第2478話 幕間 ――指示――
魔術都市『サンドラ』に招かれ、数年後の交換留学を見据えた体験留学を受けていたカイト達。そんな彼らであるが、最後の金曜日も終わり放課後に入っていた。
というわけでシレーナの手伝いで『展覧会』の参加に関する対応の為、『展覧会』が行われる全天候型のドーム型会場にやってきていたカイトであったが、手続きが終わり帰るかというタイミングでユニオンからの連絡が入る事になる。それはカイト達に支援の要請を行ったカルサイトが手傷を負わされ入院したというもので、それを受けたカイトは少し考えた後、マクスウェルが朝一番になった段階でソラとトリンへと緊急で連絡を入れていた。
『はぁ!? カルサイトさんが!?』
『それ、本当ですか?』
流石にカルサイトが怪我を負わされた挙げ句入院させられたというのは、二人からしても信じられない報告だったらしい。驚愕に包まれた様子でカイトへと確認する。
「ああ……追って、そっちに入院先の病院の連絡先が入る様になっている。またこっちからすでに回復薬の手配も行っている状態だ。それを持って行ってくれ」
『わかった……ってことは少なくとも大事には至らないってわけで良いんだな?』
『い、いや……珠族のコアの破損は結構深刻だから……』
『それはわかってるよ。でももしガチでヤバいならカイトが速攻戻ってそうだろ?』
『それはそうだけど……』
「そうだな……まぁ、実際そこまで深刻な内容でもないらしい。本人もピンピンしてるそうだ。が、戦闘はアウト、って結論が出て本人も情報共有の重要性から退避したって所だ」
ソラとトリンのやり取りに笑いながら、カイトは少し深刻に成りすぎてしまったかと笑ってカルサイトの現状を二人へと伝達する。それにトリンもまた笑った。
『あはは。まぁ、カルサさんなら結構深刻でも笑ってそうですけど……ユニオンが大丈夫と言うなら大丈夫ですか』
「だろうな……それはさておいて。事態の深刻度合いが増したのは事実だ。決して油断出来る状況じゃないだろうし、何より『敵』の戦闘力が思った以上に強い。ソラ、トリン。二人共ウチの奴らに支援する様に手配はは掛けているから、装備の調整と追加で装備をいくつか受け取っておいてくれ」
『おけ……ん? 追加装備?』
唯々諾々と了解を示してしまったが、おかしな単語が入っていたような。そんな様子のソラがカイトへと聞き直す。これにカイトは一つ頷いた。
「ああ。今回の敵は中々に強いようだ。切り札を数枚持っていた方が良いだろう。勿論、使わないで良いなら使わないで良いが……有って損はない。使い方も含め、しっかりと把握した上で準備を進めてくれ」
『わかった……早い話、いつも通りオーアさんに話通せば良いんだよな?』
「そういうことだな」
基本的にソラは鎧の事もあり、<<無冠の部隊>>ではオーアが対応窓口になっている側面があった。今回も彼女に言えば取次等が頼めるだろう、という話であった。というわけでそちらについてはそのまま進めてもらう事にして、カイトは更に指示を飛ばす。
「それで、今回の事態が悪化した事を受けて万が一の場合にはオレも介入する」
『お前が? 戦闘員って意味でか?』
「ああ。カルサさんの実力はランクA。実績から言えばランクSにも匹敵する猛者だ。おそらく裏ギルドでも相当に腕利きが出てきているものと推測される」
『そうなると、後はお前や本部の人達ぐらいしかってわけか』
「そういう事だ……ランクSの冒険者で手に余る事態だった場合を考えれば、オレが出た方が良いかもしれん」
『わかった。その腹づもりで警戒しておくよ』
「そうしてくれ」
ソラの応諾にカイトは一つ頷いた。そんな彼にトリンが一つ問いかけた。
『そうだ。カイトさん。カルサさんは今入院中という事でしたが、措置としては?』
「ああ、そうか。そうだったな。当然だが現在彼は真っ当な病院に入院しているわけじゃない。本部が直轄で保有する病院だ。ここを探り当てられたら、もうバルフレアが直々に動く領域になる」
『そうはなってほしくないですね……』
カイトの返答はトリンにとって想定の範囲内ではあったものの、それ故にこそどこか苦い様子が顔にはあった。これにソラが問いかけた。
『本部直轄の病院?』
「ああ、こういった事態だとユニオン内部に内通者が居る可能性がある。下手に一般の病院に搬送なんかしちまうと、最悪は病院全体を巻き込んだ悲劇に発展しかねない。だからユニオンの信頼のおける冒険者や相手にのみ明かされる病院があるんだ。勿論、医者も本部直轄の冒険者を兼業する専門医だ。追って場所の連絡が、ってのはそういった兼ね合いで伝達ルートが非常に限られちまうからでもあるんだ」
『なるほど……情報の移送中に盗まれるのが一番ヤバいし、可能性も高いもんな……』
カイトの言葉でソラはなぜこんな話になっているのか、という事が理解出来たらしい。合点がいった様子で頷いていた。これに今度はトリンが頷く。
『そうだね。幸い僕とカイトさんはその資格を有する冒険者として登録があるから、数日中には来ると思うけど』
『お前もあるの?』
『そうじゃないと病院を知らないよ……まぁ、今回の一件を受けられてるから、君も資格ありと判断されてるみたいだね』
『マジか』
自分さえ預かり知らぬ間に付与されていたらしい資格に、ソラが驚いた様に目を見開く。なお、トリンが資格を有しているのは、ブロンザイトが資格を有していた事が大きい。
弟子として登録されていた彼にも付随的だが資格が与えられていたのだ。そしてブロンザイトと長年一緒に居た事で、その死後も資格はそのままで大丈夫と判断――カイトが働きかけた事もある――されていたのである。
「そういう事だ……とりあえず病院の事は他言無用だ。特に場所や接触方法については秘匿。決して外では口にするな」
『わかった……でもこれ、『敵』もわかってないか? カルサイトさん仕留めきれなかった事わかってるだろ? 勿論、仕掛けてきたのだって彼が調査員だってわかった上での事だろうし』
「『それか……』」
ソラの指摘にカイトとトリンは揃って苦い顔でため息を吐く。実際、これについては現在時点でかなりの懸念事項となっており、それもあってのカイトの先程の言葉だった。
「ぶっちゃければその可能性は大いにある。だからもし『お出迎え』があった場合にはオレも出るって話だ」
『あ、なるほど……』
どうやらすでにカイトは初手からの大乱戦も想定に入れていたらしい。そうなると流石にソラとカルサイトだけでは堪えられない可能性を想定しており、その場合に彼の介入となるのであった。と、そんな彼が思い出したかの様に二人に告げる。
「ああ、そうだ。それに伴って今回の一件で要注意人物として幾人かの二つ名持ちが現地に居る事が報告されている。トリンと一緒に行く前に確認しておいてくれ。情報が錯綜し過ぎている事と現状確定情報じゃないから、二つ名だけだ」
『そりゃしゃーないか』
二つ名でよほど有名な物でない限り、似た名前が与えられる事が少なくない。なのでこういう二つ名の奴が居る、という噂が流れただけでは確定した情報が出せないのだ。それは二つ名を持つソラも知っており、現状から鑑みて仕方がないと彼も判断したようだ。というわけで、それを受け入れた彼はそのまま問いかける。
『資料は?』
「朝一番でそっちに届く様になっている。椿に聞いてくれ」
『わかった……で、お前いつ戻れるんだっけ?』
「こっちの時間で明日には『展覧会』が始まって、明後日に学生の部がある。その後六賢人の当主との会合があって、だから……最速でも月曜の夜だな」
『わかった』
今回、作戦全体の総指揮はカイトが執る事になっている。そして最初の予定では一旦は分身に総指揮を任せておいて現地で後追いで合流するつもりだったのだが、今回の事態の変遷を受けて最初から彼が参加する方向に変わったのだ。
無論ユニオンも事態の悪化を受けてそれを承諾。最悪はバルフレアが動く事態となる可能性さえ想定して、現在大急ぎで各所への調整を進めている所だった。
「ああ……じゃあ、そのまま準備は頼む」
『おう』
カイトの指示にソラは一つ頷いた。そうして、両者は通信を切ってカイトは明日に備えて遅めの就寝となり、一方のソラ達はここから大急ぎで準備の再確認を行う事になるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




