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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第十二章 第2回トーナメント編

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第241話 第二回トーナメント ――お祭り――

 数日間シリアスだったので、今日からは少しコメディで。

 カイト達が担任の雨宮から相談を受けた翌朝。カイト達冒険部の面々はほぼ全員が天桜学園のある場所に戻ってきていた。残っているのはトーナメントの登録を免除された一部の生徒だけである。


「うぁー……久々だ」


 会議に出ることもなく、また依頼で学園に戻る事も少なかったソラが言う。


「で、なんでその格好?」


 そうしてソラが、一同の姿を見る。所用で後から来たソラや翔は普段の格好だが、先に来ていたカイト達は浴衣であった。


「おいおい、周囲を見ろ。これで浴衣を着ないのは損だろう」


 そうして同じく浴衣姿の瞬が周囲を指さす。そこには学生たちや公爵軍の隊員が経営する多くの屋台がならび、一種の縁日の様相を呈していた。


「幸い俺たちは初日が無いからな。お前たちの分も用意されてある、着替えてくるといい」


 そう言って瞬が冒険部上層部用に用意されたスペースを指さす。そこには二人の名前が書かれた大きめの袋があった。


「あ、マジすか。ちょっと行ってきます」


 瞬の言葉を受けた翔がソラと共にが、立ち去ろうとする。その直前、瞬が言った。


「ああ、そうだ、今日は全員自由行動だ。後は好きに動け。彼女とデートするなり、好きにしろ」

「おっしゃ! 翠さん、今行きます!」


 ソレを聞いた翔が、一気に駆け去った。


「ソラー、待ってるから早くねー」

「おーう」


 由利に待っていると言われたソラは、少しだけ照れた様子で立ち去った。


「居た! 魔王様!」


 そう言って音を置き去りにして一気に駆け寄ってきたのは、クラウディアであった。


「おお、クラウディア、来ておったか。お主はまーた、とんでもない衣装じゃのう」


 駆け寄ってきたクラウディアを見たティナが呆れながらも笑みを浮かべた。クラウディアの衣装は上が胸の谷間は完全に見えており、下は少し動くだけで見えてしまいそうなぐらいに短かった。まさに、サキュバスが着る着物、という感じである。

 そのクラウディアは、ティナの前に立つやいなや、全ての行動が完全に停止する。


「こ、これは……失礼致します!」


 クラウディアはそういうや、持って来ていた映像記録用の魔道具を取り出し、可愛らしい浴衣を着たティナをあらゆる角度から撮影する。ティナは若干恥ずかしがっていたが、そのウチに調子に乗ったのか、自らポーズを取り始めた。そんな主従を眺めつつ、瞬へとリィルが問いかけた。


「あ、瞬、その手の雲みたいな物はなんですか?」

「これか? 綿菓子という砂糖菓子だ。日本の屋台の定番だな」

「じゃあ、凛ちゃんのもその一つ?」


 アルが興味深げに問いかける。


「はい。これはりんご飴です。りんごの周りに飴をコーティングして……」


 そんなこんなで一同が話していると、拡声器から声が響いてきた。


『はい! 始まりました、第二回トーナメント! 司会は私! 一文字真琴と!』

『総合解説は私! ユリィでお送りしますっ!』


 拡声器から聞こえてきたのは、そんな元気な声だった。誰なのかは、最早考えるまでもなかった。


『今回からなんと賞品が設定されているので、皆さん精一杯がんばってください! 尚、今回はクズハ様も初日からご観覧くださいます! 男ども、喜べよー!』


 真琴の言葉に、少し遠くの場所から歓声が上った。


『みんながんばってね~!』

『では、今回のルールを説明する前に……クズハ様もお美しいですが、ユリィさん、可愛らしいお姿ですね?』


 来賓用の椅子に腰掛けたクズハもそうだが、ユリィもまた、浴衣姿であった。二人共、伝統的な浴衣ではなく、弥生が幻想的な彼女らに似合うようにアレンジした浴衣であった。


『えへへー、弥生に仕立ててもらったの』


 ユリィが嬉しそうに笑う。解説者席に座るユリィも貴賓席に腰掛けるクズハも、レース等がふんだんに使われた可愛らしい浴衣であった。

 ユリィの妖精姿やエルフの神秘的な姿に非常に似合っており、二人共まるで童話にでも出て来そうな風貌であった。これには男女関係なく、嫉妬することも出来ず只々、見惚れていた。


『でも、変わってるよねー。着物も浴衣も下着つけないんでしょ? なんかちょっとスースーするー』


 その言葉に、全ての時が停止する。


「あれ? そうなんじゃないの?」


 日本出身者達が停止したので、アルが怪訝そうな顔をして瞬に尋ねた。尋ねられた瞬は、非常に嫌な予感と共に、横のリィルに尋ねた。


「……リィル、まさかお前もか?」

「はぁ……始めは不思議でしたが、ティナさんもそういうので……」


 原因が発覚し、即座にティナを睨むカイト。


「おい! ティナ!」

「あれ? 違ったかの?」

「二度目だぞ! いい加減学べ!」


 日本にまだ居た頃に、どこからか変な知識を仕入れてきて、一度ノーパンで縁日に出かけてカイトを大いに焦らせたのであった。


「むぅ、最近祭りなど出かけておらんからの。忘れておった。スマヌスマヌ」


 しまった、という感じでデコを持っていた扇子で叩くティナ。どうやらついうっかり忘れていた、と信じたい。


「いいからパンツ履いてこい!」


 そう言ってカイトが三人を送り出し、カイトはそのまま解説席へと直行する。


『いや、あの……ユリィさん?誰がそんなことを?』

『え? 違うの?』


 きょとん、として問いかけるユリィに、カイトが答えた。場所が場所なので、マイクにカイトの声が入り、学園全体に騒動が実況されるが、この際小さな事であった。


『どう考えても違うわ! お前もさっさとパンツ履いて来い!』


 ユリィの首根っこを掴んで確保するカイト。それにユリィはジタバタと抗議する。


『きゃ! ちょっと、カイト! 履いてないんだから見えちゃうー!』

『問題無い! 誰がそんなミニマムに興奮するか!』

『したことある奴が言うなー!』


 そんなこんななドタバタ劇を繰り広げる二人。周囲は奇妙な停滞の中、それを眺めるだけだった。なお、危ない発言は騒動のおかげで完全にスルーされた。


『真琴先輩! コイツ借りていきます! ん……まて、まさか、お前らもか?』


 浴衣姿のクズハの方を見たカイトが、クズハとメイド服を着た横のフィーネとユハラが頬を赤らめている事に気付く。三人の様子に気付いた男子生徒一同が、生唾を飲んだ。


「えと、あの……少々席を外します」


 真っ赤になりながら立ち上がり、カイトにそういったクズハ。どうやらコチラも履いていなかったらしい。


『ちぃ! 二人共予備の下着はオレの部屋のタンスにあるだろ! さっさと履いてこい!』


 何故お前の部屋に二人の下着があるんだ、一同はそんな疑問を浮かべるが、誰かが疑問を呈する前にも、自体は進行する。


『え、ちょっと! カイトくん、解説はどうするの!?』

『ノーパンでやらせますか!? えーっと……居た! クラウディア! 少し代われ!』


 真琴の問いかけについては考えていなかったカイト。周囲を見渡して、クラウディアを確認。即座に呼びつける。


「え? あ、はい」

『え? あの、どなたですか?』


 かなり際どい浴衣姿のクラウディアを見た真琴が、怪訝として尋ねた。


『あ、初めまして。魔王のクラウディアです。よくわからないですが、解説させていただきます』

『は? 魔王!?』

『はい……生徒会の方は以前お会いしていますね。お久しぶりです』

『え、あ、お会いできて光栄です……』


 少しだけ距離を取りつつ、真琴は頭を下げる。どうやら他の生徒達も生徒会経由で噂ぐらいは聞いているらしく、クラウディアがサキュバスであると知っている男子生徒が、全員鼻の下を伸ばしていた。


「そういえば、クラウディアって履いてるの?」

「……あ」


 クズハとユリィを引き連れて自室に戻ろうとしたカイトだが、ユリィのふとした疑問に一時停止する。最も履いていなさそうな人物は、まごうこと無くサキュバスのクラウディアであった。


『えーと、あの、クラウディアさんは履いてないんですか?』


 どうやら同じ疑問に突き当たった真琴が、不安になって尋ねる。だが、それは杞憂だったらしい。


『あ、いえ。履いてますよ。』


 その言葉に、カイトは少しだけ安堵するが、次の言葉に、たたらを踏む。


『褌とやらです』


 そう言って立ち上がり、浴衣の裾をたくし上げようとするが、その寸前で一瞬で戻ってきたカイトに制止された。


『上げるな! ここには思春期の男子生徒が居るんだよ! 誘惑すんな!』

『そんな見境なく誘惑している様に言わないでください。これでもきちんと選んで誘惑しています』


 少しだけ憮然としたクラウディアが、着席する。


『はい?』


 かなり際どい浴衣を着ているのだが、これでまだ誘惑に入らないのか、と真琴は頬を引き攣らせた。少しでも身動ぎすれば、それだけで褌や胸が見えそうであった。


『そもそも、勇者カイト殿を味わってからと言うもの、それ以外は薄すぎてまずいのです』

『え?』


 クラウディアはサキュバスである。何が薄いのか、についてを想像した真琴が、真っ赤になっている。他にも放送を聞いていた一部生徒たちが、真っ赤になっていた。


『そもそも、カイト殿のは濃厚なのです。あんなに美味で濃厚なのを味わってしまっては、もう、他の者など、味わうことが躊躇われます。彼は我らサキュバスにとってはご馳走中のご馳走。一応、居なくなってからも別の者で試してみましたが……全くダメですね。薄すぎて。これは彼を味わった全員が言った結論です。未だに同胞からは彼の来訪を望む声が絶えません』


 その言葉に、誰ともなく生唾を飲む。


『え、っと、あの……クラウディアさん。そこらで終わっては貰えませんか?』

『あ、すいません。こんな愚痴を聞かされても困りますね。……どうしたのですか? 真っ赤ですが……』


 彼女らにとっては、この程度の会話は普通なのか、そんなふうに戦慄を覚えた真琴。一方のクラウディアは横の真琴含め、多くの生徒達が顔を赤らめている事に気付き、漸く勘違いに気付いた。


『あ、成る程。すいません、魔力の事です。カイト殿の魔力は莫大かつ濃厚ですので、我々魔力を他者から得られる者にとっては彼の魔力を含む体液は最上のご馳走なのです』

『……え?』

『さすがに我々サキュバスとてそんな話をこんな場所でしないぐらいの分別はありますよ』


 くすくすと笑って勘違いを正すクラウディア。その訂正に、勘違いした一同が真っ赤になった。


『まあ、確かにそういった行為で魔力を吸収することも出来ますが、手をかざす、肌で触れ合うだけでも、吸収することが出来ます』


 実はそれ故、クラウディアは肌で触れ合う事ができる格闘術を極めているのであった。吸魔で相手の魔力を吸収しつつ戦える事は、非常に効率が良かったのだ。


『えーと……と、言うことは、別にやらなくてもいい、ってことですか?』


 何を、についてはさすがに恥ずかしかったらしく、真琴は言明しなかったが、それでクラウディアには十分に理解できた。


『はい。しかも言えば私などはカイト殿以外と交わったことは無く……あ』


 そこでクラウディアはしまった、という顔で周囲を見渡す。そして、金髪碧眼の美少女の姿を見つけて、ガタガタと震え始めた。


「のう、クラウディア……少々、こっちへ来ような?」


 クラウディアを見て、ティナは笑顔で手招きする。ティナは小声で声を発したのに、クラウディアには全て聞こえていた。


『は……はい……あの、ユリィさん。後はお願いします。カイト殿、申し訳ありませんが、一緒に来てもらえますか?』


 ガタガタ震えながら立ち上がったクラウディア。真琴はそれを呆然と眺めるだけであった。


『あ、ああ……』

『あ、うん。じゃあ、いってらっしゃーい。あれ、かなり怒ってるけど、何があったの?』


 非常に怒った様子のティナを見て、ユリィがカイトに尋ねる。二人共、パンツを履くだけだったので、すぐに戻ってきたので一部始終を聞いていたのであった。


『いや、ついうっかり口を滑らせただけだ。あ、じゃあ、選手紹介よろしく』


 真っ青になってガタガタ震えるクラウディアを連れて、非常にゆっくりした足取りでティナの下へと向かい、そのままフードを被った三人の人物――一葉達――に連行され、冒険部上層部に与えられたテントへと消えていった。


『はーい! じゃあ選手紹介始めるよ!』

『え、えーと……何か途中でよくわからない事が起きましたが、では、注目選手の紹介を始めましょう!』


 そうして、二人の声をBGMに、ティナによるクラウディアの説教が始まったのである。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第242話『第2回トーナメント』

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[一言] ミッドナイト版が欲しいぃぃぃ
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