第2518話 冒険者達 ――合流――
『アダマー』で暗躍していた裏ギルドの構成員達の調査に赴いていたカイト以下ソラとトリンの三人。そんな彼らは現地にて調査を行っていたソラに裏ギルドかそれを更に操る組織の監視が張り付いた事を受けて、逆にこちらからの強襲を行う事とする。
というわけで、スラムを拠点としていた裏ギルドの捕縛にある程度の目処を付けたソラはその後、トリンの指示を受けて苦戦するというソーラ率いる<<太陽の牙>>の支援に乗り出していた。
「えっと……どれだ?」
裏ギルドの槍使いをマクダウェル家の従者に引き渡したソラであるが、彼はトリンの助言に従って一旦スラムの違法建築の屋根の上へと登って周囲を確認する。すると、トリンが言った通りすぐに『アダマー』の外れにある公園の場所が理解出来た。
「あれか……なんかものすごいことになってね……?」
どうやらカイトの手配により、ソーラ達が十分に戦える様に結界が展開されているらしい。が、その結界の内側では相当な戦闘が行われているらしく、結界が激しく光り輝いていた。
「にしても……ソーラさんってものすごい強いって話だよな……」
『現状だとランクA冒険者だね』
「そういや、むちゃくちゃ早くね? 俺だってまだランクBなんだけど……」
ソラはかつてのラエリアの一件より前の時点でランクB冒険者だったのだ。そこからソーラが冒険者登録を行って、と考えればとんでもない速度での昇格だった。
『幾らかの事件の解決に協力してる事が大きいみたい。僕もその噂を聞いてたんだけど……』
「そういや、お前もカルサイトさんもソーラさんの噂聞いてた、って言ってたな。どんな話なんだ?」
『賞金の掛けられた魔物を十体以上一気に討伐したヤバい奴が居る、っていう噂となんかの組織の下部組織を潰した、っていう二つの噂だね。僕もお爺ちゃんも遠かったから気にしてなかったんだけど……』
「前者はまぁ、って所だけど後者は今考えれば、ってわけか」
『そういう事だね』
おそらく今回と同じく裏ギルドの一つを壊滅させたという事なのだろう。ソラはソーラがしただろう功績を考え、そう判断する。というわけで、公園に向かう彼にトリンが続けてくれた。
『ランクAの昇格条件。君調べた事ある?』
「無い。興味なかったし」
『だろうね……実を言えば君も瞬さんも昇格条件そのものは満たしてる、もしくは審査が通りそうな段階にはあるよ』
「マジで?」
気にした事がなかった、という言葉の通りソラも瞬も現状組織の運営が忙しくランクを気にする余裕はさほどなかった。ランクBまであれば十分、という所も大きい。
『うん。本来はランクB相当の依頼を必要数こなすこと、というのが一般的なランクAへの昇格条件なんだけど……それ以外にもランクBまでなると公益性の高い案件を受けたり非常時に活躍してたりするからね。そこも確認が取れれば勘案されるんだ』
「へー……でもそんな公益性の高い依頼とか受けてたかなぁ……」
ソラは自分達の来歴を思い出し、何かそういった依頼はあっただろうかと思い出す。ちなみに、瞬はウルカで盗賊の退治やさらわれた者の救助など国からの依頼をいくつも受けており、十分に資格ありと判断される領域だったらしい。
『君の場合はマリーシア王国とかミニエーラ王国、この間の『子鬼の王国』がそれに類するね。ミニエーラは依頼とは違うけど……非常時での活躍として加点されるはずだよ。一番最後のは本来ランクA相当の依頼とされてるから、かなり加点がされてるはずだよ』
「加点制なのね」
『まぁね』
ソラの返答にトリンが笑う。そんな事を話しながら駆け抜けることしばらく。結界の前に辿り着いた。と、そこではこちらも同じくマクダウェル家のメイドが立っていた。
「天城様。お待ちしておりました。室長の弟さん……ソーラさんへの救援ですね」
「あ、はい……室長?」
「お気になさらず」
「は、はぁ……」
「とりあえず結界はこちらで制御しておりますので、思う存分戦って頂いて大丈夫です。では、ご武運を」
どこか生返事なソラの返答にメイドは結界の一部を開いて彼を中へと誘う。というわけで、ソラは結界の中へと入れてもらうと、すぐに轟音が鳴り響いていた。
「うお……すっげぇ圧……」
ソーラと戦おうというのだ。そして考えるまでもなく狙いが彼の中に眠る厄災種のコアである事は想像に難くない。結果、差し向けられた追手もカルサイトとは比較にならないほどの猛者だったらしい。
『ソラ。腹に力を入れておけ。先の槍使いより強い存在が居る』
「わかってる」
ぐっとソラは拳に力を込める。先の槍使い以上となると確実に素の戦闘力はソラ以上だ。先程は切らなかった切り札を何枚か切る必要がありそうだった。
というわけで、覚悟を決めたソラは地面を強く蹴って戦いが行われていると思しき公園中央を目指していく。が、そこで見たのは巨大な人型の黒龍を中心として戦う<<太陽の牙>>だった。
「なんだ、ありゃ……」
『おぉおおおお! あ、ソラか! 悪いな!』
「え、あ、うっす! ソーラさんっすか!? なんすかそれ!?」
『すげぇだろ!?』
「そ、そんな話っすか!?」
見た目としては以前にカイトが交戦した『禍津日神』に似ていたが、その言動に関しては完全にソーラのそれだった。しかもそれが身の丈にあった大剣を振るうのである。
とんでもない光景といえば光景だった。とはいえ、元来彼以上の巨大な大剣であったそれは黒龍化すれば非常にピッタリのサイズで、元々これを想定していたのではというサイズ感であった。
「ま、まぁ……とりあえず支援します!」
『おう!』
ずんずんと地響きを上げて動くソーラを背に、ソラも<<太陽の牙>>の面々に並ぶ。そんな彼にリリアナが問いかけた。
「ソラ。こちらが終わればパトラ達の支援を行う予定だ。余力は残しておけ」
「わかりました……パトラさん達は?」
「彼女らは元々繋がりのあったギルドと共に別の裏ギルドの奴らと戦っている。こちらが主力を引き受けている間に彼女らには敵の各個撃破を頼んだ」
「了解っす」
どうやら主力と雑魚を二つに分け、最後の最後で敵の主力を総力を結集して揉み潰すつもりらしい。ソラはリリアナの作戦をそう理解する。というわけで、現状の<<太陽の牙>>の状況は持久戦という所だったようだ。
「ふぅ……ひのふのみのよの……多いな」
自分達を取り囲む敵の数は二桁を優に上回る。何人居るかまでは定かではなかったが、相対戦力比は一対二という話ではなさそうだった。と、そんなわけで誰から倒すか考えている彼に光が宿る。
「え?」
「こちらで体力と魔力の回復を補佐します。その代わり、敵がこちらに来ない様に支援をお願いします」
「うっす」
どうやらミネアが体力や魔力の回復を上昇させる魔術を展開してくれたらしい。これでソラは心置きなく戦える、と判断。雄叫びを上げた。
「おぉおおおおお!」
『お、やるな……ぐぉおおおおおおお!』
「うぉあ! 団長! いきなり吼えるなよ!」
ソラの雄叫びに呼応して吼えたソーラに、カマルが顔を顰めて抗議の声を上げる。そんな光景に笑いながら、ソラは思いっきり地面を蹴った。と、それに合わせたかの様に、敵を漆黒の闇が絡め取る。
「何!?」
「戦力が一枚増えたのでな……そろそろ攻勢に出させてもらう」
「ナージャさん、どもっす!」
この搦め手はどうやらソラは見知っていたらしい。迷宮で見た漆黒の縄が敵を絡め取るのを見て、ソラは礼を言いながら裏ギルドの構成員の一人に襲いかかる。
「<<紫電盾>>!」
「「「ぐぎゃぁあ!?」」」
「へ?」
「こういう事も出来るのよ」
「マジっすか」
漆黒の縄を介して電撃が絡め取られた裏ギルドの構成員達が軒並み感電した事を受けて、ソラは驚愕に目を見開く。どうやらナージャは冒険部の魔術師達とは格が違うらしかった。
「ちっ、こいつ強いぞ!」
「囲め! 囲めばなんとかなる!」
「っ」
どうやら自分も強敵認定されたらしいな。ソラは裏ギルドの構成員の掛け声にそう判断。複数人がまとめてこちらに向かってくるのを見て、その場にしっかり腰を落とす。そうして彼が両手を左右に突き出したと同時に、いくつもの刃が襲いかかった。
「はっ!」
「「「っぅ!」」」
ぎぃんという音が鳴り響いて強固な障壁により裏ギルドの構成員の攻撃が食い止められる。そこに、ソーラの声が響いた。
『上から行くぞ!』
「え? え、あ、ちょっ!?」
『おぉおおらあ!』
ぶぉぉん、という轟音と共に、ソーラが巨大な大剣を振り下ろす。それはソラとその周囲の裏ギルドの構成員をまるごと叩き潰す。が、<<輝煌装>>を展開したソラのみが無事に――ただし地面にめり込んではいたが――動き出した。
「あ、危ないっすね!?」
『いや、大丈夫と思ったからな』
「そっすけど!」
それでも肝が冷えた。そんな様子でソラが声を荒げる。と、そんな気軽なやり取りを見て、裏ギルドの主力達もどうやらソラ達の戦力が整いつつある事を理解したようだ。様子見もしていられない、と腕利き達が揃って出て来る事になる。
『っと……』
『ソラ。本命がお出ましのようだ。遊びはそこまでにしておけ』
「……おう」
ここから本番開始ってわけか。ソラは動き出した腕利き達を睨みながら、改めて気を引き締める。と、その次の瞬間だ。公園の彼方に居たらしい別働隊らしき裏ギルドの兵隊が、両者の間を突き抜けた。
「「「……?」」」
何が起きた。明らかにまともな様子ではない吹っ飛び方をしていた事は理解した両陣営であるが、それ故にこそあまりにコメディチックな状況に首を傾げるしかなかった。と、そんな首を傾げる両陣営の内、裏ギルドの主力達の一人の真上にメイド服の女性が舞い降りた。
いや、それはもはや舞い降りたなぞというお上品な単語では相応しくなく、どちらかといえば思い切り踏み抜いた、もしくは強襲というのがふさわしかった。
「おらぁ!」
「ごがっ!」
どすの利いた声が響くと共に地面が打ち砕かれ、裏ギルドの主力の一人が地面に顔面をめり込ませる。そうして屈んでいたメイド服の女性が裏ギルドの主力の一人の顔面をアイアンクローで握り潰しながら、立ち上がる。
「ユハラ。ゴミ袋」
「はいはい。大中小、どれにしときます?」
「大。ゴミは大きさ毎に分別。後はいは一回」
「はいはい」
どうやらユハラも一緒だったらしい。まぁ、そんな彼女は長い付き合いなのかどすの利いた声の女性の指摘に軽く笑って流していた。というわけで、そんな彼女が開いたゴミ袋の口にメイド服の女性は裏ギルドの主力の一人をまさしくゴミの様に投げ込んだ。
「はい、封印」
「はぁ……本当に最近は教育がなってないわね。ゴミを片付けたらゴミ袋に入れる。そう教えたでしょう。確かに私が直に教えたわけじゃないからとやかくは言わないですが、基本中の基本は叩き込む様に」
「「「申し訳ありません、室長」」」
何が起きているんだろうか。若い執事やメイドを居並ばせ、まるでゴミ掃除の基本を叩き込んでいるかのような言葉に全員が困惑する。と、そんな室長と呼ばれた人物がこちらを向いた。
「ゴミがまだこんなに残ってるわね……粗大ゴミまで一緒か。ゴミ袋に入るかしら」
『……ル、ルーナ姉!?』
「あら……最近の粗大ごみはしゃべるの。驚いたわー」
『え、あれ? なんで怒ってるの?』
どうやら怒っているのはわかるらしい。ソーラは自分を見る阿修羅のような姉に本能的な恐怖を感じていたようだ。と、そんな彼であるが次の瞬間。巨大な鉄甲が目の前にあるのを見た。そうして本能的に危険を察知したのか、彼は思わず黒龍化を解いた。
「うへぁ!?」
「ちっ……まさかそんな一瞬で変身出来たなんて。読みを外したわね」
ずざざっ。そんな様子で公園の地面を滑りながら、ソーラの顔面狙いの一撃を外したルーナが口惜しげに舌打ちする。そんな彼女に、ソーラが大慌てで両手を挙げた。
「ちょ、ちょっとルーナ姉!? 俺だよ、ソーラだ!」
「あぁん?」
「「「ひっ!」」」
怒髪天を衝く。鬼の形相を浮かべるルーナにソーラ以外の全員が思わず引きつった声を上げる。そうして周囲をある意味完全に制圧した彼女が告げた。
「ウチには私によく似た妹が一人居るぐらいで、一度たりとも連絡を寄越さないような愚弟はいないわ」
「え、いや、俺カイト通して連絡送ってたよ!?」
「他所様介して連絡寄越してんじゃねぇ! しかもよりにもよってカイトだぁ!? あんた私の立場わかってんの!? 逆でやるのが筋ってもんでしょうが!」
「ごふぅ!」
「う、うわぁ……」
「もろ入ったよ……」
「あれかなり効くそうですよ……当分ご飯まともに食べれませんね……」
非常に腰の乗ったボディーブローを見て、ソラは思わず顔を引きつらせメイドや執事達が揃ってヒソヒソと語り合う。が、どれもこれもがソーラへの憐憫があり、その一撃がとてつもないものだと察せられた。
「はぁ……ユハラ。この粗大ごみもといウチのバカのバカの責任は私が取るから、外お願い」
「わかりましたー。じゃあ、皆さん。『アダマー』のゴミ掃除に協力しましょうか」
「「「はい、メイド長」」」
ルーナの要請を受けたユハラが全体の指揮を請け負う事になり、改めて裏ギルドの主力との戦いに臨む事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




