第2534話 魔女の会合 ――再支度――
マクダウェル領中部にあるジーマ山脈という山の中で見付かったとされる虚数域の物質。それはかつてカイトが愛用した二振りの剣の素材であった『夢幻鉱』と呼ばれる鉱石だった。
というわけでこちらも同じくジーマ山脈にて発見されたティエルンとの話し合いの結果、彼女が雇い入れていたギルドに先行して崩落した箇所の調査を行ってもらいつつ、カイトは一旦はアンブラと彼女の研究所の学生達を連れてマクダウェル領へと舞い戻っていた。
「よし……アンブラ。学生達に指示を出したらすぐにこっちに連絡をくれ。専門家の意見を聞きながら動く事にした方が今回は良さそうだからな」
『あいよー。まぁ、今回はしょっぱなが私が持ち込んじまったからなー。最後まで付き合うぞー』
カイトの要請をアンブラは快諾する。そしてそんな彼女はそれに、と続けた。
『それにぶっちゃけると地震による地殻変動も結構あったっぽくてなー。その点からもちょいと実地研修以外で見ときたいってのはあるんでなー。ついでに研究の資料も貰っときたい所だなー』
「そっちは好きにしてくれ。今度動くのはウチだ。飛空艇も専用の物を用意する」
『了解だぞー……あ、それだったら出したら速攻そっち行くわー。ティナ、先に用意してくれてんだろー?』
先にカイトとの話し合いで言っていたが、ティナは今回事態が少し悪化していそうな事を受けてすでに各所との調整に入ってくれていた。その一環で研究機材の搬入などもしていたのである。というわけで、現状を理解していたカイトが更に詳細を口にする。
「更にはオーアも参加してたり、ウチで鉱物系を扱う奴らは大半が参加だな。久方ぶりって話になりゃ海棠の爺さんまで来るって言ってる」
『そりゃ珍しいなー。あの爺さん、確かに素材集めに行くっちゃ行くけどなー』
「まぁな……ま、それでも圧倒的に他人に取りに行かす方が多いんだけど」
『あははー』
カイトの言葉にアンブラが笑う。実際そうなのだから、笑うしかなかっただろう。というわけでひとしきり笑った後、アンブラは学生達の指示を出し、一方のカイトはカイトで必要な人員に声を掛ける事にする。
「さて……とりあえず後はアンブラはティナにまかせて大丈夫だから……まずはセレスの所か」
先にアイギスから指摘に対してカイトが語っているが、セレスティアの血脈は先天的に『夢幻鉱』を使う事が出来る。そして彼女は巫女であり、『夢幻鉱』の力を活性化する事が出来るとの事だ。であればその彼女の助力を受ければ探索が容易となる可能性は十分にあり得た。というわけで、カイトはまずセレスティアの所へと向かう事にする。
「と、言うわけなんだが……」
「『夢幻鉱』……またとんでもない物質が」
「セレスなら共鳴するんじゃないか、と思ってな」
「それなら貴方の方が共鳴するのでは?」
そもそもセレスティアが対応した武器はカイトの持っていた二振りの神剣だ。その二振りを本来の担い手たるカイトが使えない道理がなく、そして勿論彼の場合は特別何かをしなくてもその性能をすべて発揮する事が出来た。彼の方に適性があるのでは、と思われても無理はなかった。
「それがわからんのよ。使えるは使えるみたいなんだが……知っての通り、オレはあくまでもカイト・マクダウェル・シンフォニアの生まれ変わりに過ぎん。創世の龍の血脈じゃない」
「そうなのですか?」
「古い血統に古い血統の魂が転生したせいで、再現が出来るというだけだ。どこまで適性があるか、と測った事はないんだ」
カイトが『夢幻鉱』を操れる、と気付いたのはつい先ごろの事だ。なので彼としてもどこまで使えるかは未知数で、そんな状態で下手を打ちたくはなかったようだ。というわけで、そんな彼の発言に道理を見たセレスティアは一つ頷いた。
「なるほど……それであれば、ご協力致します。ただ、こちらからも条件が」
「良いだろう」
「『夢幻鉱』のサンプルをいくつか融通していただけませんか? 練習に使いたくて……」
「練習?」
何の練習なんだろうか。カイトは『夢幻鉱』でなければ出来ない練習が思い当たらず、小首をかしげる。そんな彼に、セレスティアは仕方がないと理解していたので隠す事なく明かしてくれた。
「貴方がかつて持っていた武器の解放が本来の私の役目なのですが……当然ですが、それを用いて常に練習が出来たわけではありません」
「戦争中って話だったか。あいつら、結構役に立ってる?」
「えーっと……まぁ」
「あっははは。本当に真面目ってか頑固だからなぁ……」
どこか明言を避ける様なセレスティアの言葉に、カイトは一つ笑う。神剣に意思が宿っている事があるなぞ、<<偉大なる太陽>>を見ればわかるだろう。
その意思が担い手として認めるか否かこそ、神剣などの神器を使う上で最も重要な事だ。なのでかつてのカイトが手にしていた神剣にも意思が宿っており、相応にはくせ者だったようだ。
「あ、あはは……とはいえ、力は貸してくださっています。ですので常には神剣を用いるではなく、創世の龍の一族より授かったネックレスで解放の練習をしていたんです」
「そのネックレスは?」
「……この通りです」
「あらぁ……」
カイトの問いかけにセレスティアは小さなブローチが取り付けられたネックレスを胸元から取り出す。が、ブローチの中央には何かが嵌っていただろう痕跡があるだけで、不自然な欠けが存在していた。
「こちらに飛ばされる直前、兄さんと共に作戦行動を行っていたのですが……そこで壊されたんです。本当なら『リーナイト』での解放ももっと早く出来たはずなんですが……」
「練習不足が祟った、と」
「言い訳をさせて頂ければ」
カイトの問いかけにセレスティアははっきりと認め頷いた。再度になるが、本来のセレスティアの役割は<<白桃の巫女>>。カイトの武器を封じている封印を解放することだ。
が、その感覚を忘れているか、というのを調べようにも練習するための道具が壊れているのではどうする事も出来なかった。そして彼女が感覚を取り戻すのは回り回ってカイトの利益になる事は明白だ。なので、彼は事情を聞いて一つはっきりと頷いた。
「わかった。そういう事であれば許諾しよう。どうにせよサンプルの確保をする上で、セレスの助力は必須だ。その対価として、という事で良いな?」
「ありがとうございます」
カイトの許諾にセレスティアは一つ頭を下げる。これで彼女の参加も確定として良さそうだった。というわけで確定させた彼は重ねて一つ問いかける。
「だがそのネックレスに使える形に加工しなきゃならないだろ? それはどうするんだ?」
「それは……なんとかしてみようかと」
「そうか……んー……そっちについては一つ伝手が見付かるかもしれん。少しこっちに任せて貰えないか?」
カイトはセレスティアの返答に、そういえばと何かを思い出したらしい。そんな彼にセレスティアが首を傾げる。
「どなたか出来そうな方が?」
「出来るかどうかは知らんよ。エネフィアじゃ正真正銘未知の素材だからな……が、確実に乗ってくるだろう爺が一人居たんだわ……今考えたら要件がなんとなーくわかってな」
「はぁ……」
もしかしたら、とカイトは少し困り顔で笑う一方。セレスティアは状況がよくわからず困惑気味に首を傾げたままだ。
「まぁ、それについては期待しないでくれ。かも、ってだけだ」
「勿論、それは承知しています」
「ありがと……ああ、それで日程だが……」
セレスティアの承諾に一つ頷いたカイトは、引き続き今後の日程などを伝える。というわけで、そこらを終わらせたカイトはそのまま彼女らが宿泊するホテルを後にする。
(えっと……これで探索は問題なさそうかな……後は現地でホタルのセンサーを調整する事になるし……)
こんな所かな。カイトは一つ頷いた。後は実際に行ってみてやってみて、という所だろう。というわけで、彼は問題なさそうと判断して一度外の軍基地へ向かう事にする。
そうして向かうのは、<<無冠の部隊>>で使う武器の開発や鍛造を行う工廠だった。そこに呼ばれていたのである。
「おーう。爺……話って? 大体わかったんだが……一応な」
「おお、来おったか。『夢幻鉱』の話は聞いた。何やら面白い素材との事じゃからのう」
「やっぱそれか」
鉱物資源と鍛冶師は当然だが関わりが深い。なので新しい素材が見付かった、と聞けば食指が動くのが海棠翁だった。それこそ若い頃には自分でそういった未知の素材を探し求めていた事もあるので、今回も噂を聞きつけて飛びついたのであった。
「爺には言っておくと鉱石の性能としては緋々色金と同程度という所か。だが……」
「サンプルは見た……通常の方法では叩く事さえ難しいじゃろう。儂も一度も見た事がない感覚じゃったわ」
「そういうこった」
なにせ虚数域の物質だ。少年の様な顔で笑う海棠翁に、カイトも釣られて笑う。その鍛造は正しく神の領域の芸当であり、普通の鍛冶師では到底太刀打ちなぞ出来そうはずもなかった。
とはいえ、海棠翁は普通の鍛冶師ではない。妖刀打ちにして、人の身にありながら神の領域に届かんとしている鍛冶師だった。故に、カイトがどこか挑発するように問いかけた。
「なぁ、爺。一つ仕事を頼みたいんだが、良いか?」
「話せ。お主の依頼じゃ。事と次第によっては、受けんでもない」
「実はネックレスが壊れちまった少女が居てな……ブローチにはすこーし特殊な素材を使ってるんだが、それを細工できそうな奴が思い当たらんでな」
「ほう……それは悲しかろう」
もうわかりきった流れであったが、カイトの流れに海棠翁は敢えて乗ってやる。この流れで出されているのだ。その素材が何か、などはわかりきっていた。
「悲しい、かどうかはわからんが……色々と困っているみたいでな。その細工を頼みたいんだが……刀鍛冶に頼むのが筋じゃないってのは承知の上だ」
「まぁ……仕方がなかろう。儂とて刀以外打たぬわけではない。鍬も打ったし、鋤も打った。ブローチはいささか趣きが違うが……何事も経験じゃな。よかろ」
「サンキュ……ああ、これがそのブローチの細工の概要だ。見ておいてくれ」
「ほ……これはこれは……」
おそらくこれは神が仕立てた細工だろう。写真を見た海棠翁はセレスティアのネックレスをそう理解する。というわけで、カイトはセレスティアのブローチの修繕の手配を整えつつ、更に数日を『夢幻鉱』の採取の再開に向けて動く事になるのだった。
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