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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2442話 魔術の王国 ――次の授業――

 魔術都市『サンドラ』。魔術で栄える都市国家に招かれたカイトであったが、そんな彼は『サンドラ』が誇る教導院にて体験授業を受けることになっていた。

 というわけで彼は自身で選択した精霊学の授業を受けていたわけであるが、それは精霊の教師であるノイの少しの想定外により想定の倍近く早い結果を出すことになっていた。

 そうして、迷路の攻略からしばらく。意外と親しみが持てることがわかって話に興ずるノイと少女らの横で、カイトは一人精霊達を介して時空間を調律。外との連絡を行っていた。


「ということがありましたとさ」

『まー、精霊魔術に関してはお主はそういうことが起きような。どうしてもお主は精霊達が自動で解答してしまうこともあり得よう』

「それな……まぁ、今回はかなり運要素があったみたいだが」


 ノイも言及していたが、今回カイト達はほぼほぼノーミスでクリアしていた。一応ミスらしいミスも散見されていたが、それだって大幅なタイムロスになるようなものではない。他の生徒達のように大樹の試練で何度も失敗するような致命的とも言えるミスはなかった。


「ま、良いや……それはともかくとして。そっち、何か面白いネタはあったか?」

『いや、さほど無いのう……この三百年。面白い魔術師の一人でも出ておればと思わんでもなかったが。いや、おらぬわけではないし、実際おったが……まぁ、どこかしらで余には繋がっておったのでさほど、という所じゃ』

「あー……人脈広いからな、オレら」

『伊達に元魔王と世界最大の貴族ではないからのう……』


 おまけに技術力としても世界最大の貴族だしなぁ。カイトは自分が発端とはいえ色々とやりすぎた結果の現状に苦笑しつつ言及する。実際、この『サンドラ』と比肩する魔術師が居るとすれば、と百人に問いかければ半数程度はマクダウェル領を上げるだろう。それぐらいには著名な魔術師は多かった。


「ま、そりゃ良いか……ってことは取らなくて正解だったか」

『かのう……で、そっちどうじゃ?』

「んー……まぁ、面白い精霊って感じか。珍しいタイプ……というべきか」


 カイトは少しだけ横目にノイを見る。彼女のように人に興味を持つ精霊は少なくないが、ここまで興味を持つ精霊は数少ない。彼女の場合は興味が更に高じてこうなったのかもしれないが、そこはわからなかった。


「にしても……まったく。三百年経過したら会えないと思っていた奴には会えるわ死んだ奴が復活するわ……色々と起きるもんだ」

『そもそもそっちが勝手に勘違いしただけでしょ。誰も森に還ったからって死んだなんて言ってない……というか、普通わかりなさいよ』


 精霊の言葉でカイトの耳に少女の声が響く。とはいえ、これは彼女の言う通りであった。そしてそれはカイトもわかっていたはずなのに、なぜかここでは勘違いがあった。それ故にカイトも強くは言い返せなかった。


「いや、まぁ……そうなんですが。そもそも精霊は殺せない……当たり前の話すぎた。なんで森も契約も無事なのに死んだと思ったんやら。というか、それならそうとさっさと言ってくれりゃよかったのに。ユリィの奴なんてギャン泣きしてたぞ」

『……それは……悪いと思うけど』

「オレに悪いは無いんっすね」


 どこか恥ずかしげな少女の声に、カイトは深くため息を吐く。それこそ先程の一幕がなければ今もずっと彼女が死んだと勘違いしたままだった。


「おかげで心臓が飛び出るかと思ったわ」

『……だって出て行きにくかったし。実際、こうやって出れるようになったのもつい最近だし……』


 言わんとすることがわからんではない。カイトは自身が少女の立場であれば間違いなく出て行きにくいだろうと思う。なにせ誰もが死んだと思っている中でひょっこり顔を出さねばならないのだ。まず間違いなく気まずい雰囲気が流れるだろう。というわけで、少女が逆ギレした。


『じゃあどうやって出ていけってわけ? 実は生きてましたー? ギャグでもやりゃ良い? それともドッキリの札でも掲げとく?』

「いや、キレるなよ……ま、とりあえず。生きててくれてよかった。それだけで十分だ」

『……あんたも、生きててよかった』


 兎にも角にもそれに尽きる。カイトの万感の想いがこもった言葉に少女もまた同意する。と、そんな彼にティナが問いかける。


『あれか? 昔言うておった森の精霊か?』

「ああ。カトレアな……生きてたわ」

『それについてはお主がなぜ勘違いしたのやら、って所でしか余も思わんが。あまりに常識的過ぎて久方ぶりにお主が地球人じゃと想い出したわ』


 契約が生きている以上、相手もまた生きている。そして森が生きている以上、森の精霊もまた生きている。そんな当たり前のことをなぜカイトが見落としたのか。それはひとえに死んだ、という固定観念があったからとしか言いようがない。

 一方のティナは死んだ、という結論だけ聞かされていたので森か精霊が何かしらの事情で殺されたかと思っていたのだが、そのどちらでもないと聞けばなぜ死んだと思った、と言うしかなかったようだ。実際、カイトも今更なぜ死んだと思っていたのだろうとしきりに不思議がっていた。が、それ故に彼も少し恥ずかしげだった。


「うるせぇよ……さて、それはそれとしてだ」

『本題……じゃな』

「ああ」


 適度に雑談を繰り広げた二人であったが、少しだけ気合を入れ直す。


「これからどうする?」

『ひとまず、当初の予定通り待ちが基本戦術じゃのう……彼奴らも機会は見定めような。今日明日で動くことはあるまい』

「流石に、か」


 自分達が持つ魔導書が相当なレアリティを持つ物であることは敵もわかっているだろう。それを持つということの意味がどういうものか、というのは魔術師であればわかっているはずだった。


「ティナ……奴らがどうやっているだろうか、という想定は出来てるんだな?」

『うむ……おおよそ強制的な主人の変更を行わせておるんじゃろう、というのが余の推測じゃ。意思を持つ魔導書は自らで主を選ぶが……それを強制的に書き換えてしまうわけじゃのう』

「出来るのか、と疑問なんだが……」

『出来はしよう。時と場合、そして魔導書の性質によっては魔導書がへそを曲げる。存外主人に愛着を持つ魔導書は少のうないからの。そうなると厄介じゃろうが……ま、そこらは気にしておらぬのやもしれぬし、更にそれを上回れる魔術師なのやもしれん。そこらは手がかり一つなければ何もわからぬよ』


 現状、推測出来るのはこの程度。ティナはカイトへとそう語る。そうして、この後もしばらくの間二人は空いた時間を活用し、敵の出方をどう伺うべきか相談することになるのだった。




 さて精霊学の授業が終わり、小休止を挟むことになったカイト。そんな彼であるが、基本的にはシレーナと行動を共にすることになっていた。理由は世話役だからだし、この次の講義は学年での必須科目であることもあった。全員聞かねばならないのである。というわけで、案内されたのは大講堂と呼ばれる学年全員が集まって講義を聞ける部屋だった。


「次の授業は魔導書についての勉強……というかそこら全般に関する内容ね。魔術師だからと魔術の勉強だけで良いわけじゃないから」

「どういうことを基本的にはやってるんだ?」

「開祖マグナスの功績は勿論だし、その他現代魔術の系譜など、本当に様々ね。まぁ……言ってしまえば大切だけどみっちりやるまでもないことをやる、と言っても良いかもしれないわね。他にも教導院外の教師を招いて単発、ないしは数回の講義をしてもらうこともあるから、一概にこれ、と決まっているわけじゃないわ」


 カイトの問いかけにシレーナは少し困った様子でそう語る。どうやらこの一コマはこれと定められた内容を一年間通して学ぶのではなく、学生たちの見聞を広めるための時間という所らしい。必須なのもそれ故とのことであった。


「講師は教導院の講師なのか?」

「いえ……今日の講師は最高評議会所属の魔術師の方よ。魔導書の執筆実績をお持ちの方で、『サンドラ』でも有数の魔術師ね」

「なるほど……」


 魔導書を記せる、ということは即ちその分野においてはほぼ極めたと言って良い領域にあると言っても良い。どんな魔導書を記したかは定かではないが、カイト自身も傾聴に値する可能性は高かった。


「高齢の方か?」

「いえ……そこまで高齢じゃないわ。六十過ぎ……だったと思うわね。あれ? 七十だっけ……あの人、見た目でわからないのよね……えーっと……」

「ふーん……」


 確かに魔術師としては若い方かもしれないな。どうしても知識の多さは生きてきた長さに比例する。こればかりは仕方がないことだろう。その結果、魔導書を記すような魔術師には高齢の者が多かった。それだけの知識が無いからだ。と、そんなことを語ったシレーナがふと興味本位という具合で問いかける。


「そういえば……貴方魔導書持ってたわよね」

「ああ」

「著者は? 何時記されたものなの?」

「さぁ」

「さぁ?」


 一切悩むこともなく出された返答に、シレーナは小首を傾げる。基本主人と選ばれた場合、魔導書は自身の著者が誰かというのは普通に明かしてくれる内容だ。

 というより、魔導書達にとって父や母である著者の名は最も広く流布したい名だ。主人以外には自らの名や記載内容を隠すような魔導書でも、誰の著書であるかは読めることは珍しいことではなかった。


「聞いたことない、って意味?」

「教えてくれないんだよ……別に必要無いだろう、って」

「えぇ……」


 珍しいことだらけのカイトであるが、今回の一件はシレーナも魔術師の端くれであればこそ殊更異質に感じられた。無論、これはいつもの嘘ではないが真実でもないパターンの話だ。

 アル・アジフもナコトも確かにカイトに自身の著者が誰か教えてくれたことはない。なにせカイトが記したというのは最初からわかっている話だからだ。教えるもなにもないのである。というわけで、僅かにドン引きするシレーナにカイトが告げる。


「ま、実際オレからすりゃ別に魔導書として使えるから問題はない、って感じだ。絶対に著者について知っておかねばならない、ってわけでもないしな。学者じゃないからな」

「ふーん……」


 それなのに魔導書に主人として選ばれたのはおそらく相当その魔導書との相性が良かったからなんだろう。シレーナは適性の観点から選ばれたのだと推測する。

 そして実際、これは正解ではある。カイトが自身のために記したのがアル・アジフとナコトだ。彼以外でも使えるが、彼が一番適性があるのは当たり前の話であった。というわけで、ひとまずの疑問は解消されたと考えカイトは本題に入る。


「それは良いんだ。何か基礎的な知識があったら教えてくれ。講義を受けるのに講師について一切無知ってのは若干まずいだろうからな」

「ああ、それはそうね……えっと……今日の授業について前もって配布されてる資料は……」


 カイトの言葉に道理を見て、シレーナは異空間の中に仕舞っている今回の講義の講師に関する資料を探す。この必須科目の講師は月初めに一覧表で配られ、簡単な功績などもそこに記されているらしい。というわけで、カイトはシレーナの出してくれた資料を講義までの僅かな間に読み込むことになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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