第2546話 魔女達の会合 ――時空の魔女――
無事に『夢幻鉱』のサンプル確保にも成功し、マクスウェルに帰還したカイト達。そうしてカイトが地球側との間で色々な手配を進めていた一方。ティナはというとティエルンを伴い、リルの所へと訪れていた。理由は言うまでもなく『夢幻鉱』について相談するためだった。
「これが虚数域の物質……私もほとんど実物は見た事がないわね」
「あったのですか?」
「ちょっとじゃないぐらい昔の記憶を解凍したら、たった数度だけ見た事があったのよ」
前には無いと言っていた様な。リルの発言に違和感を覚えたティナの問いかけに、当人はそれぐらいに前の事なのだと口にする。最低でも一千年以上も昔をちょっとというぐらいには長生きしている彼女が、ちょっとじゃないぐらい昔というのだ。
相当見つからない物質だと想像するのは容易だった。というわけでそんな『夢幻鉱』を一見したリルが、ティナが伴って来たティエルンを見る。
「で……ひさしぶりね、ティエルン」
「お久しぶりです、リルさん」
流石に魔女族として様々な意味で遥か高みに居る存在だ。流石に常には居丈高な様子があるティエルンも素直に頭を下げて挨拶をしていた。というわけでそんな彼女との再会を懐かしむ間もなく、リルが口を開いた。
「ええ……それでこれをどうするべきか、とか色々と話し合いたい所なのだけど……」
「虚数域の話もするのであれば、まずシャーリーを呼ぶ必要があるでしょう。彼女の才覚は我々の中でも群を抜いていた。問題は、殊更臆病者だった彼女をどうやって探すかですが……」
「ああ、それなら問題ないわ……昨日もすれ違ったし」
「「……はい?」」
くすくすといつもの上品ながらもどこかいたずらっぽい笑みを浮かべるリルに、ティナもティエルンも小首を傾げる。というわけで、ティナが疑問を呈する。
「昨日も? ということはここ暫く普通に会っておられたのですか?」
「ええ。本人からは言わないでください、って言われていたのだけど……流石にそろそろ言わないと駄目ね」
「「は、はぁ……」」
楽しげなリルの様子から、ティナもティエルンも顔を見合わせる。というわけで、そんな二人を横目にリルが通信機を起動させる。
『はい、カイトです』
「ああ、カイト……そこにシャーリーは居るかしら」
『え? あ、はぁ……ちょうど一緒ですが。天桜の通信機の調整に関する報告を受けてました』
『あ、カイト! 待って! その相手って』
『ん? 普通にリルさんだぞ?』
「おや?」
通信機の先で慌てふためくシャーリーの声に、カイトが困惑した様子を見せる。これに、リルがトドメを刺した。
「シャーリー……いい加減諦めなさいな。ティエルンも合流した以上、バレるのは時間の問題よ」
『あうぅ……お祖母様ぁ……』
「やっぱり……その声はシャーリーじゃないか。なんで君がそんな所に」
『「え゛」』
泣きそうな声を聞いて、先の会話であれっと思ったらしいティエルンの指摘を聞いてカイトとティナが驚愕に包まれる。確かに元々シャーリーが魔女だとは知っていたが、まさかその彼女が今探し求めているエンテシアの魔女の一人だとは思いもよらなかったのだ。
『え、ちょっと待った。基本ティナ関連で引き継ぎ受けてるオレもお前がエンテシアの魔女って聞いてないぞ?』
『言ってなかったから……』
「言っとらんのかい……いや、そりゃ余にはそりゃそうじゃが」
自分が知らないのは無理もないと思ったティナであるが、通信機の先で慌てふためく声音のカイトから彼もまた聞いていなかった事を理解したようだ。というわけで、そうだろうなとは理解していたリルが笑いながら二人に告げた。
「とりあえず、二人共こちらにいらっしゃいな。何を話すにしても二人共居た方が良いでしょう」
『あ、はい。わかりました……シャーリー?』
『はいぃ……』
逃げるなよ。そんな圧を受けたシャーリーがびくびくという小動物ちっくな様子で了承する。流石に彼女もリル以下ティナやらが居てその上にカイトまで真横に居る現状では逃げ切れるとは思わなかったようだ。
というわけで、十数分待っているとひとまずの残務を終わらせたカイトがシャーリーを伴って屋外にある円卓――リルが会議や議論を交わす時に使う――へとやってきた。
「やっぱり……やぁ、シャーリー。久しぶりだね」
「お久しぶりです……」
「なんじゃ……やはりお主もエンテシアの魔女じゃったんか。でもなぜそれなら叔母上もシェロの奴も何も言わなんだ」
実のところ、シャーリーとユスティエルは何度か会って話もしている。そもそも現魔女族の族長が彼女なのだから、当然だろう。これに、シャーリー当人が推測を口にした。
「多分……ユスティエル様は私の事覚えてないから……」
「だろうね。シャーリーはマルス帝国崩壊前後のエンテシアの魔女の中でも、一番若輩の一人だった。多分、君に一番年齢が近いのが彼女じゃないかな。確かシャーリー、君はマルス帝国崩壊後に生まれたんじゃなかったかな?」
「うん……正確には終焉帝が死去した年……それでシェロちゃんはまだ会ってないよ。避けてた事もあるけど……」
もし会っていたのならおそらく一番最初にエンテシアの魔女とわかっていたのは自分だったかもしれない。シャーリーは後にそう語っていたのであるが、同時にエンテシアの魔女と知られたくなかったのでここ暫くはティナとの不必要な接触を避けていたらしい。それを言われてティナもそういえば、と思い当たる節があったようだ。
「そういや、近頃お主通信機の調整が忙しいだの何だのと理由を付けて余とはカイトを介して話す事が多かったか。あれはそういう理由か。む? ちょっと待て。お主今シェロちゃんと言わなんだか?」
「あ……」
「……シェロ」
『何でしょう……おや、これはティエルン様に……おや! シャーリー様まで。お久しゅうございます。ユスティーナ様と貴女が一緒にいらっしゃるとあの頃が思い出されますね』
これはなにかがありそうだ。それを察したティナが呼び出したシェロウであるが、どうやら案の定だったらしい。シャーリーの姿を見るなり相好を崩して喜んでいた。
「余は封印やらの影響があり思い出せんのじゃが、その様子じゃと何やら昔の余を知っておるのか」
『えぇえぇ……その昔、ユスティーナ様が幼少の頃にはよく手を引いて』
「わー! わー! わー!」
「何じゃ、五月蝿いのう」
楽しげに昔話を語るシェロウの言葉を邪魔するように真っ赤な顔で騒ぎ立てるシャーリーに、ティナが少し楽しげな顔で一蹴する。どうやら敢えてやっていたらしい。これに、シェロウが笑う。
『あははは……すっかり逆転してしまいましたな。とはいえ、そうですね。シャーリー様は貴方様にとって幼馴染とでも言うべき相手でした。まぁ、ほぼほぼ物心付く前に別れる事になってしまいましたが……』
少しだけ、シェロウは物悲しげに過去の事を思い出す。が、そんな彼女はすぐに気を取り直した。
『たまさか生まれた幼き魔女二人。シャーリー様がユスティーナ様の手を引かれリル様の所に向かわれる姿はそれは愛らしゅうございました』
「うぅ……」
「なんじゃ。そうじゃったのか……まぁ、良い。それならあれか? 余の、というか<<無冠の部隊>>に入ったのは余が心配じゃったからか?」
「ううん……それは完全に偶然……というかそもそもそれ以前にカイトと出会ってたし……」
ティナの指摘に対して、シャーリーははっきりと首を振る。時系列としてはまだティナが封印されていた頃にカイト・ユリィの二人と遭遇。そこで色々とあって最終的に別行動を取る事になるも、後に近くを通りかかったカイトと再会。
彼女が魔女族である事を受け、カイトの紹介でティナと再会。技術班に加入する事になったのであった。彼女自身はティナの事に気付いていたもののエンテシア皇国の話は理解していたので黙っていたのであった。というわけで、カイトがどこか不貞腐れた様子で告げる。
「というか、オレには言ってくれても良かっただろ」
「言おうか迷ったけど……別に言った所でだったし……かといって不必要に嘘とか吐かせたくなかったし……」
どこか恥ずかしげかつモジモジとしながら、シャーリーはカイトに語らなかった理由を語る。とはいえ、ここらはいっそ今はもう言ってもどうにもならない事だし、別に追求したいわけでもない。なのでカイトもすぐに切り替える。
「まぁ、良いや。確かにお前の言う通り、言われた所でだったしな」
「それは良いんだが……シャーリー。今度は私から良いかな?」
「あ、なんですか?」
「君、随分と若いみたいだけど……いや、というより若すぎないか? 一応君、七百歳ぐらいだったよね?」
言うまでもないが、魔女だからと不老不死ではない。一応種族的な性質である程度にまで至ると不老になるが、それにしたってシャーリーは非常に若々しい見た目だった。これに、今度はシャーリーが不貞腐れた。
「気にしてるんです。言わないでください」
「そ、そうか。すまないね」
「そりゃまぁ……私だってティナちゃんが成長してるの見てショック受けましたけど。百歳ぐらいしか年齢変わらないのに、って思いましたけど」
「ティエルンさん」
「す、すまない……拗ねると長いのか?」
「ふふ」
「「……」」
こくん。カイトとティナは揃ってシャーリーが拗ねると長い事をはっきりと認める。なお、少し気まずい様子のティエルンに対してリルは楽しげだった。と、そんな所でふとカイトが気付いた。
「ん? ティナと百しか変わらない? 実際にゃお前三百年プラスだろ」
「え、あ……」
「……お主、どこおった」
「えーっと……」
どうしよう。シャーリーは先程の失言に気がついて、どうしたものかと少しだけ視線を泳がせる。そこに、今度は全く別の声が響いた。
「地球です」
「ん? リーシャか」
「あら……貴女も来たのね」
「はい、お祖母様」
リルの言葉にリーシャが頭を下げる。そうして、そんな彼女は自分の席に腰掛けながら、カイトへと告げる。
「前にシャーリーの居場所は私が知ってた、って話をカイト様にはしましたよね?」
「ああ。だから集合に際してもすぐに来てくれたんだってな」
「あれは間違いじゃないんですが……」
「うぅ……」
良いよね。そんな様子で視線で問いかけるリーシャに、シャーリーは恥ずかしげに魔女のとんがり帽子を目深にかぶる。
「彼女は実はずっと地球に居たんですよ。おかしいと思いませんでした? 私がすぐにカイト様の容態を把握し、最適な調合が出来たのって」
「え、いや……別にお前なら出来そうかなって」
「あ、あはは……信じてくださるのは嬉しいですが……流石に私もそこまで超人じゃないです。それに……あれだけ無茶されたら普通は無理です」
「ぐっ……すんません……」
ジト目で睨まれ、カイトは自身の圧倒的劣勢を理解しているからか謝罪するしかなかった。少なくとも定期的にしっかり絞めておくか、と思われるぐらいには無茶の連続をしていたのだ。それなのにすぐに最適な調合が出来るのはすごいと言うしかないだろう。
「はぁ……まぁ、そういうわけですので。定期的にシャーリーから報告を受け取っていました」
「ってことは何じゃ? お主……まさか余らの相当近くにおったのか?」
「『最後の楽園』に家があって……この間の自宅で読書してたっていうのもそこで……」
「マジで近所かよ!?」
『最後の楽園』というのは日本にある異族達の隠れた居住区の一つで、特にこちらはカイトが色々な兼ね合いから邸宅を保有している場所でもある。
確かにすべての住人を見知っているわけでも、常に居たわけでもないので仕方がないかもしれないが、シャーリーは見た記憶がなかった。というわけで声を大にするカイトがそのまま問いかけた。
「はぁ……どこだ?」
「東の外れの古い洋館……」
「……え? あそこ? オレもティナも何度か薬草貰いに行ってたよな? オレら会ってたよな? なんだったらオレ、二人で会ったよな? ニャルラトホテプの一件で礼言いに」
「……変装してました」
「ちなみに、その薬草は私が提供しました」
「なんで身内に変装されにゃならん……」
がっくり。カイトはシャーリーの返答に肩を落とす。が、これにシャーリーの方は仕方のない事情を明かした。
「だって……まさか地球であんな事になるなんて思ってなかったから……魔女って元々誰にも言ってなかったし……」
「「う……」」
確かにそれはそうだ。地球では魔女族は全滅――最近そうではないと発覚したが――したとまで言われており、そうだとバレるとどんな面倒が引き起こされるかわかったものではなかったのだ。
実際、魔女が生きているとわかった瞬間世界中が大騒動。世界が二分して大戦闘にまで発展している。言わなくて正解だった。というわけでそれは間違いではないと判断しつつも、カイトが問いかける。
「というか、それだったらティナの身内でとおしゃよかったじゃねぇかよ。嘘じゃないんだし」
「いや……それのが問題じゃないかな?」
「う……んー……」
ティエルンの指摘に、カイトはそれもそうかもしれないと少しだけ悩ましげに首を捻る。実際、それをきっかけとしてティナの封印が解けかけても困ったし、魔女が居るとなると敵対勢力を刺激しかねない事も知っていた。明かす明かさないは非常に微妙な所で、下手にカイト達に気を遣わせないため、と言われればそれが最善と考えられた。
「わかった……でも流石にエリザとエルザにはしっかり言っておくぞ?」
「あ、はい……それはよろしくお願いします」
「ああ……というかフィオナなら気付いてたんじゃないか……?」
「あの御仁なら有り得そうじゃのう」
「どうでしょう……」
三者三様に地球に居る吸血姫の女王について言及する。この実力は折り紙付きで、カイトも認めるほどだった。というわけで、実は裏から密かに自分達のサポートをしてくれていたシャーリーを加え、更にエンテシアの魔女達の話を行う事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




