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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2474話 魔術の王国 ――しばらくの日常を――

 魔術都市『サンドラ』に招かれ、交換留学に向けた体験授業を受けていたカイト。そんな彼は四日目に起きた『サンドラ』の高位高官の門弟や子弟達により構成される賢人会議の襲撃を受けたわけであるが、それに伴う『サンドラ』最高評議会のエデクスとの裏取引に合意。

 現在のリーダー格でありマグナス六賢人の次世代の中でも最も優秀と目されるルークを人質としてマクスウェルへ送ると共に『賢人会議』の解体。自分達が正体を隠して行った調達についてお咎めなしとする事で決着することとなる。そうしてそんな裏取引の翌日にシレーナの口止めとアフターフォローを行う中で、カイトはふとしたシレーナの呟きからルークの思惑をおおよそ察するに至っていた。


「という感じの推測を立てたんだが……どう思う?」

「ほぅ……中々面白い推測じゃのう。論理に若干の飛躍は見受けられるが……確かにそれは筋が通ろうて」

「ああ。流石に<<死魔将(しましょう)>>達が動いていたにしては妙に昔すぎるし、オレと関われるかどうかもわからないというしかないからな。なんか違うな、って思ってたんだ」


 どうやらカイトの想定の中にはルークの裏に潜むのが<<死魔将(しましょう)>>でないか、という物もあったらしい。だがこれは彼自身が述べている通り、あまりに昔過ぎる上にここでカイトが来る事を見通せるのか、という根本的な要因があったので彼自身考えすぎと思っていたのである。そしてこれはティナもまた同様だった。


「そうじゃな。余もそこが気になって、その案は初っ端で切り捨てた。流石に天桜の転移事故? いや、事件というべきなのやもしれんが……それを予め察知しておくなぞ未来予知も甚だしい。それは幾らなんでも不可能じゃ」

「だわな……そうなるとって考えた場合、答えが出んかったんだが……思えばルーク自身が答えを口にしてたわ」

「そうじゃったのう。そしてそれなら話は通る。余人が聞けば与太話どころか笑い話にもならぬが。余らであればそれが真実やもしれぬと思える」


 カイトの指摘にティナも楽しげに笑う。これは本当に他愛ない話としてルークから出されていたので、先程のシレーナとの会話で改めて思い直すまで彼らも想定していなかったのだ。というわけでひとしきり笑いあった後、一転して二人は少しだけ気を引き締める。


「ティナ。下手するとお前の方も少しは楽しめる事態になるかもしれんぞ」

「かもしれんのう……存外、お主より余の方に来るかもしれん」

「あり得るな……まぁ、オレの方にも来るだろうが」

「うむ……ま、身の程知らずに身の程を教えるには勿体ない札を持ってきておるんじゃ。せっかくじゃ。こっちで使って良いじゃろうて」


 元々ティナは今回の一件にて何かしらの切り札の試運転を考えていたのだ。なので彼女はこれは絶好の機会である、と捉える事にしていた。


「そうかい……そっちは任せるが、おそらく敵はこっちをそれなりには調べてきてると思うぞ」

「はんっ……所詮三百年前の情報じゃろう。故に警戒し、こちらに来ぬ。そのような程度で御しきれる余ではないと思い知らせてやるだけじゃて」

「そうか……ま、確かにあっちに比べりゃヌルい対応だ。こりゃ、あいつの評価を若干上方修正してやるかね」


 どうやらカイトとティナにはおおよその敵の動きが見えたらしい。楽しげに笑っていたわけであるが、故にこそティナの顔からは若干の真剣味がにじみ出る。


「とはいえ……カイト。ぬかるでないぞ。相手は下手をすると<<死魔将(しましょう)>>達より厄介やもしれん相手じゃ。そっちに来る可能性も十分にあり得る」

「そんときゃそんときで考える……が、その場合は向こうが適当に処置してくれるだろう」

「まだ早い、か?」

「まだ早い。そう、まだ早い」


 どうやら今回は正体の露呈を気にせず動けそうだ。カイトは敵についてある程度の知識があればこそ、そんな安堵を得ていた。


「そうか。では余はリベンジマッチと参るとするかのう」

「お前、負けてなかったと思うがねぇ」

「負けてはおらんが同時に勝ててもおらん」


 確かにそうはそうだが。カイトはそう思いながらも、やる気を滲ませるティナを好きにさせる事にする。今回、裏が想像通りであればかなりの領域で好きに動けそうなのだ。

 どうしても立場上抑えて動かねばならない彼らにとって、久しぶりに気兼ねなく暴れられる場が提供してもらえそうだった。というわけで、二人は妙なやる気と共にその時に備える事にするのだった。





 さて一方その頃。『賢人会議』の解体を告げる支度を行うルークであったが、彼は裏で自分の首に縄を掛けている何者かと話をしていた。


「さて……言われた通り、場を整えてやったけれど。対価は中々に重い物になってしまった」

『それは我々としては気にしないよ。それに、その方法を取ったのは他ならぬ君だ。私に文句を言われても困る』


 ルークが話しているのは闇よりも深い黒い毛のネズミだ。これが何者かの使い魔なのか、それともこれそのものが相手なのか。それはルークにさえわかっていなかったが、少なくともこの漆黒のネズミでさえとんでもない強さを持っている事を彼は知っていた。だからこそ、彼は言葉だけでやり取りする事に終止する事を決めていた。


「それについては否定しないさ。私としても『賢人会議』は足かせだった。というより、あんなものはあるだけ損だ。下手を打てば外交問題。そんなもの、わかった話のはずだ。百と数十年前の祖先達は何を考えてあんなものを拵えたのやら」

『さてねぇ……私は知らないな。知りたければ調べてあげるけれど』

「遠慮しておくよ。こんな他愛ない事で君たちに借りを作りたくない……とはいえ、だ。君たちの要請に答えて動いたのは事実。事実は事実として、私は君達に貸しを作ったという認識で良いかな?」

『それについては否定はしないよ』


 ルークの問いかけに、漆黒のネズミは楽しげに笑う。同意、という事で良いらしい。それを受けルークは一つ頷いた。


「よし……じゃあ、その上で再確認だ。君たちは向こうに同行しない。そういう事で良いのかい?」

『うーん……それははっきりとは明言していなかったと思うし、はっきりそうだとは言っていないと思うのだけど』

「それをはっきりさせて貰いたいんだけどね。少なくとも私の渡航はすでに確定的と言って良いだろう。君達の要請通りに。そして私の思惑通りに。今更これを取りやめて、というのは無理に等しい」


 どこか語気を強めて、ルークははっきりと無理である事を明言する。これに漆黒のネズミもまた同意した。


『それは勿論、心得ているさ。今更否やはない。そうなる様に動いてもらい、そしてそうなる様に色々と差配もさせて貰った……それを取りやめるのは中々に骨が折れる。相手が相手。尚更だ』

「そうか……なら結構。私としてはマクスウェルへの渡航さえ拒まれなければ問題はないよ」


 ルークが念押しをしていたのは、彼の意思としてマクスウェル行きを望んでいたかららしい。意思はかなり固いらしく、漆黒のネズミの要望が無くてもそう申し出た様子だった。そうして、そんなルークが続けた。


「以前聞いたのは、君は私に差し向けられた者だという事だ。そして今までの所、数度のトラブルこそあったが君との間に致命的な齟齬が生じた事はないと思う。君が行かないのだとすると、別の者が来るのかそれとも私はこれにてお役御免となるのか。それが気になってね」

『ああ、それか。それなら心配しなくて良いよ。少なくとも君がお役御免となる事はない』


 心配はしていないし、どちらかといえばそうして欲しいんだがね。わかっているだろうに敢えて大丈夫、という様子を見せて笑う漆黒のネズミにルークは密かにため息を吐く。とはいえ、こんな関係をすでに十数年も繰り返したのだ。もう慣れていた。


「そうか。それは有り難いね」

『あはは。喜んで貰えたのなら何よりだよ……君に今更言うまでもないとは思うのだけど。気にしているのは大精霊様の事でね。マクスウェルは勇者カイトの地だ。大精霊様の影響がどこよりも色濃く出ている』

「ほぅ……やはり君たちも大精霊様は恐ろしいのかな?」

『当たり前さ。前にも言った事があるけれど。我々だって大精霊様なんかとは比べ物にならないほどに弱い存在だ。格が違う……その前にノコノコと出ていけるわけがない』


 どうやらルークは漆黒のネズミが言う事をあまり信じていなかったらしい。どこか驚いた様子で人を食ったような漆黒のネズミの言葉に興味を示していた。


「出ていったら何か問題なのかな?」

『いや……そういうわけじゃないさ。大精霊様は我々の事なんてとっくの昔にご存知さ。が、勇者カイトこそが警戒するに値してね』

「これはおかしな事を言う。彼こそが勇者カイトだ。そう教えてくれたのは君たちだし、それに接触して欲しいと頼んだのも君達じゃないか」


 ルークは今度は本当に驚いていた。彼の言う通り、カイトへの接触は漆黒のネズミの要請だ。にも関わらず、今更警戒していると言う意図がわからなかった。


『そうだね。その通りだ……が、これは複雑な話でね。接触しなければならないのも事実だから君に接触を頼んだ。それは事実だ。しかしだからと言って、彼を警戒しないで良いというわけではないのさ』

「……君達は自分達がバレたくないと?」

『それとも少し違う……うーん。なんて言えば良いのかな』


 どう言うべきなのだろうか。漆黒のネズミは器用に手と足を組む。どこかコミカルな動きだが、そんな漆黒のネズミは考えるのを放棄するかの様に頭を振った。


『いや、説明すると長くなるね。する必要も無いかな。どうせ君に言っても意味のない事だし』

「意味が無くはないさ。知っておかないと向こうでの行動に差し障るかもしれないだろう?」

『その心配は無いさ。君は今まで通り、基本的には好きにしてくれれば良い。ただ適時我々の要請を聞いてくれればね……うん。そうだね。言ってしまえばその連絡の取り方が今までと同じではなくなるかもしれない、という所かな。さすがの我々も勇者カイト相手には気付かれる可能性が高くてね。気付かれず動くにはどうするべきか、というのを悩んでいるのさ』


 どうやら話して何に悩んでいるか理解したらしい。漆黒のネズミはルークに対して問題点を掻い摘んで語る。


「そういう事か……まぁ、それなら君たちに任せるしかないかな」

『そうだね。君に意見を求めるわけにもいかないから、こちらで考えるよ』


 ルークの返答に漆黒のネズミは一つ頷いた。そうして更に数個の話し合いの後、漆黒のネズミは跡形もなく消え去ったのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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