表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2522/3946

第2493話 魔術の王国 ――その後――

 魔術都市『サンドラ』に招かれ、数年後の交換留学を見据えて体験授業を受けていたカイト率いる使節団。その二週間の行程も終わり最後に客寄せパンダとして『展覧会』に参加したカイトであるが、彼は三回戦にて『星神(ズヴィズダー)』というエネフィア版『外なる神(アウターゴッズ)』の差し金を受けたルークと交戦。月面にて『神』を召喚し、戦いを繰り広げる。

 最終的にはタイムアップにより様々な事情からルークの勝利と相成っていたわけであるが、その次の試合が始まる頃にはカイトとルークは並んで観覧席に座っていた。


「はぁ……ようやく肩の荷が下りたかな。エテルノ。君にも今日は世話になった」

「いえ……」

「あいつらとは長いのか? お前も」


 観覧席に戻ったカイトであるが、彼は横のルークに向けて問いかける。これにルークはいつもの様子で笑った。


「まぁ……長いか短いかで言えば長いだろうね。私がまだ五つになるかならないかの頃だったから……十数年か。私の人生の半分以上は彼らと共にあった」

「そりゃ……ご愁傷様だ」


 『外なる神(アウターゴッズ)』と関わってまだ数年であるが、それでもカイトは嫌というほど彼らに痛い目に遭わされていた。なので彼からすれば本当にご愁傷様という一言しかなかった。


「あはは……ま、それについては私もそう思うから受け入れさせてもらおう」

「いや、あの……少し良いか? ルーク。お前、なぜここに?」


 カイトからの同情を素直に受け入れたルークに対して、瞬が困惑気味に問いかける。そもそも三回戦でカイトは敗北しているので会場から出ていても不思議はないのだが、勝者であるルークがここに居るのはおかしいだろう。


「ああ、流石にこれ以上は戦えないからね。しかも次は順当に行けばシレーナだった……流石に勝ち目はなさすぎる。棄権させて貰ったんだ」

「棄権……あ」


 ルークが棄権を明言するとほぼ同時に、会場アナウンスにてルークの棄権が報じられる。これについては誰しもが先の一戦でのルークの疲労困憊の様子から見れば納得できるようなもので、やっぱり等の納得の声が多かった。


「こういうわけだね。幾ら私でもカイトからのシレーナなんてやる前から結論が見えてる……流石に今日はこれ以上は懲り懲りだ。何より、死にたくないしね」


 ルークは自らの腹を擦る様に、僅かに苦笑する。そんな彼に瞬が問いかける。


「どうかしたのか?」

「さっきの戦いでカイトから貰った一撃が痛んでね……君が見えていたかはわからないけれど」

「最後の……」

「腹の一撃じゃろう。『神』を召喚するのは一見メリットだらけにも思えるが、その実ダメージは魔導機なぞ比較にならぬほどの反動を受ける。それでも、リアルの神を呼び出すよりはよほど効率は良いがの」

「そういう事なんだよねー……効いたよ、さっきの一撃。しばらく……とは言わなくても、このナチョスは食べたくないね。見ているだけで胃の内容物がひっくり返って来そうだ」


 ルークはそういうと、差し出されていたナチョスを横に避ける。流石に土手っ腹に風穴が空いた感覚が残った状態で何かを食べたいとは思えなかったようだ。というわけで差し出されたナチョスを瞬が受け取る。


「ん? そうか……にしても、ルーク。お前、そんな強かったのか」

「ああ、あれは流石に前線が居て初めて、という所だよ。私は古来からの魔術師と言う所かな……だから君みたいな前線が居て初めて、私はあの力を使える。『神』の召喚に至っては君達の支援が無いとできる様になるのは何年先やら、だね」


 瞬の称賛に対して、ルークが困った様に肩を竦める。そんな彼の言葉に瞬が首を傾げる。


「俺達?」

「ああ。来月にはマクスウェルで世話になるからね。あ、そうだ。新設される研究所で使う備品や書類、いつ頃届く様にすれば良いかな?」

「は?」

「ああ、君達の所で世話になるからね。あ、ひとまずは君の指揮下になるのかな? それともユスティーナさん?」


 何がなんだか、という様子の瞬に対して、ルークは楽しげに一方的に問いかける。おそらくわかってやっているのだろう。これに、カイトが呆れ半分で教えてくれた。


「ティナだ……それとまだ内々の話だから。それについてはまた今日の話し合いでだな」

「あはは……ま、内々でもほぼ確定しているからね」

「そ、そうだったのか?」

「まぁね……そこらは色々とあるから、向こうで教えてあげるよ」


 何があったのか、というのは政治的な話もある。なのでここでは話さない事にしたようだ。そうして、一同はルークを加えてその後の試合の観覧に入る事になるのだった。





 さて『展覧会』にてカイトが敗北してから半日ほど。彼は再びヘクセレイ家を訪れていた。


「まずはシレーナ。優勝おめでとう」

「ありがとう……とだけ言わせてもらうわ」

「あっはははは。素直に受け取ってくれても良いんだがね」


 どこか不貞腐れた様子のシレーナに、カイトは楽しげに笑う。結論から言ってしまうと、『展覧会』二日目の優勝者はシレーナだった。これはある意味では下馬評通りではあったが、当人としてはかなり不満の残る――勿論表彰式等ではそんな事は見せなかったが――結果だったようだ。


「嫌よ……私が優勝したのなんて、四回戦……準決勝をスルーした結果みたいなものだし」

「運もまた実力の内、と言うにはシレーナはまだ若いかな?」

「味気ない勝利を喜ぶぐらいなら、若くて良いわ」

「あははは」


 カイトの問いかけにシレーナはやはり口を尖らせる。というわけで、そんな事を語る彼女がジト目でそのもう片方の原因を睨みつける。


「……」

「そんな不満げな顔をしないでくれ、シレーナ。私も結構頑張ったんだ。エデクス公が言われていた事は半分ぐらいは嘘だったけど、半分ぐらいは本当だ。カイトに土手っ腹を貫かれて、それでも核を貫こうと頑張ったんだ。あれ以上は戦えないよ」


 言っている事は事実ではある。実際、観客の中には実際はカイトの方が勝利したのでは、と思うぐらいカイトとルークであれば余力はカイトの方が残っていた。が、今のこの余裕っぷりを見ればシレーナが半信半疑なのも無理はなかった。


「そ」

「そっけないなぁ……」

「でもそれならいっそ勝ちを譲っても良かったんじゃないの?」

「「あー……」」


 シレーナの指摘に対して、カイトもルークも少しだけ困ったような顔を浮かべる。そうして、少しだけ顔を見合わせた後にルークが口を開いた。


「それは多分、厳しいというか……カイトは別の相手からの襲撃に備えてただろうから、どっちにしろ棄権は変わらなかったと思うよ」

「別の相手、ねぇ……それはあれ? あの貴方達の所に出たっていう謎のネズミ?」

「そう、それだね……あれは『星神(ズヴィズダー)』というエネフィアのものではない神様なんだ」

「は?」


 唐突なルークの言葉に、シレーナはたまげた様子で顔を顰める。これにカイトも頷いた。


「ああ……突拍子もない様に思えるが……実際、そうだ。『星神(ズヴィズダー)』というらしい、というのはオレも今日知ったが……ティナの側に『賢人会議』の残党を操って襲撃を仕掛け、交戦したらしいからな。こっちにも来た可能性は大いにあった。それを考えれば、余裕は残しておきたかった」

「冗談……じゃないの?」

「こんな冗談が言えりゃ、オレは地球で苦労はしてねぇよ」


 心底辟易とした様子に、シレーナはルークの言葉が嘘ではないと理解する。と、そんな所にレーツェルが現れる。


「事実だ……現在最高評議会が先のネズミに対する対応で協議を行っている。ルークくん。情報提供、感謝する」

「いえ……長らくお伝え出来ず、申し訳ありません」

「いや、彼奴の様相は我々も直に見た。あれは生半可な存在ではないだろう」


 一見するとネズミにしか見えないのに、超級の魔術師が本気で視ればあまりに超常的な存在なのだ。超常的な魔術師の集まりである『サンドラ』の最高評議会もそんな存在が古くから『サンドラ』に入り込み暗躍していた事は看過できず、今回の一見を受けて一度会合を開く事になっていた。


「何人の魔術師があれが単なるネズミでないと理解したか……理解出来ていると思いたいが、そうではないだろう。あれは、そういう領域の存在だ」

「それほど……」


 真剣さを帯びた父の言葉に、シレーナは僅かな畏怖を口にする。それにレーツェルは一つ頷いて、カイトに『サンドラ』の統治者の一人として告げる。


「マクダウェル公。マグナス六賢人の末裔、及び『サンドラ』の最高評議会は今回の一件への対応の協議を行っております。追って、マクダウェル家及び皇国との協議も行いたいと考えておりますが……如何でしょうか」

「皇国としての返答は追ってとなりますが……マクダウェル家は受け入れましょう。『星神(ズヴィズダー)』が私の知る『外なる神(アウターゴッズ)』であるのなら、それはもはや国の垣根を超えた敵となり得る。魔術師集団である『サンドラ』の協力は今後を考えれば必須と考えます」

「ありがとうございます」


 カイトの返答にレーツェルは『サンドラ』の名代として頭を下げる。少なくともルークやエテルノから聞く限り、とんでもなく昔から各所で暗躍していたらしいのだ。それが表に出てきて、そして『サンドラ』でも活動していた以上、『サンドラ』としても座視してはいられなかったようだ。そうして礼を述べたレーツェルに、カイトは一つ提案する。


「それで、今回の『星神(ズヴィズダー)』の介入を受け、私から一つ提案が」

「伺いましょう」

「はい……まずルーク。彼の処遇を変更したく思います」

「……と、言いますと?」


 元々ルークは『賢人会議』の統率者として、引責という形でマクダウェル家に来る事になっている。が、これをカイトは変えようというのだ。その目的が理解出来ず、レーツェルは先を促す事にしたようだ。


「彼は『星神(ズヴィズダー)』と長く付き合い、エテルノさんとの出会いにも彼らの介在があったという。何かと関わらざるを得ないでしょう……地球での経験から、ですが」

「お話は伺っております。貴方も地球では『星神(ズヴィズダー)』に似た存在と相対していたとか」

「ええ……ここで彼らが私にルークをぶつけた意味はわかりかねますが……彼の役割は単なる当て馬とは思えない。人質として自由を制限するのは最終的に不利益となる可能性が高い。何より、人質として拘束した所であれやこれやと彼らが出すでしょう。なら、後に問題となるより自由にしておいた方が面倒が少ない」


 『星神(ズヴィズダー)』はカイトが帰るより前からルークを見出していたのだ。それをなぜカイトに当て馬として使ったかはわからないが、少なくとも別に理由がある可能性は考えられた。


「わかりました。最高評議会に掛け合いましょう」

「お願いします」


 ルークの処遇は『サンドラ』とマクダウェル家の合議により決定されるものだ。なのでカイトがこうしたい、というだけでなんとかなる事ではなかった。無論、彼の意向が大きく影響してくるので基本は受け入れられる事で確定はしているだろうが、である。と、そんな事を話した所でレーツェルが少しだけ慌て気味に告げる。


「っと……いつまでも立ち話をしているわけにも参りません。どうぞ、こちらへ」

「ありがとうございます」


 レーツェルの案内を受けて、カイトは彼に従って会談の場へと向かう事にする。そうして、それからしばらくの間カイトは『サンドラ』との間で今後の打ち合わせを行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ