第2506話 冒険者達 ――事情――
冒険者にして賢者ブロンザイトの実弟であるカルサイトの要請を受け、迷宮で栄える『アダマー』という街で暗躍しているという裏ギルドの構成員達を調査するべく『アダマー』へとやって来たソラとトリン。
そんな二人は本隊を率いるカイトと連携しながら調査に取り掛かったわけであるが、そこで彼は偶然にもカイトがかつて世話になったソーラという青年と再会。彼からの助力を得るべく、彼の率いる<<太陽の牙>>なるギルドと共に迷宮へと入っていた。というわけで、迷宮へと入って数時間。一同は折返し地点に存在するという休憩所へと辿り着いていた。
「……なんだここ」
「へー……こんな感じになってるんだ」
辿り着いた休憩所であるが、本当に休憩所という言葉が適切な様子だった。例えば椅子や軽い食事を作れるような水場もあり、入った所から少し離れた所には何やら小屋まである様子だった。
「ふぅ……とりあえず飯にしながらお互いの話でもすっか」
「あ、はぁ……あの小屋なんっすか?」
広場らしい場所に設けられていた簡素な椅子に手慣れた様子で腰掛けたソーラに、ソラは遠くの小屋を見ながら問いかける。
「ああ、あれな。あれは簡単なベッドやらシャワーやらがある小屋……使いたきゃ自由に使え。俺も時々血の匂いを落としたりするのに使ってる」
「マジすか。ってことはわざわざ水ぶっかけなくても良いのか。ラッキー……」
魔物によっては匂いに敏感な魔物もおり、血の匂いをさせているとそれだけで遠くから魔物を呼び寄せてしまいかねない。なのでソラのような最前線で特に返り血を浴びやすい者たちにとって、シャワーがあるのは非常にありがたかった。
「あははは。だよな。俺も旅するまでこんな迷宮があるなんて知らなかった。世の中知らない事ばっかだ。今更、カイトが俺より物知りだったんだなー、とか思って旅してるよ」
「はー……」
どこか満ち足りた様子で語るソーラの顔は幸せそうで、遅ばせながらの自由を謳歌している様子だった。と、そんな彼にリリアナが告げる。
「おい、ソーラ。一休みしたらこっちを手伝ってくれ」
「おう……とりあえず、飯の支度からだな。ソラ、トリン。二人共、飯の用意は?」
「あ、手伝います」
ソーラの問いかけに周囲を確認していたトリンが慌て気味に立ち上がる。というわけで、ひとまずソラもトリンも<<太陽の牙>>の面々と共に軽い昼食の用意を行い、焚き火を囲んで昼食を摂る。
「ん……結構薄味っすね」
「口に合わなかったか?」
「あ、いや……なんってか意外だったんで」
どこか伺うような様子のリリアナ――メインの味付けは彼女だった――に対して、ソラは慌てて首を振る。そんな彼にリリアナも一つ微笑んだ。何が意外かわかっていたからだ。
「そうか……どうしても旅をしていると塩分が高めになる。どこかの誰かなぞ、塩をぶち込んだだけかと思うような料理を最初はしていたものだからな」
「い、いやぁ……まー、むさい男二人旅はそんなもんっすよー……て、てか団長がマメなだけでそんなもんですって」
リリアナの言葉に反応したのはカマルだ。彼ともう一人居るという<<太陽の牙>>のギルドメンバーは元々二人で旅をしていたらしく、そこで色々とあって<<太陽の牙>>に参加したようだ。というわけで、そんな彼に話を振られたソーラが笑う。
「いや、まぁ……俺はガキ共の面倒もあったからなー。ガキに食わせるのに塩まみれのモン作っちまうとルーナ姉やらメイル姉やらが五月蝿いのなんのって」
「あー……ルーナさん、そこらうるさそうっしたからねー。カイトも時々叱られてるの見ましたし」
「え、お前ルーナ姉知ってんの?」
ソラの言葉にぎょっとした様子のソーラが問いかける。これに、ソラは一つ頷いた。
「うっす……俺時々カイトの家の方にもお邪魔してるんで。そこでソーラさんの事も何回か聞いてるんっすよ」
「そうなのかー」
それでソラが自分だとわかったのか。ソーラは姉から聞いていたのなら納得、という塩梅で頷いた。と、そんな彼らにカマルが問いかける。
「あ、そういや団長のお姉さん、団長に似てるって聞いたんだけどマジ?」
「あ、マジっすね。むちゃくちゃ似てます……まぁ、元々ソーラさん女顔ってのもあるんっしょうけど」
「三つ子だからなー……ルーナ姉が元気そうでよかったよかった」
どうやらソーラの中ではもう一人の姉の死はすでに受け止めきれているらしい。どこかいつもと違い大人びた顔ではあったものの、ルーナというらしいもう一人の姉の無事を喜んでいた。というわけで、そんな他愛もない話をしながら軽い昼食を食べていたわけであるが、それも半ばでリリアナが切り出した。
「それで、ソラくん。君達はなぜ私達に接触を?」
「あ、うっす……えっと……」
リリアナの問いかけを受けて、ソラはユニオンの調査員に与えられる身分証を懐から取り出す。
「それは……ユニオンの調査員が持つ身分証か」
「なにそれ」
「偽造証を使わない場合に使われるものだ……印も光っている。本物か」
「うっす」
ソーラの問いかけにざっと語ったリリアナの言葉に頷いて、ソラは懐に身分証をしまい込む。というわけで、そんな彼にリリアナが問いかける。
「だが、なぜわざわざマクスウェルから人員がこちらに派遣されている? あちらで何かが起きて、その事件を追っているのか?」
「あ、いや……実は俺達は増員で差し向けられた人員なんっすよ。本来の人が怪我させられたんで、現地で万が一の場合の戦力を兼ねて、って事で……」
「「「……」」」
ソラの説明に、<<太陽の牙>>の面々は顔を見合わせて一様に険しい顔をする。そうして、同じく険しい顔を浮かべていたソーラが問いかけた。
「それ、あれか? ついこの間ユニオンの職員が路地裏で殺された、って件と関係してんのか?」
「……なんか知ってるんっすか?」
「……どうする?」
ソラの問いかけに、ソーラはミネアを見る。そうして少しして、彼女が一つ頷いた。
「……ここからは私が。元々件のユニオンの職員は裏ギルドの構成員ではないか、と疑っていました。その最中の事でしたので、何かがあったのではと思っていたのですが……」
「その様子だとユニオン側が先に動いてくれた、ってわけでもなさそうか」
「……うっす。取り押さえようとしたユニオンの調査員ごと、裏ギルドの連中が殺そうとしたらしいっすね。んで、ユニオンの調査員はなんとか逃げれたんっすけど……流石に裏ギルドが増員掛けてたみたいなんで、こっちも増援を、って事で俺達が来たんっす」
ソーラの言葉に応じたソラはそう語ると、更にその調査員が師であるブロンザイトの弟であるカルサイ トである事。そこから兄の最後の弟子である自分達に支援の要請があった事等を語る。
「なるほど……」
「それで……」
「しゃーないっすね」
自分達が裏ギルドの構成員では。カルサイトからそう疑われていた事を聞いて、<<太陽の牙>>の面々は怒るではなく何故かどこか仕方がないというような様子で苦笑を滲ませ笑い合う。これに、ソラが問いかけた。
「なんかあるんっすか?」
「んー……なんってか、逆なんだ」
「逆」
「おう……裏ギルドの連中が増援を掛けた時期が俺達が来た時期に合致してるんじゃなくて、俺達を狙って裏ギルドの連中が増援を掛けたんだよ」
オウム返しに問いかけるソラに、ソーラが半笑いで答える。これにソラもトリンも首を傾げた。
「貴方達を?」
「……より正確には私を、です」
「まぁ、後は俺もだな」
裏ギルドが自分を狙っている。そう告げたミネアと共に、ソーラが自身もまたそうであると告げる。が、これにその他の面々が笑った。
「それを言えば、全員そうだろ」
「あっはははは……まー、情けない話なんだけど、裏ギルドを操るとある組織と一悶着あってさ。流石に相手がでかすぎたんで、カイトに協力を頼もう、って思って急ぎで大陸を渡ったんだよ……他大陸ならなんとかなるかも、って思ってたのもあるし」
「「はぁ……」」
確かに裏ギルドやそれが協力するだろう裏組織も大陸を越えて活動するものは多くない。なので<<太陽の牙>>は裏組織の勢力圏から抜けられるかも、という想定で大陸を渡ったそうだ。
「が、流石に急に決めたから金がなくてさ。下手に裏金とかに頼っちまうと後が面倒だから、急いで行ける所まで行っちまおう、ってなって色々と考えた結果『アダマー』に辿り着いたってわけ」
「何があったんっすか?」
「俺はまぁ……ほら、なぁ?」
「あー……」
トントン。自らの胸を叩くソーラに、ソラはおおよそを理解して苦笑する。とはいえ、これがわかるのはソラだけで、トリンには何がなんだかさっぱりだった。
「どういうこと?」
「どうします?」
「別に良いよ。隠してもないし……いや、流石に今は隠してるけどさ」
「あはは……ソーラさん、少年兵時代に人体実験受けててさ。それはまぁ、わかるよな?」
「それはルーナさん知ってるから……まぁ」
「おう……で、その……彼が埋め込まれたコアってのがその……厄災種の物らしいんだよ」
「え?」
流石に厄災種を人体に埋め込んだ、というのはトリンも聞いたこともなかったらしい。言葉を失ったような様子で目を見開く。これにソーラは事も無げに頷いた。
「ま、そういうことでさ……で、どうにもその組織があのゴミ溜めの資料持ってたみたいでさ。俺の事に勘付いちまったみたいなんだ」
「あー……カイトも念入りに消してたらしいんっすけどね」
「知ってる……けどあいつが来る前にラグあるからなー……他の所に持ち出された資料があったっぽい」
納得。そんな様子のソラに対して、ソーラは嫌そうに顔を顰めていた。なお、カイトに関する資料は<<死魔将>>達が念入りに削除していたので何ひとつ残っていないそうだ。
当時はまだ彼らも自分達がカイトに注目していたと知られたくなかったらしい。というわけで、ソーラについて納得したソラは話しやすかった事もありミネアに問いかける。
「ミネアさんは?」
「……実は、その……どうやら私の父がその組織の大幹部だったそうでして。より正確には妾の子らしいのですが……」
「「……」」
なんか一気にきな臭くなってきた。ミネアの語る身の上話に、ソラもトリンも内心でそう思う。とはいえ、話は更に上を行った。
「それで敵対関係にある組織と父の組織両方から狙われる事に。そこでリリアナと逃げてた所に、団長と出会ったのです」
「マジすか……リリアナさんは?」
「私はミネアと同じ孤児院の出身で、元々ペアを組んでいたんだ……で、なんだかんだ巻き込まれた結果、今に至っている」
やれやれ。そんな様子でリリアナは肩を竦める。というわけで、他の面々も組織といろいろな理由で敵対した者たちが寄り集まって出来たとの事だった。
「まー、そんなこんなで集まって<<太陽の牙>>を結成して、こっちに来たわけ。わけなんだけど、どうにも奴らの下部組織みたいなのがあったっぽくて。即座に連絡されちまって、ってわけみたいだ」
「あれは仕方がない。まさか入って偶然担当した輩が内通者だ、というのは運が悪かった」
ソーラの言葉にリリアナもため息混じりに首を振る。これにソラが問いかけた。
「偶然なんっすか?」
「君はユニオンの担当を持っていないのか?」
「なんすか、それ」
「……そうか。拠点を設けているからか……」
怪訝そうなソラの様子から、リリアナはおそらくソラが冒険部という拠点を保有しているからだろうと判断したらしい。というわけで、彼女がさっと教えてくれた。
「我々の様に旅をする冒険者でも、街の滞在中に担当するユニオンの職員は固定なんだ。専属、とまではいかないが……一人が担当した方が趣向やらを斡旋しやすいからな」
「あ、なるほど……それに方が色々と話の続きとかしやすいっすもんね」
「そうだ……で、基本はこの担当が前の土地でのギルドの活動情報を確認して、仕事を斡旋するんだ。だがそのためにも前の土地での情報を見る必要があるんだが……」
「あー……それで偶然前の土地で組織と揉めてた事に勘付いて連絡、と」
「そういう事だ。完全に運が悪かった、ということだ。我々も普通の流れで最初は気づかなかった。向こうも当初は気付いていなかっただろう」
ソラの言葉にリリアナは非常に苦い顔で頷いた。これは本当に偶然だったらしく、それ故に内通者も焦って連絡を入れた結果、事態の変化を受けたカルサイトが動く事になってしまったらしかった。
そして今度はそれに気付いた<<太陽の牙>>が動く事になり、内通者はどうしようもなくなり逃亡。結果、暗殺される事になってしまったのであった。
「後は、君が知っての通りだ」
「なるほど……トリン。どう思う?」
「うーん……とりあえず彼らに協力して貰った方が良いと思うよ」
どうにも今回動いているという裏ギルドの連中は<<太陽の牙>>狙いである可能性が非常に高そうなのだ。ならば彼らと共に行動する方が良さそうだった。というわけで、二人はここからは<<太陽の牙>>と行動を共にする事にするのだった。
お読み頂きありがとうございました。




