第2514話 冒険者達 ――強襲――
冒険者にして賢者ブロンザイトの弟であるカルサイトからの要請を受け、『アダマー』という街で暗躍する裏ギルドの調査を行う事になったカイト。
そんな彼は現地の調査をソラ、トリン、カルサイトの三名に任せ自身は後方支援を行っていたわけであるが、そこで彼はヴァルタード帝国より双子大陸に存在する非合法組織<<白い影の子供達>>が『アダマー』へと大規模な派兵を行った事を知ると現地の調査員である三人と状況のすり合わせを行い次の方針を定めていた。というわけで、次の方針を定めてから二日。再度カルサイトからカイトへと報告が上がっていた。
『カイト。今大丈夫か?』
「ええ」
『おう……例の飛空艇を見張ってた奴の拠点、見付けた。やはりスラムだった』
「やはりですか」
カルサイトからの報告に、カイトは納得した様に頷いた。相手は非合法組織に繋がる裏ギルドだ。スラムを拠点としている可能性と敢えて表立って街に宿を確保している可能性は半々という所だった。
『おう……やっぱ睨んでた通り、小規模のギルドの連中だな』
「戦力としては?」
『まぁ、真正面からはやり合いたくないな』
ということは、か。カイトはカルサイトからの報告に相手もそれなりの戦力を整えている事を理解する。が、さもありなんという話ではあった。
「わかりました。こちらも手札として整えていく必要はあるでしょう……元来が<<太陽の牙>>を追跡していたのなら、カルサさん単騎は不可能なはずだ」
『その黒龍って奴は相応の強さなんだったな?』
「ええ。ランクA冒険者と比較して十分な強さを持っています。更に隠し札として厄介と言えるだけの札は持っている……それをどこまで知らされているかは定かではありませんが、ある程度は承知の上で追跡任務を与えられている事でしょう」
『りょーかいだ。ならやっぱ、俺一人で手に負える状況じゃあねぇな』
どうやら可能ならこのままの襲撃も考慮に入れていたらしい。カルサイトはカイトからの改めての説明にそのプランを早々に切り捨てた。というわけで、そんな彼が今度は一つ問いかける。
『それで。そっちの塩梅は?』
「微妙ですね。アールドゥ政府やヴァルタード帝国との情報のやり取りはやってますが……」
『ヴァルタードはもう意味ねぇだろう。出たのかなり前だろ?』
「まぁ……ただそれ以外の所で情報が掴めるかもしれませんからね」
ここで問題なのはいつ頃こちらに到着しそうか。それが問題だ。出た頃合いから考えてそろそろ到着してもおかしくはなかった。
『そうか……まぁ、そこらは任せてらぁ。俺は現場の調査員だからな』
「はい……」
兎にも角にもここらの現地では得にくい情報を手に入れ、現場で動くカルサイトやソラ達の行動に支障が出ない様にするのがカイトの役割だ。である以上、そこらはカイトの一存でやるべき事だった。というわけで、増援に関してはこちらでなんとかする事にして彼は次の一手に関して話す事にする。
「ああ、それでソラ達への指示はこちらで行います。貴方はそのまま敵の動きを見張っておいてください」
『わーった。が、なるべく早くな。長くは隠れてられねぇぞ』
「了解です」
相手は腕利きだ。そしてカルサイトも一度は不意を突かれている。現状は支部を介して動いていないのでなんとか動きは悟られずに済んでいるが、相手の力量などを鑑みればいつまでも隠れてはいられなかった。と、そんなわけでカルサイトへの支援を行わせる事を決めたカイトであったが、そこに急報という形で連絡が入る事となる。
『マスター。至急、応答を』
「アイギス? どうした?」
『ソラ様より至急で連絡……見張られている、と』
「ちっ……流石にそろそろ気付かれるか」
『みたいだな』
ちょうどカルサイトとの相談の真っ最中に入ってきた報告に、二人は揃ってため息を吐く。この一週間と少し。何度かソラは<<太陽の牙>>と接触し相談を重ねていた。
当初はソーラとカイトが知り合いであったためだと思われ無視されていたが、流石にこう何度も接触するともしかすると、と思われても無理はなかった。
『どうする? おそらくそっちも長くはねぇぞ』
「はぁ……流石にもう時間はなさそうですね。向こうもこっちが組織的に動いている事は勘付いているでしょうし、そうなるとどっちが早いかという話になってくる。先手を打つか、先手を打たれるか。それが問題だ」
『ってことは?』
「やりましょう……今すぐ」
『さっすが』
にたり、と笑うカイトに、カルサイトが僅かに牙を剥く。元々カルサイトは自分を襲った連中の監視という事で万が一に備えていつでも戦闘出来る様にはしていた。なのでこちらは問題なかったようだ。
そしてソラの動きが監視された時点でカイトは速攻を決めたようだ。というわけで、彼は現時点を以ってプランを変更する事にして、各所へ伝達を開始するのだった。
さてカイトが各所へと指示を飛ばしていくわけであるが、その最後となったのはソラだった。監視されていた以上、一番最後にする必要があった。
『というわけだ』
「マジかよ……早すぎね?」
『気にするな……『アダマー』の町長やらにはこっちから手配掛けてる……ま、裏ギルドが入り込んでた時点で町中で戦闘になる可能性は向こうもわかってただろう。その上で、先手を打たれる前にこっちから動くのが有利と判断した』
「それでも早すぎるわ……」
なにせ監視されているかも、と報告したのはたった今だ。その十数分後には敵への襲撃を決定したので即座にカルサイトへの支援に入れ、である。ソラが呆れるのも無理はなかった。とはいえ、こういった決定を下すのはカイトだ。故にソラもそれを受け入れ、問いかける。
「で、俺はまず監視とバトりゃ良いのか?」
『いや、そっちはこっちから増援を出して片付けさせる。それと同時にお前はトリンと共にスラムへ急行してくれ。スラムの場所は把握しているな?』
「おう。この間の連絡の時点で地図確認しておいた」
『なら、急行しろ。現場にはすでに補佐の人員を差し向けている。後はそいつに聞け』
「りょーかい……トリン! 聞いてたか!?」
「うーん!」
ソラの問いかけにトリンはいつでも戦闘が出来る様に準備しながら、一つ頷いた。
「こっちオッケー」
『そうか……ならタイミングを合わせろ』
「え、今!?」
『ああ』
確かにいつでも襲撃を受ける可能性があったので即座に準備が出来る用意は整えていたが、それでもあまりに急過ぎた。なので唐突な展開に驚いていたソラであったが、一方のカイトは楽しげに笑うだけだ。そうして、彼は有無を言わさずカウントダウンを開始する。
『3……2……1……今だ!』
「えぇい! やるよ、やりますよ!」
「っ!」
カイトの号令と共に即座に覚悟を決めて武装を装着したソラの動きを受けて、彼の監視を行っていたらしい者が驚いた様子を露わにする。
確かに彼らも監視に気付かれている可能性は考慮していたが、まさかその少し後には戦闘用意だ。あまりに早すぎる展開に対応が出来ていなかった。そしてそれが狙いだ。
「よう」
「なんだ!?」
ソラの監視を行っていた何者かは背後から掛けられた声に思わずそちらを振り向く。が、その瞬間にソラはトリンと共に宿の窓から飛び出して、即座にスラムへと急行する。
「うぉー……マジかよ……」
どうやらソラの監視を行っていた何者かを強襲した人物はソラを見知っていたらしい。楽しげに笑いながら一撃で意識を刈り取ったらしい監視員を縛る一方、後ろ手にひらひらと手を振っていた。
そして同様に街の至る所でカイトの差し向けたユニオンの本隊が<<太陽の牙>>、<<翠玉の輝き>>の二つを監視する監視員達に強襲を仕掛けており、ほぼほぼ一方的な展開を繰り広げていた。というわけで屋根を飛んで移動するソラとトリンであるが、その道中でトリンが教えてくれた。
「これが逆に一番被害が少ないんだよ……あまりに早すぎて向こうが展開について行けてない。あたふたとしちゃってて、連携も何もあったもんじゃない。勿論、こっちも若干拙速という感じにはなっちゃってるけど……それでも向こうよりは遥かにマシだ」
「まさかこうなるなんて思っちゃいない、ってわけか……」
そりゃそうだろうよ。なにせ現場の自分でさえ、こうなるなんて思っていなかったのだ。ソラは呆れながらも何も阻まれる事のない自分達の行動に感心さえ覚えていた。相手からしてみればこれから対応を決めてくるだろう、と思えば唐突に強襲だ。完全に不意打ちを食らった格好だった。
「でもよくこんな人員展開出来てたな。飛空艇、見張られてるだろ?」
「ああ、多分動いてるのは本部が用意した人員じゃなくて、カイトさん独自の人員だろうね。さっき、こっちに手を振ってたでしょ?」
「あー……」
そりゃ無理だわ。ソラは動いたのがマクダウェル家の人員だと理解し、若干の同情を滲ませる。よしんば気づいてもその動きについていくのは不可能に近い。そして相手もまさか自分達が相手をしているのがユニオンとマクダウェル家の人員なぞ思ってもいないだろう。為す術もなかった。
というわけで、冒険者としての全速力に近い速度で駆け抜けた二人は数分後には街の外れにあるスラムへと到着するわけであるが、そこもすでに戦場だった。
「うっわ……もうやってんのかよ」
「だろうね」
「ソラさん、トリンさん」
「っ……っと。ベレイさん」
唐突に話しかけられて警戒したソラであったが、見知った相手だったのですぐに警戒を解く。先にトリンが話していたマクダウェル家の人員だった。
「はい……現在カルサイトさんが今回の裏ギルドの中核となるギルドとの交戦を行っています。が、どうやら向こうもすでに多数の人員がスラムに入り込んでいた模様。『アダマー』側のユニオンの本隊の指揮をお二人に預ける、との事です」
「俺達にっすか?」
「御主人様には全体の統率がありますし、急行するだろうあちらの本隊の対応もあります。流石に」
無理です。スラムには似合わない優雅さで告げる従者に、ソラもトリンも納得する。そしてそうであれば、とソラの方針は決まっていた。
「トリン。全体の指揮は任せる。俺はカルサイトさんの支援やるわ」
「了解。そっちの方が良いだろうね」
一旦戦闘になるとトリンは足手まといだ。それが自分の役割でない事はわかりきった話だった。というわけで、ソラはユニオンの本隊の指示を急遽執る事として、一方のソラは単身すでに戦闘を開始しているというカルサイトの支援に赴く事にするのだった。
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