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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2476話 魔術の王国 ――解散――

 魔術都市『サンドラ』に招かれ、体験授業を受けていたカイト達。そんな彼らは前半のトラブルやらとは打って変わって、折返しを過ぎた二週目はほとんどトラブルもなく過ごす事になる。

 というわけで、週も終わりが近づいて木曜日。ひとまずの感想を語り合った後にカイトは『展覧会』が近づいた事で書類の精査等も終わり、ようやく一段落という所になったシレーナと話をする時間を得ていた。


「はぁ……」

「お疲れ様……書類仕事は一日余りで終わらせられたな」

「ありがとう……貴方が手伝ってくれたおかげもあるわね。にしてもこの三日。ルークが一度も姿を見せなかったわね」


 あの後なのであるが、どうやらルーク側もこちらが察した事を理解しているのだとわかっているかの様に彼は姿を見せる事がほとんどなかった。が、何も知らぬ瞬曰く彼自身としては何か変わった様子はなく、単に留学先がほぼ確定したのでその申請等で放課後が忙しくなってしまったのだとの事であった。


「留学の手続きとかで忙しくなった、そうだが」

「それは……そうみたいね。お父様も私の留学の手配に入られたし……日曜日の夜。またウチに来るんでしょう?」

「ああ。今度は公爵としてな。また同席してもらう事になるが……そこは諦めてくれ」

「良いわ、もう別に……」


 どうやらシレーナは諦めたらしい。完全に受け入れモードになっていた。というわけでそんな彼女はカイトへと一つ問いかける。


「そうか……ま、それならそれで良い。とりあえず後は『展覧会』を残すのみか」

「はぁ……そっちのが憂鬱だわ……」

「あはは……なんだ? いっそティナでも出てほしかったか?」

「ごめん。それだけは本当に嫌だわ……」


 ティナの魔術の腕は『サンドラ』に住まう者なら誰もが詳しく知る所だ。故にシレーナはカイト以上にティナを相手にする事だけは絶対にごめんだった。


「そうかい……ま、あいつは魔術に関しちゃ容赦が無い。それが正解だろう。そしてそれがわかっているからこそ、あいつも出なかったしな」

「はぁ……というか、伝説で聞いた事ぐらいあるわよ。魔帝ユスティーナが出た伝説の『展覧会』。全試合一切同じ魔術の使用無し。一歩も動く事も無し。というか立った事もなし」

「そんなんやってたんか、あいつ……」


 そりゃ伝説にもなるわ。ただでさえ『サンドラ』には強力な魔術師が多いのだ。それを相手に一方的かつ一度たりとも同じ魔術を使わずに全勝するなぞ、あまりに圧倒的としか言いようがなかった。

 とはいえ、彼女に勝った者として、そして何より彼女に何度となく負けてきた者として、カイトはそれでも手を抜いてくれていた事を理解していた。


「ま、あいつが本気ならこっちの使った魔術を改良した挙げ句に、って感じでやるだろう。それをやってないってのなら手は抜いてるだろう……今ならやって来るだろうがな」

「ほんと、相手にならなくてよかった……」


 もし襲撃を企んでいるのなら、正直に同情を示しておきたい。シレーナは心底そう思う。そんな彼女に笑いながら、カイトは少しだけ気を引き締める。


「そうだな……兎にも角にも。二週間世話になった」

「ああ、それなら気にしないで。留学生の受け入れや新規開拓は例年行われている事だから。今回は少しだけいつもと違う事態がいくつかあった、という程度よ」


 シレーナの兄スオーロが言っていたが、『サンドラ』では各地から留学生を受け入れ、各地に留学生を派遣している。なので今回の様に新たな学校と留学生制度の締結を行おうという試みは年に数回あるらしく、このような体験留学は比較的よくある事だった。故に笑って首を振る彼女に、カイトはそうかと頷く。


「そうか。それなら良いんだが……ま、こっちとしても色々と利益にはなったから、そこは持ちつ持たれつで考えておくかね」

「そうして頂戴……それにこのタイミングでの体験留学に関してはぶっちゃければ貴方達が悪いわけじゃなくて、ルーク達が悪いんだし」

「あはは……ま、このまま問題なく終わってくれれば、とは思うんだがね」

「そういえば本当に何も起きてないわね……」


 台風一過の静けさなのか、それとも嵐の前の静けさなのか。シレーナは一週間前の会合以降動きを見せない『賢人会議』について考える。これにカイトは一つの推測を立てていた。


「おそらくまだ解散は告げていないんだろう……ルークの裏を鑑みれば今日告げて、という所だろうな」

「まだやってないの?」

「先にやるべき事もあるだろうしな」

「やるべき事?」

「証拠の隠滅とか、解散するなら解散するで各方面に根回しもしとかないといけないだろう……無論、そこらについては更に裏から最高評議会がフォローしてるだろうが……」


 組織の規模は大きくなかろうと、影響力はかなり強そうなのだ。となると解体するにも色々と面倒が生じる事は察するにあまりあり、当代の幹部達が動いても少しの時間差が生じるのは無理ない事と思われた。そしてそこらを理解して、シレーナもそれなら納得だと頷いた。


「なるほど……確かにあいつならそこらは得意そうだし。先代だし」

「だな……そこについては当人の努力によるものだろう。ま、こっちは適当に抑えのなくなった奴らを一掃するだけだ。そこらは得意分野でもあるしな」

「得意分野……」


 そうなんでしょうけど反応に困る。なにせカイトは勇者カイトだ。こういった面倒事なぞ三百年前から枚挙に暇がないほどに巻き込まれているだろう。それは得意分野にもなりそうなものであった。そうして、気楽な様子のカイトとシレーナは少しの時間話し合う事になるのだった。




 さて一方その頃。件のルークはというと、この一週間はカイトの推測通り幹部達と共に各方面に根回しを行い『賢人会議』の解体を円滑に行える様に手配していた。

 そしてカイト達が彼の行動について話し合う丁度その裏で、組織の解散についてを告げるだけ告げて幹部達と共に有無を言わさず会合の場を後にしていた。


「ふぅ……これで『賢人会議』は終了かな」

「ある意味では肩の荷が下りたか」

「そうだね……ああ、皆ありがとう。おかげで一週間で各方面への根回しが終わったよ」


 騒然となる『賢人会議』の集会の場からソシエール家が保有する自動車で遠ざかりながら、ルークはひとまず幹部達に礼を述べる。兎にも角にもこの一週間はかなり忙しかったようだ。特にルークは表向きの留学の手配や最高評議会からの呼び出し等、様々なやらねばならない事があった。


「いや……最高評議会へのお目通り等、お前がやってくれたおかげでこちらは各方面へ根回しが出来た。やはりそういう面ではお前の方が指導者という立場が合っていたんだろう」

「そう言って貰えれば助かるよ……にしても、最高評議会もフォローしてくれて助かった。最高評議会の通達と言うのは何より強い札だからね」


 騒然となっていた場も見えなくなったが、ルークはゲンマの言葉に一度だけそちらを振り返る。


「彼らには悪いかもしれないが……いや、半々という所かな」

「元々察知していた奴らも少なくない……後は放置で良いんだな?」

「最高評議会からの通達だ。後は暴走するのであれば向こうが対応する、との事だ」

「そうか」


 それなら考えないで良いか。幹部達はルークの言葉に後は気にしない事を決める。やはり『サンドラ』でも有名な家の門弟達も少なくないのだ。ルークが最高評議会に呼び出しを受けていたり、幹部達が各方面に何かしらの働きかけを行っている事を察知していた者も少なくない。

 内容こそ伏されていたが状況から『賢人会議』の解散もあり得るだろう、と踏んで手を引く用意をしていた者も少なくなかったようだ。


「ふぅ……おや、これは珍しい。まさか私以外が居る場に君が現れるなんてね」

「「「っ」」」


 唐突に誰かに向けて語りかけたルークに、幹部達が一斉に警戒を滲ませる。が、これにルークは手で制止した。


「ああ、気にしないで良いよ……私の首に首輪を付けている奴だ」

『やぁ、お歴々の皆様。はじめまして』


 ルークの紹介に漆黒のネズミは恭しく――見えるだけで慇懃無礼という言葉がよく似合った――、そして優雅に一礼する。


「なんだ、これは……」

「ネズミ……ではないな。何者だ」


 現れた漆黒のネズミに、幹部達は揃って警戒を滲ませる。流石に彼らほどの魔術の使い手だ。ひと目見てこれが単なるネズミでも使い魔でもない事は見て取れたようだ。というわけで、幹部の問いかけに漆黒のネズミは楽しげに笑った。


『何者……それは難しい質問だ。何か、と問われればネズミと答えられるが。何者かと問われれば名もなきネズミ、と答えるしかない』

「……質問を変えよう。どういう存在だ、お前は」

『どういう存在だ……か。それもまた難しい問いかけだ』


 どうやらこれはまともな返答は期待出来ないらしい。のらりくらりと人を食ったような態度で敢えて考え込むような姿勢を見せる漆黒のネズミに、幹部達はそう思う。が、こんなやり取りは十年以上も前に繰り広げたルークは慣れたものだった。


「答えなんて期待するだけ無駄だよ……それで? 滅多に人前に姿を見せない君がこの場に現れるなんて……一体どういう心づもりの変化かな?」

『ああ、先日私の事を話していただろう? だから良いかな、と思ってね。それに、せっかくだからこの場の皆にも関係が僅かながらある事だったからね。唐突だけどお邪魔させて貰ったよ』


 楽しげに笑いながら、漆黒のネズミは今回の来意を告げる。これに、ルークが首を傾げた。


「関係のある話……今しがた解散した『賢人会議』の事かな?」

『勿論……君たちもあまり下手な暴走はしてほしくないだろう? だから少し利用させて貰おうと思ってね。何、君達には迷惑は掛けないよ』

「何をするつもりなんだい?」


 漆黒のネズミが何かを企んでいる様子に、ルークは僅かに目を細めて警戒を滲ませて問いかける。


『言っただろう? 君達に迷惑は掛けないし、君に頼んでいるもう一つの依頼についてはこちらは手出ししないよ。ただそこで出来ない事を彼らにはしてもらいたくてね』

「出来ない事……ね。それは彼女に関係する事かな?」

『ほぅ……やはり君は賢い。そうだね。彼女への当て馬になってほしくてね。まぁ、期待はしていないよ』


 なにせ所詮は見習いが大半だ。ルークの様に最高評議会からその才能を惜しまれるのならまだしも、『サンドラ』からして失われても良いかな、という程度の才能しかない。それでティナへの当て馬になぞなろうはずもなかった。


「そうかい……どうせ私が止めた所で君達はやるだろう。好きにしてくれ。私は私の仕事をするだけだ」

『そうか……じゃあ、そうさせて貰おう。ああ、そういうわけだから襲撃の際、君達も下手に関わらない様にね。その忠告だけしておきたかったのさ』

「それはお気遣いどうも」

『いやいや……では、またね』


 ふっ。漆黒のネズミは言うだけ言って、その場を後にする。そうして彼だか彼女だかが消え去った後、幹部達は揃って息を吐いた。


「はぁ……何だったのだ、あれは」

「格が違う……というのは嘘ではなかったようですね」

「気にしない方が良いよ……ま、気にするだけ無駄という所でもあるのだけどもね」


 なるほど、あれならたしかにルークが従わざるを得ないのも無理はない。幹部達は漆黒のネズミが内包する威圧感や存在感等が理解できればこそ、素直にルークの境遇に同情しか出来なかった。

 そうして、すでに漆黒のネズミに慣れてしまったルーク一人が平然とする中、神妙な面持ちの幹部達を乗せた自動車は解散する場まで走っていく事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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