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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2447話 幕間 ――上級生達――

 魔術都市『サンドラ』に招かれ、体験授業を受けることになったカイト。そんな彼は初日の授業をなんとか終わらせると、教導院側の意向を受けたシレーナの求めを受け生徒会室にて放課後を過ごすことになる。

 そうしてそこで彼女へと一日の感想を語った彼であったが、そこで彼は偶然生徒会の手伝いをしていた先代生徒会長のルークの専攻が異なる星の魔術。所謂地球で言う所の『外なる神(アウターゴッズ)』に関する魔術だと知ることとなる。

 それについてティナとの論評を交わして、更に翌日。この日も天桜学園関係者は朝から講義を受けることになっていた。それは勿論、魔術の勉強に来た瞬も一緒だった。


「そうだね……これなら……こうした方が良いかもしれない。水のルーン……だったっけ。若干簡略化しすぎていて、効力がかなり落ちている」

「ふむ……」


 瞬の世話役はルークだ。何度となく彼自身が言及していたが、すでに卒業論文の執筆も終えて留学先の選定を行っている段階の彼は就職に向けて動く他の学生に比べ時間に空きが多く、自らシレーナと担当教員に瞬の世話役になることを申し出ていた。

 特に専攻分野からルーク自身が瞬との交流を臨んでいたことも大きかったようだ。そんな彼であるが、瞬の使うルーン文字を見て楽しげに笑っていた。


「うん……やっぱりこうやって異なる世界の魔術を見るのは実に興味深いね。これもやはりエネフィアのどの文明の魔術にも属さない。勿論、私の専攻である分野の魔術にも属さないのだけれど」

「それはそうだろう。なにせこれは地球に端を発する魔術……らしいからな」

「だろうね……うん。やっぱり面白い。時間あったら一度オークションで地球の魔導書でも探してみようかな……」


 一応、エネフィアにも文字を描いて発動させる魔術は存在している。が、ルーン文字はそのどれとも類似性は存在しておらず、完全に未知の領域に等しかった。というわけで魔術の研究者としての側面から興味を覗かせたルークであるが、すぐに気を取り直す。


「っと、このルーン文字? だったかな。これは利点として即座に記せる点がある。極めれば色々と仕掛けることが出来そう……かもね」

「カイトはそうしていたな」

「彼も使えるのかい?」

「ああ……時々意見を聞いている」


 ルークの問いかけに瞬は特別隠すこともなく頷いた。一応、このルーン文字はカイトが偶然オークションで見付けた地球の魔導書に記されていたことにしてある。

 地球の魔道具などがエネフィアに流れ着くことがあることは知られているため、よほど高度なルーン文字にならねば多少のごまかしは出来た。そして今の瞬では雷と火の二つ以外は不可能。問題はなかった。そんな彼の言葉にルークは感心したように頷いた。


「なるほど……やはり彼には驚かされてばかりだ。武術に加えて魔術まで出来るとはね。伊達に、ではないか」

「うん? どういうことだ?」

「ん? ああ、流石に私も六賢人の子孫だ。彼が今もまだ修行していることには気付いているよ……あんな常人では到底やらないようなことをよくもまぁ……正直、気付いた時は二度見したよ。正気か、ってね」


 瞬の問いかけに対して、ルークは少しだけ困ったような顔で笑いながら首を振る。


「修行……ネックレスのことか?」

「そうだね……常に身体に高負荷を掛けて動いているようなものだ。私だったら耐えられない。授業中も休憩時間も、ご飯を食べる時だって一切休み無しだ。常人なら狂気の沙汰だが……それが彼の覚悟なんだろうね……うん。覚悟。その一点において彼は間違いなく勇者カイトと比肩させられて良いだろう」

「わかるのか?」

「連続稼働時間を見たからね……あ、ごめん。これ彼には内緒で」


 やっばい。そんな焦ったような様子で、ルークは瞬に大慌てで一応謝罪する。流石はマグナス六賢人の子孫にして、当代随一の魔術師と言われるぐらいのことはあるのだろう。彼は魔道具の稼働状況を見抜けたらしい。というわけで、瞬が笑いながらふと興味本位で問いかけた。


「あははは……ちなみに、なんだが。どれぐらい稼働させていたんだ?」

「概算時間だけれど……大体二ヶ月か三ヶ月ぐらいだったかな。はっきりとは覚えてないけど」

「なっ……」

「あっははは。そうなるだろうねぇ……私も正直数えて言葉を失ったよ」


 ルークは稼働時間のあまりの長さに言葉を失ったのだろうが、一方の瞬はその間にあったいくつもの戦いを考えて言葉を失っていた。なにせこの二ヶ月の間に公的に確認出来るだけでも『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』の討伐や『原初の世界(ゼロス)』の一件などがあったのだ。それら全てを彼は負荷を掛けた状態で戦い抜いたという。真実を知る瞬が言葉を失うのも無理はなかった。


(ニヶ月ほど前だと……合同軍事演習があった頃か? そ、それから一度も切っていないのか……)


 さしものカイトも二つの大戦を生き延び、今なおイクスフォスの帰還を待つ建国大戦の英雄達を相手に手加減しながらは戦えなかったようだ。そこで切ったわけであるが、それ以降の並み居る化け物達は全て彼にとって()()()()()戦える程度でしかなかったらしい。


「正直な話、私は彼だけは敵に回したくないね。初めてだ。そう思ったのは……あれは覚悟させた時が一番恐ろしい手合だ。覚悟だけは、させちゃいけない」


 僅かな畏怖。それがルークの言葉にはあった。そしてそれは瞬も密かに感じていたことだった。


「覚悟させた時、か……だろう。俺も、そう思う。カイトだけは、本気にさせたら駄目だ」

「うん。覚悟させたなら、おそらく彼は誰でも殺すだろうね。君でも、私でも……勿論、その覚悟をさせるのは相当な出来事だろうけど。その代わり、覚悟を引き換えに彼は如何なる困難も成し遂げるだろう」

「……」


 聞いたことがあるな。瞬はカイト自身が語ったいくつかのことを思い出し、ルークの言葉に納得する。カイトは何度となくもし冒険部の人員が道を踏み外した時、自分がけじめを付けると言っている。それを多くの者は口だけと思っている様子だったが、上層部は軒並み異なっていた。それを再認識した押し黙る瞬に、ルークは慌てて首を振った。


「ああ、ごめんごめん。そういうことを言う場じゃなかったね。話を戻そうか」

「あ、ああ」


 ルークの言葉に瞬もまた気を取り直す。そうして、そんな彼にルークは再び指南を開始した。


「とりあえず今の瞬は基本的なことから始めた方が良いんじゃないかな。存外空間に、物に魔術的な文字を刻むのは難しい。土台が無いからね。実はそういう意味では人体の方が簡単なんだ」

「そうなのか?」

「実はね……これはカイトくんが悪いんだろうね。彼はその分野においてあまりに天才的すぎるんだ。刻印関連の専門家に聞いてみると良い。私の知る数人は彼の才能を知れば廃業するだろうね」


 基本的にカイトは自己評価は高くはない。無論問題になる程度ではないが、若干低めに設定している。これは彼の周囲に優れた者たち、それこそティナを筆頭に師である信綱ら天才を大きく上回るような者が多すぎたことが問題だ。

 故に彼は自身の持つ天才的な技能を疑っている所が散見され、自身の能力が異常に高いと言われても、その高さは理解出来ても異常を正確に理解していないことが時折あるらしかった。


「そ、そんななのか……」

「おや……存外彼、自己評価は低いのかな? それとも隠しているのか……まぁ、兎にも角にも。最初は文字じゃなくて印を付けることから練習してみると良い。君も低いわけじゃないが……彼ほどの修練と才能は無いだろう。急ぎすぎているように私からは見えたかな」

「わかった」


 やはり外からアドバイスを貰うのは良いことだったのかもしれない。瞬はカイトでは見抜けなかった点を外から見てもらい、素直にそれを受け入れる。といってもそもそもの話として、カイトは教える者ではないのだ。それを無理して教えている以上、若干無理が生じるのは当然の話だっただろう。

 そうして、この後は時間の許す限り瞬はルークや時折様子を見に来た教員から指南を受け、放課後まで時間を費やすことになるのだった。




 さてルークから教えを受けて数時間。授業も終わり放課後になった頃だ。流石に先のカイトの話の少しの重苦しさは完全に霧散して、二人は普通に他愛ない話を繰り広げるようになっていた。


「すまないな、一日時間を割いてもらって」

「いや、良いさ。教授に申し出たのは私だし、私としてもかなり有益だったからね」

「そう……なのか? 役に立てたのなら幸いだが……」


 この日一日は瞬が取得出来る講義がなかったので、ほぼほぼ同じく講義がなかったルークにつきっきりで指導をしてもらった形だ。なので彼としては少し申し訳ない気持ちがあったらしいのだが、ルークがそういうのならそうだろう、と若干訝しみながらも受け入れさせて貰うことにする。


「ああ。朝も言ったけれど、ルーン文字のように一文字だけで魔術的な力を持たせる魔術はかなりレアなんだ。それの実物を、それも他の世界の実物を目の当たりに出来る機会なんておそらく今後生きてきてそう何度もあるものじゃない。これは私の魔術師としての人生において非常に意味のある時間だよ」

「そ、そうなのか……」


 やはり瞬は魔術師ではない。なのでルークが熱弁する内容にはいまいち共感はし難く、若干引いているぐらいであった。そんな様子を見て、ルークが謝罪する。


「ああ、ごめんごめん……まぁ、今日はこんな所で良いだろうね。エテルノ。これから何か用事はあったかな?」

「……本日は特には」

「エテルノさんもありがとうございます」

「いえ、私はルークの補佐が役割ですので」


 指導の間ほぼほぼ言葉を発することはなかったが、エテルノもまたルークと共に瞬の練習に付き合っていた。なので礼を述べた瞬に対して、エテルノはいつも通り無感情に近い様子で首を振るだけであった。


「あはは……そうか。ということは久しぶりに完全にオフか。ふぅ……」

「やはり色々あるのか?」

「まぁね……詳しくは明かせないけど、一族で管理している魔導書の管理の一部も私がしないといけないからね。実はこれでも自宅から通学してるんだ……まぁ、これはシレーナやアネモスとかもそうなんだけどね」

「そうなのか」


 これは六賢人の子孫の特権というより、家の事情と考えた方が良いのだろう。瞬は出された名と先ほどのルークの言葉からそう理解する。そして事実、そうだったようだ。


「家が古いとその分集めた物も多いからね……捨てるに捨てられないから、私達まで管理に駆り出されるんだ。最終的には受け継がないといけないしね。今からその準備、という所なんだろうね」

「嫌じゃないのか?」

「まさか。有り難い限りだよ。あんな蔵書の数々……普通の魔術師なら到底集められない。若い内から触れられることもない。それをこうして触れられ、最後は受け継げるなんて……これほど喜ばしいことはないよ」

「そ、そうか」


 要らぬ心配だったか。瞬はよく聞く話とは無関係な様子のルークにわずかに頬を引き攣らせる。と、そんな彼にルークがふと興味本位という塩梅で問いかけた。


「そういえば魔導書と言えば。カイトくんは魔導書を持っていたけれど、君は持っていないのか?」

「いや、俺は教本だけだ」

「そうか……まぁ、そう何冊も持っていても不思議か。彼のあれ、凄いのかな?」

「さぁ……俺も詳しくは知らないんだ。実際、見たソラ……別のサブマスターは何か知っていたみたいだが」

「そうかい……魔術師としてはあれが何か気になる所ではあるのだけどね」


 やはり魔術師か。瞬はどうしても魔導書に興味をそそられるらしいルークにそう思う。とはいえ、彼は実際知らないし、知らないものは知らないと言うしかない。

 それを察したルークもそれ以上は問いかけなかった。というわけで、その後もしばらく様々な魔術や家に関する雑談を繰り広げ、瞬の一日は終わりとなるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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