第2467話 魔術の王国 ――展望――
天桜学園を代表して魔術都市『サンドラ』へと体験授業を受けるべくやってきていたカイト達。そんな彼らは黒衣の集団による襲撃を受けながらも、なんとか折返しとなる土日へと差し掛かる。
というわけで、土日を利用して平日には出来ない大規模な視察を行う事にした彼らは二手に別れ、カイト率いる天桜学園で使用する戦闘用以外の魔道具の購入を考える面子。瞬率いる冒険部で使用する旅や戦闘で役立つ魔道具の購入を考える面子で行動を開始していた。
「ふむ……」
カイトが率いる天桜学園側の面々がやってきたのは、『サンドラ』も郊外付近にある地球で言う所の大規模な家電量販店、もしくはホームセンターという所だ。
郊外なのは基本ここで販売されている農耕用の魔道具を使うのが郊外にある農耕地の農家達だったりする為だし、どうしても規模の大きな魔道具を取り扱う事がある。敷地面積が必要だったのである。というわけで、カイトは一つに固まる意味もないか、と更に班を二つに分けて視察を行っていた。
「そういえば、あんたこういうのって見てわかるの?」
「そりゃ……人並み以上にはわかってるよ」
「領主だから?」
「そういうこと……どうしても領内で臨時に軍が湖から水を引いて、という事はよくやる。そうなると浄水装置の購入とかも必要になってくる。そうなると、というわけだな」
浄水装置の性能を見ながら、カイトは灯里の問いかけに頷いた。そんな彼に灯里は重ねて問いかける。
「これで大体何台ぐらい必要になりそう?」
「んー……これでウチだと大体……三台はマスト。予備やら余裕やらを考えれば五台は欲しいな」
「そういえば貯水槽とか大丈夫だっけ? あれ? あれは貸与じゃないっけ?」
「あー……貯水槽は貸与じゃないな。流石に……まぁ、正確に言えば浄水装置も貸与じゃないが」
それでも浄水装置を買おうとしているのは性能が追いついていない状態になりつつある為だ。当初は冒険部の人員が減った分だけ浄水装置にも余力があったが、天桜学園の規模が拡大するに従って要する水の量も増えてしまっている。
そこに更に研究所が開設されると更に水の消費は増えてしまう。ここらで高性能な浄水装置を買っておかねば、近い将来に困る事になりかねなかった。
「よね。変だと思ったんだけど」
「まぁな……まぁ、研究所の高性能な浄水装置は別に設けるからそっちは良いんだが……そこに引き込む為の大本を増設したい」
「あー……そっか。全部あっちでなんとかなるわけじゃないもんね。大本の水が汚れてるとフィルターの掃除が大変になっちゃうし」
「そういう事だな」
ここらの水の浄水が面倒なのは灯里も地球で研究者をしていた関係でよく理解していた。というわけで、それからしばらくの間二人であれやこれやと相談しながら様々な魔道具を見る事になるのであるが、ふと灯里が疑問を呈する事となる。
「そういえば……あんた結局天桜をどうするつもりなの?」
「どうする?」
「うん……最終的に戻る面子は戻る。戻らない面子は戻らない、って感じにするのよね?」
「そこらは当人の判断に任せる、って所だな」
灯里の問いかけにカイトは改めてはっきりと認め、頷いた。もうすでに天桜が転移してから数十ヶ月が経過しようとしている。その間にこちらとの交流もかなりの密度となっており、ソラを筆頭にこちらの人員と恋仲になるような者も少なくない。それを灯里は指摘する。
「うん。ソラくんを筆頭にこっちの子とデキちゃった子、少なくないでしょ?」
「言い方が悪いが……まぁ、そうだな」
「で、そうなってくると戻った後の天桜をどうするつもりなのかな、って」
一応、カイトの行動としては天桜学園の帰還が成し遂げられた後、自身はそれをきっかけとして始まる交流において不法行為を働こうとする者の取り締まりを行うとしている。が、それはあくまでも彼の話であり、エネフィアの組織としての天桜をどうするのか、という話はなかった。
「まぁ……これについてはスオーロさんが言ってた通りだ。天桜を基盤として都市を一つ作る」
「本気でやるの?」
「やれないとは思わない……場所としても丁度マクスウェルの衛星都市としての役割を果たせる場所だし、あの位置にあれば割と色々と出来る。学術都市を一つ作ろうかな、とは今考えてるな」
「本気?」
「割と本気……地球とエネフィアの合同研究とかはしばらく地球じゃ出来ないからな。そういった合同研究を行える研究機関を作りたいんだ」
灯里の問いかけに対して、カイトは現在自分が見据えている展望を口にする。それに灯里は笑った。
「ま、あんたなら出来るんでしょう。それだけのお金も地位も人脈も持ってるっぽいし」
「持ってるな……それを活かさない道理はない。お金も地位も人脈も持ってるだけじゃ意味がない。それを使って初めて価値になる」
「今回の招聘を受けたのもそれが最大の理由?」
「ま、そうだな……それと共にティナが来たい、って言ってたのもあるが。教本も欲しかったし」
カイトは灯里の三度の問いかけに苦笑を滲ませる。そうして、それからしばらくの間はこれからの事を話し合いながら魔道具の調査を行う事になるのだった。
さてカイト達が天桜学園で使う魔道具の視察を行っていた一方、その頃。瞬はというと、大通りに面する魔道具の専門店を見て回っていた。こちらは冒険者向けの所という事もあり、小規模の店舗が多かった。
「ふむ……やはりテントなんかもまた違ったのがあるな」
「テントかぁ……やっぱこっちの方は若干厚手だな」
瞬の呟きにリジェはその材質を触って確認しながら、どこか感心した様に呟いた。基本彼はマクスウェルとウルカを往復しており、こう言うという事はマクスウェルではなくウルカのテントを思い浮かべていたのだろう。そんなテントを触ってみて、ルーファウスが問いかける。
「厚手……か。確かに厚手か。マクスウェルだと厚手の方が良いのか?」
「ん? ああ。マクスウェルは結構北にあるからな。まぁ、南北にも東西にも長いから北に行くなら厚手の欲しい、って感じだが……んー……でもこいつは駄目だな。ああ、ここのか……そりゃそっか」
「「駄目?」」
どこか納得したような顔で頷くリジェに、瞬もルーファウスも揃って首を傾げる。こればかりはマクスウェルで生まれ育った者かつ軍人見習い兼冒険者であればこそ知っている事だった。
「ああ。マクスウェルの北部はかなり寒くなる……アルの奴から聞いてないか?」
「それは聞いた。マクスウェルは寒くはなるし積雪も降雪もあるが、北の一部地域はそんなもんじゃないって」
「そう。こいつじゃ流石に最悪凍死しちまう。年に結構な数のバカが碌な装備持たずに行っちまって、凍死してるってのは神殿都市の奴らから聞いた事がある。流石に<<暁>>じゃそんなバカは居ないけどな」
それでも知ってるのは、遭難した冒険者の探索に<<暁>>に依頼が出されるからだな。瞬とルーファウスに向けてリジェは語る。そんな彼の言葉にルーファウスは改めてテントを触りながら、少しだけ畏怖を滲ませる。
「これでまだ薄手なのか」
「ああ、いや……薄手ってわけじゃない。どっちかってと厚手……問題なのは防寒対策ってか……あー……なんってか……保温性? そんなの。厚手だから確かに保温性は高いんだけど、可能なら内部の温度を調整する機能をもたせた骨組みが欲しい。『サンドラ』製ならそういうのも揃ってるはずだから、こいつは本当に寒くなってもそこまで寒くはならないような場所向けだな」
「「なるほど……」」
言われてみれば確かにこのテントにはそういった機能の一切は存在していない様子だ。瞬もルーファウスも改めてテントの一式を見てそう判断する。
二人共以前の<<振動石>>の探索で深い雪で覆われた場所に赴いており、マクスウェル北部の寒さが馬鹿にならない事を身にしみて理解していた。というわけで、瞬が最終的なジャッジを下す。
「ということは、これは使えないか」
「ああ……まぁ……こういっちゃ何だけど、ここのメーカあんまそこらの評判良くねぇんだわ。安いんだけど、安いなりの品質でさ。ここは流し見で良いと思うぜ」
このテントは買わなくて良いだろう。そう判断した瞬に対して、一応の配慮として小声でリジェが告げる。一応そのメーカの専門店じゃないので店員も気にしないだろうが、メーカの職員が来ないわけではないだろう。それに瞬も声のトーンを落とす。
「そ、そうなのか……」
「ああ……ぶっちゃけ、そういった極限に近い所に行かない奴には人気があるんだけどな。<<暁>>やらみたいに基本ベースに極限環境があるとあんま、って感じらしい」
「なるほどな……確かにこれだけで砂漠を越えられるか、と言われると厳しいな……」
ウルカには大砂漠があり、<<暁>>本部の活動の中心地はそことなる。なので夜はものすごく寒いし、昼はものすごく暑い。そうなってくるとこういった温度調節機能が付いているテントを用立てないと、動けなくなってしまった時に寒暖差で参ってしまう事があるのだった。
「廉価には廉価なりの理由がある、か」
「そういう事なんだろう……まぁ、ウチは積雪のある場所にも向かうから、こいつじゃない方が良いか」
ルーファウスの呟きに応じながら、瞬はそのテントから離れる事にする。時間は限られている以上、ここのメーカの製品をこれ以上見続ける意味はさほどなかった。というわけで次の製品を見るのであるが、ふとリジェが問いかけた。
「あ、そだ。そういや……ストーブなんかの暖房器具、もう買ってるのか? 外で使える奴」
「外で使える奴? 石油ストーブみたいなのか?」
「「石油ストーブ?」」
「あ、すまん……えっと、外部電源を必要としないストーブ……という所か」
うっかりエネフィアには存在しない物を口にしてしまった瞬であったが、慌てて言い直す。そもそもエネフィアにはエネルギー源として石油が存在していない。
一応椿油等を油として使う灯油は存在しているが、火力の面からストーブとしては使われない。というより、魔石があるのにわざわざ消耗の激しい油を使う意味もなかった。
「ああ、それ」
「ああ、それなら前に見たな……あれは貸与か?」
「ああ、いや。あっちに行く前に買っておいたウチの備品だ」
「ならあんのか」
ルーファウスの問いかけに答えた瞬の言葉で、リジェはそれなら別に見る必要もないか、と判断する。そうして、彼らも彼らでそれからしばらくの間リジェを中心として旅で使える魔道具を見て回る事になるのだった。
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