第2510話 冒険者達 ――多種多様――
賢者ブロンザイトの弟であるカルサイトからの要請を受け、『アダマー』という街で暗躍するという裏ギルドの構成員達の調査に乗り出していたソラ。そんな彼は偶然にも再会したソーラという少年兵時代のカイトの兄貴分だった青年から事情を聞くと、調査を再開。道具屋を回って他の調査対象のギルドの調査を行っていたわけであるが、その最中に見掛けたあるギルドからの招きを受ける事となっていた。
「って、具合でさ」
「なるほどね……」
ソラの判断を聞いたトリンだが、納得した様に頷いていた。そしてそれであれば即ち、ソラの判断は答えとしては正解だったようだ。
「うん。それがベストだと思う……おそらく一つか二つはそういうギルドがあるんじゃないかな、とは思っていたけど……存外早かったかな」
「偶然かな?」
「多分ね……えっと、ちょっと待ってね……そのギルドなら覚えがあるから」
どうやらトリンはギルドの紋章から何か思い当たる節があったらしい。そうして記憶を手繰ること数秒。彼が一つ頷いた。
「思い出した。何十年前だったかな……<<翠玉の輝き>>の先代団長とお爺ちゃんが話してた」
「お師匠さんと?」
「うん。あくまでも先代さんだけどね……あれ。でも今の団長が若い女の人だったらあれ先々代かな……?」
どっちだろうか。どうやらトリンもそこまで詳しくは無いようだ。少しだけ困ったような顔を浮かべていた。
「まぁ、とりあえず。そのギルドの紋章は覚えがある。確かその先代か先々代かの団長さんの奥さんだったんじゃなかったかな」
「あ、それでなんとなーく似てる感じがあったのか」
当初は若干のナルシズムでも入ってるのかな、と思わなくもなかったソラであったが、どうやら単に祖先の顔だったらしい。納得した様に頷いていた。と、そんな彼だが違う違うと首を振る。
「って、そんな事どうでも良くて……とりあえずそんな感じ。一旦は問題なさそう……?」
「うーん……とりあえず報連相しておいて、で良いかな。こっちでやっとくよ」
「あんがと……こっちはソーラさんの所行ってくる」
「うん」
元々ソーラとの合流は夕方予定だ。カイトへの報告と相談までソラがしてしまうと今度はソーラとの会合に間に合わず、そしてそちらが後に長引けば今度は<<翠玉の輝き>>との会合に遅れる事になる。というわけで、カイトとの連絡をトリンが引き継ぐ事にしたのであった。
「ってな具合っす」
「ふーん……ああ、それならリリアナの方で頼むよ」
「リリアナさんっすか?」
「俺あんまりミネアの事情はわかってないからな」
ひとまずソラからの相談を受けたソーラであるが、どうやら彼の側はリリアナを代理として立てる事にしたらしい。というわけで、そんな結論を下した彼がそのまま続けた。
「それに、対外的な事は全部リリアナがやってくれてるし。俺はお飾り。リリアナとかミネアがギルドマスターやっちまうと面倒だって事で」
「はぁ……」
<<太陽の牙>>の考えは彼らのものだ。なのでソラはギルドマスターがそう言うのなら、とそれを受け入れるだけであった。
「あ、それで話はりょーかい。で、これがこっちが手に入れてた情報」
「あ、すんません」
どうやらソーラは口頭で情報をやり取りせず、メモを渡してくれる事にしていたらしい。ソラへとメモを手渡す。それを手に、ソラは『青のさざなみ亭』を後にして、一旦その情報を確認して<<翠玉の輝き>>との会合に臨む事になるのだった。
さてソラがソーラとの会合を終えてから二時間ほど。カイトからの許可を受けて、ソラはトリンと共に<<翠玉の輝き>>が拠点にしているという宿に赴いていた。
「はー……すっげー……一番でかくて格式のある宿ってのは聞いてたけど……」
規模としては『アダマー』最大の宿屋だろう。ソラは自分達の泊まる宿よりも遥かに大きく豪華な宿を見て思わず驚きを浮かべる。
「規模としちゃ小規模だけど、歴史としては百年近くあるギルドだからね。いくつかの街の有力者とも繋がっているらしいし……このぐらいの宿は普通に押さえられると思うよ」
「マジか……ギルドも歴史とか規模がでかくなるとすごいんだなー……」
トリンの言葉を聞きながら、ソラは改めて<<翠玉の輝き>>の宿泊する宿屋を見る。見た限り警備員のような存在も居るらしく、冒険者以外の一般の逗留客も居る様子だった。そしてそういう宿なので勿論、出入りはしっかりと管理されていた。
「ご予約はおありですか?」
「あ、ソラ・天城っていうんですが……<<翠玉の輝き>>の団長さんに呼ばれて来ました」
「ああ、貴方が。伺っております……どうぞ」
元冒険者だな。ソラはこの宿屋の出入りを見張る門番のような存在を見ながら、そう判断する。ここで暴れようものなら、という所だろう。そんな事を感じ取ったソラへとトリンが問いかける。
「ランク、どれぐらい?」
「多分C……だけど……」
宿屋の入り口をくぐりながら、ソラは一度だけ意識を集中して気配を敏感に感じ取る。
「多分、ランクAが一人入り口に居る……ランクBもちらほら。相当金掛かってるな」
「街の外からのおえらいさんとかも泊まるだろうからね……この宿を普通に冒険者が取ろうとしても何かしらの伝手が無いと取れないよ」
「だろうな……」
一応きちんとした服持ってきておいてよかった。ソラはカイトからの助言ではあったが、万が一街の要人と話す事を考え礼服を持ってきていた自分の判断に胸を撫で下ろす。
実際、礼服を着ていたおかげで門番もきちんとした客として迎え入れてくれていたし、その他の元冒険者だろう従業員達は客として来ているのを認めすぐに視線を外していた。
と、どうやら門番から自分達の来訪の連絡を受けたのだろう。従業員用の扉の奥から一人の従業員が二人へと近づいてきた。
「ソラ・天城様とお付きの方ですね。ご案内致します」
「あ、ありがとうございます」
「では、こちらへ」
ひとまずは素直に従うかな。ソラとトリンは従業員の案内に従って、宿屋に併設されているレストランの更に奥。酒場やお食事処とは程遠い、レストランと言う方が相応しい見栄えの区画へと通される。そこでは先にソラが見た翡翠色の瞳の姉弟が座っていた。
「来ましたね……ありがとうございます」
「いえ……では、ごゆっくり」
「ありがとう」
ソラとトリンを案内した従業員に女性団長は一つ礼を述べると、それを受けて従業員が頭を下げて去っていく。と、その去り際にソラが懐に手を伸ばそうとして、従業員が頭を下げた。
「いえ、大丈夫です」
「え、あ、はぁ……そうなんっすか……」
「高級な宿の中にはマクダウェルの流儀を見習って従業員へのチップを断っている所もあります。ここは、そういう所です」
「そうなんですか」
これについてはソラも聞いた事はあった。従業員がチップを受け取ると店側が安い給料で働かせているイメージを持たれる、と他店より高い給料を出している証として受け取りを禁じている所もあったのだ。
それは特にこういった高い宿屋に多く、この宿屋はまさしくそうだったのだろう。なお、マクダウェルの流儀というのはカイトが公に通す際にこう述べた事があるからだ。
「まずは……呼び立てて申し訳ありません。<<翠玉の輝き>>のギルドマスターのパトラ・ベリル。こちらは弟のバーニー・ベリル」
「よ。さっきぶりだな」
「あ、ソラ・天城です」
ひとまず名を名乗られた以上、二人も名乗り返すのが礼儀だろう。そう考えた二人はひとまず自己紹介を交わす。というわけでその後はパトラと名乗った女性団長に勧められ、レストランの席に腰掛ける。そうしてソラが口を開いた。
「それで、話ですか?」
「ええ……と言ってもおそらくそちらももうご理解はされているでしょうが」
「……では、そちらも嗅ぎつけている、と受け取っても?」
「ええ……勿論、我々が違う事は明言させていただきます。明言だけで事足りる状況ではないとは思いますが」
パトラは笑いながらソラの言葉に首を振る。とはいえ、だ。この剣呑な状況下で話をするのは向こうも臨んでいないらしく、誠意は見せる事にしていた。
「とはいえ、だからといって警戒された状態で話すのは我々にとって利益ではない。こちらに敵意無しの証明として、我々のギルドの団員は全員部屋で待機しています。そちらなら、それを掴む事も出来るでしょう」
「……少し確認しても?」
「勿論」
どうやら本当にパトラ達にやましい所は無いらしい。自分達が何かを察した上で完全服従の姿勢を見せる彼女らの様子からソラはそれを察しながらも、念の為と持ち込んだ通信機を取り出す。
「カイト。俺」
『ああ……大体の居場所は掴めている。前に二人。親類……横はトリンで間違いないな?』
「わかんの?」
『まぁな……それで?』
「向こうが手札の開示求めてきた。確保してる宿に他の団員を集めてるって。確認出来るか?」
『少し待て』
兎にも角にも信頼して話して良いかどうか。それがわからない限りはそこから先に進めない。というわけで、カイトは一旦連れてきた人員による確認を行わせる。
『……問題なさそうだ。また、周囲に問題も無し。大丈夫そうだな』
「そか……わかりました。とりあえず信じて良さそうです」
「そうですか」
どうやらパトラ達も下手に疑われたままで居るのは座り心地が良くなかったらしい。僅かに安堵した様子で肩の力を抜く。
「それで、まずは。貴方達はユニオンの調査員……という所で良いですか?」
「はい」
すでにわかっている様子だったし、どうやらパトラ達も警戒はしていた様子ではあった。なのでソラも一応敵ではないなら、と明かす事にしたようだ。と、そんな所でリリアナがやって来た。
「すまない。待たせた」
「貴方は……」
「<<太陽の牙>>副団長のリリアナだ」
「<<翠玉の輝き>>ギルドマスターのパトラです」
リリアナの自己紹介にパトラもまた挨拶を交わす。そうして、今回の会合に必要な人員が整った事で会合はスタートとなるのだった。
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