第2500話 冒険者達 ――活動開始――
ブロンザイトの弟にして腕利きの冒険者であるカルサイトからの要請を受けて、アールドゥ王国の『アダマー』という街にて裏ギルドの暗躍の調査に動く事になったソラ達。
そんな二人は『アールドゥ』にてカルサイトと一旦合流し情報共有と彼の快気祝いを行うと、再び別れて『アダマー』入りする。そうして、現地で大通りに面した宿屋を確保した二人は一旦そこで一日を明かす事にすると、ソラは持ち込んだ通信機を使って同じく『アダマー』近郊に待機しているはずのカイトへと連絡を取っていた。
『そうか……兎にも角にもカルサさんが元気そうで何よりだった』
「あははは。それについしゃこっちも同意だ」
どうやらソラ達が合流した事により、カルサイトも退院が本決定となったらしい。ソラ達が朝訪れた時にはすでに病院服から平服に着替えており、用意が整った時点で退院との事だった。というわけでそれらを報告しひとまず彼の無事について安堵したカイトにソラもまた笑って同意する。
「で、とりあえず……こっちは現地入りした。そっちは?」
『こちらもすでに『アダマー』の近郊に飛空艇を隠した。後はバレないか、って所だが……』
「そういや、そこら大丈夫なのか?」
『んー……ぶっちゃけると絶対大丈夫か、って言われりゃ絶対じゃない。ランクS級になれば気付いてくる奴も居るだろう』
これは仕方がない事だが。カイトはそう前提を置いて、はっきりと完璧な隠蔽は不可能である事を明言する。
『が、それならそれで良い。取り逃がしたなら取り逃がしたで今回の依頼は終了だ……元々捕らえる予定だったユニオンの内通者はすでに、って事なら本来はそこで依頼終了のハズはハズなんだよ』
「え……あ、そっか。本来カルサイトさんの仕事って……」
ソラも言われてみて理解したが、カルサイトが本来請け負っていた仕事はユニオン内部に存在する裏ギルドとの内通者の調査及びその捕縛だ。なのでそれを殺された時点で彼の仕事は終わっていた。
『そういう事だな。その上でカルサさんはついでだから、って事で動いてる。ユニオンとしても勝手を知ってる彼が動いてくれた方が良いのは良い。無論、その上で相手も組織だ。こちらも組織として動かねばならないから、こうやって支援も行うわけだ』
「なーる……で、それはともかくとして、だ」
カイトの言葉に納得したソラであるが、そんな彼は一度夜空を眺める。そこには満天の、とまでは行かずとも多数の星が見えていた。
「確か俺達にも一隻補佐で小型の飛空艇用意してくれてるんだよな?」
『ああ。お前の持つ通信機は一旦そこを経由して、こっちに送られている。短距離通信と地球の電子技術、更に暗号通信を併用する事で、こちらの位置を掴ませない様にしてるんだ』
現在ソラが持っているのは短距離での通信を可能としている通信機だ。これは暗号通信等が可能な物ではなく、何かがあって見られても誰も問題視出来ない普通の通信機だ。それを使って『アダマー』近郊にあるというソラ達用の飛空艇に送信。そこから更にカイト達に向けて発信しているとの事であった。
「それは聞いたよ……どこにあるんだ?」
『ああ、飛空艇なら空港に停めてある……ちょっと待て。場所について今情報をそちらに送る』
「っと、サンキュ」
万が一に裏ギルドと大規模な戦闘になった際に使う装備がこの飛空艇に積んでいるわけではないが、ある程度の万が一に備えた道具はこの飛空艇に積んでいる。ソラはそう聞いていたのだが、どこにあるかは現地到着後に連絡される事になっていた。というわけで、そこらの情報をカイトがソラへと転送する。
『……送った』
「……お、届いた。えっと……あ、普通に空港に停めてあるのな」
『そこは隠してはいない。万が一、というか何かがあって映像を介してやり取りする必要がある場合や即座の出立が必要になった場合とかに面倒が多い。ああ、それと管制塔にはユニオンが支部を通さず話を通している。万が一の場合の符号を資料に添付してるから、それの確認も忘れるな』
「おう」
この飛空艇であるが、万が一の場合にはそのままソラ達やカルサイトを乗せて『アダマー』を脱出する事にも使う。その際にわざわざ出発の申請等をしていれるわけもない。なので管制塔には万が一の場合は最優先での出発が可能な様に手配を掛けてくれていたのであった。というわけで一通りの資料を見たソラであるが、そこでふと一つ気になった事があった。
「そういや、このカットアウトは? どんな人なんだ?」
『ああ、仲介人か。明日の朝、そちらに人を向かわせるとは書いてあるな?』
「ああ」
『ああ……女の人だ。とりあえずは向こうから接触してくるから、行動開始はそれからにしておいてくれ』
「りょーかい」
兎にも角にも動ける様になってからでないと動けない。なのでソラもまずは自分の足元を大丈夫にした上で、動く事にしていた。というわけで、その後はしばらくカイトとの間で情報のやり取りを行いつつ、ソラは明日からの行動に備える事にするのだった。
さてソラ達が『アダマー』に到着してから一日。翌日の朝に彼らは宿屋に併設されているラウンジで朝食を食べ、ここからの行動に備えて一旦は軽い打ち合わせを行いつつ自分達の行動の補佐を行ってくれるという人物からの接触を待っていた。
「とりあえず今日はこっからユニオン支部に向かって、か」
「うん。兎にも角にも冒険者である以上、ユニオン支部で現在地の登録はしておかないとおかしいからね」
「だよな……そうだ。そういえばお前、『アダマー』に来た事はあんの?」
「一回だけ……だったと思う」
何十年と旅をしているトリンだ。なので来た事があるのでは、と思い問いかけたソラであるが、案の定トリンは来た事があったらしい。が、そんな彼は少しだけ困った様に首を振った。
「でももう三十年以上も前だよ。流石に町並みは変わりすぎてて、僕の知識は一切あてにならないと思ってもらった方が良いよ」
「そか……ってことは一旦街を歩いてみて、地理を理解した方が良さげか」
「そうだね。とりあえず今日明日は街の地理を理解して、地の利を得ておく事が肝要かな」
今回、どうしても事の性質上町中で戦闘を行わねばならない可能性が高い。これはカルサイトが町中で襲撃を受けていた事からも明らかだ。となると、下手に誘い込まれたりしない様にきちんと周辺を見ておかねばならなかった。というわけで、二人はここからの方針を定める。
「だよな……ユニオンで地図手に入れられりゃ話は早いんだが……」
「そこは微妙だね。国や都市、支部によって街の地図を配ってるかどうかは様々だから……貰えれば儲けもん、程度に考えた方が良いかな」
「そか……よし。とりあえずそうなると、ここ二日で地理を把握して、か」
「うん……ああ、そうだ。そういえば黒龍って人。どうする?」
「んー……それなぁ……」
どうしたもんかね。ソラはトリンの問いかけに少しだけ悩む。一応カルサイトの仕入れた情報によれば、黒龍の特徴は彼が知る人物の情報と酷似していた。が、その特徴と酷似した人物なぞ山程居るのだ。
カルサイト曰く本部にここに居る黒龍という二つ名を持つ青年の詳細を仕入れられる様にしてくれる、という事であったが早くとも数日中になるだろうとの事であった。これはどうしてもアダマー支部を頼れない為、仕方がないそうだった。
「一応カルサイトさんの情報によると、この通りに位置する宿に泊まってるんだったよな?」
「確かそうだったね」
今回、カルサイトが手に入れていた情報には、裏ギルドの所属員と思しきギルドについてはその宿泊している宿がどこかと書かれていた。が、流石に相手の力量や状況から下手に接触するリスクを避ける為、直には接触していないそうだ。それを踏まえて行くなら行けよ、というのがカルサイトからの助言であった。
「もしその人が俺の考えてる通りの人だったら、多分かなり強力な切り札になってくれると思うんだよ……なんでここに居るのか、ってのまではわからないけどさ」
「そんな強いの?」
「少なくともカイトが強い、って認めるほどだから大丈夫とは思う」
「カイトさんの知り合いなの?」
どうかわからない。そんな様子で頭を掻くソラに、トリンが驚いた様に問いかける。というのも、現在黒龍の正体として有力候補となる青年は活動時期からカイトとの接点が見出だせなかったのだ。そんな彼に、ソラは顔をしかめる。
「そうなら、って話。しかも俺もその人が黒龍って二つ名を持ってるとか全くわかんね。ただ特徴似てるな、って感じで思えたからそうかもってだけだ。当たりゃ儲けもん程度に考えてくれ」
「ふーん」
それであまり詳細は話さないのか。トリンはソラの自信なさげな様子からそれを理解する。本当にソラも自信は無い様子で、それ故に下手に状況を混乱させてもな、とカイトにも告げていないらしかった。
「一応、ダメ元で夕食でも食いに行くついでに見に行く……ぐらいで良いと思う」
「まぁ……確かにそのぐらいなら良いかな。どっちにしろここらへんの地理は見ておかないといけないわけだしね」
とりあえずの方針としては地理の把握が目下の課題なのだ。その際にいくつかの店には立ち寄って確認する事になっており、若干危険は伴うがこの宿もその一つとして含めても問題はなかった。
というわけでひとまず今日の夕食も兼ねて一回見てみるか、という事を決めた二人であるが、そんな打ち合わせをしていると時間なぞあっという間だったらしい。
『聞こえますか? あ、振り返らず、そのまま』
「っ」
自身の背後に新たな女性客が座ってコーヒーを一杯口にしたと同時だ。背後からの念話に一瞬だけソラは身体を強張らせるが、すぐにその指示に従って空港で配られた資料を読んでいる体を装う。どうやら彼女が仲介人らしい。
『今しがた、上着のポケットに鍵を入れました……大通りの保管庫の鍵です。飛空艇の鍵はそこに』
『これじゃないんっすか?』
『違います……各種の装備を仕舞った戸棚の鍵等もあるので、少し束になっています』
『了解っす』
当然であるが、飛空艇を空港に停泊させているということは徒歩で近づく事は可能だ。無論そうなっても監視可能な様にはしているが、即座に介入可能というわけでもない。
中に細工されても困るので、重要な物資に関しては鍵を掛けて保管しているのであった。そこらの鍵一式をまとめて貸し金庫に入れているという事なのだろう。というわけで、ソラの返答に仲介人の女性もまた一つ頷いた。
『はい……また折を見て確認する様にしてください。それと、基本は私が貴方方の現地でのサポートを行います。御主人様から通信機では伝えられない何かがあった場合、私が』
『わかりました……マクダウェル家の人なんっすか?』
『そこのメイドが本業です』
本業がメイドにも関わらずここに居るということは、すなわちそういう事なんだろうな。ソラはカイトの事を御主人様と呼ぶ所から彼女が古参のメイドである事等を理解し、戦闘力等は自分達以上なのだろうと察する。というわけで、彼女からの伝達を一通り聞いて了解したソラはある程度の時間が経った所でトリンへと告げる。
「……よし。打ち合わせとしちゃこんなもんか。とりあえずユニオン支部に行かないとな」
「そうだね……良し。じゃあ、今日も一日頑張ろう」
「おう」
とりあえず若い冒険者二人という体で二人が立ち上がる。そうして、二人はひとまずユニオンのアダマー支部へと向かう事にするのだった。
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