第2543話 魔女達の会合 ――夢幻鉱――
虚数域という現実世界とは全く別の性質を持つという、本来ならば机上の空論であったはずの空間。そこの素材が偶然により発見された事を受け急遽調査隊を組織する事になったカイトは、かつて自身の相棒だった二振りの剣の素材だった『夢幻鉱』こそが虚数域の物質だった事を知る。
そうして『夢幻鉱』があると思われるジーマ山脈地下に現れていた迷宮『夢幻の楽園』へと突入し、『夢幻鉱』が採掘されるという巨大な山へと辿り着く。そこでセレスティアの力を借りて、一同は山に空いた洞窟の奥へと進んでいた。
「「「……」」」
セレスティアの祈りを受けて放たれる虹色の光を見ながら、一同は周囲に集中しいつどこから反応があっても良いように身構える。そうして波のように放たれる光が数十度放たれた頃、うっすらとだが反射の光が返ってきた。
「……まだ奥か」
「はい……それもまだ相当遠そうです」
カイトの言葉に頷いたセレスティアは光の状態からおおよその距離を割り当てていたらしい。まぁ、そこらの訓練をするのが彼女の日常だったのだ。慣れが見えていた。
「大体距離としては1キロ先……ですね」
「限界ギリギリですね」
「最近練習が出来てませんでしたから……」
イミナの言葉にセレスティアは少しだけ落ち込んだ様子を見せる。とはいえ、それがわかっていたからこそここに居るのだ。というわけで、一同はセレスティアの反応を頼りとして更に奥へと進み続けるわけであるが、そこでふとティナが疑問を呈する。
「そういやセレス。お主に一つ聞きたい事があるんじゃが」
「なんでしょう」
「お主は確か巫女と言うておったな? 本来は八個ある神器に対して、それぞれ担い手が一人。巫女が一人というようになっておるとも言っておったか」
「厳密には担い手一人巫女一人というわけでもありませんが……おおよそはそれで間違いありません」
正確には双子が居たりするため、正確に一対一で対応するわけではない。後にティナの問いかけに対して、セレスティアがこう語る。とはいえ、担い手と巫女が居る事は事実なのでそれはそれとして話を進めた。
「で、お主はかつてこれが使っておった武器の巫女で、先の義理の姉とやらが担い手という事じゃな?」
「はい……それ故、レクトール兄さんの武器を私は不完全にしか解放が出来ないんです」
「それはそういう形式を取る以上それについては道理なのじゃろうて。本来の担い手達が転生してしまっておる以上、神器にある種の封印はあるじゃろうしのう」
本来の担い手でーす。そう言わんばかりに手をひらひらと振るカイトを横目に見ながら、ティナはセレスティアの言葉を道理として受け入れる。というわけで、そんな彼女が問いたいのは別の事だった。
「お主以外の巫女達も同じく今の共鳴が出来るのか?」
「半分出来る、という所です。その中でも一番適性があったのが私だったので、私が<<白桃の巫女>>に選ばれた」
「それはいつの話じゃ?」
「えっと……魔界の侵攻の予兆があって先代の巫女達が私達の修行を……それがえっと……」
いつの事だったか。セレスティアはティナの問いかけに自分が巫女の役目を引き継いだのが何時だったかを思い出す。そんな彼女に、イミナが告げる。
「およそ二十年年前に魔界の侵攻の予兆が確認され、十五年前に本格的な侵攻がありえると七竜議会が判断。先代の皆様が防衛の陣頭指揮を取りながら、各地から才能を持つ者を広くお集めになられました」
「ああ、そうでしたね」
この予兆の時にはまだセレスティアは生まれる前で、イミナも物心ついて少しの頃だったらしい。そんな中でイミナは伝説の騎士の一族の一人として、次代の巫女の護衛として選りすぐりの騎士の一人として選ばれたのであった。というわけで、そんな事を語られカイトが一つ問いかけた。
「その先代とやらは死んだのか?」
「いえ……まだ皆さんご存命です。ただ元々魔族の侵攻を考えない儀礼的な役目としての巫女や担い手でしたので、私達が集められました。といっても、十分皆さんお強かったのですが……」
なるほど。どうやらそこらはしっかりと政治的に判断した上での事だったらしい。一同はセレスティアの語る先代達についてをそう思う。というわけで、クオンが興味深い様子で問いかけた。
「強かったってどれぐらいなの?」
「そうですね……エネフィアの基準に準拠するのであれば、担い手の皆さんはランクA。巫女様はランクBという程度でしょうか」
「へー……国一番とかそういう領域ね」
「実際、平和だった頃には剣術の大会で優勝した方が担い手として選ばれる事もあったそうです」
そもそもが歴史的な偉人達が残した神器だ。平和だった事もあり担い手にも巫女にも戦闘以外の様々な要素が求められていたそうだった。これにカイトは笑った。
「そりゃ、デカイ剣術大会になりそうだな……他にも色々と大会とかありそうだ」
「あったそうです……もう最後に開かれたのは三十年近く昔だそうですが……」
「そんな前なのか……で、今の実力は言うに及ばず、と」
「はい」
実際、レクトールの強さなぞエネフィアでも最上位の領域だ。それはセレスティアの異世界でも変わらず、その他も似たりよったりという所だったそうだ。そして同様に風のうわさでレクトールの事は聞いた事があったらしいクオンが口を開く。
「なるほど。あの領域が何人も居て苦戦するっていうのなら、敵は相当強大ね」
「……はい。軍団長や師団長など、尋常ではない強さでした。魔王に至ってはどれほどの物か……」
「見てないの?」
「まだ魔王は姿を現していないのです。ただ伝説によれば、魔王の上に大魔王や超魔王と呼ばれる存在が居ると伝えられるばかりです」
クオンの問いかけにセレスティアは深くため息を吐いた。この大魔王や超魔王が出ていない段階で苦戦させられているのだ。彼女らの異世界の現状が察せられた。と、そんな話をするわけなのであるが、この場にはその大魔王や超魔王と呼ばれる存在と戦い、勝った者が居るわけだ。なのでその彼が口を開く。
「軍団長で魔王と名乗る事が許されるっていう特殊な世界だったからなぁ……その軍団長もニイチでやってようやっと勝てたとかだしな」
「戦ったの?」
「ガキの頃にな……まぁ、比較対象としちゃこっちの将軍と軍団長の間ってとこか」
「あの間……強いわね。それでニイチと」
当時のカイトが伝説になっている以上、その強さは折り紙付きだろう。その彼が某と共に2対1で戦ってようやく勝てた。その時点で強さがどれほどの物か察せられた。
「まな……ま、さーすがに十年後の二回目にゃオレのが強かったが」
「二回やってるの?」
「一回目尖兵だったんだよ。二回目で本格的な侵攻……今とちょっと違うがおおよそは同じだ」
「あ、なるほど」
カイトの指摘にクオンはセレスティアの異世界の魔族が取っている方針がカイトの時と同じと理解する。それもちょうど十年前に発覚し、そこから数年後に侵攻が本格化。戦力を総結集して、というのが『もう一人のカイト』の戦いだった。
「ま、そんな感じだな」
「そう……」
なるほどどうやらあちらはあちらで大変らしいな。クオンは現状からおおよそを理解する。とはいえ、察せられたから何なのだという話ではあったし、そもそも今回の旅の本題はそこではない。
単に時間があったし見え隠れしていたので気になった、というだけであった。というわけで、一同はそんなある意味では他愛もない話をしながら進むこと暫く。数度セレスティアの探知を繰り返し、岩壁やらに偽装された道を進み続け、ついに奥地へと辿り着いた。
「……この先……です」
「ふむ……」
幾度目かになる祈りの後、岩壁の先から輝かしい光となって戻ってきた光の先を見ながら、カイトはその行く手を遮る岩壁を触れてみる。すると、まるでなにもないかのように――実際何も無いのであるが――手が岩壁を突き抜けた。
「おっと……こりゃ見せかけか」
「どうじゃ?」
「……見っけた。大当たりだ」
ずぼっと顔を突っ込んでみたカイトであるが、彼が親指を立てて目的の物を見つけ出した事を明言する。というわけで、彼は覆っていた幻影を切り払うように刀で岩壁の幻影を一薙する。
「ほぉ……こりゃ妙な光景といえば妙な光景じゃのう」
「なにもないようにも見えるね。が、輝きがそれを否定する……確かに実に不思議な光景だ」
感心した様なティナの言葉にティエルンもまた同意する。やはり『夢幻鉱』も鉱石なのだから埋まっている時点では周囲とは少しだけ色合いが違うのであるが、精錬される前の『夢幻鉱』はほぼ無色透明な鉱石だ。
なので例えば鉄鉱石や数々の宝石などとは異なり、一見するとなにもない様な状況だった。それこそセレスティアの祈りに共鳴しなければ、単に岩壁が削れていたりしてゴツゴツとした岩肌を晒しているようにしか見えなかった。
「確かにこんな現象、見たことはないなー……で、問題はどうやって採掘するか、だぞー」
「それのう……セレス。お主、これをどうやって採掘したんじゃ? 前にここに来て『夢幻鉱』を持ち帰ったのであれば、それ即ち採掘出来るという事じゃろ」
「あ……そういえばどうやるんでしょう。私も前に来た時はこの前まで来ただけでしたから……」
「「「……え?」」」
てっきり採掘方法は前に来た事のあるセレスティアが見知っていたものだと思っていたらしい。特にセレスティアが探す方法を知っていたため、殊更その印象が強かった。というわけで、気まずい空気が流れると思われたわけであるが、その前にカイトが口を開く。
「だーろうね。そもそもそこまで出来るとは思ってねぇよ……ふぅ……」
「なんじゃ。お主出来るのか」
「オレもその一族だし、セレスみたいにネックレスで共鳴こそ出来ないが採掘は前にやった」
目を閉じ意識を集中するカイトは、ぐっと両腕に魔力を集中させ龍を思わせる紋様を浮かび上がらせる。
「双龍紋、解放……はっ」
だんっ。腰を落としたカイトがおもむろに貫手を『夢幻鉱』の鉱脈に突き立てる。すると神々しいばかりの光が溢れ出し、まるで溢れ出したかのように『夢幻鉱』がこぼれ落ちた。そうしてこぼれ落ちた欠片の一つを、しかめっ面のカイトが拾い上げる。
「いってぇな……素手でやりたくねぇんだが」
「本来ならどうするんじゃ?」
「本来なら『夢幻鉱』で作られたツルハシかなにかで採掘するんだよ。今はかつてのオレの力を使って強引に削り取った」
どうやら痛いのは演技ではないらしい。しかめっ面のカイトはティナへと『夢幻鉱』の欠片を手渡しながら、右手――貫手を放った方――を振っていた。
「にぃ、今後を考えたらもうちょっと削っといた方が良いんじゃない?」
「やだよ。それに先端さえ補強出来りゃ十分だ」
「そっかー」
再びソレイユに張り付かれながら、カイトは盛大にため息を吐く。どうやら別にツルハシ全体が『夢幻鉱』で作られる必要はないらしい。彼の言葉からティナもそれを察する。
「そうか……まぁ、今回はサンプルが目的じゃし、こんなもんで良いか。ティエルン殿。そちらはどうじゃ?」
「まぁ、私も暫くはマクダウェル家の世話になりそうだから、サンプルとしちゃそれで十分かな。アンブラくん。君は?」
「私はそもそも地質学者だから、今ある分で十分だぞー」
「それもそうだったか」
アンブラの返答にティエルンは納得する。その一方、ソレイユの位置調整を行ったカイトはこぼれ落ちた『夢幻鉱』の欠片をまた拾い上げる。
「セレス。ネックレスに使う原石はこんなもんで大丈夫か?」
「あ、えっと……はい。それぐらいあれば十分かと。そこまで精密な精錬はしないで良いですから」
カイトの問いかけにネックレスを取り出したセレスティアが一つ頷いた。こうして一同は『夢幻鉱』の原石をいくらか入手して、洞窟を後にする事にするのだった。
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