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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2492話 魔術の王国 ――決着――

 あけましておめでとうございます。本年もなるべく毎日投稿を続けていきます。

 お付き合いいただければ幸いです。

 魔術都市『サンドラ』に招かれ、体験授業を受けていたカイト達。そんな彼らは二週間に及ぶ行程を終えると、『サンドラ』で開かれる魔術師達の祭典とも言える『展覧会』に参加していた。

 というわけで、客寄せパンダとして『展覧会』に参加していたカイトであるが、彼は三回戦にてルークと交戦。月面にて『神』を召喚し戦うという状況に陥るも、ルークとエテルノの切り札により『神』を半壊させられ、月面に落着していた。というわけで月面に落着したカイトを追いかけるルークであるが、彼は肩で息をしていた。


「はぁ……はぁ……どう……だろうか」

「半壊……という所ですね」

「これで半壊か……」


 さすが、と称賛するべきなのかもはや恐れるべきなのだろうか。ルークは常人どころか神々の英雄達さえ打ち倒せるだろう自身最高の切り札を以てさえ、半壊という状況に僅かな畏怖を滲ませる。これで、半壊。相手がカイトである事を鑑みればある意味では大金星ではあったが、ルークは苦い顔だった。


「相手は苦手な魔術に限った上、しかも完全に切り札を打てた上での半壊か。君にも切り札を切って貰ったんだけれどもね」

「仕方がありません……それが、最強と呼ばれる方なのでしょう」


 何十人と存在していたかつての主人達を思い出し、エテルノはそのどれしもが戦士としてであればカイトには遠く及ばなかった事を理解していた。

 その彼らだって常人からすれば尋常ならざる戦闘力だったのだ。何人かは『神』だって召喚し、『星神(ズヴィズダー)』達と戦ったのだ。それと見比べてなお、カイトは圧倒的なのだ。ルークという有数の主人を得てなお、遠く及ばないのは無理がないと思えた。


「……それに、あの彼が操る魔導書。おそらく……私より古い。装丁こそ真新しい様に見えたので年下かと思いましたが……」

「そんな古いのか? 君よりも?」

「ええ……間違いなく数千年ではなく数万年……いえ、もしかするともっと古いかもしれません。今名乗っている名とて本当かどうか」

「そんな事があり得るのか?」


 魔導書の名前が嘘かもしれない。そんな聞いた事もない事態にルークが困惑を露わにする。が、これにエテルノは一つ首を振る。


「わかりません。ですがふと、そんな考えが頭に浮かんだのです」

「……そうか。でも彼らなら、あり得るのかもね」


 そもそも思えばおかしな点は無いではない。ルークは遠くの月面に見える『神』を見ながら、そう思う。その一方。半壊した『神』を操るカイトであるが、すでに対処を終えていた。


「コード・ド・マリニー」

「<<ド・マリニーの時計>>最終発動承認」


 カイトの指示を受けて、アル・アジフはルークの切り札の発動と同時から待機させていた<<ド・マリニーの時計>>を発動させる。そうして、時報を告げる鐘の音に似た音が宇宙空間にも関わらず響き渡った。


「……因果律集計。データ転送」

「データ受信……因果律逆転開始」

「!?」


 鐘の音と共に発動された魔術を見て、ルークが思わず驚愕で目を見開く。そしてそんな彼の駆る『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』の真横を、不明な金属が通り抜けていく。


「まさか……あ、あははは……」

「なんでもあり、ですね……『神』の復元は物体の復元とは違うのですが」

「復元……してるのか……」


 不明な金属はカイトの駆る『神』の『肉片』。無数の星屑に打たれ砕け散った破片だ。それが『神』へと殺到し、傷をすべてなかった事にしていた。そうして、数秒。あっという間に『神』は元通りになっていた。


「……エテルノ。一応聞いておきたいんだけれど、『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』にも似た様な力は無いかい?」

「ありますが……」

「あるんだ」

「ありますが、使えた者は今まで数人。片手の指でも多いですね。トップクラスの術者が後先考えないで使っただけです」

「聞きたくないんだけど……術者のその後は?」

「一人は生きて帰りました。魔術師としてはその中で一番下の才覚でしたが……生きる事に掛けての本気度は誰より素晴らしかった」


 聞きたくなかった。聞いたのは自分自身であるが、ルークはエテルノの言葉の裏を察すればこそ首を振るしか出来なかった。


「とどのつまり、残りは全員死亡と……」

「当然です。『神』を形作る魔術の数……どれほどか貴方一度数えようとしたでしょう? あれをすべて記録し、その上で破損前の状態にまで復元するのです。常人では到底不可能です」

「嫌になるね……が、それが出来ないと彼と対等に立とうなんて考えられない、というわけか」


 ぐっぐっと拳を握りしめ感覚を確かめる様子の『神』を見ながら、ルークは残った力を振り絞って気合を入れ直す。間違いなく相手は化け物だ。

 一見押している様に見えても、油断なぞできる状態ではなかった。そうして、『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』もまた再度月面に降り立つ。


「さ……第三ラウンド開始だ」


 ルークは時計の針を加速させる様に、五倍速での行動を可能とする様に魔術を再構築する。それに対して、カイト達もそろそろ少しは本気を出すかと手のひらに時計を顕現させた。


「父よ。どの程度でやる?」

「流石に倍速程度にしておこう。こっちは時間の加速が得意っていうわけでもない」

「苦手っていうわけでもない」

「そうなんですけどね」


 ナコトのツッコミにカイトは笑う。これは当たり前の話ではあったが、『神』にはそれぞれ得意分野がある。例えば『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』であれば時間に関する魔術だし、ルークの一族が保有するという『心眼の定義(イデアの書)』であれば真言だ。

 それで言えば、カイト達の駆る『神』は特殊なのか得意分野がなかった。が、なかったが為になんでも出来た。故に時間加速だって出来た。


「じゃ、やろうか……コード・ド・マリニー」

「「承認」」


 カイトの申請を受けた二人がその発動を承認し、『神』が加速する。それに、ルークは驚くと同時に何を今更と思う事となる。


「ちっ! やはりできるか!」

「驚く必要も無いですね!」


 倍に加速したカイト達に対して、ルークは五倍速の速度で加速する。それでようやく互角という所で、カイト達の基礎スペックが如何に高いかが如実にあらわれていた。そうして、高速で移動する両者が数十度衝突した所で、今度はカイトが手を変える。


「ナコト。タイミングは任せて良いか?」

「何するつもり?」

「肉を切らせて骨を断つ……ちょっと一発ぐらいは入れてやらないとな」

「……承知した」


 楽しげなカイトの視線を受けて、ナコトもまた笑って頷いた。そうして、直後。再度の激突に備えて杖を構えた『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』がそれを振り下ろす。


「ぐっ!」

「!?」


 受け止めようともせず直撃を受け入れた『神』に、ルークが目を見開く。そうして『神』の破片が月面に盛大に撒き散らかされる事になるが、その瞬間だ。鐘の音が鳴り響いて、身体に深々と刺さった杖が急速に押し戻される。


「っ! マズい!」

「遅いんだよ! <<龍爪(りゅうそう)>>!」


 ばらまかれた破片を急速に舞い戻らせながら、カイトは逃れようとする『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』を左手で強引に縫い止める。そうして、その土手っ腹に向けて容赦なく手刀を叩き込んだ。


「ごふっ!」


 『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』の胴体が貫かれ、そのバックロードを受けてルークが血の塊を吐く。『神』は魔導機や大型魔導鎧とは比較にならない操縦性を有し、戦闘力も比較にならない。

 が、その代償としてダメージは術者に幻痛として訪れる事になるし、反動を制御しきれなければこの様に甚大な反動を受ける事にもなってしまうのだ。そうして反動を制御しきれず余波を受けたルークにエテルノが声を上げる。


「ルーク! バックロードを制御しなさい!」

「やってる……さ! おぉおおおお!」

「何を!?」

「核に攻撃を届ける!」

「了解です!」


 裂帛の気合と共に、ルークが押し戻されていた杖に込める力を強くする。それにエテルノもまた杖に魔術を展開し、カイト達の復元を妨害する。


「む……父よ。押し戻されている。流石に時間に関しては向こうが上手のようだ」

「そか」

「……なんだ。反応が薄いな」


 いつものカイトであればここで楽しげに応じて、さらなる戦いを繰り広げていたはずなのだ。なのに今のカイトは笑いながらもどこか困ったような様子だった。そうして、そんな彼が告げた。


「タイムアップだ」


 カイトが理由を告げると同時。はるか彼方で鐘の音が鳴り響いて一瞬彼以外の全員がきょとんとなる。そうして広がる月面が端から消えていき、カイトはそれに合わせる様に『神』を消失させる。


「ふぅ……ルーク。タイムアップだ。『神』を解け」

「あ……そうか。今のは……」


 何がなんだかさっぱりだった様子のルークであるが、今のが『展覧会』の試合終了を告げる時報だったと理解する。そうして彼もまた『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』の顕現を解除して、合わせて月面と化していた会場を元の舞台へと戻した。


「はぁ……今まで生きてきた中で一番疲れたよ。エテルノ。膝枕でも頼めるかい?」

「はぁ……よいでしょう」

「衆目ある所でいちゃつくなよ……はぁ」


 余裕がある様に見えるカイトであるが、こちらもやはり『神』の召喚や多くの魔術の使用により消耗していたようだ。もはや立つ気力も無いのか寝っ転がるルークに対して彼も少し疲れた様にその場に腰掛ける。そしてその背に、アル・アジフとナコトがちょこっと腰掛けた。


「うん?」

「久しぶりに運動したら疲れた」

「そうか……うん?」


 ぱちぱちぱち。そんな拍手が聞こえ、カイトが顔を上げる。そして同様に顔を上げていたルークであるが、そんな彼は目を見開く事になった。


「老公エデクス」

「あぁ、良い良い。あれほど壮絶な戦いをしたのだ。いつもは見える莫大な魔力が露ほどに霞んでおる」

「お気遣い、感謝します……あはは。流石にもう手も足も動かせませんよ。限界です」

「ははは。そうであろうな」


 ルークの返答に現れたエデクスが訳知り顔で笑う。あの戦いを見れていたのは彼を筆頭にごくわずかであるが、状況から決着が着かなかったぐらいは状況からわかる。そういう場合には最高評議会が合議を行い、審判を行うのが通例となっていた。というわけで、疲労困憊な両者を前にエデクスは先に結論を観客達に告げた。


「では、まず……結論から告げよう。此度の一戦、勝者はルークとする!」


 後にこの反応はエデクスがカイト達の正体を知っていた為とも言われる事になる結論であるが、ひとまずルークの勝利となった。故にエデクスの声にしばらくして、盛大な拍手が起きた。が、同時に余裕の残り具合からカイトの勝利ではと思う者も居たらしく、彼は続けてその理由を語った。


「まず、天音選手。余裕を残し戦った様子であるが……それが仇となったな」


 まぁ、それで良いかな。カイトはここで負けておきたかった事もあり、エデクスの半ば隠しながらの解説を遠くで聞く。が、そんな彼の視線は遥か彼方の会場の上を見ていた。


「……エテルノさん。あんた、あいつらと長いのか?」

「数千年は戦い続けています」

「そうか……ま、あんたとは今後長い付き合いになりそうだ。よろしく」

「……そうですね。そうなるでしょう」


 おそらくカイトはずっと前から『星神(ズヴィズダー)』との戦いに備えていたのだろう。エテルノはそう思い、カイトの言葉を受け入れる。そんな彼に、ルークが告げる。


「……カイト。私も、その戦いに加わるよ」

「うん?」

「彼らが何を考えているか、なんて私にもわからない。が、エテルノが彼らと戦っていた事は知っている。その上で、彼女の主人となったんだ。覚悟なんて昔から出来ていた」

「そうか……なら、お前もよろしく頼む」

「ああ」


 カイトの返答にルークは一つ笑う。こうして、カイトとルークの『展覧会』での戦いは終わりを迎えて、カイトはここで会場を後にする事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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