第2516話 冒険者達 ――強襲――
カルサイトの要請を受けて『アダマー』という街で暗躍する裏ギルドの調査を行う事になったカイト以下ソラとトリン。そんな三人は『アダマー』にてそれぞれの立場から調査を行っていた。
というわけでカイトは後方支援として街の外に待機させた飛空艇からユニオンの本隊の統率を行っていたわけであるが、そんな彼はカルサイトから裏ギルドに通ずる冒険者達がスラムを拠点としている事。ユニオン本部やヴァルタード帝国から裏ギルドを手配したと思しき非合法組織が本隊を双子大陸から派兵した事などを掴むと、ソラの見張られているという報告を引き金として裏ギルドの拿捕に動く事になっていた。
「さて……どう出るかな?」
急速に動き出した事態に困惑する裏ギルドの構成員達を遠目に見ながら、カイトは自身の乗ってきた飛空艇の甲板の上に立っていた。ソラ達に『アダマー』のユニオン本隊の指揮を預けたわけであるが、そうである以上彼は『アダマー』側に立ち入るつもりはなかった。
というわけで、見ているは見ているが見ているだけで何かをする予定はなかった。そんな彼に、アイギスが報告を入れる。
『マスター。沿岸のユニオンの監視艇より連絡……発見との事です』
「そうか……なら本隊に通達。『アダマー』郊外南方の所定の位置にて敵増援の迎撃を行え」
『イエス。本隊に通達を発します』
カイトの指示を受けて、ホタルが即座に指示を発する。それを受けて『アダマー』を取り囲む様に展開していた二隻のユニオンの飛空艇が向きを揃えて南へ移動。迎撃に適しているとされた場所へと向かう。それを横目に見送って、カイトは首を鳴らす。と、そんな彼に今度は巨大な銃を手にしたホタルが報告する。
「マスター。最終調整完了。狙撃可能です」
「なら頼む。別に問題はないだろうが、味方には当てるなよ」
「了解……狙撃開始します」
今回、ホタルの役割は飛空艇からの超長距離狙撃だ。今回は事の性質上二方面作戦どころか多方面作戦になってしまう可能性が高く、彼女にはそのどれにでも支援が可能な様にしてもらっていたのである。というわけで、今は『アダマー』に向けて狙撃による支援を行っていた。
『マスター。『アダマー』のトリンさんから報告です』
「聞こう」
『監視員と思しき存在についてはおおよそを拿捕。ただ別の裏ギルドが居た様子。<<太陽の牙>>より増援要請が来ている、と』
「……それについては……うん。ルーナさんに投げて」
『イエス』
あはは。乾いた笑いを浮かべるカイトに、アイギスもどこか笑いながら了承する。別の意味で後始末が増えそうだが、現状彼女には勝てないのでカイトは諦め一択だった。というわけで報告と伝達から少し。カイトの見る『アダマー』のスラムで人が舞い上がり始める。
「……こわ」
『……イエス。千切っては投げ。千切っては投げという言葉が非常に適切ですねー』
爆撃機による爆撃でも起きているのではないだろうか。カイトは裏ギルドの構成員と思しき人物達が轟音と共に舞い上がるのを見ながら、そんな事を思う。
が、これはすべて一個人が圧倒的な戦闘力で敵をねじ伏せているだけだった。なお、一個人となぜ断定されるかというと現状のルーナには誰も逆らわないためである。というわけでかつて何度か同じ様に吹き飛んだ事のあるカイトはその惨劇から視線を強引に外し、仕事に戻る。
「……アイギス。状況の報告を続けてくれ」
『イエス……まだ発見の報告はありません』
「そうか。引き続き、監視員達には警戒を行う様に通達」
『イエス……無ければ無い方が良いんですけどねー』
間に合わないか、それともまだ見付からないような腕利きなのか。最後の切り札として待機するカイトは<<白い影の子供達>>が差し向けた一団の内、先にカルサイトと話していた雑魚でない兵隊に対して自身を差し向ける事にしていた。どうしても後手に回ってしまったので、帳尻合わせは自分でやるしかなかったのだ。というわけで、アイギスの言葉に彼もまた応ずる。
「まぁな……が、こういう場合は往々にして来るもんだ」
『イエス……あ、噂をしてたら報告来ました』
「ほらな……場所は?」
『アダマー北西の監視員からの報告です。猛スピードで『アダマー』に急行する集団を確認。この調子だと数分後にはスラムに到着する見込み……速度から鑑みて、高ランク冒険者に相当する集団と断定出来そうです。本命ですね』
「別の街から入り込むつもりだったか……なるほど。海側は陽動か」
どうやら船団は見付かる事を前提として、この本命は別の街から『アダマー』に来る予定だったらしい。ソラ達と同じく『王都アールドゥ』を経由し『アダマー』――『アダマー』に他国から直接行く事は出来ないため――という可能性が高そうだった。
が、経由地である『王都アールドゥ』に到着した時点でカイト達の強襲が開始され、大慌てで移動したものだと思われた。そしてその結果、監視員達に見付かったのだろう。
「アイギス、ホタル。こちらは任せる……まぁ、『アダマー』に問題はないだろうがな」
『イエス……あれで問題起きそうには思えませんねー』
「別の意味で問題は起きそうではありますが……」
『イエス』
「あはは……そんなもんは知らん。オレは何も見てないからな」
ホタルの指摘とそれに同意するアイギスの言葉に笑いながら、カイトは自身も出立する支度を整える。そうして、十数秒後。彼は単騎『アダマー』へ向かう本命の集団の前に立ちふさがり、彼自身もまた戦いを開始する事になるのだった。
さてカイトが『アダマー』に向かう裏ギルドの最後の一団との交戦に入った一方その頃。トリンに『アダマー』側のユニオン本隊の指揮を任せたソラは混乱状態に陥るスラムを突っ切ってカルサイトとの合流を急いでいた。
「カルサイトさん! 無事……っすね!」
「おう、ソラの小僧か! すまねぇが、ちょいと手が離せねぇんだ! 挨拶は抜きにしとこうや!」
「うっす! おぉおおおお!」
どうやら不意打ちさえ受けなければカルサイトは十分に裏ギルドの連中と互角以上に戦えたらしい。複数人を相手にしながらも一歩も引いていない彼の言葉に応じて、ソラが彼の背を守る様に雄叫びを上げながら着地する。
「ちぃ! 増援か!」
「この小僧……報告にあったガキか!」
「……」
どうやら自分の事もすでに連絡が回っていたらしい。ソラは裏ギルドの構成員が自分を見知っていた事を理解する。が、やる事は変わらない。故に彼は警戒する裏ギルドの構成員に向けて、思いっきり地面を蹴って肉薄する。
「おぉおおおお!」
「っ!」
肉薄と同時に盾の先端を突き出したソラに対して、裏ギルドの構成員は大慌てで剣を両手で構えて防ぐ姿勢を見せる。が、それにソラは内心でほくそ笑み、魔力で編んだ盾の先端から雷の杭を押し当てた。そうして、ばちんっという音と共に雷の杭が裏ギルドの構成員を貫通する。
「ぐぎゃ!」
「<<紫電盾>>……うっしゃい」
ソラが放ったのはかつてラグナ連邦での違法民泊の大捕物で使った<<紫電盾>>。今回も基本は捕縛がメインになるのでこれを常用する事にしたのだ。が、かつてのそれに比べて威力は急激に上昇しており、粗悪な片手剣程度なら余裕で砕け散るほどになっていた。
「ほぉ……やるじゃねぇか! 半分ぐらいは任せっぞ!」
「うっす!」
ばちんばちんと雷の音を鳴り響かせ、ソラはカルサイトの要請に快諾する。というわけで、そこからは時に剣戟で。時に雷の杭で裏ギルドの構成員を気絶させていくソラであるが、やはりいつまでもそう上手くはいかなかった。
『ソラ……本命が来たようだぞ』
「……っぽいな」
<<偉大なる太陽>>の言葉――流石に普通の片手剣から切り替えた――にソラも僅かに気を引き締める。今まで戦っていたのは裏ギルドの構成員の中でも数合わせの様に使われる兵隊だ。
それに対して今しがた現れたのはソラやカルサイトも本気で戦わねばならないような高ランクの冒険者に相当する戦士だった。そしてそれを受けて、カルサイトがソラへと告げた。
「おい、ソラ……右は俺がやる。あの細剣……忘れるまでもねぇ」
「ってことは……っすか」
「ああ……リターンマッチと行こうじゃねぇか」
ばんっ。手を叩いて自身を襲った裏ギルドの剣士を睨みつけるカルサイトが獰猛に笑いながら件の剣士を指名する。そして向こうもそれに応ずる事にしたらしい。非常に楽しげでどこか狂気じみた様子でカルサイトに向けて笑っていた。
「ってことは……俺はこっちか」
「……はぁ。ガキだからと甘く見てたか。俺も組織も」
カルサイトと剣士が再戦を決めた事を受けて、ソラは残るもう片方となる槍使いと相対する。その一方の槍使いはというと自分の見通しの甘さに悪態を吐いていた。
「……」
『……中々の強さだが……今のお前なら十分にやれるだろう。ぬかるな』
「ああ」
<<偉大なる太陽>>の助言にソラは一つ応ずる。槍使いの力量はおおよそランクA程度。本来のランク基準で言えばランクBであるソラは勝てないような格上の相手だが、それはまだ彼がブロンザイトと共に旅する前から昇格していないだけだ。今なら十分に勝機はあった。というわけで、カルサイトと剣士が戦う傍ら、ソラもまた裏ギルドの槍使いとの戦いに臨む事になるのだった。
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