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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2459話 魔術の王国 ――闇夜の戦い――

 交換留学に向けた事前調査として魔術都市『サンドラ』に招かれ体験授業を受けていたカイト達。そんな彼は放課後の空いた時間を活用し、冒険部で利用する教本や専門書の類を買い求めていた。

 というわけで生徒会長のシレーナに案内され『サンドラ』有数の規模を誇る書店を訪れひとまず第一弾を買い込んだ帰り道。カイト達は黒衣の集団による襲撃を受けていたわけであるが、彼は海棠翁らが拵えた合作とも言える<<魔斬(まきり)>>を片手に一方的な戦闘を行っていた。


「はっ!」


 今回カイトが用立てた<<魔斬(まきり)>>。それは絶魔素材(ぜつまそざい)を用いて作られた刀だ。故に情報の改ざんを一切許さないし、おおよそ全ての魔術を切り裂く事が出来た。そうして情報の改ざんを許さぬ一方的な破壊をもたらす刀に、黒衣の集団もおおよそを察しつつあった。


『まさか……』

絶魔素材(ぜつまそざい)を使ってる……?』


 ありえない。改めて言うまでもない事であるが、黒衣の集団の正体はこの『サンドラ』を牛耳る高位の魔術師達の子弟だ。故に一般的ではない素材も知っている者が多く、それ故にこそ困惑と驚嘆が共有されつつあった。


『化け物か……?』

『何だ……どんな化け物だ……』


 化け物。一方的に襲撃するはずだった黒衣の集団は<<魔斬(まきり)>>をいともたやすく振るうカイトに恐れをなす。当たり前だ。そもそも絶魔素材(ぜつまそざい)とは魔力を一切通さない素材だ。

 その道理をひっくり返して刀として扱っている挙げ句、平然としているのである。化け物呼ばわりも仕方がない。彼らの常識からしてみればあまりにありえない事態だった。


「はっ! ふっ!」


 驚嘆でまともに連携が取れなくなりつつある黒衣の集団に向けて、カイトはがむしゃらに放たれる魔術を切り裂き肉薄し、その上で蹴撃やら石突による打撃を与えて手加減しながら数を減らしていく。そうして秒単位で削られていく自陣営に、黒衣の集団の中でも上位に位置する者たちがため息を吐いた。


『これは駄目だな』

『腕が違いすぎる……絶魔素材を振るうか。並ではないとは聞いていたが。そこまでか』

『どうする?』

『……』


 やれやれ。そんな風に呆れる仲間達に、リーダー格の何者かは楽しげだった。というわけで、リーダー格の何者かは毎秒毎秒で減らされる仲間たちに対して冷酷に告げる。


『とりあえずはもう少し情報を集めさせて貰おう……このままやった所で痛い目に遭うのは明白だ』

『『『……』』』


 それはそうだ。幹部達は揃ってリーダー格の何者かの言葉に無言で同意する。そもそも数日前の会議でも明白だったが、彼らに仲間意識はほぼ有って無いに等しい。

 単に狙う魔導書や魔道具の類が同じになった結果、身内で血で血を洗う戦争になってしまうと不利益が大きいので、と話し合う場が持たれただけだ。

 今回は相手がカイトとティナという読み切れない状況だったので特例的に揃っての襲撃であるだけで、本来連携なぞ取れるわけもなかった。取った事もないだろう。


『……』


 本当に面白い。リーダー格の何者かは刻一刻と減らされる仲間達を見ながら、楽しげに笑っていた。なぜ楽しいのかは定かではないが、少なくともカイトを見て満足気に笑っている事だけは事実だった。そんな彼に、問いかけが飛ぶ。


『嬉しそうですね』

『嬉しいとも……見込んだ通りだ』

『……どうしますか?』

『……』


 問いかけに、リーダー格の何者かはわずかに悩ましげに考える。実のところ、別に仲間達が壊滅して貰っても問題はないと考えていた。そもそも彼だか彼女だかも自身の思惑があってこの場に居るのだ。その目的が達せられるのなら別に他はどうでも良かった。と、そんな彼の横を幹部の一人がゆっくりと進み出る。


『やるかい?』

『あまり舐められるのも困る……ここは『サンドラ』で魔術都市だ。剣士に一方的にやられては面子が立たん』

『そうか』


 それなら好きにしろ。リーダー格の何者かは幹部にそう笑う。基本的に幹部達はカイトの持つアル・アジフやらの魔導書にあまり興味は見せていない。

 ここまで来るとそこまで積極的にならなくても表のルートで欲しい物の大半は手に入ったし、どちらかというと下の掣肘やら牽制やらの側面、どうしても手に入れたい場合に使い勝手が良いので参加しているだけ、という者も少なくなかった。


「……む」


 これは大物が出てきたかな。カイトは魔導書を片手に進み出た幹部に、立ち止まって一度だけ<<魔斬(まきり)>>を振るう。明らかに今まで削っていた魔術師達とは格が違う。それが風格から見て取れた。


『……』


 高速詠唱か。カイトは超音波にも似た音が響くような音を耳にして、それを理解する。高速詠唱というのは詠唱という本来時間が掛かる方法を加速させ、本来の効果はそのままに時間を短縮する技法だ。これを使えるのは魔術師の中でもごく一部に限られ、少なくとも並の魔術師ではない事を如実に知らしめていた。が、これにカイトは容赦なかった。


「はっ」


 どうにせよ詠唱に違いはない。故にカイトは詠唱を行う幹部に向けて、容赦なく<<魔斬(まきり)>>による刺突を繰り出す。が、その刺突はまるで手応え無く突き抜けた挙げ句、<<魔斬(まきり)>>は幻影に突き刺さったまま抜けなくなる。


『あまり舐めないで貰いたい』

「ほぅ……空間の固定に高度な幻影による存在の偽装……他多数か」


 背後から響く声に、カイトは誘われた事を察する。そうして笑う彼であったが、<<魔斬(まきり)>>から手を離すと振り向きざまに<<バルザイの偃月刀>>を召喚。逆手に取って裏拳のように切り払う。


『む』

「……」


 バックステップで距離を取った幹部を正面に捉え、カイトは地面を蹴って肉薄しようとする。が、その眼前に幹部は再度空間の固定を行い、妨害を仕掛けてきた。


「甘い!」


 前面に生み出された固まった空間に激突するかに思われたカイトであるが、即座に停止。その上で<<バルザイの偃月刀>>を弧を描くように投げ放つ。


『ちっ』


 やはり相手も並ではないか。幹部は一つ舌打ちし、弧を描くように飛来する<<バルザイの偃月刀>>に対して転移術を起動。一気に距離を離す。が、その瞬間だ。弧を描くように飛翔していた<<バルザイの偃月刀>>が唐突に挙動を変えて、転移した幹部の方へと移動しだした。


『……む』


 どうやら苦し紛れの偃月刀の投擲ではなかったらしい。幹部は自身を追尾する<<バルザイの偃月刀>>にそれを察する。そうしてそこに、立ち止まったカイトは更に<<バルザイの偃月刀>>を顕現。更にナコトへと指示を出す。


「<<ニトクリスの鏡>>」

『コード・ニトクリス……アップロード』

「良し……さ、どう出る?」


 楽しげに笑いながら、カイトは再度<<バルザイの偃月刀>>を投ずる。そうして投じられた<<バルザイの偃月刀>>は数メートル進んだ所で唐突に分裂。無数の鏡像を生み出し、その全てが幹部に向けて飛翔しだした。


『む』


 これは驚いた。幹部はこの<<バルザイの偃月刀>>然り、仕掛けられた魔術然り、その全てが並の魔術師以上の魔術である事を理解したらしい。それはそうだろう。そもそもカイトの持つ魔導書が並以上である事は明白なのだ。である以上、そこから繰り出される魔術の数々も並以上であって当然だった。


『<<境界壁(ディメンション・ゼロ)>>』


 投げつけられた無数の<<バルザイの偃月刀>>に対して、幹部は一瞬だけ口を動かして口決を唱える。流石にこの規模の攻撃に一切の下準備もなしでは対応出来なかったようだ。そうして次元が裂けて断裂が生まれ、その中に無数の偃月刀が飲み込まれて消失する。


「ほぅ……」


 転移術を行使した時点で薄々勘付いていたが、どうやら並以上の魔術師である事は明白らしい。カイトは薄っすらと笑みを浮かべ次の一手を打つべく手立てを考える。が、その次の瞬間だ。次元の裂け目が一気に巨大化し、カイト目掛けて伸びてきた。


「っと! 危ないな!」


 流石に次元の裂け目だ。<<魔斬(まきり)>>でも<<バルザイの偃月刀>>でも切り裂けない。故にカイトは<<魔斬(まきり)>>を回収するとその場から跳躍。次元の裂け目から逃れる。それに対して幹部は再度<<境界壁(ディメンション・ゼロ)>>を発動させようとして、唐突に声が飛んだ。


『仕掛けられているぞ!』

『っ!』


 リーダー格の言葉に、幹部ははっとなって自らの身体を見る。そうして、彼は自らの身体から伸びる細い糸が放つ光の照り返しに気が付いた。


『ちぃ!』

「っと……上手くいかないもんだ」


 ぷつん。千切れた白い糸を手繰り寄せ、カイトはリーダー格を見る。実のところ、カイトは先の振り向きざまに敢えて大仰に斬撃を放つ事で特殊な白い糸を放っていたのだ。

 この糸はとある<<外なる神(アウターゴッズ)>>の力を宿した特殊な蜘蛛の糸だったのだが、細かった事と気付かれないようにしていた所為で幹部の力量なら千切れたようだ。


『……油断出来んな』


 このフードはあくまでも致命傷を防ぐ程度の効果しかなく、決して脱げないように出来ているわけではない。正体を隠す効力もあるにはあるが、それはあくまでもおまけ程度だ。

 今の糸に気付かねば、下手をせずとも正体を露呈させられた可能性は多いにあり得た。それに幹部は改めて気を引き締めて、カイトへと向き直る。


「さて……」


 どうやら相手も本気になってきそうかな。街灯の上に立ったカイトは次の一手を考える。少なくとも相手が並以上の魔術師である事は明白だ。手札が大幅に制限されている以上、カイトとしても中々に油断が出来る状況ではなかった。そんな彼に、ティナが告げる。


『カイト……追尾出来たぞ』

『どうだった?』

『やはり『サンドラ』も高位の魔術師の家の門弟や子弟じゃ。このまま追跡すれば集会所も掴めようて』


 ティナが敢えて交戦に加わっていないのは、逃げた奴らを追跡する為だった。相手が誰かを掴んでしまえば後は首根っこを押さえられる。手打ち出来ない場合はそっちをマクダウェル家から押さえればよかったし、手打ちするにしたって優位に進められる。


『出来るかね?』

『さてのう……ま、それはともかくとして。フードはすでに破損しておる以上、顔は完全に押さえられた。どうやら全員同じ場所に出るようになっておったみたいじゃから、幹部共も倒せれば正体は押さえられよう』

『倒せれば、ねぇ……中々な使い手みたいだが』

『みたいじゃな』


 中々なであってやろうとすれば倒せないわけではないが。カイトの言葉の裏を理解すればこそ、ティナは軽い感じで同意する。と、そんな二人であるが、その一方で幹部が僅かな意外感を滲ませた。


『……む』

『……』


 すたすたすた。リーダー格がまるで優雅に歩き出したのだ。それに、カイトもまたリーダー格がこちらに来る事に気が付いた。


「……」

『……』


 明らかに格が違う。カイトはリーダー格がリーダー格であるに相応しいだけの優雅さ、風格を持っている事を理解する。どうやら遊べる相手ではないらしい。そう理解し、カイトは少しだけ呼吸を整え本気で事に取り掛かる事にする。


『……』


 一瞬、リーダー格が何かを唱える。そして、次の瞬間。その真横の空間が裂けて巨大な金属質の手が現れた。


「はっ! っ!?」


 ぎぃん。巨大な金属の手と<<魔斬(まきり)>>が激突し、カイトは目を見開いた。そうしてカイトの身体が大きく宙へと舞い上がり、それに追撃するようにリーダー格が打って出る事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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