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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2451話 魔術の王国 ――自動車――

 数年後の交換留学を見据え魔術都市『サンドラ』に招かれ、サンドラ教導院にて体験授業を受けることになったカイト。彼は世話役である生徒会長のシレーナの協力を受けながら、三日間講習を受けていた。

 そんな彼であるが、二日目に受けたシレーナからの要望により彼女の父にしてマグナス六賢人の一つヘクセレイ家の当主レーツェルと会合。現在『サンドラ』で開発されている自動車について意見を求められ、それについて協力を行っていた。


「なるほど……地球の自動車はここが開くようになっているのか」

「はい……運転前に簡易なメンテナンス、ないしは検査が出来るようになっているそうです。勿論、これはあくまでも簡易なメンテナンス。詳細なメンテナンスは専門機関や専門店が代行するべきですし、その制度が地球では取られています」


 ガレージに着いたカイトとレーツェルは実際の自動車を見ながら話をしていた。やはり単に話をするだけでは見えなかった点がいくつも見付かっており、例えばボンネットが開かないことがここで発覚していたりしていた。そしてそこがわかればカイトも車検を思い出したり、と更に話は広がっていた。


「ふむ……車検か。それは重要だな……定期的に車検を行わせれば定期的な収入にも繋がるか。無論、安全基準は年々更新されていくものだ。そこで弾かれる物がでれば、買い替えの需要も見込める……」

「ま、まぁ……そうですね」


 一応車検の意味は自動車に問題が無い事を確認するためだろう。買い替えや定期的な収入等が前提かと言われれば、そうではない気がしないでもないカイトではあったようだ。まぁ、それはさておき。カイトは気を取り直して他に色々な指摘を行うことにする。


「後は……そうだ。勿論車検を受け通ったのなら、それを明示する必要もあるでしょう。安全が担保されていることを明示すること。それは重要かと」

「それはそうだ。それについては何かこちらで考えよう」


 先にもレーツェル自身が述べていたが、安全基準や法律に関することはヘクセレイ家が一括して対応している。なのでこういった標識や明示に関してはヘクセレイ家がゴライアス家に提案する形となるため、彼が考えられることだったらしい。というわけで、一通りの話が終わった所でレーツェルは非常に満足げに頷いた。


「……良し。この程度か。この話はまた六賢人の子孫で話し合うことになるので、それから必要なら話を聞かせて貰いたいのだが……」

「滞在している間で都合が合えば、ぜひお声がけ頂ければ」

「ありがとう」


 カイトの快諾にレーツェルは一つ感謝を示す。現状でカイトもわかる程度の範囲は全て話した。後はその場その場で気付いたことや問われたことを答えるか、最悪はティナに助言を求めれば良いだろう。そう、判断したようだ。というわけで一通りの話は終わった為、一度一同は応接室に向かうことになるのだった。




 さて応接室に通されたカイトであるが、そこで何かをするわけではなく単にレーツェルが協力してくれたカイトの労をねぎらう意味でそちらに通されただけだった。そうして、応接室にて紅茶が差し出された所でレーツェルが改めて一つ頭を下げる。


「まずは……改めて協力してくれて感謝する」

「いえ……お力になれたのなら幸いです。私としても自動車が発展すれば移動が楽になる」

「うむ……交通の便というのは文明の発展における全ての根幹をなす物だ。物流が発展すればするほど、文明は栄えていく。その一助となればと思い、我らも自動車の開発を行っているのだ」


 カイトの言葉にレーツェルも同意して、改めて自動車開発の意義を語る。と、そんなことを話したわけであるが、ふとカイトは興味本位で問いかける。


「そういえば……自動車の動力源はどうされるおつもりですか? 一般化を考えれば魔導鎧のように使用者の魔力を動力に変換することも難しい」

「そこが、やはりネックになってね。開発にかなりの年数を要することになってしまった。地球では何かの燃料……詳しくは私も知らんのだがね。それを使っているとのことだったが」

「ガソリンですね。液体燃料……と言って通じるかはわかりませんが。それを燃やす……というより爆発させる、ですか。それで出力を得ている形です」

「そうなのかね」


 何度か述べられていたが、自動車の開発を主導するのはあくまでもゴライアス家で、ヘクセレイ家にせよソシエール家にせよそれを補佐しているに過ぎない。

 なので知識として曖昧だったり完璧に把握していない点は少なくなかったようだ。無論、それで問題の無い範疇に限られるし、このガソリンは知っていなくても良いだろう。というわけでカイトの言葉に感心したように頷いたレーツェルが差し障りの無い範疇で教えてくれた。


「基本、動力は雷……地球風に言えば電力で賄っている。近年になりようやく自動車に搭載可能な小型魔導炉の開発の目処が立ったんだ。これと魔力充填型の二つが現在開発中なのだが……用途に分けて使い分けるべきなのでは、ということになっている」

「町中は充填型、外なら魔導炉搭載型……ですか?」

「その通り」


 カイトの問いかけにレーツェルは我が意を得たり、と得心したような顔で笑う。ここらはすでに販売を見込んで開発が進んでいた為、隠す段階は過ぎていたようだ。


「それを見抜く君に敢えて言う必要もないだろうが……町中ではさほど出力は必要あるまい。無論、充填が可能な場所を設けることも不可能ではない。が、他方外で使うのなら定期的な充填が可能とは言い切れん。であれば、自らで動力を賄えるようにせねばならないだろう」

「費用の面からも、二つのパターンを用意出来るのは良いことですしね」

「ははは。全くもってその通りだ。充填型はランニングコストが掛かるものの安上がりで済ませられ、魔導炉搭載型はランニングコストは抑えられるが魔導炉の費用がどうしても嵩む。一般家庭向けとは言い難い」


 カイトの指摘にレーツェルは気分良さげに笑う。実際彼らも魔導炉を搭載するとなると費用が嵩むことがかなり気になっていたようで、そこから魔力を充填出来る充填型を考えたらしい。というわけで、彼は思い出したと一つカイトへと問いかけた。


「ああ、そうだ。すっかり忘れていた……これはおそらくそうなのだろう、と考えられていることなのであるが……地球にはそういったガソリン? なる燃料を補給する為の施設が点在しているのかね?」

「そうですね。かなりの数が点在していますし、高速道路……遠距離移動用の専用通路にもそういった燃料を補給する為の施設を設けていたりもします」

「やはりか……いや、ありがとう。そこもどうするか考えねば、と話していてね。となると、初期導入はラグナ連邦や皇国と共同した方が良いか……」


 『サンドラ』は確かに有名な都市であるが、国家の規模としては小規模だ。なので他国にまでガソリンスタンドのような施設を設置するように働きかけるのは難しい。色々と考えねばならないことがあったようだ。


「ああ、ありがとう。これについてはこちらが考えることだ。君に助言を求めることでもない……すまないね。終わったはずだったのだが」

「いえ」


 レーツェルの謝罪にカイトは一つ首を振る。なお、カイトとしてはヴィクトル商会を紹介するのも良いかと思ったようだが、敢えて差し控えた。というわけで、その後はほぼ益体もない話に終止することになり、カイトはレーツェル直々に見送られシレーナと共にヘクセレイ邸を後にすることになるのだった。




 さてヘクセレイ邸を後にして改めて教導院に戻ることになったカイトであるが、そのもどり道も老執事の運転する自動車でだった。その車内にて、カイトはシレーナから問いかけを受けていた。


「そのガソリンスタンド? 何か良いアイデアは考えられたの?」

「うん? ああ、さっきの話か……まぁ、無いわけじゃなかった。お父君の前だから差し控えたけどな」

「差し控えた?」


 少しだけ困った様子のカイトに、シレーナは首を傾げる。というのも、それは実は彼があることを知っていたからだった。


「ああ……ヴィクトルと共同するパターンが本来は最善の方法だった。お父君もそれは十分にご理解されていることではあっただろうが」

「ヴィクトル……ヴィクトル商会?」

「ああ……おそらくあそこも自動車の開発は行っていることだろう」

「それは……おそらくそうね」


 シレーナも詳しく聞いたわけではなかったが、昨今六賢人の末裔達が自動車の開発に熱を入れているのはヴィクトル商会による開発もかなり最終盤になっていることを『サンドラ』側が掴んでいるからだと睨んでいた。というわけで、彼女がそれを口にする。


「貴方だから明かすのだけど……実は私は今回の急な招聘を教導院が受け入れたのも、それが裏にあるんじゃないかと思っているわ。こんなこと滅多にないもの。普通なら一ヶ月近く前から予定されているの」

「だろうな……何よりお父君は評議員ではないが、ご多忙であるだろうことは想像に難くない。その予定が早々に空けられるとは思わんよ」

「あ……そっか。それもそうね……」


 どうやらここまでは想像出来ていなかったらしい。カイトの指摘にシレーナははっとなった様子で目を見開く。そんな彼女に、カイトはヘッドセット型の通信機を取り出して問いかける。


「まぁ、それもむべなるかなではあるだろう。こいつ、何か知ってるか?」

「これは……ヴィクトルが最近出した小型の通信機ね。かなり今売れているみたいね」

「ああ。ウチ……正確に言えば灯里さんがこれの開発に関わったんだ。それまでの物は携帯性が悪くて、マクダウェル家とヴィクトル商会に協力を依頼したのが発端なんだ。まぁ、開発を依頼したのはオレなんだがな。そこから、というわけだ」

「そうなの?」


 少し笑いながらのカイトの明言に、シレーナは驚いた様子で問いかける。これにカイトは頷いた。


「ああ……無論、あまり一般的ではないがな。が、その裏を察したのなら自動車にウチが協力、もしくは意見を述べている可能性は想定する」

「なるほど……危機感を抱いたのね」


 現在このヘッドセット型に端を発する小型通信機はかなり主流になりつつあり、それまでの大型の通信機に一気に取って代わっている。それにライバルに近い『サンドラ』が危機感を抱いても不思議はなかった。


「ま、それはさておいても。最終的にはヴィクトルと協力関係を構築することになるだろうな」

「そうなの?」

「ああ……流石に『サンドラ』だけで動くには今回ばかりは規模が大きすぎるのと、規格を統一したい両者の思惑は合致する。無論、ヴィクトルも今それを探っているだろうな。どちらが先に提案するか……が、どちらも相手に負けたくないことはある。ある程度先鞭をつけた状態で相手に持ち込みたいはずだ。ウチは販売出来る程度には出来上がってるんだけど、利用者の不便にならないように規格を合致させないか、ってな。ヴィクトルはその話が通じる相手だ。逆もまた真なり。受けるしかない」


 さて、どっちが先かな。カイトは少しだけ楽しげに笑い、帰ったら即座にサリアの呼び出しにあうだろう自身の未来を想像する。今回の事案、サリアが興味を持たないはずがない。

 何よりヴィクトル商会が自動車の開発を行っていることはカイトも承知していたし、そちらにはティナも関わっていた。彼女もまた興味を持つだろうことが察せられた。


「それをいつ、どのような形でやるかが重要……そういうわけね」

「そういうことだな。下手に先んじようと焦ると恥を晒す。かといって、先に言われたくもない……どちらもな」

「でしょうね」


 カイトの推測にシレーナも少し苦笑混じりに同意する。というわけで、そんな彼女にカイトは告げる。


「ま、後はオレの関わる話でもない。出来る話でもない。後はそっちで考えてくれ、って所だな」

「そうね」


 そもそもカイトはここらの話に関われる立場ではないことは明白だ。なのでシレーナもそれに同意し、そこから先はここから向かう予定の本屋に関する内容に移ることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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