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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2490話 魔術の王国 ――月面の戦い――

 魔術都市『サンドラ』にて行われていた『展覧会』。それに客寄せパンダとして参加していたカイトであるが、彼はエネフィア版『外なる神(アウターゴッズ)』とでも言うべき『星神(ズヴィズダー)』の一柱『黒き者(アートルム)』の差し金と自身の思惑によりカイトとの交戦を決めたルークとの戦いに臨んでいた。

 というわけで、戦いの場を月面に移した二人はそれぞれの魔導書が有する『神』を召喚。『展覧会』史上まれに見る『神』と『神』による戦いへともつれ込んでいた。


『オォオオオオオ!』


 先にカイトを吹き飛ばしたと同じ声ならぬ声による雄叫びが響いて、次元を砕き時を超えて遥か彼方より数十メートル級の機械仕掛けの神が顕現する。そうして現れたのは、歯車と時計に似た意匠が各所に施された『神』だった。それはあたかも時を司る神を模しているかの様であった。


「『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』……顕現完了。ルーク。調子は?」

「悪くはない……かな。十分戦闘には耐えられるよ」


 ぐっぐっ。拳を握り感覚を確かめ、ルークは負担が想定の範囲内である事を認識。戦闘可能である事を明言する。そうして、彼は僅かに笑う。


「良くも悪くも、彼らの助言を聞いていたからだ……何が目的かはわからないけれどもね」

「考えない方が良い……今考えるべきは、貴方が力を手に入れた。それだけです」

「そうだね……今は、目の前の事に注力するべきだ」


 僅かな興奮を深呼吸で追い出して、ルークは相対する『神』を見る。そこに居たのは、サイズこそ大差のないものの古びた、もしくは朽ち果てたような『神』だった。その中には勿論、カイト達が居た。


「……ベース構築完了。ブラッシュアップお願い」

「ベースアップ開始……さぁ、最古にして最も新しき神よ。我らと共に生まれ、我らと共に歩むものよ。久方ぶりに父がお前と遊びたいそうだ」


 ナコトからコントロールを引き継いだアル・アジフは少しだけ嬉しそうに笑いながら、錆びた『神』に自身が構築した魔術をインストール。それを受けて、錆びて朽ち果てた『神』がまるで時が遡るかの様に真新しさを取り戻す。


『……』


 錆が落ち、朽ちた部位が本来の姿を取り戻した時。現れたのは所々に龍に似た形状を持つ龍神に似た機械の神だ。が、純粋に龍に似ているわけではなく、威厳を与える為に龍に似た様相があったと言ってよかった。そして同時に、どこか守護者(ガーディアン)にも似た様子もあった。


「……思えば、お前を模したのかもな」

「何の話だ?」

「クラス3以降の守護者(ガーディアン)だ。あの頃はこいつの事もお前らの事も忘れちまっていたが……こうやって乗ってみて、ふと思った」


 似ている。カイトは『神』のコクピットとでも言うべき場に立ちながら、妙に懐かしさを感じない事に疑問を感じていたようだ。それが何故かまでは彼にもはっきりとはわからなかったが、そうだとすると腑に落ちたようだ。


「そうか……」

「父様。顕現及びブラッシュアップ完了。フルコンディション。顕現に伴う構築のミスは無し」

「よろしい」


 『神』は声ならぬ声を放ち顕現した『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』と対象的に、カイト立ちが呼び出した一切の言葉を発さず月面に舞い降り、腕を組んでいた。


「アル・アジフ。出力制御は?」

「問題ない。ツインエンジン、フルドライブ可能だ」

「よし……なら、開幕ぐらいはド派手に行くとしよう」

「「了解」」


 楽しげなカイトの言葉に、二人はそれぞれの調子で応える。そうして、『神』の背面に取り付けられた飛翔機に似た機構から虹のようなフレアが舞い散った。


「出力上昇……80……90……100。フルドライブ!」

「障壁展開、よし。父様」

「あいよ……行くぜ!」


 ナコトの報告を受けてカイトは魔導機と同じ様に自身で前に出るような動きで飛翔機での加速を加えて、一気に『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』へと肉薄する。が、これにルークの駆る『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』の腕から時計を思わせる意匠が現れ、鐘の音が鳴り響いた。


「アクセルはセカンドで固定……それでも到底太刀打ちできるとは思わないけれど」

「サード、待機しておきます……ひとまず貴方は慣れる様に」

「わかった」


 相対的に半減するカイトを見ながら、ルークはそれでもなお高速に動く様子に僅かな苦笑を内心で浮かべる。エテルノの力により倍速で動ける様になってなお、これだ。生半可な覚悟では相対する事さえ難しかった。

 そうして倍速で動くルークは『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』を後ろへと飛ばして攻撃を回避。彼が持つ杖と似た、しかし機械で構築された杖を生み出す。


「時よ」

『父よ』

「あいよ」


 ルークの生み出した不可視の空間の異変に気付いたアル・アジフの指摘に、カイトは月面を蹴って軽やかに舞う様に空間を飛び越える。そうして『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』をも飛び越えたのを受けてルークが振り返る瞬間。その身体へと虹色に輝く糸が絡みつく。


「っ」

「ちょーっとこれは予想できなかったでしょ……おうらぁ!」


 『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』に絡みついた糸は当然、カイトの駆る『神』の頭部からまるでたてがみの様に伸びていた。というわけで、カイトは頭を振って『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』を振り回した。


「くっ! エテルノ! こういう時の最適解は!?」

「切断以外何が!?」

「それをどうやって、って所なんだけどね!」


 カイトにより四方八方に振り回されながら、ルークはエテルノの返答に声を荒げる。そうして、『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』が地面に叩きつけられんと放り投げられた次の瞬間。エテルノが何かしらの魔術を発動させて唐突に糸の動きがある点でカイトの意図しないものとなった。


「っと! 危ない!」

「身体も鍛えておいて正解でしたね」

「君の指示に従ったおかげさ」


 ネコの様に半回転して月面に着地したルークは『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』の拳に魔力を蓄積させ、虹の糸を叩き切る。


「アトラクナクアの糸の一点だけに時間固定を作用させたか。おかげで投げ損ねたな」

「この程度で終わってもらっても困る……ナコト」

「いえっさー」


 カイトの指示を受けて、ナコトがルークと同様に機械で出来た杖を顕現させる。が、それは『神』の手に掴まれるやいなや、巨大な砲塔へと姿を変えた。そうして着地したばかりの『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』へと、カイトが照準を合わせた。


「砲弾はハスターの術式で良いか?」

「月面で風が吹くってのも変な話だ」

「風という概念だ。魔力が風となって吹いているだけに過ぎん」

「そういう事を言い始めると水中で使えるのもおかしくなる」

「わーってるよ。単に言っただけ」


 娘二人からのツッコミに笑いながら、カイトは砲塔に黄色の力が蓄積されるのを知覚。一切の容赦なく引き金を引いた。


「……これはマズいね」

「トリプルアクセル。いけます」

「そうしよう」


 流石に二倍速では到底追い付けないらしい。ルークはそれを今の数度の戦闘で理解し、即座に三倍速での行動を決める。そうして更に加速する『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』はカイトの『神』の持つ砲塔から黄金の弾丸が発射されると同時にその場から消え去っていた。


「ナコト」

「もう組み替えた」

「上出来」


 幾ら高速で消えようと、カイトの本来の能力が失われているわけではない。故に彼はルークが自身の背後に回り込んでいる事を気配だけで理解しており、脇腹を通す様にして魔銃へと組み替えられた砲塔の銃口をそちらに向ける。


「<<加速球(アクセル・バレット)>>」


 銃口が自身の操る『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』の頭部を狙っているのを見ながらも、ルークは迷わず『時計』を生み出した。そうして、球状の時計が放たれると同時に魔銃から魔弾が放たれ激突する。


「ちっ。単なる魔弾じゃ押し負けるか」


 いとも簡単に時計に飲み込まれ消えた自らの魔弾を見て、今度はカイトが飛翔機を吹かして背後に飛ぶ。が、それに合わせるかの様に『時計』もまた軌道を変えて彼を追尾する。しかも単に動くだけでなく、毎秒単位で加速を続けていた。


「おっと……アル・アジフ。シャンタクを」

「了解」

「出来た」

「え、あ、<<ド・マリニーの時計>>? アル・アジフ。キャンセル」

「わかった」


 迫りくる『時計』を正面に捉え、カイトもまた四つの時針を持つ『時計』を生み出して拳に握りしめる。そうしてそのまま迫りくる『時計』を殴りつけ、消し飛ばした。これにルークは顔を顰める。


「っ……似た力があった?」

「わかりません……が、存在して不思議はないかと」

「然りか」


 なにせ魔導書二冊分の魔術を蓄積し呼び出された『神』だ。二冊で一柱の『神』なぞ聞いたこともないような『神』であるが、事実は事実として受け入れねばならない。何が起きても不思議はない。そう考え、改めてルークは気を引き締める。そんな彼に、エテルノが一つ問いかけた。


「ルーク。身体の具合は?」

「まだいけるよ……さらにもう二段階ギアを引き上げても問題なさそうだ」


 ルークはコクピット内部に立て掛けられている巨大な時計を見る。それは今おおよそ3時――分針が前へ後ろへと忙しなく動いているので厳密には3時ではない――を指し示していた。勿論、外が3時なわけがなく、これは単に現在ルーク近辺の時間が三倍速で動いていることを指し示していた。


「これ以上は負担がひどい。今はまだやめておきなさい」

「それに普通に合わせられるというのは、どんな存在なのだろうね」

「……言わないでください」


 常時三倍速での加速に耐えきれるなぞ、今までの主人と比較してもルークはかなりの腕前と言って良いのだ。にもかかわらず、カイトはその三倍速に普通に合わせられる。『神』を召喚できるだけの魔術師でありながら、近接戦闘の戦士としてもこれなのだ。エテルノも他に類を見ない相手だった。


「でも……覚悟はしなきゃいけないかな。似た力があるのなら、もしかすると倍速や三倍速が可能かもしれない」


 そうなると手に負えないが。ルークはカイトが持つ二冊の魔導書の引き出しの多さに僅かに苦笑する。が、苦笑してばかりもいられない。故に彼は覚悟を決めて、エテルノに告げた。


「エテルノ。アクセルをフォースへ」

「だからやめなさいと」

「苦言は無視……あれには三倍速じゃ到底追い縋れない。四倍でようやく対等に立てるかどうかだ」

「……了解しました」


 現状を正確に認識出来ているのはどちらか、と言われれば間違いなくルークだろう。エテルノはそれを自覚し、その指示に少しだけ不承不承であったが承諾する。そうして、『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』の各所に刻まれた歯車が更に加速し、速度が更に上昇する。


「む」


 残像さえ生じさせ加速する『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』に、カイトは僅かに顔が歪む。そんな彼にアル・アジフは指摘した。


「別にこの程度の速度。あの女傑(スカサハ)と比べ天と地ほどの差があるだろう」

「あれは比べたくない……生身で光速超えるなんぞ姉貴以外できる芸当とは思わねぇよ……」


 というか思いたくない。カイトはそんな様子で残像の中からルークの本体を見抜き、放たれる輝く手刀に<<バルザイの偃月刀>>で対応する。


「ち……流石に四倍速に一刀流じゃきついか。二本目」

「はい」

「おっしゃ」


 一刀流で対応仕切れないと判断したカイトはナコトの顕現させた二本目を左手に持ち、ルークの手刀に二振りの<<バルザイの偃月刀>>を合わせる。と、そうして数十度手刀と偃月刀が交わった所で唐突に『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』の手に宿る光が伸びて杖を象った。


「っ、まずっ」

「準備完了」

「オーライ。目の前の事に注力する」


 流石にこの一撃は耐えきれないかも。そんな様子を見せたカイトに対して、ナコトがすぐに報告。何をするか察したカイトは杖を<<バルザイの偃月刀>>で受け止める。が、ルークが編み上げた光の杖は<<バルザイの偃月刀>>を打ち砕き、カイトの駆る『神』へと肉薄する。


「おらよ!」


 後少しで直撃する。そんなタイミングで、『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』の真横からもう一体の『神』が現れ蹴っ飛ばす。そうして土煙を上げて『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』が月面をぶっ飛んでいった。<<ニトクリスの鏡>>による鏡像だ。


「さて……」


 吹き飛ばされていく『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』へとカイトは再度砲塔を構え狙い定める。が、その前に『不変なる永劫イムタビリス・アイオーン』が消えて、カイトの背後へと回り込んでいた。


「ちっ。そう甘くはないか……コード・シャンタク。少し飛ぶぞ」

「了解。宇宙遊泳も悪くない」

「高速戦闘モードへ移行」


 蒼い輝きを身にまとい、カイトの駆る『神』が背面の飛翔機から虹色のフレアを撒き散らして飛翔する。そうして、戦いは月面から宇宙へと移動する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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