第2523話 魔女達の会合 ――来訪――
賢者ブロンザイトの実弟にして冒険者であるカルサイトからの要請を受けて、『アダマー』という街に向かったカイト達。そんな彼らは『アダマー』にて暗躍していた裏ギルドの構成員達を拿捕すると、後のことを現地のユニオン支部に引き継いでソーラ達<<太陽の牙>>の面々とカルサイトを連れてマクスウェルへと帰還の途に着いていた。
その最中。レヴィとの間で今回の一件について今後の話し合いを行っていたカイトであるが、それが終わった所で入ってきた報告から次の旅を即座に決める。というわけで、その翌日。飛空艇は特にトラブルもなく進み、彼はマクスウェルへと帰還していた。
「うおー……そういやマクスウェルは久しぶりだが、あいっかわらずデカイ街だな」
「何回か来てるんっすか?」
「おう……って、そりゃお前。カイトとも長い付き合いなんだからそりゃ来てるだろ。どっちかってと兄貴より俺のがマクスウェルに来てるんじゃねぇか?」
どこか驚いた様子のソラに、カルサイトがそういえばと思い出す。基本表向きの職業としては考古学者だった――冒険者の――ブロンザイトも同じ様に各地を出歩くが、遺跡がある僻地に赴く事が多かった。
それに対してカルサイトは冒険者。依頼や物資が集まる大都市の方が行動しやすく、マクスウェルもその例に漏れずというわけである。そしてそうである以上、カルサイトはカイトに告げる。
「カイト。確か別に宿に指定とかはねぇんだったな?」
「そうですね。連絡さえ取れるのならどこで泊まってても問題ありません」
「そうか……なら、俺はいつもの宿に泊まってるわ。久しぶりにねぇちゃん達にも顔見せてぇしな」
「そうですか……それはご随意に。ああ、そうだ」
「わーってる。お前んちに顔出せよ、って話だろ?」
今更であるが、カイトとカルサイトは親族にあたる。そもそもブロンザイトにソラが弟子入りしたのはカイトの婚約者の一人――というか二人というか――である珠族の族長の娘の紹介だ。である以上、彼女らとカルサイトも親族だし、顔見知りだ。近くに来た以上は一度は顔を見せないといけないだろう。
「そういう事ですね……あいつらも久しぶりに会いたいでしょうし」
「言うわけねぇだろ。第一兄貴の葬式でも会ってるしな」
「それはそれです」
「ま、そうだがね……まぁ、折を見て行くわ、つっておいてくれ」
「はい」
「おう……じゃ、一旦俺は荷物やら宿の確保やらしてくるわ」
やはり宿を確保するのなら遅い時間より早い時間の方が良い。なのでカルサイトはこのまま馴染みの宿に直行して長期滞在の手配をするつもりらしかった。というわけで、空港で彼と別れた後、カイト達は改めてマクスウェルを歩いていく。と、その中でソーラは非常に興味深げだった。
「へー……デカイ街だデカイ街だって聞いてたけど……本当にデカイ街なんだなー」
「大陸最大の都市だからな……『ルボア』よりもデカイだろうし、人も多い」
「ああ」
こんな街を作ってたのか。ソーラは自分が居ない三百年で出来上がっていた街にどこか感動するようであり、そしてどこか淋しげだった。というわけで暫く歩いて移動するわけであるが、向かう先は冒険部のギルドホームではなくユニオンのマクスウェル支部だった。
「ここがマクスウェルのユニオン支部。とりあえず宿とかについてはここで手配してもらえる……ウチじゃなくて良いんだな?」
「せっかくだし、そこらはきっちり分けときたい」
「そか」
今回、一応は様々な事情によりソーラ達は一旦カイト達の指揮下となる事になっているのであるが、これはあくまでも隠蔽のためだ。なのでソーラはギルドマスターとしての判断として、一応は棲み分けを行う事にしていたらしい。下手におんぶにだっこにならない様に、というわけだった。というわけで、カイトもその判断を支持。住居の手配などはユニオンに依頼する事になっていたのであった。
「で……あのデカイ建物がお前の所のギルドホームと」
「そーなる。事故物件だったんだが……色々とな」
「お前らしいのかもなぁ……」
大きいが事故物件だ、というのはここまでの道中でカイトから聞かされていたようだ。ソーラは事件や事故に巻き込まれやすいカイトの性質に笑っていた。
というわけで、そこで一旦カイトは<<太陽の牙>>の面々とは別れ、自身はソラと共にギルドホームに戻ることにする。が、そうして戻った執務室では古馴染みが待っていた。
「やーっと戻ってこれたんだが……お前こっちに来てんのかよ」
「おいっすー。同盟組んでるんだから良いだろー」
「まぁ、良いんだけどさ」
やって来ていたのはマクダウェル家において農業政策などの土地に関する政策の助言を行ってくれているアンブラだ。彼女がカイトの古馴染みである事はカイトの代理として同盟の会合に出席する事が多い桜やソラは知っていたので、普通に通してもらえたようだ。
「まー、それはそうとしてなー。こっち来てたからなー」
「ああ、それはティナから聞いてた。あっちに調査に行く用事があって、その前に地質学者仲間から話聞いてくれてたんだって?」
「そういうこったなー」
カイトの問いかけにアンブラは特に隠す事なく頷いた。とはいえ、そんな彼女がそのまま続けた。
「つってもなー。それは魔導学園側の実地調査で行くのが半分ぐらいってとこかー」
「あっちまで? 遠いな……上級生のか?」
「んー……ちょいちょい」
遠いが珍しいわけではない。そんな様子で問いかけるカイトに、アンブラが手招きして耳を寄せる様に指示する。それにカイトも耳を寄せた。
「上級生ってのは確かなんだけどなー……実はちょっと見た事ない鉱石が見付かってなー。ギルドで動きにくいから、ユリィに頼んで研究室の実地調査名目で動かして貰ったんだー」
「ギルドで動きにくい?」
「ちょっとヤバそうなんだー。こっち来てたのもティナにそこらの相談するためでなー。サンプルもあいつに預けてる」
「偽装か」
「そういうこったなー」
カイトの問いかけにアンブラは一つ頷き、理解を見て顔を離す。どうやら今回見付かったという鉱石の性質から、アンブラは情報漏えいの危険性などを鑑みてギルドではなく単なる実地調査と思うだろう学生達を動員する事にしたらしい。
「『振動石』とは違うのか?」
「違うんだなー、これが。勿論、例のあれとも違うぞー」
「マジか……」
例のあれ、というのは『時空石』の事だ。これについては探索に地質学の専門家としてアンブラも協力しており、性質は把握していたのである。そしてである以上、彼女は今回新たに見付かったという鉱石がそれでない事を理解出来ていたのである。
「どんな性質だ?」
「わかんないんだなー、これが。というわけでティナとオーアに頼んで調査してもらってる、ってのがぶっちゃけた所だぞー」
「なるほどね……」
で、その待ち時間にティナとエンテシアの魔女についての話もついでに行って、という所か。カイトは昨日の話の流れをそう理解する。とはいえ、自分の領内で危険物が見付かったと知らされた以上、カイトは今わかっている限りの情報を確認するしかなかった。
「ヤバそう、ってのはどんな感じだ?」
「とりあえずそのものの危険性は無いって感じかー……ただそれそのものが魔力を生み出してるっていうか……なんかそんな感じだぞー」
「やっばいな。第一種永久機関じゃないかよ」
「そうだぞー……だからヤバいってわかったんだぞー」
「当たり前過ぎる」
第一種永久機関。それは外部から力を与えないでも無限にエネルギーを取り出す事が出来るという夢の機関だ。勿論そんなものはティナでさえ開発出来ない空想どころか夢想の産物だ。
が、今回見付かったその鉱石はその可能性を秘めているのだという。一見すると夢のある話と思えるが、実際は異なっていた。
「第一種永久機関は取り扱いを間違えると無限にエネルギーを撒き散らして暴走……ぶっちゃけると暴走状態の魔導炉と一緒って話だったっけ?」
「そうだなー。まぁ、第一種永久機関は暴走状態の魔導炉とは似て非なるものだから、ウチの学生が言ったらはっ倒す答えだけどなー」
「学生じゃなくてよかった」
そもそもカイト自身、かなりざっくりとした話をしただけだ。そして勿論、その違いを理解している事をアンブラもわかっていたのでお互いに冗談っぽく笑うだけだった。というわけで、カイトは問いかける。
「相対出力比はどんな塩梅だ?」
「現状、私が簡易検査した感じでも相対出力比は1対1.1ぐらいってとこかー」
「いや、やべぇよ。単体の増幅器としちゃガチの夢の領域じゃねぇか」
相対出力比というのは入れた魔力に対してどれぐらいの魔力が出て来るか、という比率だ。当然すべての素材はこれがマイナスになる様になっている。だが今回の場合だと、1の流入に対してこの鉱石を通すと何もしていないのに1.1倍になって出て来るというわけであった。しかもこれで一切の加工をしていない状態だ。きちんとした加工をすればどうなるか、想像も出来なかった。
「そだなー……まぁ、簡易検査だし、まだ詳細なあれがわかってないからもしかすっと中の魔石から魔力が抽出されてるだけかもしれんけどなー。それでも1.1倍はヤバいなー」
「増幅器になる程度なら新素材発見でビッグニュースだが、第一種永久機関の基なら封印級か」
「悪用されたら世界滅ぶなー」
「笑えねぇよ……」
カラカラカラと笑うアンブラに対して、流石にカイトは状況が状況だからか笑えなかったようだ。そしてアンブラも楽しくて笑っているというより、若干やけっぱちという具合があった。
「まーなー……第一種永久機関だとエネルギーを取り出すエネルギーを生むためのループ機関組むだけで回路が保つ限り取り出す出力が増大し続けちまう事が出来て、最終的に回路が壊れて取り出された莫大なエネルギーが行き場をなくして大爆発……どんぐらいの被害になるか、想像も出来んなー」
「想像したくもねぇな……」
単に使うだけなら入った魔力が増幅されて出て来るので問題はない。それどころかこれを上手く活用すれば確かに第一種永久機関も作る事が出来る。
出来るのだが、そこでループが発生すれば一瞬で膨大なエネルギーを撒き散らす爆弾の出来上がりだ。ある意味きれいな核物質とでもいうべき物質にカイトは心底嫌そうだった。
「で、こっからがお話だぞー」
「わーったよ。断れる道理がなさすぎて悲しいよ」
「あっははは。話が早くて助かるなー」
こんな危険物質だ。どう考えてもノームの力を借りられるカイトが護衛兼万が一の対応が可能な人員として赴くのが最良だった。
「賢くなって残念だよ」
「私は楽で良いぞー……まー。そういうわけだからかなり急ぎで行かにゃならんからそこの所覚悟してくれなー」
「あいよ……というか、時間掛けたくねぇよ……」
そんな危険物質を野放しにしておきたくない。カイトはそんな様子でため息を吐いた。というわけで、彼はアンブラと少しの間今後の打ち合わせを行って、その用意にも勤しむ事になるのだった。
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