る瞬であるが、そんな彼もまた<<赤影の槍>>を持ってきていた。
こちらもまたカイトに縁の深い武器ではあるので、兄弟子の頼みもあって相談には乗っていた。が、そんな槍を横に置いて、瞬はナイフを取り出した。
「カイト。飛空術じゃなくて申し訳ないんだが……一つ聞きたい」
「なんだ?」
「この二つは確か同じ魔物の骨を削って作られているんだったな?」
「ああ。『影の鯨』っていうデカイ鯨だな。まぁ、鯨っていうよりもデカイ魚って感じだが」
かつてクー・フーリンが言っていた通り、どうやらカイトは件の魔物と戦った事があったらしい。楽しげに笑っていた。とはいえ、そんな彼はすぐに気を取り直す。
「で、それがどうした?」
「ああ……それでこれを使っていてふと思ったんだが、この二つを共鳴させることとかはできないのか?」
「ほぅ……面白い点に気がついたな。確かに原理的には不可能ではないだろう」
瞬の指摘に対して、カイトは一瞬でそれを考察。不可能ではないと口にする。
「元々ナイフも槍も同じ魔物の骨で出来ている。なので共鳴させるには一番良い前提条件と言えるだろう。実際、これらを共鳴させた人物が一人居る……ぶっちゃけるまでもなく姉貴……スカサハだが」
「……あー」
確かに彼女なら出来そうだ。瞬はスカサハならやっているだろうと即座に理解する。そしてカイトが一瞬で可能と判断したのも、その共鳴現象を利用した魔術を一度食らっていたからだ。
「姉貴がガチで殺しに来ると、無数の<<束ね棘の槍>>を共鳴させた魔術を使ってくる」
「なんでわかるんだ?」
「そりゃ……一度ガチの殺し合いやったからに決まってるだろ。最後は勝ったか負けたかよーわからんことになったが」
「そ、そうか……」
相変わらず無茶苦茶だ。瞬はこの場合カイトとスカサハのどちらがおかしいのかがわからず、引きつった様子で半笑いで受け入れるしかなかった。とはいえ、そんな実例がある以上、瞬の言う通りナイフと槍を共鳴させる事は不可能ではなかった。
「まぁ、それは置いておいて。兎にも角にもナイフと槍で共鳴させて魔術を発動させる事は不可能じゃない。近接主体の戦士が魔術も視野に入れるのなら、その二つは良い武器だろう。まー、多分姉貴はそこまで考慮に入れた上でフリンに渡したんだろうけどな」
「やはりそうなのか」
おそらくクー・フーリンにすら師としての腕前なら遠く及ばないと言わしめるスカサハだ。同じ素材で出来ているナイフを渡していた以上、それを視野に入れていないわけがなさそうだった。そして今までの話を聞く限り、瞬にもそれは理解出来た。
「多分な……それで何かしたい事でもあるのか?」
「ああ、いや……そういうわけじゃないんだが。というより、そこまで出来る魔術を俺は知らないからな」
「あー……それは確かにそうか」
そもそもそれがあればこそ、『サンドラ』に行ったのだ。カイトは改めてそれを思い出し、瞬の言葉に納得する。というわけで、彼は一応のことを口にした。
「まぁ、それでも共鳴させられる事は事実だし、ナイフを主軸に戦う時には槍を増幅器みたいに使う事も出来るだろう。色々と応用は利きそうだ」
「そうなのか」
「そこまでは考えてなかったか……ここらについてはティナの方が詳しいだろう。流石に魔術に関してはオレよりあっちのが適任だ」
魔術関連であればやはり天才と名高いティナだ。しかも彼女の場合、スカサハと共に魔術談義を交わしている事も珍しくなかった。というわけで、カイトが告げる。
「多分だが、ティナだとそのナイフと槍の共鳴現象に関しても何か知っている事があるかもしれん。あいつ、姉貴とよく魔術談義してるからな」
「そうなのか?」
「ああ。何度か言ってるが、姉貴はあれで魔術師だ。ティナと話せるぐらいのな……となるとそこらの共鳴についても話してない方が不思議だ。後はそっちに聞くと良いだろう」
「そうか。わかった……まぁ、飛空術の訓練が一段落したぐらいで聞いてみる」
「そうするのが良いだろう」
下手に二足のわらじを履く事になっても、今度は瞬のキャパシティをオーバーする事になりかねない。現状どちらを優先するべきか、というと飛空術だし、魔術は急いで習得しなければならないわけでもない。後回しでも良かった。というわけで、瞬もまた飛空術の訓練に戻る事にして、カイトも改めて<<転>>の訓練に戻るのだった。
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