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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第97章 魔女達の集合編

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第2525話 魔女達の会合 ――支度――

 エンテシアの魔女を探して欲しい。八大ギルドの一角である<<魔術師の工房ウィッチーズ・クラフトワークス>>ギルドマスターにしてティナの親族である事が発覚したフィオルンから受けた依頼により手始めに彼女の母ティエルンの探索に乗り出していたカイト。

 そんな彼の下に地質学者であり古馴染みであるアンブラよりつい先日マクダウェル領西部にあるジーマ山脈なる山脈にてティエルンと思しき人物が発見されたという連絡が舞い込んでいた。

 そしてそれと同時にアンブラに届けられた謎の鉱石の探索を行う事になった彼はティナ、アンブラとのやり取りから数時間後。誰もが寝静まった頃に一人自室の椅子に座ってウィスキーを傾けていた。


「虚数域……ね」


 先にティナが言っていた虚数域。これだが実はカイトはティナ達以外からも聞いた事があった。故に彼はその当人を呼び寄せる。


「ルナ」

「……文句は聞きたくない」

「言わないってば。今更だし、それに何よりお前の助力がなければな」


 どこか不貞腐れた様子で現れたルナに、カイトは一つ苦笑する。そうして、彼は一つ問いかけた。


「虚数域と言えば前にお前が浬達に課した試練だが……あれと何か関係あるのか?」

「無い……と思う。ごめんなさい」

「ああ、良い良い……関係はなさそう、で良いんだな?」

「多分……ミコトに聞けば何かわかるかもだけど」

『……何?』


 相変わらずのやる気なさげな声でミコトが応ずる。彼女が司るのはこの世すべての物質。故に虚数域だろうと物質である限り、彼女の権能が行き届いているはずだった。


「呼んじゃいないが……虚数域について聞きたい」

『……虚数域は虚数域。通常理論とは異なる理論で動ける世界……こちらが物理法則なんかのルールに則って動くなら。有り体に言えば想像がすべての世界。ただし大精霊達の加護がなければ反存在と存在の対消滅を起こして死ぬ』

「あははは……」


 そりゃリルさんも虚数域への潜航を諦めるわな。ミコトの語る虚数域の実情にカイトは乾いた笑いを浮かべる。とはいえ、そういうわけなのでこの世の理論は一切通用せず、虚数域がこちら側に侵食しないように常に大精霊達が見張っていた。そこまでは、カイトも把握していた。


『そもそも虚数域が存在する理由は……面倒になってきた。終わって良い?』

「お好きに……ただ一つだけ教えてくれ。今回エネフィアに虚数域の物質が見付かったのは浬達の事と何か関係はあるのか?」

『それはない。かつてあの子達が三百年前のエネフィアに送られる際、一時的とはいえ虚数域の存在となった。それは時を超える以上、仕方がない。でもだからといってエネフィアに虚数域の物質が唐突に現れる事はない。最初からあったけど誰もが気付かなかっただけ』

「そうか」


 関係があったらあったで面倒な事になるが、そうでないのなら気にする意味もないか。カイトはそう判断する。と、そんな彼にミコトが告げる。


『あ、そうだ』

「うん?」

『ぶっちゃけると今回の鉱石。カイト見た事ある』

「へ?」


 唐突に明かされる事実に、カイトは思わず目を丸くする。


「どこで? いつ?」

『見ればわかる……じゃ』

「あ、ちょ、おい!」


 言うだけ言って消えたミコトに、カイトが思わず声を荒げる。まぁ、消えたと言っても彼の精神世界に入っただけとも言えるので特別問題はないのだが、カイトとしても自分の現状精神世界に入るつもりはない。


「はぁ……まぁ、関係が無いなら良いか……」


 どこで自分が見たかは気になる所であるが、それはさておいても浬達の試練の結果この世界に虚数域の物質が生まれたのではないという。それだけでカイトとしては一安心だった。というわけで、安心したらしい彼は改めてウィスキーを傾ける。


「ふぅ……問題だらけの世の中ではあるが。虚数域、か」

「なに?」

「いや……虚数域の事を思い出して、地球の事を思い出した。あっちは無事かねぇ……」


 死んじゃいないことだけは確かだがね。カイトは自身の妹達の現状に僅かに思い馳せる。


「……知りたければ教える」

「良いよ、べつに」

「……本当」


 どうやらこの虚数域の話は色々とあったらしい。なのでルナが珍しく積極的だった。が、カイトの方はなるようになれ。特別知りたいわけではなかったらしい。まぁ、彼の場合は地球にもリアルタイムで報告をしてくれるおせっかいが多すぎてわざわざルナに教えてもらわなくても、という所だった。


「ま、悪いと思うんなら一個だけ教えてくれ」

「……何?」

「他にオレの記憶から封印してることとかないよな?」

「……ノーコメント」

「あるのかよ」


 ルナの返答でカイトはまだ自分の中に隠されている、もしくは偽られている記憶がある事を理解する。とはいえ、明かされる事はない事もまた彼は理解していた。というわけで、これ以上聞いても意味がないだろう、と判断して今はこれだけでよしとしておく事になるのだった。




 さてカイトがミコトとルナの二人と話をして更に数日。ティナとアンブラが準備に勤しんでいる一方でカイトもまた様々な方面での準備に勤しんでいた。というわけで、改めて忙しそうな彼を見てソラがどこか哀れみを持って告げる。


「お前……マジで忙しいな」

「うるせぇよ……まぁ、今回は学生の実地研修に付き合うってだけだ」

「アンブラさんだろ? 俺ギルドの幹部としてしか知らないんだけど、かなり有名な学者さんなんだろ?」

「まぁな」


 ソラがアンブラと関わるのは大半がギルド同盟に関する内容だ。なのでアンブラがどういう立ち位置に居るか、という正確な所は知らなかった。


「色々とあってついて来いって話だ。何も起きなけりゃ現地で二泊三日。往復は半日……足掛け四日だ。元々魔導学園が保有する拠点もあるから、テントとかも必要はない」

「お前からすりゃ楽な依頼って感じか」

「学生がバカさえしなけりゃな……が、アンブラの研究室所属なら大丈夫そうか」


 基本的に学生と言ってもすでに研究室に配属されている研究者に近い学生だ。研究者見習いと言ってもよく、フィールドワークを何度か行っている。なのでそういう事はないだろう、とカイトも思っていた。


「そか……あー……まぁ、なんってか。一応休めよ? お前に言う事じゃないかもだけど」

「わかってる。マジで休みたいが……ここ暫くは忙しすぎてな……」


 やはり一番トップが忙しくしていると下が休みにくくなる事はどうしてもある。なので遠征に出ずっぱり会議に出ずっぱりなカイトの悪影響が出ないかソラは少し心配だったようだ。そして勿論、カイトもわかっていた。わかっていたが休める情勢下でない事もまた事実なのであった。


「だよなー……」

「まぁ、そう言っても。そろそろ纏まった休み取っとかないと今度は大遠征で取れる暇がなくなる。また何か考えてるよ」

「マジか」


 どうやらカイトの方が一枚上手だったのは変わらないらしい。少しだけいたずらっぽいカイトの様子にソラが驚きを露わにする。


「当たり前だろ……どっかで一週間か二週間か……まとめてギルド全体で休みを入れる。ユニオン主導の遠征に入ると残留の面子の負担が増えるから、それに備える向きもある」

「なるほど……」


 確かにそれを考えれば一度ギルドとして強制的に休みを取らせておいた方が良いかもしれない。ソラはカイトの考えに道理を見て思わず頷いた。


「ま、そりゃともかくとして。お前の方はどうなんだ? アポイントは取れたのか?」

「あ、っと。そだった。とりあえず連絡した……まぁ、トリンがだけど」


 カイトの問いかけにソラはそうだった、と慌て気味に報告する。これにカイトは一つ頷いた。


「マリンさんはブランシェット領でも有数の富豪だ。時間の調整は難しいかもしれんが……」

「おう……調べて思わず仰天したわ」


 手を鳴らすだけでメイドが現れたので若干はそうだろうな、と思っていたソラであるがそれでも思った以上にすごい富豪だったらしい。どこか乾いた笑いを浮かべていた。


「だろうな。ウチも仕入れてる有名な商家だ。本邸こそブシュエフにあったが別邸としていくつもの豪邸を保有している様な家だ」

「ブシュエフどころかブランシェット領有数の商人なんだってな」

「ああ……ちなみに、マリンさんの方が当主だというのは」

「わかってる。そこらもきっちり調べた」


 カイトの指摘にソラははっきりと頷いた。先にブロンザイトが言及していたが、彼の娘のマリンは彼と件の富豪の娘の子だ。そしてマリンには賢者と呼ばれた男の血が受け継がれていたのだろう。

 天性の商人としての才能があったらしく、両親から受け継いだ家を今の規模にまでもり立てたのは彼女だとの事であった。


「おっとりしてたように見えて、実はむちゃくちゃやり手だったんだな。なんかお師匠さん思い出すよ」

「あはは……ま、それはともかく。縁を得られるのは悪い話じゃない。ああ、そうだ。一応前にも話したと思うが、俺も行けそうなら行く予定だ」

「聞いてる。椿ちゃんとの間で日程調整はやっとくよ」

「頼む。まぁ、オレはあくまでもおまけだから、別に日程が合わなければ合わないでも仕方がない。そこは無視してお前らだけで行ってくれ」


 カイトはブロンザイトが後事を託した人物として実の娘であるマリンと会うだけの話だ。なので直に会わないでも良いといえばよく、物の序でなので顔を売っておくかと考えただけだった。

 無論、彼自身がブロンザイトの娘に興味があった事、落ち着いた事もあり一度ブロンザイトの墓を詣でておくかと思った事も大きい。と、そんな彼にソラが問いかける。


「わかってる……あ、そだ。カルサイトさんから連絡あったか?」

「いや……が、馴染みの宿屋で暫く羽を休めるとは言ってたが」


 一応回復薬で魔力を回復させ傷を癒やしたカルサイトであるが、こちらはやはり数百年単位で冒険者をやっているのだ。休養の大切さを誰よりも理解しており、今回は長期かつ大規模な物――完全に偶然だったが――となった事を受けて長めの休みを取っているらしかった。


「あの人らしいな……大体の位置わかるか? 一応話聞いてみないとな」

「そうか……たしかにな。椿」

「はい」

「カルサさんの現状と場所の確認だけさせておいてくれ。後はソラに一任する」

「かしこまりました」


 カイトの指示に椿が一つ頭を下げる。そうしてソラがマリンとの会合の支度に入った一方、カイトはこちらもこちらで遠征の支度を整える事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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