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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2443話 魔術の王国 ――魔導書――

 数年後に行われるかもしれない交換留学を見据え、魔術都市『サンドラ』に招かれ体験授業を受けることになったカイト。そんな彼は最初の講義を自身が得意とする精霊学の講義としたわけであるが、これは彼自身の適性の高さにより苦もなく終わらせることとなる。

 そうして次の講義に臨むことになった彼であるが、次の講義は学年で必須科目となっていた。というわけで、シレーナから貰った資料で必須科目に招かれた講師の来歴や功績などをさっと確認。彼は一つ感心するように口を開いた。


「なるほど……現代魔術の洗練……面白い分野ではあるな」

「そうね……現代で一般化している魔術はおおよそ中級まで。それも中級上位までになると、教えてくれる所は珍しいでしょう。それ以上は魔導書で個人で習得することになる……のが一般的ね」


 カイトの言葉に同意したシレーナが今の魔術の習得についてを語る。ここらの歴史や一般的に魔術師として常識となっていることを学ぶのも、この必須科目の中でのことらしかった。本当に魔術に関する全般を習得する、ということなのだろう。それはさておき。シレーナは更に続けた。


「とはいえ、それ故にこそ広く流布されている魔術はすでにある程度の洗練がされているから、それをこれ以上洗練させようという試みは珍しいわけ」

「そうだな……如何せん一般化している魔術は一般化しているなりの理由がある」


 基本的に一般的に広まっている魔術というのはほぼほぼ魔術の術式が固まっており、それ以上の改良の余地はあまりない。そして使いやすいからこそ、広く広まっているのだ。それをこれ以上改良しよう、という試みは面白い分野ではあった。


「で、この今回の教師は何の分野の洗練を行われている方なんだ?」

「魔道具関連……らしいわ。貴方達に馴染みが深い人物だと……皇国の初代皇妃ユスティーツィアかしら」

「あー……」


 それであいつが少し楽しげなのか。カイトは流し目でティナを見て、いかにも興味津々という塩梅の理由を理解する。シレーナが言っているが、彼女の母が得意としているのは既存の魔術の洗練化とそれの魔道具への落とし込みだ。正しくこの分野と言ってよかった。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない……今回は何回になるんだ?」

「全二回の講義ね。今日が前半、次回後半」


 カイトの問いかけにシレーナは時間割を提示し、次回の日程を指差す。どうやら今日と今週末に開かれるのが、その後半の講義らしい。


「一応、今週と来週は両方共全二回の講習になっているはずよ……まぁ、それに合わせて招いたんだけど」

「なるほど……ま、確かに一ヶ月がかりでの講習とかやられても困るしな」


 カイト達が『サンドラ』に滞在する日程は二週間。その中でこの必須科目は週二回の計四回しかない。三週間や一ヶ月の講義を聞かされても中途半端にしかならなかった。というわけで、完全に興味本位で彼は問いかける。


「来週は何なんだ?」

「来週は確か……魔導鎧の系譜ね。工学向け……という所かしら」

「魔導鎧の系譜か……確かに一見すると関係なさそうだが……」

「無いと思うなら不勉強ね」

「だから一見すると、ってきちんと付けたさ」


 笑うシレーナに、カイトもまた笑う。魔術師だから魔導鎧は使わない。そう思われがちなのであるが、実際はそうではない。というわけでその理解にシレーナは満足げに頷いた。


「はい、よろしい……まぁ、流石にせっかく教師を招くのだからここらについては私が言うわけにもね」

「そうだな……っと」

「っと」


 カイトが襟を正すのを受けて、シレーナもまた始業のチャイムが鳴り響いたことに気が付いた。そうして始業のチャイムが鳴ったと同時に、講堂の前の扉が開いて壮年の男性が入ってきた。


「……皆、久しぶりだ。おおよそ半年ぶりであるが、諸君らの成長した姿が見れて私としても嬉しい限りである」


 どうやらこの教師が教導院に招かれたのは今回が初めてというわけではなかったらしい。笑みこそ見せなかったものの、その言葉にはどこか親しさがあったように感じられた。そうして、そんな彼はカイトやその他留学生を見て一つ頷いた。


「さて……いつもなら早速と講義に入るのであるが、今回は何人か新たに入った生徒も居ると聞いている。まずはその者たちのために自己紹介を行っておこう。アルトゥール・アストラだ」

「アストラ?」

「アストラ家の当代の兄君よ」

「兄?」

「当主の座を継がなかったのよ……あまりここらは聞かないで」


 どうやらまたマグナス六賢人の子孫らしい。カイトはアルトゥールと名乗った壮年の男性を改めて観察する。魔術師としての格はかなり高そうだったが、実家とは色々とあるらしい。シレーナはしかめっ面だった。

 ちなみに。聞かないで、というのは家柄としてシレーナは知っているが言えないので聞くな、という意味らしい。と、そんなアルトゥールは自己紹介も終わったので、と単刀直入に本題に入った。


「それで今回の私の講義であるが、今回は実は来週講義を行う予定の者より依頼され、魔導書という物について語らせて頂くことになっている」

「そうなのか?」

「いえ……私も初耳よ。あ、でも……」


 そういえば来週講義予定なのは確か彼の甥だった気がする。シレーナは今月の必須科目の担当者リストを確認する。


「やっぱり……来週講義予定なのはアルトゥールさんの娘さんの旦那さんね。名前、どこかで見たことあると思ったら……いえ、正確にはまだ婚約前だから違うんだけど」

「ということは断るに断れず、か」

「そういうことなんでしょう」


 なるほど、それなら納得だ。流石に娘婿の頼みは断りきれなかったらしい。なお、この娘婿であるが今週はどうしても他大陸で開かれる学会に出席せねばならないらしく、色々と調整した結果アルトゥールが今回の講義を、となったらしい。と、その一方のアルトゥールは講義を開始する前に一冊の本を取り出した。


「さて……それで魔導書を語る上で欠かせないことなのであるが、まず魔導書の格についてを話すことにしよう。この魔導書であるが、魔導書にはいくつかの系統がある。それについて答えられる者は? そこの」

「はい……魔導書の系統としては神話の時代に記された神話級。古代の魔術について記されている伝説級。一般の魔導書の三つです」

「そうだな……座ってよろしい。今語ってくれたように、魔導書は大別すれば三つの系統に分けられる。なお、伝説級というのは各大陸で旧文明の痕跡が多く見付かっている現在では厳密には当てはまらない名前だが、古くからそう呼ばれているためそうなっている。その点、注意するように」


 一人の生徒の返答に頷いたアルトゥールはその三つの分類についてを黒板に書き記す。その上で彼は各分類に分類されいてる代表格を例示した。


「まずこの神話級であるが、これは非常に数が限られる。神話の時代に神族が神の使う魔術や神についてを書き記したのがこの神話級だ……これは例えば著名なものであればエネシア大陸の魔術を司る神マナウスが書き記したとされる<<魔術大全(スペルブック)>>。おおよそ神話で使われる全ての魔術の基礎が記されているとされる魔導書だな……他にも太陽神と月の女神が共著として記したと言われる<<円環の書(リング・オブ・ソウル)>>。破壊と治癒について書かれた魔導書だな……以上がこれに当たる」


 懐かしい名を聞いたな。カイトはシャムロックとシャルロットの二人が書き記した魔導書の名を聞いて、どこか懐かしい気持ちを得る。

 これであるが、原本は二冊ありその片方は今もシャルロットがそのまま保有していた。この写本の一冊――シャルロット当人が三百年前にカイトのために書き写した物――をカイトも保有していた。


「他にも他大陸の神々が書き記した魔導書など、所謂神話や古い英雄達が持っていたとされる魔導書にこういった物が多い……では、次だ」


 一度生徒達の反応を確認したアルトゥールであるが、カイト達にも特段の疑問も無い様子だったのでそのまま続けることにしたようだ。


「それで次。次は伝説級……こちらもエネシア大陸であればルナリア文明や帝政以前のマルス王国時代に記された魔導書がそれにあたる。なお、決して間違えてはならないのは、伝説級だからと必ずしも優れた魔導書というわけではない。あくまでも旧文明が記した魔導書だから伝説級というだけだ。所詮旧文明と言ってもピンきりだということを忘れてはならない。では、これについて例を記しておこう」


 アルトゥールはどこか鼻で笑うような様子を見せながら、改めて黒板に向き直る。どうやら何冊か旧文明の魔導書を見ており、上は尊敬に値するが下はそうでもないと思っている様子だった。


「伝説級……これは例えばマルス王国時代にエンテシアの魔女が書き記したと言われる<<世界の深淵(ディープ・ワールド)>>や著者不明の<<大いなる力>>といった魔導書が有名だろう。更に古くルナリア文明であれば<<異なる世界の神(アザー・ゴッズ)>>、<<記されざる者の書>>がこれに該当する」


 そういやティナがどれか持ってた気がするな。カイトはアルトゥールの話を聞きながら、そんな益体もないことを思い出す。というわけで、ここらは特に取り立てて聞く必要もなかったので彼女に問いかけてみる。


『ティナー。お前どれか持ってなかった?』

『む? ああ、<<異なる世界の神(アザー・ゴッド)>>の原本を持っておるな……が、<<記されざる者の書>>というのは聞いたことがない。新たに見付かったのやもしれんな。少し興味深い』

『そう言えば<<世界の深淵(ディープ・ワールド)>>は写本ぐらいならエンテシアの書庫にありそうじゃないか?』

『あ、あるかもしれんな。余も持っとらんから探してみるか』


 カイトの指摘にティナはそう言えば、と僅かに目を見開く。そうして、二人は話半分で魔導書の話を聞きながら、適時思い出したことや補足などを話つつ講義を受けることになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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