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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2450話 魔術の王国 ――自動車――

 魔術都市『サンドラ』。エネフィアでも有数の魔術師達が集まる都市国家に招かれ、数年後を見据えた体験授業を受けることになったカイト。そんな彼であるが、教導院における生活の開始から三日目の放課後。取得講義の関係で若干早めに終了することになった彼は教導院の生徒会長シレーナの要請を受けて、マグナス六賢人の子孫にして彼女の父であるヘクセレイ家の当代と会うことになっていた。


「到着致しました」

「ありがとう、爺や」

「ありがとうございます」

「いえ……では私はお車をガレージに停めて参ります」


 たどり着いたのは言うまでもなくヘクセレイ家だ。そしてどうやらここにはマクダウェル家と同じくガレージがあるらしい。カイトとシレーナの両名を玄関先で降ろした老執事は再び車に乗り込んで走り去っていった。それを見送りながら、カイトが呟いた。


「ガレージまであるのか」

「今年のはじめに新しく作ったのよ。ここ数十年でも有数の大工事だったそうね。ゴライアス家での自動車の開発にある程度目処が立ったから、今は六賢人の子孫で運用してるの。それで試験運用の開始に合わせて、ガレージを作ったわけ……多分後でお父様がそっちも見て欲しい、と言うと思うわ」

「なるほど……本当にあの自動車もまだ出来たてホヤホヤなのか」


 どうやら今回の呼び出しの裏には自動車に関する技術的な意見を聞きたい、という側面もあるらしいな。カイトはシレーナの言葉からそう裏を読み取る。

 実際、自動車なぞどこの街でもまだ運用は開始されていないし、おそらく量産化の目処まで考えれば一番開発が進んでいるのはこの『サンドラ』だろう。カイトの意見を是非、というのもそこらの思惑があると考えれば筋が通った。


「もう自動車で通学して長いのか?」

「大体……夏先ぐらいからね。はじめは皆何事か、と思っていたけれど。もう慣れたわ」

「だろうな」


 オレもティナの要望でバイクで走った時は行く先々で何事かと思われたものだ。カイトは当時のことを思い出し、わずかに笑う。

 ちなみに、あのバイクだが流石にまだ魔道具としての開発は途上だ。あれはあくまでもティナが地球のバイクを自身の技術で再現を試みただけのものに過ぎない。

 ワンオフの試作品こそ完成しているが、量産化の目処は立っていない。ティナ曰く量産化の開始は数年先だとのことであった。と、そんなことを話した二人であるが、シレーナが先に背を向ける。


「じゃあ、案内するわね。こっちよ」

「ああ」


 シレーナに案内され、カイトはヘクセレイ家の玄関を通る。そうしてたどり着いたのは、こういう大きな邸宅にありがちな大きな階段のある入口だった。が、ここで彼はマグナス六賢人の邸宅特有のある物を発見する。


「あれは……魔道具? 板状の情報端末にも見えるが……なんだ?」

「ああ、これ? これは……」


 カイトの問いかけを受け、シレーナは入って早々に二人を出迎えた石版に似た魔道具を起動させる。そうして、いくつかの文言が浮かび上がった。


「これだけのものよ」

「開祖マグナスの教え……?」

「ええ。一つ、魔術師であれば常に世界の深淵を探らねばならない。一つ、魔術師であれば魔導書が主人を選ぶ時、その邪魔をしてはならない。一つ、魔術師であれば魔導書の主人に選ばれた限り、その全てを習得せよ。一つ」

「魔術師であれば如何な魔術であれ敬意を持って接すること……開祖マグナスの十の教えだ。我らマグナス六賢人の子孫はその教えを常に胸に刻まねばならない。そう考え、我らの邸宅には必ず玄関に入ってすぐの所にこの石版を置いているのだよ」


 シレーナの言葉を遮るようにして響いたのは、優雅ながらも威厳のある声だ。声音としては長兄のスオーロより次兄のゲンマに近いものがあった。そうして、階段の上に立っていた壮年の男性が降りてきて二人の前に立つ。


「お父様。ただいま戻りました」

「ああ、シレーナ。ご苦労だった……君がカイト・天音くんだね」

「ありがとうございます」

「うむ。レーツェル・ヘクセレイだ。よく来てくれた」


 どうやら風貌としても立ち振舞としてもゲンマに近い人物らしい。カイトは手を差し出したレーツェルと握手を交わしながらそう思う。とはいえ、そんな彼とゲンマの最大の違いはその横を魔導書が滞空していたことだろう。そんな魔導書にどうしても視線が向いてしまうカイトを見て、レーツェルは笑う。


「ああ、これか。これはヘクセレイ家が開祖マグナスより受け継いだ魔導書<<隠されし真実(ゲマトリア)>>だ」

「それが、かの有名な……」


 『神の書』の一冊<<隠されし真実(ゲマトリア)>>。その名をカイトも聞いたことはあった。故に驚きを隠せない彼に、レーツェルは逆に驚いていた。


「ほう……知っているかね。スオーロから我々のことも知っている様子だ、とは聞いていたが」

「流石にマグナス六賢人が受け継いだ六冊を調べずに『サンドラ』に招かれようなぞは思いませんよ」

「なるほど。それは確かに……まぁ、一応今後を考えて話をしておけば、基本我ら六賢人の子孫の内各家の当主はこのように魔導書を常に従えている。覚えておきたまえ」

「ありがとうございます」


 自身に追従して動く魔導書を見ながら教えてくれたレーツェルに、カイトは一つ礼を述べる。そうしてそんな彼にレーツェルは告げる。


「さて……立ち話をするわけにもいかないだろう。来たまえ」


 レーツェルはそう言うと踵を返し、邸宅内を歩いていく。そうしてたどり着いたのは彼の執務室だ。


「ここが私の執務室だ……それで今日君を招いたのは他でもない。自動車について話を聞きたくてね」

「自動車……ですか。先にシレーナからも聞きましたが、可能な限りで良ければ」

「勿論、それで良いとも……ロイク。例の資料を彼へ」

「かしこまりました」


 ロイク。それがどうやら先の老執事の名だったらしい。後にシレーナから聞けばヘクセレイ家の筆頭執事だったそうだ。にもかかわらずシレーナの送迎を任されていたのは使うのが自動車という重要な物であった為、信頼出来る彼に管理等を含め任されていたとのことであった。というわけで、そんな老執事がカイトへと資料を差し出す。


「天音様。こちらを」

「ありがとうございます……これは……随分昔の写真ですね」

「マクダウェル家の技術協力を受け試作した自動車の第一号で、私の祖父の代の物だ。勿論、それはあくまでも技術的な検証を行う為の物で、実用化は考えられていなかったがね」


 少しだけ驚いた様子のカイトの言葉を受け、レーツェルは少し笑って資料の詳細を告げる。資料に添付されていた写真に写っていたのは、完全に骨組みだけの四輪駆動車だ。そこにはサスペンションも無ければ座席にマットもなく、完全に手探りでやってみました、というのが見て取れた。そうして、そんなレーツェルが更に教えてくれた。


「基本、自動車の開発はゴライアス家が主導しているのだが、他のマグナス六賢人の子孫が関わっていないわけではない。例えば安全基準等の法律の策定やマクダウェル家とのやり取りではヘクセレイ家が協力しているし、安全面であればソシエール家が協力している。まぁ、それで全員が個々に接触しても無駄が多い。なので私が一括して聞いておこう、というわけだ」

「なるほど……可能な限り、お力になれれば幸いです」

「うむ……それでまずは先程乗って貰った感想から聞いておきたい」


 カイトの返答に一つ頷いたレーツェルは改めて、と切り出す。そうして、そこからしばらくの間カイトは自動車についてあれやこれやと聞かれることになるのだった。




 さてカイトがヘクセレイ家を訪れてから一時間ほど。おおよそ聞きたいことは聞けたのか、レーツェルは一つ頷いた。


「……うむ。ありがとう。これだけ聞ければ十分だろう……確かに君の指摘した通り、今後何十何百と輸出することを考えれば、それを前提に安全面を思案するべきだろう。ソシエール家にはそう伝えておこう」

「お力になれたのなら幸いです」


 先に車内でも話が出ていたが、やはりまだ世界に数台しかない時点でヘッドライトやテールランプの概念は存在していなかった。

 そもそも大抵のことを魔術でなんとかしてしまえる魔術師達にとって、敢えてヘッドライトを搭載し夜道を照らして動くという観念がなかったのも大きかった。改めての指摘にレーツェルは存外見えていない所が多かった、と感心した様子だった。


「うむ……で、後は自動車の国際的な安全基準の確立だな。これは勿論各方面と連携。最終的には次回か次次回の大陸間会議での採択を目指して動くつもりだ。これについてはすでにマクダウェル家と連携し、動くつもりで準備を進めている」

「そこまでお考えでしたか」


 現状の開発状況を考えれば、かなり準備は本格化しているのだろうな。カイトは先の自動車の完成度を見てそう判断する。


「後は……うむ。坂道か。これは確かに盲点だった。当然、坂道ではいつも以上に出力を出せねば登れない。なぜ法定速度というものがありながらあそこまで異常に高い数値を検出出来るメータが存在しているのか疑問でならなかったのだが……そういうことだったのか」


 次にレーツェルが感心していたのは、自動車の速度計だ。これについては当時のカイトも詳しく把握していなかった為、こんな形で速度計があると残っていた以上の資料がなかったのだ。故に『サンドラ』の開発者達も何故こうなっているんだろう、と首を傾げるばかりで言われてみれば納得となったのだった。


「そういうことですね。法定速度が30キロなら30キロまで出せれば、となりますが坂道で平地と同じ出力で良いわけじゃない。ある程度の余剰は必要です。その余剰は、その時々に応じて変わるでしょうが」

「うむ……そこの技術と情報の集約がこれからの課題か……となると、もう『サンドラ』の町中だけでの試験運用では事足りないようになりそうか……ロイク。アストラ家に話をしておきたい。手配を」

「かしこまりました」


 今までは『サンドラ』の町中での試験運用だけだったが、今後は更に視野を広げて他の領地や国で実際の運用を想定して動くことになったようだ。レーツェルの師事に老執事は一つ頷いた。


「うむ……良し。ありがとう。これで今この場で聞けることについては大丈夫だろう。後は実際の自動車を見ながら、いくらか話を聞きたいのだが……大丈夫かね?」

「勿論です」

「良し。では、移動することにしよう」


 カイトの返答にレーツェルは一つ頷く。そうして、一同は改めてヘクセレイ家のガレージへと移動して、そこで更に話をすることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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