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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2491話 魔術の王国 ――黒き世界で――

 魔術都市『サンドラ』で行われていた『展覧会』。それに客寄せパンダとして参加していたカイトであるが、そんな彼は三回戦にて『星神(ズヴィズダー)』というエネフィア版『外なる神(アウターゴッズ)』とでも言うべき存在の差し金として現れたルークと交戦する事となっていた。

 というわけで、お互いが相棒となる魔導書に記された『神』を召喚。思う存分戦うべく戦場を月面へと移した両者はエネフィア史上初となる月面での戦闘と相成っていたのであるが、ルークが四倍に加速したと共にカイトは宇宙空間へと躍り出ていた。


「さ、追いつけるかな?」


 虹色のフレアを撒き散らしながら加速するカイトであるが、そんな彼は楽しげに後ろを伺い見る。そんな彼に対してルークもまた背面に設けられた飛翔機に似た機構から星屑のような輝きを撒き散らしながら、その後ろに追いすがっていた。


「上出来上出来……アル・アジフ」

「すでに出来ている……流れ弾には気を付けろよ」

「あいあいさー」


 カイトはアル・アジフの注意を半端に聞きながら、自身に並走する様に現れた杖を再度砲塔へと再変換。前へと高速で飛翔しながら、半回転してルークを正面に捉える。


「っ、エテルノ!」

「了解!」


 再び砲撃が来る。それを理解して一瞬先を見極めんとするルークとエテルノであるが、そんな二人を想像しながらカイトは楽しげだった。


「ご期待に添えず申し訳ないな! 今度は、ガトリングだ!」

「「っ!?」」


 どるるるるる、という轟音を上げて、銃口が回転して無数の魔弾が放たれる。これに『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』は急旋回。エルロンロールに似た動きを見せて回避する。


「エテルノ! こういう場合に良い魔術というか武器は!?」

「あればやっています! やれるとすれば魔銃を組み上げる程度しか出来ません!」

「どんなの!?」

「俗に言う軽機関銃です!」

「それで良いよ!」


 こうなれば背に腹は代えられない。そんなルークの返答にエテルノは『サンドラ』に来て学んだ軽機関銃型の魔銃を『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』サイズに組み直し顕現させる。


「お……記載されていない内容を即興で組み上げる事もできるか。上出来上出来」


 こちらに向けて軽機関銃による反撃を行う『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』に、カイトは上機嫌に笑う。この程度でどうにかなるとは思っていなかったが、楽しめはするだろうと考えられた。そんな彼に、アル・アジフが次の一手を問いかける。


「どうする? 所詮は弾数重視のガトリング。たかが知れてるぞ」

「障壁は削れない」

「わかってる……さって。どうしよっかなー」


 飛翔しながら背面へ向けてのガトリングの掃射を行うカイトは、どうすれば次を楽しめるだろうか考える。


「今の所敵についてわかっていることは?」

「時間に関する『神』という所か」

「後二人乗り」

「それは普通だ……三人乗りの私達がおかしいだけで」


 本来『神』は一冊につき一柱。にもかかわらず二冊で一柱の『神』を召喚するのは非常に稀というか、現在時点で知られているのはアル・アジフとナコトのみだ。それは二人自身も理解しており、特段の異常とは考えられなかった。というわけで、気を取り直して改めて現状を再確認する。


「後は持久力は無いだろう。所詮は、という言い方が正しいかは横にして、『神』は『神』。顕現と維持には膨大な魔力を消耗する。父よ。お前の様に長期戦は望めまい」

「短期決戦か……ま、たしかにな。あまりお遊びばかりもしてやれんな」


 アル・アジフの指摘にカイトはあまり楽しんでばかりも居られない事を再認識する。


「『神』は本来短期決戦仕様。それを戦闘力を落として長時間戦える様にしたのが魔導機や大型魔導鎧」

「その代わりの超常的な戦闘力だ」

「まぁな……魔導機では到底あんな時空間制御なんぞ出来まいよ……打ち込む。遊んでばかりもな」

「承知」

「ん」


 カイトの指示に二人が同意する。相手が長期戦に対応出来ない以上、そして何より今回は試合だ。時間制限がある。こんなお遊びをいつまでもしているわけにはいかなかった。そうして、カイトはガトリング型に組み替えた杖をくるりと回転させて再度杖へと組み直す。


「おぉ!」


 僅かな気迫と共に、カイトは急制動を仕掛け『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』との距離を一気に縮める。それに対してルークは僅かな驚きを浮かべた。


「っ! エテルノ!」

「組み替えます!」


 杖を振りかぶるカイトに、エテルノもまた軽機関銃を杖に組み直す。そうして、両者は杖をメイスの様にして激突する。


「ぐっ! 流石にキツイね!」


 虹色のフレアを撒き散らし、『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』がその場に踏み止まる。本来であれば熟達の戦士であるカイト達の方が出力も精度も圧倒的に上だ。追い縋れているのはひとえに、彼らが手を抜いているからに他ならなかった。


「おぉおおおおおお!」


 雄叫びを上げて、ルークがカイトの振るう杖の連撃を迎撃する。流石に杖一つだけで手加減をしている状態なら、四倍速に加速している彼で迎撃は出来たようだ。と、そうして数十数百と杖同士による戦闘を演じたわけであるが、それもそこそこでカイトは手札を変えた。


「『龍爪(りゅうそう)』を」

「良いのか? 割と厳しいぞ」

「かまうめぇよ。この程度をしのげなきゃ、未来なんてない」

「そうか」


 カイトの返答にアル・アジフはそれもそうか、と同意。彼の指示に従い、杖の維持をナコトに任せ自身は『神』に内臓されている機構を展開。拳に爪の様に鋭い魔力をまとわせる。


「はぁ!」


 杖と杖が激突した直後。カイトは握っていた杖を手放して、龍の爪の様に鋭い手刀を繰り出した。


「!? エテルノ! 五倍速!」

「すでに!」


 このままでは避けきれない。それを理解したルークの指示であるが、エテルノは言われるより前に行動していた。そうして『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』が更に加速。虚空さえもえぐり取るような一撃からなんとか逃れきる。


「ふぅ……」


 落ち着ける場合じゃないんだけれど。ルークは内心そう思いながらも、超速で振るわれた『龍の爪』から逃れられた事に安堵する。そんな彼に、カイトは容赦なかった。


「それで逃れられたと思うなよ!」

「っ、容赦ないな!」


 両手を操り『龍爪(りゅうそう)』で斬撃を放つカイトに、ルークは再度加速して回避。ガトリングのような手数重視ではなかった為、迎撃するより回避した方が楽だったようだ。そうしてカイトを中心として弧を描く様に動くルークであるが、そんな彼にエテルノが一つ提案する。


「ルーク……流石に今のままでは厳しい。切り札を一枚切ります」

「……あれか。できる……かな?」

「今の貴方なら」


 僅かな不安を滲ませるルークに、エテルノは一つはっきりと明言する。そうして、彼女は更に続けた。


「それに何より、今のままやった所でジリ貧はジリ貧。肉を切らせて骨を断つ心づもりでやらねば一矢報いる事も難しいでしょう」

「……そうだね。よし。覚悟を決めよう」

「そんなものは最初から決めていたのでは?」

「あはは……そうだね。よし」


 エテルノの冗談に一つ笑いながら、ルークは改めて気を引き締める。そうして、次の瞬間。彼が消えた。


「む?」


 消えたルークであるが、消えた様に見えたのは一瞬。すぐに現れた。が、これにカイトが困惑を浮かべていた。


「何だ?」

「すべて本物……と出ているな。ナコト。そちらは?」

「同様……ループしている」

「「ループ……」」


 またとんでもない事をしてきたな。消えては現れを繰り返す度に増殖したかの様に見える『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』に、カイトもアル・アジフも僅かな感嘆を口にする。というわけで、カイトが問いかける。


「とどのつまり、これはあれか? その場に居たという事実を繰り返す事でその場に居た事を事実にしている、ってわけか?」

「その場に居た事が事実である以上、どれが本物かわかるわけがない……その場に居たという事実を繰り返しているのだからな」

「そういうこと」


 カイトとアル・アジフの言葉にナコトは一つ頷いた。どうやら見えている『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』のすべてが本物と言って良いらしい。が、そうなってくると流石にカイトでもどれが本物か見極めるのは難しかった。


「どうしたもんかな……」

「流石にすべて本物では打つ手なし、か?」

「そう思うか?」

「いいや?」

「楽しそう」


 楽しげに問いかけるカイトに、アル・アジフもナコトも笑う。居たという事実を繰り返されている以上、神陰流でもどれが本物か見極める事は難しい。が、だから打つ手なしというのは話が違う。故に、カイトもまた一つ覚悟を決める事にした。


「二人共、衝撃に備えろ……あ、どっちかは<<ド・マリニーの時計>>の準備頼む」

「ナコト。こちらで父に合わせる。術式は頼む」

「了解」


 カイトの要請を受けて、アル・アジフとナコトが即座に行動に入る。そうして、十数秒。もはや数百のループが取り囲む中、三人は静かに時を待つ。


「「「……」」」


 いつ来てもおかしくない状況の中。三人は一柱の『神』のコクピットでその一瞬を待ち構える。そうして、その瞬間が訪れた。


「切り替わったぞ!」

「ふぅ……」


 繰り返すループ映像がすべてこちらに殺到してくるのを見ながら、カイトはどれか一つだけ存在する本物を見極めるべく精神を研ぎ澄ませる。が、そうして彼は乗せられた、と理解し、盛大に笑みを浮かべた。


「っ! アル・アジフ!」

「了解した!」


 乗せられた、と気付いたのはアル・アジフも一緒だったようだ。向かってくるすべてのループに一切本物が無い事を理解して、アル・アジフは杖を砲塔へと組み直す。が、流石に間に合わなかったようだ。はるか彼方に居たルークの方が魔術の展開が早かった。


「とっておきの中のとっておきだ! 受け取ってくれ! <<始原の星屑ビギニング・メテオストーム>>!」


 遥か彼方より飛来するのは、無数の星屑。ビッグバンによる創造の断片。ルークが現代文明より遥か古来より存在する魔導書であるエテルノを媒体として、初めて展開し得た彼の最大の切り札だった。

 その威力は想像を絶するものであり、地上で使えば戦略級なぞという言葉が生ぬるく感じるほどの力であった。これに、カイトは笑みを浮かべ相対する。


「直撃はすべてこちらで対処する! 二人共、時計で修繕頼む!」

「承知!」

「ん!」


 流石にこれはマズい。始原の時の再演にカイト達は本気で取り掛かる。そうしてカイトは砲撃と持ち前の身体技能を用いて直撃を回避していくわけであるが、流石に不意打ちじみた攻撃を受けているのだ。段々と『神』の装甲が削られていく。


「ぐっ……ちっ」


 装甲が砕け、破片が宇宙空間へと舞い散る。そうして、大小数千発の星屑を対処し終えた時、カイトの駆る『神』は半壊と言って良い状態で月面に落着した。


「……ふぅ。なんとか、堪えきったか」

「上出来、とは言っておこう」

「というより父様でなければ全壊してた」


 そもそも数千発の星屑を受けたのだ。それで半壊程度に抑えられている方がすごかった。しかしそうして一休みした彼らの所に、悠然と『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』が舞い降りるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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