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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2485話 幕間 ――魔導王――

 魔術都市『サンドラ』に招かれ、二週間に渡って数年後の交換留学を想定した体験授業を受けていたカイト率いる冒険部であるがその行程も全て終わり、残す所もう一つの目的である『展覧会』への参加のみとなっていた。

 というわけで、二回戦でルークに瞬が敗北していた一方、その頃。ティナは一人『星神(ズヴィズダー)』というエネフィア版『外なる神(アウターゴッズ)』とでも言うべき存在の一柱『黒き者(アートルム)』と相対。<<ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)>>の力の一端を解放し、ソロモン七十二柱の一柱エリゴスを召喚。『星神(ズヴィズダー)』の『奉仕者』と戦わせていた。


「……」


 エリゴス対『星神(ズヴィズダー)』の『奉仕者』の戦いであるが、これは火を見るより明らかだった。ティナさえ敬意を払うソロモン王が自らの技術の粋を凝らし編み上げた七十二柱の眷属だ。

 本来軍勢を操る事に長けたエリゴスなのであるが、単独でも戦闘力はずば抜けていた。故に、彼は一つ槍を振るい槍の顕現を解除。ティナへと傅き頭を垂れた。


「我らが王よ。御身を侮りし不遜なる者共の討滅、終わりましてございます」

「よくやった。エリゴスよ。貴様にも別名あるまで待機を命ずる」

「はっ」


 ティナの王命を受け、エリゴスもまた他の眷属達と同じ様に彼の記された魔導書が変化した指輪へ格納される。


「半端者共を媒体とし、己等の『奉仕者』を呼び寄せる……まぁ、悪くはあるまいて。が、余とソロモン王の眷属らには些か……いや、大きく役不足じゃ。せめて本物を連れてこい。さすれば、まぁまだ何柱かは出してやってもよかろうな」

『……』


 あまりに圧倒的。自身の使い魔と『奉仕者』の格の違いを見せつけたティナは、『黒き者(アートルム)』に王が如く傲慢に告げる。が、今の一幕を見せられては、『黒き者(アートルム)』も何も言えなかった。そうして、しばらくの沈黙の後。『黒き者(アートルム)』はゆっくりと拍手をティナへと送る。


『……お見事です、かつての王よ。やはり我らの杞憂は杞憂に過ぎなかった』

「ほう……試したと?」

『無論ですとも。御身とこの時代の有象無象の差がこの三百年でどの程度縮まったのか。よもや追いついたとは露ほども思っていませんでしたが……まさか縮まるどころか遠ざかるとは』


 拍手を交えながら、楽しげに『黒き者(アートルム)』は笑う。そうして彼は少しだけ悩ましげな様子を見せつつ、口を開いた。


『はてさて……どうしましょう。本当は、ここで終わっても良かったのですが……』


 ぐっ。『黒き者(アートルム)』は漆黒の手を強く握りしめ、拳を前に突き出す。その意図なぞ、察するにあまりある。


『こんな簡単に終わっては興醒めでしょう? あの頃の貴女と今の貴女。どう変貌を遂げたか……見せて頂きましょう』

「ほぅ……では、合意という事で良いか?」

『無論ですとも』


 ティナの最終確認に対して、『黒き者(アートルム)』は笑いながらはっきりと明言する。そうして、彼の闘気が轟々と高まり実体化するかに思われた次の瞬間。その土手っ腹に巨大な風穴が空いていた。


『……これ……は』

『間抜けめ。なぜまともに相対してもらえると思うておったのか』

『なに……が』


 土手っ腹に風穴が空いた『黒き者(アートルム)』であるが、人間であれば血の塊でも吐いているのだろう様相で困惑気味に問いかける。そうして彼の見ている前でティナの姿が霞み、消え去った。


『……はぁ。答え合わせとかしてくれないんですね。さりとて去るわけでもなし』


 ぱんぱん。まるでホコリでも払うかの様に、『黒き者(アートルム)』は土手っ腹に空いた風穴を数度撫ぜる。それはあたかも穴をまるごと払い落とすかの様で、それだけで風穴は元からなかったかの様に消え去った。それを見て、ティナが何処からともなく姿を顕す。


「お主らが油断ならぬ事なぞ、地球で身にしみて理解しておるわ。この程度で殺せるなぞと思うてなぞおらん。おらんが……なるほど。さすがは偉大なるソロモン王が遺せし数多の術式よ」


 今の様子だ。完全に不意を打ったと考えて良さそうではあった。が、いつまでもあれをそのままにしておくといつかは解析される。なのでそれを危惧し、ティナは早々に解除したというわけであった。

 なお、今彼女がした事は単に今まで相対していたのがソロモン七十二柱の力を使って編み出した偽物だというだけで、本体である彼女は同じくソロモン七十二柱の力を使い自身を空気に偽装したのである。空気に偽装した自身を見破れるか、と試して見破れなかったようだ。


「では、始めるとしようかのう。レメゲトン」

『承った、我が主人』


 たんっ。ティナは魔術師には見合わぬ軽やかな動きで虚空を蹴って『黒き者(アートルム)』へと肉薄する。それに泡を食ったのは『黒き者(アートルム)』だ。


『っ、はっ!』

「エリゴス」

『承知』


 ティナの言葉にレメゲトンが即座に応じ、ティナの手に先程エリゴスが操った槍と同じ拵え。同じ素材の物が現れる。そうして、エリゴスの槍と『黒き者(アートルム)』の拳が激突。双方僅かな押し合いの後、『黒き者(アートルム)』が距離を取る。


「アガレス」

『承知』


 一歩で遠ざかる『黒き者(アートルム)』を見て、ティナは即座に次の眷属の力の顕現を命ずる。それを受け即座にレメゲトンが最善の術式を選択。ティナの左右に無数の鷲が顕現し、猛烈な速度で『黒き者(アートルム)』へと追い縋る。


『っ! はぁああああああ!』


 迫りくる無数の鷲に向けて、『黒き者(アートルム)』は両拳を放ち粉砕していく。そうして一撃一撃で粉砕されていく鷲で牽制していく一方。ティナは次の眷属の力の解放を命ずる。


「バルバトス、及びレライエ」


 次いでティナが呼ぶのは、狩人。その命令を受け、無数の矢が『黒き者(アートルム)』に向けて容赦なく降り注ぐ。その矢には傷を悪化させる術式が加えて付与されており、一切の容赦なく『黒き者(アートルム)』を葬り去るつもりだった。


『っ』


 ここまでとは。一気呵成に攻め立てる、というよりも単純に容赦のないティナの攻勢に『黒き者(アートルム)』は僅かに顔が歪む。想定以上、という様子であった。

 敢えて言うが、決して『黒き者(アートルム)』が弱いわけではない。彼は神。それも『星神(ズヴィズダー)』を名乗る、本来はエネフィナの多くの神を凌駕する神だ。それを相手に一方的な戦いを演ぜられるティナが強すぎるのである。


『おぉおおおおお!』


 このままではマズい。それを理解した『黒き者(アートルム)』は雄叫びを上げて、迫りくる毒矢の雨を弾き飛ばす。そうして吹き飛んだ鷲と毒矢の雨が力なく舞い落ちる中、『黒き者(アートルム)』は漆黒の閃光と化してティナに肉薄する。


「アンドラス、アイム」


 肉薄してきた『黒き者(アートルム)』に対して、ティナはまた別の眷属達の名を告げる。それを受け、彼女の手に炎と輝く剣が二振り現れた。


「はっ」

『っ!』

「どうした? 遊ばせてくれるのではなかったかのう」

『ぐっ……おぉおおおお!』


 二振りの剣でもって渾身の一撃を防いだティナに向けて、『黒き者(アートルム)』は裂帛の雄叫びと共に連打を繰り出す。その速度は先に鷲を防いだ速度を倍にしても飽き足らず、魔術師であれば到底防ぎきれぬ速度だった。が、これにティナはまるで平然と追従し、その全てを二振りの剣で防ぎ切る。


『っ』

「グラシャラボラス」

『!?』

『たわけが!』


 一瞬の停滞を見て姿を消したティナに警戒する『黒き者(アートルム)』であったが、そこにティナが光条を放ち再度『黒き者(アートルム)』の土手っ腹に巨大な風穴を空ける。

 先程と同じく実体さえなくなったのかと思ったわけであるが、実際には単に不可視となっただけだ。故に『黒き者(アートルム)』が警戒し身構えるより前に攻撃が届いたのである。


「さて……」


 不可視の状態から元に戻り、ティナは僅かにほくそ笑む。その一方で超音速で『黒き者(アートルム)』が吹き飛んでいくのであるが、虚空に四肢を着け火花を上げて急減速。空気の流れから不可視となっているだけと悟り、即座に彼女の居場所を察知し再度距離を詰める。が、次の瞬間。道半ばまでも到達せずに、その姿が爆炎に包まれた。


『ぐがっ!』

「ふぅ……はんっ。甘い。甘すぎるのう。お主余がこの状態では眷属らの力しか使えぬとでも勘違いしておらぬか?」

『我が主よ。あまり悪し様に言うではない。我らの扱いにおいては貴殿は我が父にして偉大なるソロモンを上回っておるかもしれん』


 爆発に巻き込まれ粉微塵に消し飛んだ『黒き者(アートルム)』を見ながら、吐き捨てる様に告げるティナにレメゲトンが少しだけ苦笑を混じえて笑う。どうという事はない。

 彼女は単にルーン文字を眷属の力で偽装し、周囲にいくつも仕掛けておいただけだ。そしてそれ以外にも仕込みはいくつもなされていた。そうして粉微塵になった『黒き者(アートルム)』であるが、その実体は不定形なのか粉微塵になった部位が集まっていき再び人の形を取る。が、その顔にはありありと驚愕が見て取れた。


『まさかここまでとは……我らを優に上回っている。貴女でこれなら、かの勇者はどれほどのものなのか』

「あれなら余を遥かに上回っておるわ……相対するなら、心せよ。あれはあちらの世界では相当な評価を受けたようじゃぞ」

『心しましょう……』


 ティナの助言とも取れる言葉を胸に刻みながら、『黒き者(アートルム)』は再び拳を握る。それにティナは再び命じた。


「ヴァサゴ」

『またその手ですか! もはや通用しません!』


 今度は無数のカラスを顕現させたティナに対して、『黒き者(アートルム)』は拳から光条を放ちそれらを全てまとめて撃ち落とす。そうして漆黒の羽が舞い落ちる中を、『黒き者(アートルム)』は突っ切った。が、その身に舞い落ちる漆黒の羽が振れた瞬間、『黒き者(アートルム)』の身体で爆発が起きた。


「阿呆め。こちらこそそのような手が通用すると思うてか」

『では、これは?』


 ティナの真後ろに顕現した『黒き者(アートルム)』であるが、その次の瞬間。その足元に魔法陣が現れてその姿が再び消し飛ぶ。が、消し飛んでも数瞬後には再び元通りだった。


『ふぅ……はっ!』


 まるで舞い落ちるカラスの羽が邪魔とばかりに、『黒き者(アートルム)』は気合一閃その全てを吹き飛ばす。そうして再度激突せんとしたその瞬間だ。今度は『黒き者(アートルム)』の内部から爆発が起きた。


『何が……?』

「む……存外威力が高くならんかったのう」


 原型を留める首の発する言葉を聞いて、ティナはそんな事を口にする。あの再構築の瞬間。カラスの羽に偽装させた魔術を意図的に『黒き者(アートルム)』に取り込ませ、内部から爆発させたのである。というわけで、彼女は仕方がないので杖を取り出しその先端を『黒き者(アートルム)』へと向ける。


「消え去るが良い」


 ごぅ。そんな空気を巻き込むような音と共に放たれた光条が、『黒き者(アートルム)』の残骸を全て飲みこんで消し飛ばす。そうして跡形もなく消し飛んだ『黒き者(アートルム)』であったが、声だけが響いてきた。


『これは……どうにも勝ち目なぞ無い様子。ここらで御暇しますよ』

「ふん……存外堪え性の無い奴じゃ」


 どうやらこれ以上復元した所で一方的にやられるだけと悟ったらしい。『黒き者(アートルム)』は声だけを残し、そのまま消え去る事を選択したようだ。

 そしてさすがは『星神(ズヴィズダー)』という所で、ティナも追跡はできなかった。そうして、彼女は『星神(ズヴィズダー)』との初戦闘を圧倒的勝利で飾る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ティナの圧倒的な実力を見れた [一言] カイトが可笑しいだけでティナも怪物級だがらなぁ…
[一言] 外なる神ってこんなに弱かった?って思ったけど、ティナが強すぎるだけだった…
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