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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第97章 魔女達の集合編

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第2531話 魔女達の会合 ――情報共有――

 <<魔術師の工房ウィッチーズ・クラフトワークス>>のギルドマスターであるフィオルン・エンテシアの母ティエルン・エンテシア。ティナと同じくエンテシアの魔女の一人である彼女を探していたカイト達であったが、そんなティエルンはジーマ山脈にて鉱物の採取を行っている所で発見する。というわけで、カイトはそんな彼女を伴って一旦飛空艇へと帰還していた。


「というわけで、ティナ。ようやっと見付かったぞ」

『そうか……ふむ。奇妙な感じじゃのう。親族なぞおらぬ天涯孤独と思うておったが、まさか実物が居るとなるとのう』

「親父さんにも会ったろ」

『それも含め、未だ実感が無い所が無いではない』


 カイトのツッコミに、ティナは不思議そうな様子で告げる。実際、あの時はほぼほぼお祭り騒ぎにも近く、彼女にしてみればほとんど実感の無いままに祝われ、親と再会させられ、だ。それ以降顔を見せていない事もあり未だ実感がなくても無理はなかった。


『まぁ、それはともかくじゃ。ティエルン殿。状況をお聞かせ願いたいんじゃが、良いか?』

「無論だとも……にしても、あの時の幼子がまさかこれとはね。この様子だとフィオもどれだけ成長していることやら」

「そんな前から会ってないんですか……」


 どこか感慨深い様子ながらも楽しげなティエルンに、カイトががっくりと肩を落とす。元々魔女達にまっとうな親子関係なぞ望むべくもない事は知っていたが、それにしたって常軌を逸していた。


「いや、最後に会ったのは三百年前というわけでもないから、多分そう変わってないと思うがね」

「はぁ……まぁ、それはともかくとして。あれです」

「ほぅ……やはりマクダウェル家の飛空艇は素晴らしいな」


 カイトの指し示した飛空艇を見て、ティエルンが一つ頷いた。というわけで甲板の上に降り立った二人を、ティナが出迎える。そんな彼女にティエルンが笑いかけた。


「やぁ、久しぶりだね……随分と大きくなったものだ、と言っても君は知らないだろうが」

「申し訳ないが、知らぬ」

「だろうね……ま、そもそも私が君に最後に出会ったのはまだおくるみに包まれている頃だ。覚えていると言われた方が怖いがね」


 おくるみとは赤子を包む布の事だ。それで包まれている頃のティナというのだから、六百と数十年前の話だった。というわけで、少しの社交辞令を交わした後。ティナがティエルンを中へと誘った。


「ひとまず、中へ。何かを話すにしても立ち話もあれじゃろうて」

「そうだね。せっかくだから温かいコーヒーの一杯でも貰えれば幸いだ」


 すでに冬も近い。なので外は寒く、あまり長いしたいわけではなかった。というわけで飛空艇の中へ入った三人は一旦会議室として使っている一室へと移動。そこではすでにアンブラが待っていた。


「おーっす。あんたがティエルンさんだったんだなー」

「ああ、アンブラくんか。随分と久しぶりじゃないか。元気だったかね?」

「元気だぞー。そっちは?」

「無論、元気だとも……なるほど。君が居るのなら話は早そうかな」


 ティエルンは鉱石や宝石系を用いた魔術の専門家。それに対してアンブラは地質学の専門家だ。分野としては切っても切り離せない。なのでティエルンはアンブラが居るのでおおよその話は彼女からの補足も貰えるかな、と判断したようだ。と、そんな事を話しているとメイド服姿のホタルが現れた。


「……どしたんだ、その格好」

「マザーが給仕をするのなら形から入るべきだろう、と」

「……お前の趣味か」

「よいじゃろ?」

「まぁ、似合うがね」


 差し出された紅茶を口にして、カイトは笑う。その一方、ティエルンが僅かに目を見開いた。


「ふむ……? まさか帝国……マルス帝国が開発していたゴーレムか?」

「そうですが……私をご存知なのですか?」

「知っているとも。君の姉妹機の開発に携わっていたからね。研究の意義に興味はなかったが……研究そのものは興味があったのでね。だが、いや……一体何があった? 君の容姿を鑑みれば、おそらく君は七体目の試作機だと思うのだがね」


 それにしたって精度が高すぎる。ティエルンはそんな疑念を口にする。が、それは感心という色合いが強く、敢えて言えばなぜここまでの性能を手に入れる事が出来たのだろうか、と学者としての興味が強い様子だった。


「……色々とありましたので」

「ほぉ……隠すという観念まで手に入れたのか。目をみはる成長率だ。婿殿が去る際の二体と同等……それ以上かもしれないな。見事だ、と称賛しておこう。うむ。コーヒーの淹れ方も悪くない」


 ティエルンはコーヒーを一杯口にしつつ、再度の称賛を口にする。というわけで、各自に一杯ずつ飲み物が差し出された所で改めてティナが本題に入った。


「それで、ティエルン殿。今回こちらへ来ていた目的は?」

「うむ……さて。何かを話すより前に、一つ実物を見て貰った方が良いだろうね。少し待ちたまえよ」


 ティナの問いかけにティエルンは異空間に手を突っ込んで何かを探る。そうして、暫く。彼女は奇妙な黒い布に包まれた何かを取り出した。


「これは……」

「『絶魔の布』と呼ばれる布だ。早い話が『吸魔石』の効力を持つ布という所だが……『吸魔石』は柔軟性に欠けるのでね。古い代物で作り手も限られるが……存外使い勝手が良いものだ」

「へー……」


 古くにはそんなものがあったのか。カイトは古い時代の遺物に感心したように振れてみる。布そのものの質感は少し光沢のある布だが、上等な布というよりもどこか安物の布の様な硬さがあった。


「まぁ、今の本題はそれではない。とりあえず、中を取り出そう」

「む」

「おー?」


 ティエルンの取り出した中身に、ティナもアンブラも僅かに目を見開く。そんな中に入っていたのは、虹色に輝く透明な物体だった。


「ふむ……その様子だと君達は見た事があるかな?」

「うむ……かくいう余らもティエルン殿探索と共にそれを探しに来た」

「なるほど。全くの偶然というわけでもなかったか」


 元々カイトが別の目的があった、というのは言っていた。そこに偶然ティエルンが居たというだけだ。故に彼女もこの話に道理を見て、それなら話が早いと話を進める事にした。


「であれば、話は早いだろう。これは昨今見付かったばかりの新種の鉱石で、私も知人から譲り受けたものだ。見付かった場所はここ。ジーマ山脈の奥だというのだが……そういえばアンブラ。君もヒロントくんとは知り合いだったか?」

「あー……やっぱあんたもかー」

「なるほど。出どころは一緒だったか」


 どちらも鉱物系の学者としてはかなり有名な部類だ。なので共通の知人が居ても不思議はなかったし、結果としてどちらにもサンプルが提供されていたというわけなのだろう。ここで遭遇する事になったのは偶然ではなく、やはり必然だったのだろう。


「みたいだなー……で、そいつを調べては?」

「勿論、調べたさ。それでこれは少しマズいのでは、と思ってね……おそらく、君達と同じ結論に達していたのだと思うがね」


 サンプルが提供された頃合い。そしてここまでに要した時間。そういったものを鑑みて、ティエルンはカイト達も同じ結論に到達し危険視していたのだろうと理解する。というわけで、隠す必要もないだろうとティエルンが告げた。


「これは虚数領域というこの世界ではほぼほぼ語られる事のない領域に存在する物質、と私は考えているのだが……その前に。虚数領域についての話は?」

「余とこやつは理解しておりますよ。アンブラは虚数という話そのものがいまいち、という塩梅です」

「仕方がない事だろうね。虚数領域……その前提となる虚数は数学的な知識が無いと理解し得ない。だがその虚数が失われて久しい」


 カイト達が地球に渡った事は今更ティエルンも語られるまでもなかったし、ティエルンはマルス帝国時代に教育を受けている。なのでその一端として虚数の話も理解しており、結果として虚数域の話も理解していたのである。


「……うむ。それはそれとしておこう。とりあえずこれは虚数領域にある物質だ、というのが私の結論だ。そしてその性質は一歩間違えれば広範囲に破壊をもたらしかねない」

「余らもその結論に達し、こちらへ」

「だろうね。為政者としては、私以上にこの謎の鉱石は見過ごせないはずだ」


 ティナの相槌にティエルンは一つ頷いた。アンブラの地質学の見地とティナの才能は彼女も知る所で、この結論に達していない方が不思議だった。というわけでティエルンがカイトへとこれからを問いかけようとして、彼女は僅かに目を見開く。


「どうしたのかね?」

「いや……なるほどと思っていただけです」

「「「うん?」」」


 僅かな驚きを露わにするカイトの返答に、ティエルン達が首を傾げる。


「いや、実は先ごろ大精霊達からこれをオレは見た事がある、と言われていまして……そんな馬鹿な話があるか、と思っていたのですが……なるほど。確かに見た事があった」

「なんじゃと? どこでじゃ」

「この世界じゃないよ……また別の世界。セレスティア達の世界だ。そこで、この鉱石をオレは見た」


 カイトは虹色に輝く透明の鉱石を見ながら、僅かに苦笑する。


「こいつはその世界で『夢幻鉱』と呼ばれていた神の鉱石の一種……緋々色金と同等の強度を有するとされた幻の鉱石だ」

「『夢幻鉱』……おおよそ由来は夢幻のように透明じゃから、という所か」

「そうだ……そしてそれと同時に、夢幻の如く形を自由自在に変貌させられるという特性もある」


 ティナの問いかけにカイトは一つ頷いて、さらなる性質を明かす。そうして、彼は『夢幻鉱』の欠片を手にとった。すると、彼の意思を受けたかのように単なる石の形をしていた『夢幻鉱』がインゴットさながらの形状に変貌する。


「ほう……便利じゃのう。どうやったんじゃ?」

「こいつを使うには適性が必要だ……が、適性を持つ者であれば、こうやって自由に思うがままの形に変化させられる。今のはオレのイメージに引っ張った様な感じか」

「適性のう……また変な適性が求められそうじゃのう」


 変な所で抜群の適性を有しているカイトが適性を有するというのは特段驚くにも値しないが、逆にそれ故にこそレアリティの高い適性を求められるのだろう。ティナは長い付き合いでそれを察する。その一方、ティエルンは虚数域への適性を有していたカイトに驚きと感心を浮かべていた。


「ほぅ……虚数領域の物質を操れるか。さすがは大精霊様と繋がる者というべきか……そういえばカイトくん。一つ、聞きたいのだが良いかね?」

「どうぞ」

「もしやすると闇の大精霊様のお力とは素直に闇と捉えるのではなく、ではないか?」

「おっと……ご明察ですね。無論、ここまで至ると闇とはそもそも何なのか、というお話になってきますが」

「む」

「そうなのかー?」


 はっとなった様子のティナに対して、アンブラは驚いた様子で問いかける。これにカイトは頷いた。


「まぁな。正確な所としちゃ、光が実領域を。闇が虚数領域を司っている。更により正確な所に突っ込めば、光属性とは何か。闇属性とはなにか、という所にまで話が及ぶが……」

「その話。余としても興味は尽きぬが……時間は有限じゃ。今は置いておくほうが良いのじゃろうな」


 これ以上この話をすると本題から離れすぎているし、何より今のこの『夢幻鉱』をどうするか、というお話には一切関係がない。というわけで、ティナの言葉を起点として一同は話を戻す事にする。


「で、それはともかくとして……であれば、どうすれば良い。おそらくこの鉱物について一番知っておるのはお主じゃろうて」

「そうだな……とりあえず回収したい所なんだが……いくつか気になる事がある。が……すまん。流石にそこらを思い出そうとすると過去世の記憶に手を突っ込まんといけんから、今すぐは無理だ。もう少し前に実物見ておくべきだったんだが……」


 なんだかんだ忙しく見ていなかったのが問題だろう。カイトはティナの問いかけに少しだけ苦い顔を浮かべる。というわけで、この日は仕方がなくこれでお開きとなり、この話は明日へと持ち越す事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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