第2479話 魔術の王国 ――展覧会――
魔術都市『サンドラ』に招かれて交換留学を見据えた体験授業を受けていたカイト達。そんな彼らであったが、いくつかのトラブルには見舞われながらも二週間の行程を終了。
残す所は最後の『展覧会』への参加のみとなっていた。というわけで、カイトがユニオンより緊急の連絡を受けてから翌日の土曜日。カイト達はこの日は『展覧会』の雰囲気を確認するべく、一般観戦のチケットを使って会場入りしていた。
「何だ。ならリジェは参加しないのか」
「流石に親父に駄目って言われたからな。それは教国の二人も一緒だろ」
「まぁ……そうだな。流石に俺も軍属になるから、勝手に参加して良いわけじゃない」
「そういうこったな」
どうやらリジェにせよルーファウスにせよ――勿論アリスとルリアもそうだが――軍属や準軍属であるという建前が存在してしまっている。なので彼らの使う魔術の中には軍がある程度は秘匿するべきと判断されている物がある為、四人の参加は見送りとなったのだ。
まぁ、元々招かれていたのは冒険部だ。なので彼らの参加不参加はそれぞれの判断に委ねられていた所が強く、問題はなかった。が、他方リジェ達は、というわけで流石にカイトも許可は下ろせなかったようだ。
「そうなのか……まぁ、どうにせよ二人も魔術師じゃないといえば魔術師じゃないか。それを考えれば仕方がない事なのかもな」
どうやら瞬は二人の発言に納得する事にしたらしい。ちなみに、そういうわけではあるが観覧はしてこい、という命令も下っていた為、四人もこのまま観客として参加する事になっていた。
その一方。冒険部として参加を決めていたカイトはというと、小さく結界を展開してティナとの間で最後の打ち合わせを行っていた。
「今回の観覧にはエデクス殿も来られるそうだ」
「直々に、というわけかのう。さて、中々面白い事になりそうじゃが」
「まぁ……そうだな。ああ、そうだ。さっきメルリアから連絡があった。『賢人会議』の解散は確認されたが、同時に何者かが裏で統率を執っているそうだ」
「ほぅ……幹部の連中か?」
カイトの報告にティナは少し楽しげに貴賓席に腰掛けるゲンマらを見る。ルークでない事だけは確定的だが、彼らの誰かという可能性が無いわけではなかった。が、これにカイトは首を振った。
「あそこのマグナス六賢人の末裔達ではないらしいな。何者かは不明……操られている可能性も低くないそうだ」
「ほっ……まさか直々に動くか? そうじゃとすると面白いのう。どうしたい、とかエデクス殿はご要望を仰られておいでじゃったか?」
楽しげに、しかし僅かに牙を剥く様に笑いながらティナはカイトへと問いかける。ルークはどうやっても掴めなかった様子だが、地球で似た存在と戦っている彼女らはあの漆黒のネズミの正体のおおよそを理解している。故に驚きもあり、しかし同時に楽しくもあったようだ。そんな彼女の問いかけに、カイトは肩を竦めた。
「情報が欲しい、だとさ」
「ま、エデクス殿であればそう仰られるじゃろう。魔術師として、非難はしまいよ」
元々エデクスが延べていたが、彼からしてみればルークやゲンマ程度の実力でもなければ失われても惜しくない才能だ。なので逆に漆黒のネズミ達が使う魔術等の情報を手に入れる方が遥かに有益と判断している様子だった。
なお、敢えて言及するがティナが非難しないのは魔術師として、なのであって人として褒められた行動ではない事は言外に述べていた。
「そうか……そっちについては対処はお前に任せる。オレがやるのはルークだけだ」
「うむー……まぁ、一番美味しい所を持ってってる様に思うが……」
「安牌はオレだが、大穴はお前だな」
「大穴が来る事を祈る事にするかのう」
カイトの返答にティナは楽しげに笑う。そうして話し合うわけであるが、そんな事をしているとあっという間に時間が経過して『展覧会』の開幕となる。というわけで、始まった模擬戦を見ながら灯里が問いかける。
「そういえば『展覧会』って魔術の発表会みたいな所なのよね?」
「そじゃな。今まで……もしくはこの一年で習得した魔術を披露する場じゃ。が、同時に魔術師達にとっては仕官先を見付ける為の場でもある。『サンドラ』がもう少し有名であれば参加者も規模も大きくなるんじゃろうが……」
「流石に仁龍のおじいちゃんには勝てないかー」
「無理じゃのう、流石に」
なにせ古龍と古代に名を馳せた伝説的な魔術師だ。どちらの方が知名度があるか、と言われれば断然前者だろう。前者は知っていなければ常識を疑われるが、後者は知らなくても無理はないと言われる。そのぐらいの差はあった。というわけで、そんな現実を指摘した両者であるがティナが一転して気を取り直す。
「ま、それでもこの『展覧会』はエネフィアでも有数の魔術を競う場と行ってもよかろう」
「ちなみに、何を基準に勝敗は判断されるわけ? 相手叩きのめせば勝利?」
「ああ、そこは違うのう。うむ。それがこの『展覧会』独特のルールがある点と言ってよかろう」
灯里の問いかけにティナはそういえばと思い出したかの様に『展覧会』での勝敗の基準を語る。
「当然じゃが魔術とは上に行けば行くほど発動が困難になるものじゃ。無論、発動に要する時間も長くなる。簡単で発動が早い物を使って先手必勝で良いというわけではない」
「力技厳禁ってこと?」
「そうじゃな。例えばカイトの様に下級の魔術を馬鹿力で発動させ上級の魔術を上からねじ伏せるようなやり方は厳禁じゃ……わかっとるなー」
「わーってるわーってる」
ティナの指摘にカイトは少しだけ胡乱げに同意する。というわけなので、ここではカイトもお得意の力技を封じられてしまうらしい。そうして彼に一応の掣肘をしておいた所で、ティナは改めて灯里に向き直った。
「後は……そうじゃな。この『展覧会』はあくまでも自身の習得した技術をお披露目するという事が建前にある。なので通常の大会では禁止されているような魔道具類の使用も許可される」
「ただし自身の開発した物に限る、とか?」
「然り。なので自作しておるのであれば飛翔機は無論のこと、魔銃や果てはゴーレムでも良い……お、言っておると丁度その試合になるようじゃな」
灯里の言葉に頷いたティナであるが、そんな彼女はいくつかに区画割りされた会場の一つを指し示す。そこには十数メートルはあろうかというかなり大きいゴーレムがゆったりとした動きで会場入りする様子が映し出されており、それと対峙するのは執事服を身に纏う小柄な少年だった。
「なんか可愛らしい子ねー……」
「あれは使い魔じゃな。使い魔とゴーレムの戦いという所じゃろう」
「使い魔も被造物扱いでオッケーなの?」
「うむ。使い魔を作る技術を披露するのも『展覧会』の意図には合致しておるからのう」
二人の見守る前で始まった戦いを観覧しながら、ティナは使い魔の出場もまたルール上合法である事を明言する。まぁ、そういうわけなので登録上は魔術師が参加となりながらも使い魔のみでの参加になっている所は少なくなかった。が、そんな映像を見回す灯里であったが、そこでふと気が付いた。
「二人で出場してる所があるけど……これはゴーレムと主人って所?」
「うむ。主人の補佐をさせるゴーレムや使い魔を使って戦うのもまたありじゃ……この場合の利点としては、ゴーレムや使い魔の戦闘不能が即ち敗北ではないという所じゃな。が、主人が戦闘不能になれば使い魔が十全に働けようが敗北となるから、主人側も腕に覚えがなければならぬ」
「へー……」
ある意味見応えなら『天覇繚乱祭』よりも凄いかもしれない。灯里は映し出される数々の戦いを見守りながら、そんな事を思う。そしてそんな感想はティナも同じくする所だったらしい。
「面白いじゃろう? ある意味では『展覧会』という言葉がよう似合う。本当にここでは数々の魔道具が出てくるものじゃから、例年何が起きても不思議はない。それこそランクD程度の魔術師がランクS級の魔術師を打ち倒したという記録もある。これは魔導鎧の開発者で、技術的には数世代先を行ったそうじゃのう」
「とんでもないジャイアント・キリングね」
「うむ……まぁ、これは稀有な例であるが、そんなジャイアント・キリングは例年何個かは起きる。そこからパトロンを見付け巣立った著名な魔道具発明家は少のうない」
「へー……」
そりゃ『サンドラ』側も気合入るわ。ティナの解説を聞きながら、灯里はそんな事を思う。と、そんな彼女にティナは更に続けた。
「っと、そういうわけなのであるが『天覇繚乱祭』との差として一番大きい物はやはりあくまでも自作に限られるという点じゃな」
「つまり誰かが作った物を使い手として使う事は出来ない、ってこと?」
「そうじゃな……まぁ、合作という裏技もあるが」
「あ、合作はオッケーなんだ」
「ある技術と別の技術を組み合わせられる、というのも重要な要素じゃからのう」
楽しげに笑いながら、ティナは何かめぼしい戦いはないかと見定める。とはいえ、面白い戦いであればこの『展覧会』は山程あった。
「うーむ。やはり見て楽しいものは多いのう」
「ガトリング、レーザーブレード、グレネード……? なんでもありね」
「何でもありが『展覧会』の売りじゃ。今年は魔道具の開発者が多そうじゃのう」
時勢柄もあるかもしれない。ティナはそんな事を思う。そうして、この日は一日一般参加の部の『展覧会』を一日観覧する事になるのだった。
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