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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第97章 魔女達の集合編

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第2532話 魔女達の会合 ――夢幻鉱――

 <<魔術師の工房ウィッチーズ・クラフトワークス>>のギルドマスターであるフィオルン・エンテシアの母ティエルン・エンテシア。ティナと同じくエンテシアの魔女の一人である彼女を探していたカイト達は、ティエルンをジーマ山脈にて鉱物の採取を行っている所で発見する。

 というわけで発見したティエルンから彼女の目的が同じく虚数域の鉱石であること。その危険性を理解している事を語られ、それと共にカイトは実物を確認する事となる。が、そうして見た鉱石はかつてカイトが手にしていた武器の素材だった『夢幻鉱』と呼ばれるもう一つの神の鉱石だった。


「ふむ……」


 カイトはかつて自身が手にしていた二振りの武器を思い出す。それはセレスティア達に言っていた通り、彼自身が帰る縁とするべくあの世界に置いて行ったものだ。が、それは確かに彼が永劫にも等しい時を共に歩んだもので、目を閉じるだけですべてを思い出せた。


「……こんなもんかな」


 自身の今の本当の二振りによく酷似した二振りを魔力で編み出して、自身をかつての自身に同期させる。そうして自身とかつての自身の境界線を曖昧にして、かつての自身を呼び起こす。


『『夢幻鉱』……それはこの世界でも数少ない裏の世界の物質だ。裏の世界……と、言ってもわからないだろうが』


 かつての世界で、賢者として呼ばれていた頃の自分が語っている場面が呼び起こされる。そうして、カイトは自身の語る言葉を聞き続ける。


『若干の語弊有りきでわかりやすく言えば、夢の世界や幻の世界と言っても良いだろう。故の、夢幻(ゆめまぼろし)。故の、夢幻(むげん)。故の、『夢幻鉱(むげんこう)』……この世界のありとあらゆる物質のように姿かたちが定まらず、その持つ者の想像一つで形を変えられる物質』

『それをどのように武器や防具の形に固定したんですか?』

『それこそ、神の御業と言えるのだろう』


 持ち手の意思一つで形を変えられる物質を持ち手の意思に関係なく固定する。どうすれば良いかも想像が出来なかったかつての息子に、かつてのカイトはそれこそ神の御業と口にする。そんな彼に、同じく神の金属と讃えられる金属との違いを問いかけた。


『緋々色金とどちらが強いんですか?』

『緋々色金は確かに優れた物質だし、現存する物質の中での強度はおそらくこの世で最硬だろう。英雄レックスの持つ聖大剣なぞ、その最たる物だ……それに対して『夢幻鉱』で出来た物質は緋々色金の如く……いや、それ以上の強度を以って決して破壊が出来ないとも言えるし、まるで泥のように簡単に崩れ去るとも言える』

『えっと……それはどういう?』


 どちらにもなり得る。その意味が理解できず、かつての息子が問いかける。


『『夢幻鉱』は使い手の意思一つでその強度を変える。その者の意思が強ければ強いほど、強度は無限大に高くなる。が、同時にその者の心が折れてしまえば、『夢幻鉱』はたやすく折れてしまうだろう……折れるどころか形を失うこともあるだろう』

『なるほど……』


 夢幻の如く。その名の通り、持ち手が存在を意識出来なくなってしまえば形を維持出来なくなってしまうのか。かつての息子はそう理解する。


『この『夢幻鉱』は持ち主の意思に応じ成長を遂げていく。強き心の持ち主の下では強く。弱き心の持ち主には弱く……その剣を手にするのであれば、心を強く持て。強き心の下であれば、その剣は決して折れぬ』

『はい』


 ある国の至宝であった剣。その素材もまた、『夢幻鉱』と呼ばれる鉱石で作られた武器だった。


「あの聖剣は結局今もまだあるのかねぇ……」


 セレスティアに聞かねばわからないが。カイトはかつての息子が手にした聖剣にしてもう一つの祖国の王剣を思い出す。国の奪還を目指し動き出した彼が手にしたのは偶然だったのか、それとも必然だったのか。今のカイトにもわからぬものの、その手に収まったその剣は何の因果か『夢幻鉱』によって作られた武器だった。というわけでその特性を思い出していた彼はふと、気が付いた。


「あれ……そういえば思えばオレ、なんで使えたんだ?」

『使えたらおかしいんですか?』

「ああ……さっきの話し合いの時に話していたが、『夢幻鉱』を使うには身体的な適性が必要なんだ。つい普通にやっちまったが、よくよく思えばオレ、一度も触った事なかったんだよ」


 かつての自身が見覚えがあったし、何より長い年月を共に過ごしていた事で普通に使えるつもりになっていたが、そもそも今生のカイトは『夢幻鉱』に触れた事がなかったのだ。

 なので適性を持つかどうかなぞわかるはずもなく、触ってみて初めてわかったと言っても過言ではなかった。というわけで、そんな彼にアイギスが問いかける。


『その適性って引き継がれてないんですか、マスターの場合』

「わからん……が、こんなもん肉体的な関係だから引き継がれるかねぇ」


 自分の場合は有り得そうだが、どちらかがわからない。カイトは少し困惑しながらも少しだけ困ったように笑う。別に適性があって困る事はないが、それが魂に起因するか肉体に起因するかは少し気になった。


「んー……まぁ、良いか。どうせ調べようもないし」

『はぁ……あ、マスター。それならセレスティアさんは使えるんですか?』

「ん? ああ。彼女ならシンフォニアの血が入っているはずだから、使えるだろう。シンフォニア一族は数少ない『夢幻鉱』を扱える一族だった。王家に伝わる聖剣も『夢幻鉱』で出来ていたし、オレの持っていた二振りを使うのにも、シンフォニア一族の血が入っていないと駄目だった」


 セレスティアがかつてのカイトが居た国の王族である事はすでに明らかだ。そして彼女は神器となった自分達の武器の解放を可能とする者だという。

 そして対応する武器はカイトその人の武器。即ち『夢幻鉱』で作られた武器だ。必然として、『夢幻鉱』を扱えねばならなかった。というわけで、と彼は告げる。


「まぁ、そういうわけだから血統も割と影響してるんだよ。存外天道家なら使えてもおかしくはない」

『なるほどですねー』


 天道家は古くから続く名家だし、開祖は地脈などの制御をも可能とする龍だ。彼女なら出来そうだったし、それなら子孫である天道家が出来ても不思議はない。それもまたあり得たのだ。


「まぁ、でも……この『夢幻鉱』には非常に厄介な性質がいくつかあった。まず夢幻だから、センサーには反応しない。実際、現段階でもセンサーには何も反応してないだろ?」

『イエス。かといって虚数域の力を浴びせるわけにもいかぬからのう、というのがマザーのお言葉です』

「だろうな。下手に増幅させちまってどかんっ、と行っても困るし」


 ホタルの返答にカイトは一つ頷いた。これについてはティナも困っているらしく、そもそも虚数域の計測を可能としているセンサーが現在存在していない事も大きかった。

 それでも何もせずに放置もしていられないので、今回は見付かった一角へと足を運んでサンプルの一つでも見付からないか、と探しに来たのであった。


「ふむ……にしても今までは『夢幻鉱』について詳しく思い出す事もなかったが……まさか虚数域にある物質だったのか。いや、確かにオレ自身もそう言ってるしなぁ……」


 裏の世界。かつての自身はそう呼び表したようだが、それは即ち虚数の世界という事だ。ただ当時の水準では虚数という概念を説明出来なかったため、噛み砕いた結果裏の世界や夢の世界なぞという見かけ上は存在するが実際には存在しない世界と言い表したのである。


「だがそんな簡単に見付かる物質……だったか、これ……」


 カイトは改めて『夢幻鉱』の欠片を見る。そんな彼に、アイギスが問いかけた。


『そもそも簡単に見付かっていないからこそ、今までマザーも存在する事を知らなかったのでは?』

「ああ、いや、すまん……それはそうなんだが、そういう話じゃないんだ」

『と、言いますと?』

「ああ……かつてオレが居た世界で『夢幻鉱』が採掘されるのは、その世界の創世神の一族と呼ばれる者たちが住まう神域もかなり奥にある迷宮(ダンジョン)の最奥だけだったんだ。取りに行くのはすごい苦労するから、レアリティは加工難易度も相まって緋々色金(ヒヒイロカネ)以上の代物だった。というか汎用性なんかを考えるとこっちの方が有用だしな」


 まぁ、それ故に神秘性の担保なんかとして王族とかには好まれたらしいけどな。カイトは最後にそう付け加える。本来使えぬ物質を使える、というのは王族の神秘性の担保として十分だろう。なのでシンフォニア王族は王族の証として、この『夢幻鉱』で出来た剣を一族の保有していたのであった。


『はぁ……では何か気になる点が?』

「んー……まだわからんが、『夢幻鉱』が採掘出来るようになったのなら何かの異変が起きている可能性は高そうだとは思う。急いては事を仕損じる、とは言うが……すこし急いたかもしれん」

『イエス……もう少し事前にマザーと打ち合わせをするべきだったかと』

「だろうな……」


 今回は色々と忙しかった事も相まって報告がおざなりになってしまったことは否めない。元々『夢幻鉱』とわかっていれば、また別の対応も可能だったかもしれないのだ。

 更に言えばセレスティアに助力を求める事だって不可能ではなかっただろう。カイトはその点については要反省としておく。


「まぁ、良い。今更言っても遅いしな。後は色々と調査を進めながら、としておこう」

『イエス……それが良いかと』


 見付かっているという事実はあるのだ。なぜ見付かったのか、何が起きているのか、についてはこれから調べれば良いだけの話だった。というわけで、カイトは改めて自身の内側に焦点を当てる。


「よし……そうと決まれば、もう少し情報を取り出せるかやってみるかな……」

『イエス……あ、マスター。それなら一つ疑問なのですが、マスターが何かやって反応を共鳴させたりは出来ないんですか?』

「うん?」

『いえ、マスターに使える適性があるのでしたら、何かそれを利用する事は出来ないかな、と』

「なるほど……確かに可能かもしれんな……」


 何が可能かはまだわからないが、それをとっかかりにすることは出来るかもしれない。アイギスの指摘にカイトはそう考える。というわけで、これから少しの間彼は自身の適性を頼りに何か出来ないかを重点的に思い出していく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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