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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2488話 魔術の王国 ――第二幕――

 魔術都市『サンドラ』にて二週間に渡る体験授業を受け終えた後。カイトは『サンドラ』にて魔術を披露する『展覧会』に客寄せパンダとして参加していた。

 そんな中、三回戦まで歩を進めた彼はエネフィア版『外なる神(アウダーゴッズ)』とでも言うべき『星神(ズヴィズダー)』の差し金を受けたルークとの戦いに臨んでいた。そうして丁度彼が『神』の腕を召喚し、カイトの生み出した竜巻を握り潰すという荒業を披露していた頃。ティナは『黒き者(アートルム)』との戦いを終わらせ観覧席へと戻ってきていた。


「お、まだやっとるな」

「ティナちゃん。おかえりー。用事終わったの?」

「うむ。ま、単なる野暮用じゃったが……なんぞ変わった事は?」

「特に無いわねー。カイトが奮戦してるぐらい。あ、そういえば売り子の子が来てたからトルティーヤチップス買ったけど、食べる?」

「む、頂こう」


 これを特に無いと言い張るんだ。灯里の返答に平然とするティナもティナであったが、それに対する周囲の面々はある種の驚愕に包まれていた。というわけで、代表して瞬が問いかける。


「いや……三柴先生。これは流石に何もなかった、というのは違うと思うのですが……」

「べーつにこの程度普通でしょ。そりゃ、中で黒いネズミがいきなり現れて消えちゃったり? ルークくんがなんか『神の書』とかなんとかっていう魔導書を実は持ってたり? そりゃ驚く事はあるでしょーけど。それがわかってれば別にこの騒然とした状態も当然の流れでしょ」

「あむ……そうじゃのう。別に今更ルークが『神の書』を持っておっても驚かぬし、エデクス公もそれをわかっておるから最初から知っておったぞ、と言っておられるんじゃろ」


 流れさえわかればこの騒然とした様子も別に道理と理解している灯里に対して、ティナはこうなる事が想定内なので特に驚かなかったようだ。と、そんな彼女の言葉に瞬が驚きを浮かべる。


「知っていたのか?」

「知っておるというか……なぜ誰も理解せんのやら。エテルノが魔導書である事ぐらい、一目瞭然じゃろうて。のう、レメゲトン」

『然り。それに気付けぬのであれば、大成できそうにないな』

「ぐっ……」


 気付けぬ方がおかしい。そう言わんばかりのレメゲトンに瞬が僅かにムッとなる。が、これは別に瞬を指弾したわけではなかった。


『ああ、気にするでない。これは別に貴様の事を言うわけではない。未熟を知り、故に歩むのであればそれは情けなく思うではなく道理と受け止めよ。道理を道理と受け止めるのは魔術師としての基本中の基本よ……にも関わらずそれができてもおらぬ者共のなんと多いこと多いこと』

「ま、そういう事じゃな……魔術師でありながら魔導書が化けておるのを見抜けぬのは情けないのう」

『ははは。これは手厳しいですな』


 魔術都市を謳いながら魔導書の偽装も見抜けぬ事を嘆くティナの言葉に、どうやら貴賓席から聞いていたらしいエデクスが笑う。これに、ティナが問いかける。


「御老公……ですが、道理でしょう?」

『いや、まったく返す言葉もない』

「好きにさせる、で良いのじゃな?」

『ええ。適度に請け負おいましょう……まぁ、それでも見抜ける者は見抜けるでしょうが……なぁに。これでも『サンドラ』有数の魔術師集団というのが最高評議会の触れ込み。問題無い程度にはしてみせましょう』


 ティナの改めての念押しに対して、エデクスははっきりと請け負った。そもそもエデクスとしてもエテルノがおおっぴらにされるのは望むものではない。故に両者の利益が合致していたのである。

 というわけで、エデクスは改めて最高評議会に属する魔術師達による魔術での隠蔽を施す事に尽力し、ティナは気兼ねなくカイトとルークの戦いの観覧に戻るのだった。




 さてティナとエデクスが軽く話を終わらせていた一方、その頃。戦場の内側では『神』の腕を召喚したルークがカイトを押し返し始めていた。


「ちっ」


 がぁん、という轟音を上げて、カイトが吹き飛ばされる。受け止めた<<バルザイの偃月刀>>は打ち砕かれており、故に彼はアル・アジフとナコトに頼み次の二振りを顕現させる。


「はっ!」


 虚空に火花を散らして、カイトが減速する。そこに、滑空する様にルークが迫りくる。


「さぁ、今度はそっちが連撃に耐えてもらう番だ!」

「はぁー……」


 振りかぶられる巨大な『神』の腕を前に、カイトは一度だけ深呼吸して呼吸を整える。そうして、先の自身の連撃に匹敵する速度での連打が放たれる。とはいえ、近接戦闘を行うカイトにとってはこの程度なら十分に対応出来る連撃だった。


「はっ」


 超高速で振るわれる『神』の腕に、カイトは両手の<<バルザイの偃月刀>>で全て切り払う。『神』の腕に対抗するのに若干体術も要しているが、この程度は十分にルール上問題のない範疇だ。

 そもそもそんな事を言い出してしまえば近接戦闘の一切が不可能になり、それを主眼とした魔術が使えなくなってしまうだろう。というわけで<<バルザイの偃月刀>>と体術のみで『神』の腕の連打に耐えるカイトだが、これだと負けが見えている事も理解していた。


「追い打ちだ!」


 『神』の腕の連打速度とカイトの連撃速度は現状大差がない。故にほぼ互角の押し合いを演ずる『神』の腕とカイトであるが、そこにルーク当人が杖の先端をカイトへと向ける。


「ニトクリス!」

『申請……許可』


 ルークの杖の先端に宿るよりも前。その魔術の高まりから先を理解したカイトの要請を受けたナコトが即座に彼の鏡像を生み出し、その進路上に配置する。そうして、次の瞬間。ガラスの砕け散るような音と共に鏡像が砕け散り、しかし鏡に反射されてルークのはなった光条は彼へと送り返される事となった。


「っと! そういう使い方も出来る魔術なのか!」

「鏡だぜ! 当たり前だ!」


 この反撃は想定できていなかったらしいルークであるが、どうやら距離を取る事で対応する事にしたらしい。それに合わせ『神』の腕が引いたのを受けて、カイトは追撃とばかりにルーン文字で幻影と刻んだ<<バルザイの偃月刀>>を投擲。それにナコトとアル・アジフが<<ニトクリスの鏡>>で鏡像を生み出す。


「無駄だよ! <<創世の光(ジェネシス)>>!」


 無数の<<バルザイの偃月刀>>に対して、ルークは『神』の右腕を放ち一撃で全てを粉砕。残る左腕に力を溜めて、巨大な光球を放つ。


「コード・ツァトゥグア」

『承認』


 カイトの申請を受け、彼の眼前に巨大な氷壁が出現する。そうして一瞬だけ氷壁が巨大な光球を押し留め、その間にカイトがその場を離脱する。


「ちっ……流石に半端だとはいえ『神』を出されちゃキツイか」

『こちらもそろそろ『神』を出してやるか?』

『手だけでも出した方が楽……というかそれで勝てる』

「まだだな。ルークが全身を喚べていない……流石にまだ『神』の完全召喚を一発で決めるのは厳しいみたいだな」


 実のところ、カイトも彼の娘達も揃ってエテルノがルークの補佐ではなく『神』の召喚に注力している事に気付いている。それ故にこそ自分達があっさり『神』を召喚しない様にしていたのである。


『まぁ、そうだろうな。何年一緒に居るのかは知らんが……それでも若すぎる』

『でもパパ』

「唐突なパパ呼びやめて?」

『むぅ……気にいると思ったのに……ティナなら今頃わはははは、って笑いながら喚んでる』

「あいつは例外だ……コード・アザトース」

『『承認』』


 いつも通りの雑談を繰り広げる三人であるが、氷壁が砕け散ると同時にカイトが次の魔術を申請。それに二人が了承を示す形で再び戦いに戻る。そうしてそれを受け、カイトが目を閉じて神陰流の<<(まろばし)>>のみでルークの攻撃に応対する。


「ん……」

『危険……ですね』

「見ればわかる……が、惜しむらくは何をしてくる気なのかがわからない所だ……エテルノ。『神』の構築は?」

『まだ七割です』

「そうか……急いでくれ。流石に私一人だとそろそろ押し負けそうだ。手数が多すぎる。当たり前なんだけどね」

『自分で言い始めたんですから、泣き言を言わないでください』


 相変わらずの辛辣さで助かるよ。ルークはエテルノの言葉にそう思う。というわけで、ルークは今度は『神』の腕に力を溜めて輝く腕として、カイトへと襲いかかる。


「コード・シャンタク」

『二重は厳しいぞ』

「半端で構わん」


 アル・アジフの指摘にカイトは問題無い事を明言。それを受けたアル・アジフは起動中の魔術に加え別に別に魔術を展開。カイトに付与する。


「っ」


 放たれる輝く『神』の腕に、カイトはなめらかに滑るような動きでその全てに対応する。流石に力が蓄積された『神』の腕の連撃を全て受け止めていれば、早晩<<バルザイの偃月刀>>が砕け散るのが目に見えている。幾ら即座に召喚出来るからとそんな事をしてしまえば切れ目を狙い撃たれて敗北は十分にあり得た。故に回避多めに対応していたカイトであったが、ある瞬間。思わず動きを止める事になった。


「さぁ、第三幕だ!」

「!」


 目を閉じたまま、カイトは空気や魔力の流れからルークがさらなる『神』の身体を召喚する事を理解する。故に彼はその場で地面を踏みしめ、<<バルザイの偃月刀>>を握りしめる。そうして、直後。『神』の右腕が放たれた。


「はっ! はぁ!」


 右腕を切り上げ軌道を逸し。次いで放たれる左腕は上段から切り伏せる様にして思い切り上に飛び上がる。そうしてルークを飛び越えようとしたその瞬間だ。カイトの眼前に巨大な機械仕掛けの『顔』が現れた。


『グォオオオオオ!』


 声ならぬ声による雄叫びが放たれる。それはカイトを彼方へと吹き飛ばす。そうして飛んでいく彼を、『神』の顔が目を見開いてその双眸で睨みつける。


「っ、アザトース。展開準備」

『完了してる』

「……」


 ナコトの返答を聞きながら、カイトは地面を滑り、それさえ力を溜める動きとして利用して<<バルザイの偃月刀>>を納刀するような動きで腰だめの構えを取る。


「<<神の目(ゴッド・アイズ)>>」


 ルークが告げると同時。『神』の双眸よりルークが放つ数倍の密度の光条が解き放たれ、カイトへと迫りくる。それに、居合斬りの姿勢のカイトは一瞬を見極める。


「……はぁ!」


 気合一閃。迫りくる光条に向けて、カイトが<<バルザイの偃月刀>>で一閃する。そうして真っ二つに裂けた光条に、ルークが目を見開いた。


「驚いた……まさか<<神の目(ゴッド・アイズ)>>を切り裂くのか」

「アザトースは目覚めれば全てを滅ぼすとされる神……本来は一切の動きを止めれば止めるほど力を増すっていう超絶に使い勝手の悪い魔術なんだが……なんとか、って所だな」

『偃月刀は砕けたがな』

「うん? あらら」


 アル・アジフの指摘で<<バルザイの偃月刀>>の刀身が砕け散っていた事に気付いて、カイトは特に興味もないかの様に残骸を投げ捨てる。

 所詮こんなものは魔力で編んだ模造品。使い捨てだ。ガラスの砕け散るような澄んだ音を立てて砕け散ったし、彼が再度手を振るだけで新しい<<バルザイの偃月刀>>が現れた。


「さ、続けようか」

「ああ……エテルノ。今どのぐらいだい?」

『九割……後は遊んでいる間に終わります』

「そうか」


 ようやくか。ルークは内心で僅かな安堵を浮かべる。流石に彼もカイト相手に遊べるわけがなく、余裕を演じこそすれ余裕があるわけではなかった。そして更に言えば、『神』を完全に召喚する以上、この場では不十分だった。彼は敢えて時間稼ぎを選択する。


「さて……そろそろ良い頃合いだ」

「そろそろ、切り札を見せてもらえると考えて良いかな?」

「勿論……お代は結構だ」


 ぱちん。ルークが指をスナップさせる。すると、周囲が一変して地面は灰色。天は満天の星空という空間に変貌する。それに、カイトが思わず感嘆の声を上げた。


「ほぅ……こりゃ、見事だ。オレも初めて見たね」


 彼方に見える巨大な蒼い星に手を伸ばし、カイトは僅かに陶酔を滲ませる。


「それは結構……にしても、君はここがどこかわかっているみたいだね」

「ああ……逆に驚いたのはオレの方だ。やったこと、あるのか?」

「無いよ。ぶっつけ本番だ」

「にしては、呼吸に困っていないな」


 とんとん、と軽く飛ぶだけでいつもより高く飛べる状況に、カイトは少しだけ楽しげだった。そんな彼の問いかけに、ルークが笑う。


「聞いたからね。君の仲間達に」

「うん? ああ、マクスウェルに来た事があったのか」

「君達が来た後にね……そこで宇宙では空気が無い事なんかは聞いたよ。準備だけは、しっかりしているよ」

「そうか……イイねぇ。『神』で思う存分暴れまわるには十分な場所だ。どうする? 合わせるか?」

「それは良いね。私も『神』と『神』で戦うのは初めてだ」


 乗ってくれたか。ルークはカイトが想像通りの反応をしてくれた事にほっと一安心という具合で笑う。そうしてカイトが乗ってくれた事を受け、ルークは今まで召喚していた『神』の上半身を一度解除。灰色の世界へと舞い降りる。


「ん?」

「そっちがゼロからやるんだ。なら、こっちもゼロからやるのが対比としてちょうどよいんじゃないかな?」

「あはは。なるほど。確かに最初がそうだったんだから、そうであって良いかもな」


 ルークの提案にカイトは興が乗ったと応ずる事にする。そうして、二人の戦いは舞台を遥か天高くへと移して最終章へと移行するのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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