第2503話 冒険者達 ――迷宮――
ブロンザイトの弟にして冒険者カルサイトの要請を受け、『アダマー』という街で暗躍するという裏ギルドの調査に乗り出していたソラとトリン。そんな二人はかつてカイトが少年兵だった時代に世話になったソーラという青年と再会すると、彼が現在率いているというギルドの面々の紹介を受けつつ、彼らとの仲を深める事となる。
というわけで、そんな彼らとの飲み会から明けて翌日の朝。ソラは<<太陽の牙>>のサブマスター・リリアナの提案に従い、『アダマー』にある迷宮へと向かっていた。
「にしても、良かったね。思った通りの相手で」
「おう。とりあえずあの人なら信頼出来るだろ」
「まぁ……カイトさんの知り合いだからね」
それだからと何もなく信頼出来るわけではないが、少なくともあのカイトが信頼しているとい一点は信頼するに足る理由と言える。なのでソラもトリンもひとまずソーラや彼の率いるギルドの面々は裏ギルドとは関係無いだろう、と安心している様子だった。と、そんな事を話す二人であるが、トリンが疑問を呈する。
「でもあの人とどこで知り合ったのさ」
「あー……実は、ってかあの人実は三百年前の戦争からなんっての……? コールドスリープってわかる?」
「……ごめん。流石にわかんない」
「あー……えっと、なんていうか……冬眠? みたいな感じなのなんだけど、年単位で封印みたいな感じ? になるっていうか……」
「な、なんとなくだけど言わんとする所は理解できたよ」
多分そうなんだろうな。トリンはソラのしどろもどろの説明をなんとか理解したようだ。どこか困った様に笑いながらも、そう延べていた。というわけでなんとか理解してもらえたと判断したソラが少し恥ずかしげに続ける。
「すまん。ぶっちゃけ良い説明が思い浮かばんかった……まぁ、そんな感じで三百年前からラエリア内紛に俺らが関わる直前まで寝てたんだと。で、ラダリア? だったかな。そんな国とラエリアの境目の迷いの森って呼ばれてる所で彼の復活に偶然立ち会ったんだ」
「ラダリアとラエリアの国境……ああ、あそこか。噂には聞いた事があるよ。確かアンデッド系の魔物がかなりたくさん出た場所じゃなかった?」
「そ。その発生の原因になってた、ってのが彼だったらしくてな。んでカイトが解決に向かった折りに、俺も立ち会ってたんだよ」
「へー……」
普通に考えれば突拍子もない出来事だが、中心となるのがカイトであるならそれも信じられるものだ。なのでトリンも素直に受け入れていた。というわけで、しばらくの間トリンとソラはソーラの事を話しながら歩いていく。そうして、宿屋を出発してから三十分ほど。二人は<<太陽の牙>>との待ち合わせ場所である迷宮前に設けられた待合室のような場所へと辿り着いた。
「お、来たな。おはよっす」
「おはようございまっす」
「おはようございます」
ソラ達の到着を見たソーラが気軽に挨拶し、それにソラ達も挨拶を交わす。というわけで、一通り挨拶を交わした後、少しだけ周囲を警戒しながらリリアナが告げる。
「ソーラ……行けそうだ」
「おう……ちょっと悪いんだけど、今日は一日迷宮攻略に付き合ってもらうからな」
「うっす。用意も大丈夫っす……って、人数少なくないっすか?」
「流石に全員で挑むんじゃなく輪番制だ……じゃあ、行くか」
ソラの返答を受けて、<<太陽の牙>>の面々と共にソーラが迷宮の入り口へと歩いていく。迷宮で生計を立てる冒険者が多いのは伊達ではなく、出入りもきっちり街の衛兵が見張り、不用意に子供が入らない様に管理している場所だった。と、そんな衛兵が<<太陽の牙>>の面々を見て笑った。
「お、ソーラ。今日も今日とてか?」
「稼がないと飯食えないからな」
「あっははは。頑張ってくれよ。その稼ぎで俺らも食わせて貰ってるからな」
「お、リリアナちゃんにミネアちゃんも一緒か。眼福眼福」
「射つぞ」
あははは。迷宮の出入り口を管理する衛兵達が楽しげに笑い合う。どうやら<<太陽の牙>>の面々はかなり衛兵と親しいらしく、向こうもかなり気を許している様子だった。と、そんな衛兵達がソラ達に気が付いて首を傾げた。
「ん? 新入りでも入れたのか? まぁ、たしかにお前らディフェンダー居なかったもんなぁ」
「ああ、いや……こいつ俺のダチのギルドの奴でさ。偶然こっちに来た所で紹介制度見て俺を訪ねてきたんだよ」
「ソラ・天城っす。基本はマクダウェル領で冒険者やってるんっすけど、今回ちょっと仕事でこっちに」
「マクダウェルっていうと……勇者カイトの? 皇国じゃなかったか?」
「いや、まぁ、色々とあるんっすよ」
「「「はー……」」」
まぁソラも見た所冒険者なのだ。衛兵達もそんなものかと特に気にした様子もなく受け入れていた。と、そんな衛兵達だがそれならとすぐに道を譲ってくれた。
「ま、それなら俺達の飯の為にも頑張ってくれよ……ああ、中で手に入れたモンはそっちの換金所へ持っていけば鑑定と換金もしてくれるから、頑張れよ」
「うっす。ありがとうございます」
衛兵達は気さくで良い人達らしい。衛兵の一人が指差した一つの建物を見ながら、ソラはそう思う。そうして衛兵達が道を空けてくれて入った迷宮であるが、どうやら基本は洞窟に似た感じらしかった。
「そうだ。そういや結局昨日飲んで聞き忘れてたけど、お前らこの迷宮はどこまで把握してる?」
「あ……一応、二人で情報共有はやっています。確か基本的な構造を持つ迷宮で、階層は今見付かってる限り二十階。十階と二十階の二つにボス部屋。ランクBを主力とするパーティなら十分に稼ぐ事が出来るレベル……というぐらいだったかと」
流石に『アダマー』が迷宮で栄えている街であるが故に、ソラもトリンもこちらに来るとなっていた時点で情報を仕入れてしっかり準備もしていた。なのでおおよそはわかっていたようだ。そんな二人にソーラが頷いた。
「そーそー……まぁ、お互い話したい事やらはあると思うんだけど、まずは腕を見せてくれ。そっちが話しても大丈夫そう、って腕が無いと話すに話せないからな」
「了解っす」
ソーラの求めにソラは一つ頷いた。どうやら<<太陽の牙>>も何か事情を抱えているというのは彼も理解している。そして助力を求めるにしたってこちらの札を明かしておくのは良いだろう。というわけで、ソラは自身を主軸として隊列を構築してもらう事にする。そうして、迷宮を歩くことしばらく。薄暗い通路の先からコツンコツンという何かが歩く音が聞こえてきた。
「……」
「……」
りょーかいっす。ソーラの視線での促しにソラが笑って一つ頷いて、その場で全員がストップする。そうして数秒。薄暗い通路の先を動く何かの姿がはっきりと見える様になった。
「なんだ。ゴブリンの亜種か」
『キィイイイイイ!』
「ほっ、はっ」
現れたのはゴブリン種の亜種だったらしい。少し前に嫌というほどゴブリン種の魔物達と交戦したソラにとって、この程度の相手はそこで意識せず討伐していた程度でしかなかった。
故に彼はこちらを視認するなり即座に襲いかかってきたゴブリン種の魔物の攻撃に対して盾でパリィを決めると同時に、カウンターを決める。そうしてその後も同じ様に時にカウンター、時にアーブル流を使い魔物を蹴散らしていく。
「ソラ、どんな感じ?」
「んー……所感としちゃやっぱ妥当は妥当だと思う。この調子だと折返しの十階まではウチでも問題無いんじゃないかな? ただやっぱ遠いからか、見た事ない敵も割と居るっぽいな」
「それは場所柄とかもあるからね」
今回、ソラとトリンの目的としては迷宮の攻略ではなかったが、せっかくなので一般的に伝わっている情報と所感に乖離がないか等を調べるつもりだったらしい。
というわけで、ソラが前線で敵を片付ける傍らトリンが敵の情報を記録し、もしくはソラの初めて戦う相手には彼が敵の情報を伝え、という流れが出来上がっていた。
「強いな、中々に」
「みたいだなー」
リリアナの言葉に、ソーラも少しだけ面白そうに笑って同意する。戦闘歴であれば彼らはソラより遥かに長いのだ。なのでおおよそどの程度の強さか、というのは理解していたが、思った以上にやれると判断されていたようだ。そうして、<<太陽の牙>>の面々が見守る中ソラはひたすらに敵を蹴散らしていく。が、それも二階層を突破したあたりで良いか、と判断される事になった。
「おっけ。ソラ、もう良いぞ」
「あ、もうっすか」
「おう。そんだけやれりゃ十分だろ……もしかしたら、俺が出会った当時のカイト並かそれ以上はあるかもな」
「それいつのあいつなんっすか……」
「わかんね」
ケタケタケタ。ソラのツッコミにソーラは楽しげに笑う。顔立ちは女と見紛うばかりなのに、やはり相変わらず所作は少年っぽさがあった。とはいえ、それだけあれば十分だ、というわけだ。なのでソーラが隊列の組み直しを指示した。
「おし……じゃあ、とりあえず話せる十階まで一気に行っちまうぞ。あそこなら十分に休憩取れるからな」
「「「おう!」」」
ソーラの号令に<<太陽の牙>>の面々も応じ、ソラもまたそれに応ずる。そうして、それからニ、三時間掛けて一同は十階まで到達する事になるのだった。
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