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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2480話 魔術の王国 ――控室――

 魔術都市『サンドラ』に招かれ、体験授業を受けていたカイト達。そんな彼らは二週間の行程も終えて残す所は『展覧会』への参加のみとなっていた。というわけで『展覧会』の初日は観覧のみで終わった一同であるが、教導院に戻って談話室にて今日一日で見た物を話し合っていた。


「本当に色々な物があったわね」

「うむ。いや、面白い技術の持ち主じゃったと言ってよかろう」


 あれは覚えておくべきだろう。ティナは初日の優勝者となった魔道具の製作者を思い出し、改めてそう判断する。そんな彼女に灯里が問いかけた。


「あれは何がどう革新的だったわけ?」

「そうじゃのう……まぁ、個々の性能として高効率になる様に調整がされておるという点であれば、別に取り立ててこうじゃと言う必要はない。そんなものは魔導鎧のみならず、魔道具を作る上でして当たり前じゃからのう。その点であれば、さして素晴らしい腕を持つとは言い得まい」


 灯里の問いかけに対して、ティナは基本的な点に関しては高度に纏まってはいたもののあくまでも高度に纏まっている程度であると明言する。


「では何が革新的じゃったかというと、あの魔導鎧の防御面においてあの魔導鎧は非常に革新的じゃった。あの魔導鎧。妙に装着者へのダメージが軽減されておったのはお主も見たであろう?」

「うん。なんていうかほとんどノーダメって感じだった」

「そうじゃ。相手の魔術師も悪うない腕を持っておったし、魔道具の技術にしても悪くはあるまい。どこぞの国で主任研究員を任されても良い腕じゃろう」


 ティナは改めて今回の優勝者の最後の相手を思い出し、その相手も決して悪い腕ではなかった事を明言する。が、その上でと今回の優勝者の作った魔導鎧について語った。


「が、そんな相手の攻撃を寄せ付けなんだ。ではそれが何に起因しておるかというと、あの魔導鎧に展開されておる特殊な力場……というか相転移の技術じゃな」

「相転移? 位相って確か魔術的に言えばその存在が存在する空間とか次元の事よね?」

「そうじゃな。位相がズレれば干渉は出来なくなる。次元であれば高次元から一方的に干渉が可能じゃがの。相転移はその位相をズラす事じゃな」


 ここらは空間系・次元系の魔術を使う上での基礎的な知識だ。地球への帰還を目的とする天桜学園の技術部を統括している灯里にとって当然と把握している内容だった。故にティナもさらりとしたおさらいに留め、話を先に進める。


「とどのつまり、あの魔導鎧はその相転移を引き起こして攻撃を防御してた、ってわけ?」

「そういうことじゃ。位相を変化させて攻撃を防いでいたわけじゃな。流石に位相をズラされては生半可な魔術師では対処が出来ぬ。やろうとすれば次元や空間に作用する魔術を用意するしかないが……相手方も自分の技術に拘ってしまったのが敗因と言えるじゃろう」

「その技術に拘る為の場のような気もするけどね」

「そうじゃな。自身の作り上げた技術の総決算が『展覧会』じゃ。最後の最後で自身の技術を捨てては元も子もない。試合に勝って勝負に負けた、になるからのう」


 今回は『展覧会』という会場が最後には勝敗を分けたと言っても良かったかもしれない。灯里の指摘を聞いたティナは笑いながらそう思う。どちらも技術的には優れていたらしいが、対人戦という意味であれば優勝者の方が勝っていたようだ。というわけで、改めてそこらにティナは言及する。


「とはいえ、今回の優勝者の技術が戦いにおいては優位である事はこれで立証された。まだまだ技術的には甘い点、量産に向かぬ点は見受けられるが何十年か後には一般的に普及する技術になるやもしれん」

「結構凄い技術っぽいのね」

「それどころかあれは歴史に名を残す技術となるじゃろうて」


 どこか興奮を滲ませながら、ティナははっきりと今回の優勝者が歴史に名を残すだろう事を明言する。と、そんな所にカイトがどこか疲れた様子でやってきた。


「ただいまー」

「あ、おかえりー。何やってたの?」

「どっかの誰かが急ぎ手配せい、っていうからクズハとアウラに招聘の指示出す様に指示出してた」

「招聘……誰の?」

「今回の優勝者」

「はやっ!」


 どうやらティナが即座にカイトに指示を飛ばして今回の優勝者を招く事が出来ないか試してもらう事になっていたらしい。その指示を急ぎで飛ばしていたので、ここまで疲れていたようだ。というわけで、そんな彼らにティナは改めて今回の優勝者の凄さを語る。


「今回の技術は魔導機に活かせば飛躍的な防御力の向上が見込める。若干消耗が激しい事はあるが、強大な魔物を相手にする際のブースターとしては非常に有益じゃ」

「あー……確かに魔導機って大きいから的も大きいもんねー。というか、大きい相手と戦う為の魔導機だから当然なんだけど」

「そういうことじゃな。それを如何に守るか、という点においてあれは有益というわけじゃな」


 そしてそれを理解していればこそ、カイトも今回の優勝者を招聘出来るかやってみたわけか。灯里はそれを理解する。と、そんな事を考えた彼女であったが、そこでふと思い出す。


「……ってか、そもそも魔導鎧にあれは付けられる様にしないの? ソラくんのとか丁度良さそうじゃない?」

「あー……うむ。まぁ、追々であれば考えてもよかろうがのう。あれはまだ開発途上の技術過ぎる。あれで全身を覆うのは些か難しいじゃろうて」

「そうなの」


 天才的な技術者にして魔術師であるティナが少し困ったような顔で難しい事を明言するのを受けて、灯里は少し意外そうに思ったようだ。が、新技術なぞそんな物だし、何より問題点があった。


「何よりあの魔導鎧は色々と革新的な技術を使っておるから、既製品の魔導鎧とは一線を画する性能を持っておる。が、同時にそれ故にこそ内部的な規格が合致せん所が多いんじゃ。そしてあの防御壁を展開する為に組まれておる魔導鎧はそれ専用の物。それをあれに組み込むのは若干困難じゃな」

「ワンオフだからこそ、ってことね」

「そういうことじゃな」


 灯里の理解にティナは一つ頷く。というわけで、その後は魔導機や魔導鎧にあの技術を組み込むのならどうするべきか、等の話し合いをしながら、この日は終わる事になるのだった。




 さて『展覧会』初日も終わり、『サンドラ』滞在の行程最後となる日曜日。この日カイトは当初の予定通り『展覧会』に参加する事になっていたので、朝から控室にて自由にしていた。


『父よ。初手はどうするんだ?』

「勿論、お前らを初手で切るなんてあり得ない。無論、ルークみたいに切って良いほどの相手ならば切るがな」


 アル・アジフの問いかけにカイトは笑って彼女らの温存を明言する。彼女らはカイトにとって切り札だ。それをひけらかすような事はする気はなかった。それにアル・アジフは上機嫌に了承する。


『そうか……しかしならば、どうする?』

「そうだな……適当に最初は精霊魔術で遊ぶ。後はどれだけ、という所だな」

『そうか……私達を切って良いような相手が出てくる事を期待しよう』

「そうしてくれ」


 カイトとしてもそれで良いし、今回は単に招かれた礼で客寄せパンダとして立つだけだ。故に適当に数戦戦って適当に引き上げるだけであった。というわけで試合開始までのしばらくの時間を費やす彼であったが、そこに声が掛けられた。


「ん?」

「すまん。少々大丈夫か? お前が奇数の控室にいてくれてたすかった」

「ああ、先輩か。先輩も奇数だったのか……どうした?」

「いや……今このナイフの様子を見ていると変な刻印に気が付いてな。急で悪いが話を聞いておきたくてな」


 カイトの勧めを受けて腰掛けた瞬であるが、彼は師であるクー・フーリンから受け継いだナイフをカイトへと差し出す。このナイフの全容はまだ彼にはわかっておらず、同門であるカイトに聞くのが一番と判断したようだ。


「刻印……どこだ?」

「この柄の部分だ。試合に備えて一度分解清掃をしていたんだが……コーチの刻印を以前見せてもらったんだが、少し違う気がしたんだ。ルーン文字とは少し違うような印象もある」

「ふむ……確かにこれはフリンの物じゃないな。無論、ルーンでもない。こいつは姉貴……さらに師のスカサハが刻んだ物だ。こんな小さな刻印。よく気付いたもんだ」

「いや……気付いたのは今しがただし、何だったら何回も分解清掃しておきながらこれだから褒められても困るんだが……」


 刻印は数ミリ。本当に肉眼であれば見つけにくい物だった。それを見付けた事に対するカイトの称賛に対して、瞬は少しだけ困り顔で首を振る。

 ちなみに、このナイフは瞬が自作したものではないが魔術の媒体として使う物なので使用可能らしい。魔術の中には媒体を必要とする物もあるので、その場合のみ自作でなくても持ち込み可能だった。


「あはは。そうか……うん。この刻印は姉貴らしいと言える。あの人、これをこのサイズで刻むんか。相変わらずバケモン極めてんなー。これ、二千年前のものだろ? ってことは今はこれ以上か。えっぐ」

「ど、どんなものなんだ?」

「発動の補佐をしてくれるものだ。簡単に言えば、ある程度不格好になっていてもそれが発動出来る形に手直ししてくれる、というものだな。なるほど。姉貴らしいというかなんというか……」


 さすがは数多英雄を育て上げた英雄の母という所か。カイトはスカサハの仕掛けた刻印を見ながら、少しだけ苦笑気味だった。


「お、おぉ……難しいのか?」

「ルーン文字について、見習いが発動するだろうルーン文字をおおよそ全て把握しとかないと駄目だな。そしてその上でどういうミスをしやすいか、という所を把握してそれを自動で修正する……これを簡単って言えるのなら節穴だな」

「な、なるほど……」


 そんなことを刻印でやってのけるのだ。まず間違いなく難しいに決まっていた。それを理解した瞬に、カイトは更に続けた。


「で、おまけのおまけに必要がなくなった時点で見付けられる様にする偽装解除のおまけ付き……あっははは。フリンの奴も完全に姉貴の手のひらの上で踊らされてたか」

「うん?」

「いつか、そいつを先輩……いや、遠い未来の弟子に渡す事を見越して渡してたんだろう」

「どうしてそう思うんだ?」

「そいつをフリンが受け取ったのは卒業の頃だ……当時すでにナイフなんていらなかった」

「あ、そうか……」


 すでに見習いに向けて魔術の構築を補佐する力が必要のない相手に、そんな刻印が刻まれたナイフを送っているのだ。明らかにクー・フーリンではない誰かに渡される事を見越しての事だった。


「ま、そいつの効力ももうすでに発揮していない様子だから、今はもうただのナイフだ。気づけた、ということは最低限素人に毛が生えた程度は脱したってわけなんだろう」

「そうか……それならもう気にしないでも良いのか」

「そういう事だな」


 どうやら見付けられた時点で気にしないで良い様になっていたらしい。瞬はそれを理解して、ナイフを改めて組み上げる。それを見ながら、カイトはふと呟いた。


「随分慣れたな。そいつの布の巻き付けとか色々面倒なんだが」

「毎日練習はしていた。構造は知っておかないとな」

「毎日?」

「パーツを分解して、それを一つずつ模って模型屋? に持ち込んだんだ。これとまるっきり同じ物を作ってくれって」


 かなり手慣れた動きでナイフを組み上げる瞬であるが、その手付きは少し前までナイフなんぞ触った事が無いはずの者の手付きではなかった。そうして、カイトはしばらくの間瞬と共にスカサハの訓練についてを聞く事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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