第2552話 様々な強さ ――神の力――
『夢幻鉱』やエンテシアの魔女に関わる色々とに決着を付けて、ひとまずいつもの日々に戻ってくる事になったカイト。そんな彼はティナの呼び出しを受けたものの結局は何も出来る事がないとギルドホームに戻ったのであるが、結局そこでも今日は取り立てて急ぐ仕事はないとなり訓練を行う事とする。
というわけで、たまさか暖かかった事もあり外の訓練場に顔を出した彼であるが、そこで偶然にアルから飛空術の手ほどきを受けていたソラと瞬の二人を発見。ついでなので自分の訓練の傍らで彼も飛空術の教練を行っていた。そうして、一通りの飛空術の系統を実演してみせた後。二人はとりあえず自分に最適な飛空術の型を見付けるに至っていた。
「まぁ、そうなるか」
「っとととと……おぉ……なんか不思議な感じだ」
「そ、そうか……なんか楽しそうだな」
「先輩の方は……なんってかいつも通りっすね」
「いつも通りだからな」
宙に浮かびながら若干バランスを崩しそうになっているソラに対して、こちらは虚空に足を掛けているだけの瞬はそのままを語る。
「結局、ソラがロケット型。先輩は跳躍型か」
「おう……ってか、これ本当に跳躍型より簡単なの?」
「簡単は簡単だ。実際、今の所は出すか出さないかだけだろ?」
「そうだけどっ……っととと!」
「「「あはは」」」
空中でバランスを崩しそうになるソラを見て、カイト達が笑う。まぁ、まだ始めたばかりなのだ。こうなるのも無理はないだろう。というわけで、カイトが教えてやる。
「ま、バランスの制御は飛空術の使用とはまた別の問題だ。それに関しては飛空術をどう上手く使うか。どういう配置にするのが自分にとって一番ベストなのか、というのをこれから自分で見極めて最適な飛空術を作っていくしかない」
「結局、最後は自分で作るしかないんね……」
「それが飛空術の習得を難しくしている要因だからな」
がっくりと肩を落とすソラに、カイトは笑いながら改めて飛空術習得における難所を語る。一応ベースはあるのだが、それを自身の最適な形にするのは術者当人がしなければならないことだ。
これはその人の体感と体幹がどうしても大きく影響してくるため、助言はできてもそこしかできないのだ。というわけで、ソラが地面に着地。気を取り直す。
「っと……そっか。まぁ、とりあえず今はバランス感覚を整える事から始めないと、か」
「そういうことだな」
「俺の方はここから翼の構築とその最適化か」
「そうだな……まぁ、幸いソラはアル、先輩はリィルという形で先達が居るから、適時相談するのが良いだろう。二人にしても教える事で見えるものはある。アル、お前がもしわからなければオレやその他誰かに聞けば良い」
「うん。それはいつも通り頼りにさせて貰うよ」
カイトの指南にアルが一つ頷いた。というわけで、一通りの方針が定まった事で後は個々に自主練習となるわけであるが、そうなるとやはりカイトも個人で自主練習となる。はずだった。
「カイト。ちょい良いか?」
「うん? どうした」
「いや、ちょっと聞きたい事あってさ」
いつものように正座をして<<転>>の基礎訓練――この間はなるべく遠慮せず話しかけて欲しい、とカイトが頼んでいる――を行っているカイトに、ソラが一つ問いかける。なお、根が真面目なのかカイトに釣られたのかソラも正座をしてしまっていた。
「聞きたいことね……なんだ?」
「いや……この間というか前のゴブリン共の一件あるじゃん? あの時最後に発現したあれについて話聞きたいんだよ」
『神器の解放の事だ。訓練中の所まことに申し訳ないのだが、差し支えなければ語ってやって欲しい』
ソラの申し出に合わせて、<<偉大なる太陽>>の精霊が顕現して一つ頭を下げる。最後の『子鬼の王』を守る二人の近衛兵の片割れとの戦いの折り。ソラは<<偉大なる太陽>>の力を解放した事により何かしらの変質が起きて、尋常ではない力で近衛兵を消滅させていた。それ以降カイトが忙しかったりしてろくすっぽ話を聞けていなかったのだ。
「なるほど……神器の解放の事か。あの時お前がやったのは、神器の第一解放。一番最初の解放だな」
「第一? ってことは更に何個もあるのか?」
「そりゃそうだ。通常時の封印。本来の力を解き放つ第一解放、神への宣言と許可を以って解かれる第二解放……通常神器に組み込まれているリミッターはその三つだな」
「うぇぇ……」
どうやら今まで使えていたのはせいぜいその通常時の封印までだったらしい。ソラはそんな現実を教えられ、顔を顰める。とはいえ、これはあくまでも一般的。<<偉大なる太陽>>はその通常ではなかった。
『小童。これはあくまでも通常の話だ。我のように超上位の神器には当てはまらぬ』
「え゛」
「ああ……これはあくまでも普通の神器の話だ」
「普通の神器ってなんだよ……神器の時点で普通じゃねぇよ……」
笑うカイトに対して、ソラはがっくりと肩を落とす。確かに身も蓋もない事を言ってしまえばそのとおりなのであるが、カイトも<<偉大なる太陽>>もそういうものと受け入れていた。
「あはは。ま、そうはそうなんだが……兎にも角にも<<偉大なる太陽>>はその超上位の神器。更に上の第三解放もある。これは神器の中でもほんの僅か。主神や最高神などの神話の頂点に位置する神格を有する神の力を与えられた神器に多い」
「……<<偉大なる太陽>>もそう、と」
「シャムロック殿の神器なんてその最たる例だろうに。<<偉大なる太陽>>は十三振りしかない<<太陽の輪>>を構築する一振りだ」
「<<太陽の輪>>……確かシャムロックさんが有している太陽の権能を持つ神剣の総称、だっけ」
流石にソラも<<太陽の輪>>という単語はどこかから調べたか聞いたかで知っていたらしい。そんな彼の確認にカイトは一つ頷いた。
「そうだ。彼が持つ<<命の輝き>>を頂点とした十三振りの神剣。その一振りが、お前が持つ<<偉大なる太陽>>だ」
「で、その第三解放が出来ると何が出来るんだ?」
「神々の力を束ねた一撃が放てる」
「……どゆこと?」
こてん。カイトの言葉にソラが小首を傾げる。これにカイトは自身が聞いた話と調べた話を織り交ぜて語った。
「神々には上下関係がある事は良いな?」
「それは知ってる」
「ああ……その自分より位階が下にある神の力をも束ねた一撃を放てるんだ。とどのつまり、神様の力をいくつも足して足して足して放つ一撃ってわけ」
「……え」
それむちゃくちゃやばくね。カイトの言葉を聞く限り、ただでさえとんでもない力を有する神の力を更に総結集して放つのだ。その威力が想像を絶する事ぐらい、言われないでも理解できた。
「ああ。なので歴史上使われたのはオレが調べた限りでは一度限り。シャムロック殿がエンデ・ニルとの最後の戦いで放った限りだな」
『我も第三解放については使った事もない。ただ出来る、と知るのみだ』
「うへぇ……ん? ってことは、カイト。お前も同じ様に出来るのか?」
「ん? ああ、オレも一応は神使だからな……流石に第三解放をやっちまうとやばくね、って話なんでシャルも練習ベースでも使った事ないって言ってたけどさ」
「お前も無いの?」
カイトなら使った事がありそうだ。そう思っていたソラであるが、まさかの回答に驚きを隠せなかった。が、これにカイトは何を当たり前な、と笑う。
「当たり前だろ……死神の神器の第三解放だぞ。敵も味方も真っ青な領域で死人出るわ」
「お、おぉ……」
言われれみればそうだった。ソラはシャルロットが月の女神であると同時に死神である事を思い出す。そしてその神器の解放はソラも何度かは見た事があり、問答無用に死の概念を付与する事で殺せぬ存在だろうと殺してしまうというのが、その力だった。が、そんな彼の言葉に異を唱えたのが、<<偉大なる太陽>>だった。
『それはどうであろうな』
「うん?」
『月の女神の神使殿。思うに、死神の鎌が二振りあるのはそういう事なのではと思うのよ。そして貴殿であれば、その裏返りを使う事が出来るのでは、とも。今まで月の女神が一度たりとも眷属や神使を持とうとしなかったので誰も口にはしなかったが』
「なるほど……」
どうやら<<偉大なる太陽>>の指摘にカイトは何かが思い当たったらしい。どこか驚きながらも納得した様子を見せていた。そんな彼は今までの自分の足跡を思い出し、少しだけ考える。
「いや、だが……いや、そうか……それなら確かにあれも……そうか。ならあの時あそこから戻されたのは……ああ、なるほど。それなら全ての辻褄が合う……」
「……なんかわかったのか?」
「ああ、いや……もしかしたら回復能力として転用出来るんじゃないか、っとな」
「……まさかの死者蘇生?」
『「それは無い」』
「あ、そなのね」
カイトと<<偉大なる太陽>>からの揃っての否定に、ソラは思わず呆気に取られる。が、惜しい線は行っていたようだ。
「単純に瀕死の重傷でも復活出来る程度って話だ。勿論、オレが言った通りの事も出来るだろうけどな」
「お、おぉ……」
結局そっちも出来るのね。ソラはカイトの返答にそう思う。とはいえ、ここらの話はある種脱線に近かったため、カイトは改めて話を解放に戻す。
「で、この第一解放をお前は前にやったわけだな。本来は口決なんて必要無いんだが……」
『神使でない者に特例的に使わせるのであれば、口決が必要だ』
「だろうな。その威力は先にお前が見た通り。ただでさえ圧倒的な神器の力が更に解放され、ついには持ち主にさえ莫大な力を与える」
「なるほど……あれを使いこなそうと思ったら、どうすれば良いんだ?」
「そりゃ、簡単だ。兎にも角にも身体を慣らせ。それしか道はない」
結局何でもかんでも基本が大事。そんな様子でカイトはソラへと語る。そうして、そんな彼が続けた。
「お前もわかっていると思うが、あの力は持ち主に持ち主の限界を超えた領域での力を与えてくれる。が、同時に限界を超えてしまっているが故に、持ち主の身体が耐えきれない事も少なくない」
「それはわかるよ……でもそれを慣らすって?」
「使って慣れていくしかない。こればかりはな」
「でもあれ、莫大な力過ぎて抑えられないっぽいけど」
なにせ自分とほぼ同格の近衛兵を防御の上から消滅させたのだ。その力は折り紙付きだ。抑制しろ、と言われた所でそもそも付与されている力が膨大過ぎてどうする事もできなかった。
「だからそれを慣らしてなんとかしろ、って話なんだが……そうだな。流石にここでやらせるのも難しいか。地下でもな……軍基地に言って専用のスペースを用意させる。そこで暫くは練習しろ。それで慣れて出力の制御が出来るようになったら、後はどこでも良いだろう」
「せ、専用のスペース……」
そんなのが必要な領域の話らしい。あっけらかんとしながら告げるカイトに対して、ソラは事の規模が段々と自分の手には負えない領域になってきた事から若干の気後れが生じてしまっていたようだ。
「しゃーないだろ。かといって<<偉大なる太陽>>の力が不十分だと今後の邪神勢の復活への対抗にも影響が出る。こっちは公務だ」
「マジか……責任重大ってことかよ……」
「そういうことだ。ま、しっかりやれや」
やはり気後れが生じさせるソラに、カイトはそれ故にこそ軽く告げる。そうしてその後は暫くの間第一解放についての話を行う事となるのだった。
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