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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2441話 魔術の王国 ――精霊達――

 魔術都市『サンドラ』に招かれ、サンドラ教導院にて体験授業を受けることになったカイト。そんな彼は最初の講義を精霊学の授業とすると、技術班から精霊魔術の習得の取っ掛かりとして受講した中学時代の同級生である千早、シレーナと千早の世話役の生徒会の少女と共に迷路の攻略に取り掛かっていた。


「……案外すんなり通れましたね」

「おそらく精霊を集めることが通過の条件だったんでしょう……あんな大規模に集めるの、容易じゃないし」

「まぁ……」


 おそらく今回のやり方は正道ではあったんだろうが、出来たのはカイトだったからだろう。シレーナは先程の大樹の精とのやり取りをそう考える。無論、やろうと思えば彼女も出来なくはない。が、それはあくまでも四人が全員で集めることが前提になっていたり、更に莫大な時間を掛けて集めたりと色々な前提があった。


(あの状況……普通に交戦になっていても不思議はない。いえ、それ以前にあんな相手に先手必勝が取れる場面で敢えて取らない……そんなことを出来るのがまず凄いと称賛するべきなのでしょう)


 基本、この迷路の中では戦闘ありき、罠ありきで誰もが動いている。なので先手が打てる時には先手必勝を選ぶ生徒は数多く、シレーナ自身今までその選択肢しか取ったことはなかった。最初に話そう、なんて考えたこともなかったのだ。


(やっぱり重要なのかしら、反射神経とか……)


 カイトがあんなことをしたのはひとえに自身の反射神経や即応能力の高さに自身があればこそだろう。シレーナはそう判断する。が、それは魔術師に足りないものであり、見せられないとわからないものでもあった。


「そういえば天音くんは精霊をどうやって集めているんですか?」

「ああ、精霊か。別に何か特別なことはしてない。単に来てくれ、って呼びかけるだけだなー」

「何もしてないんですか?」

「ああ……勿論それ以前に精霊達と心を交わしておくことが前提にあるから、単に呼びかけただけじゃ応じてくれないけどな」


 驚いた様子の千早に対して、カイトはそう言って笑う。これに千早も納得する。そうして、そんな彼女が問いかけた。


「なるほど……何かコツとかありますか?」

「コツ……ねぇ。オレの場合は修行の関係もあるからなぁ……どうしてもオレの修行って刀を振るう時間と同程度に瞑想の時間があるから、そんなことやってると自然精霊達が感じられるようになった」

「あー……」


 カイトが常日頃から鍛錬している姿は冒険部では誰もが知っていることだ。それについては誰も不思議には思わなかったが、その独特な修行に関しては同時に誰もが記憶していた。それがこれに繋がっていたのなら、納得もできようものだった。


「どうしても自然を感じる……とでも言うべき感じの修行だから、結果として自然の顕現である精霊達を感じられるようになっちまったんだろう。ま、これは一朝一夕にどうにかなるもんじゃないし、武蔵先生曰く才覚に大きく依存するものだから他人が真似してなんとかなるものじゃない、そうだがな」

「うーん……それだったらそれを真似して、というのは無理ですね」

「出来るのならオレが伝えてるさ」


 少し残念そうに断念する千早の言葉にカイトは笑う。とはいえ、彼の言うことは真実であり、これは彼の類まれなる才能があればこそだ。彼以外の誰にも真似出来ないことで間違いなかった。

 というわけで、そんな風にカイト達は精霊学に関する様々なことを学びながら、一方のシレーナは魔術師ではないカイトという存在から学べる物を学びながら、精霊学の授業を受けることになるのだった。




 さて様々な形で学びを得ながら迷路を進みしばらく。更にいくつかの試練を乗り越えとして一時間と少しほど。一同は巨大な木がある大きな場所にたどり着いた。そこには先の精霊の教師が待っていた。


「よくたどり着きましたね」

「先生……私達以外は?」

「視える限りが答えです」

「「「……」」」


 精霊の教師の言葉に、シレーナ以下他の三人も揃って自分達以外がまだ誰一人としてたどり着いていないことを察する。そんな四人に、精霊の教師が告げた。


「今回は少しだけ難しめに、と言いましたが……全体的な難易度は本当に少しだけ高めただけです。それでも視点が変わるだけで難しいものでしょう? 多くの者があの大樹の試練で脱落、もしくは苦戦しているみたいですね」

「そうだ……先生。あの正解の進み方は精霊を集める、で良いのですか?」

「そうです。大魔術の展開に必要な精霊を集めること……それがあの試練での正解となります。勿論、それ以外にも大樹を撃破するというのも正解になりますが……」


 それは魔術師には難しいだろう。精霊の教師は少しだけ楽しげに笑う。


「あれは攻撃系の魔術に反応し、活動する形で作りました。のっけから暴力的になってしまってはいけませんよ?」

「……胸に刻みます」


 ここまでたどり着いているのが限られている以上、おおよそ多くの者が敵と決めつけ戦いに臨んでしまったのは察するにあまりある。そして精霊の教師もそれがわかっていたようだ。曲がりなりにも教師、というわけなのだろう。


「はい、よろしい……にしても」

「……何か?」


 じっと自らの指に嵌められる指輪を見る精霊の教師に、カイトは僅かな警戒を露わにする。相手は精霊。何をしでかすかわからないのだ。が、そんな精霊の教師は困ったような、それでいて憐れむようでもあり羨むようでもある顔を浮かべる。


「……ありがとう。ごめんなさい……かしら。奇妙な感情……一緒に居たい。帰りたい……離れたい。離れてほしくない……綺麗。おぞましい……虹色。貴方と同じ虹色の輝き……それ、本当に精霊から貰ったの?」

「……こいつ、ですか?」

「ええ……凄いわ。そんな契約の証……見たことがない。貴女は……誰?」


 どこかトランスするような様子で、精霊の教師はカイトと契約を交わした精霊へと語りかける。と、そんな逆探知を察したのだろう。なにもないはずの虚空から、半透明の矢が雨のように降り注いだ。それに誰しもが驚愕する。その中でも一際驚いたのは、カイトだ。


「っ! 何!?」

「っと……ごめんなさいね。人……の心に土足で踏み入るような真似して。どうしても長らく人と関わるようになったからかしら。私には心への興味、という物が生まれているみたいなの」


 今のは自分が悪かった。精霊の教師が全面的に非を認め謝罪すると共に、矢の雨もまた停止する。そうして、彼女が口を開いた。


「私は……そして人の言葉ではノイ・エーラと呼ばれている。かつてマグナスと共に歩みし精霊の一体」


 ノイ。カイト以外には精霊にしか聞こえない精霊の言葉で名乗った後に名乗った名が、精霊の教師の人の世での名らしい。

 後にカイトが聞けば本当はもっと長い名らしいのだが、愛称であるこれで呼んで欲しい、という意味でこれで名乗ったそうだ。と、そんな言葉にシレーナが驚きの声を上げる。


「せ、先生始祖マグナス様と契約されてたんですか!?」

「ふふ……そう。かつて若き日のマグナスと契約し、その縁でこの教導院に招かれたの。もうずーっと昔のことだけれど。ノイもマグナスが付けてくれた名。これ、内緒ね?」


 まるで少女のように人差し指を口に当てるノイに、シレーナももう一人の生徒会の少女も何も言えなかった。彼女の名が発覚したのもそうだし、マグナスと契約を交わしていたことなど衝撃的過ぎて処理が追いつかなかったようだ。


「それで……貴女は?」

『……』


 何者かの気配が揺れ動き、何かが風に乗って届けられる。それはカイトとノイ以外には誰にも聞こえない、精霊達の言葉だった。それにノイは少しだけ嬉しそうに笑った。


「そう……ありがとう。精霊のお友達は初めて。今度遊びに行って良い?」

『……』


 好きにしなさい。どこか素っ気ないようでいて、恥ずかしげだとわかる声音。そんな幻聴が、カイトの耳に聞こえた気がした。それは長らく聞いていない声であり、かつて彼に狩猟のいろはを教えてくれた声だった。


「ええ、そうさせて貰うわね……ああ、ごめんなさい。すっかり私的な用事をしちゃったわ」


 ノイは少しだけ恥ずかしげにカイト達に謝罪する。つい彼女も興味深い存在に出会ったものだから声を掛けてしまったが、今は授業中だ。彼女の謝罪は『人』として、真っ当なものだった。そんな彼女に、シレーナは目を見開きながらも首を振る。


「い、いえ……興味深いお話でした」

「そう? そういえば若い頃のマグナスも女の子の色恋沙汰によく首を突っ込んで行ったわね。血……は繋がってないけれど。血みたいなものなのかしら」

「「へ、へー……」」


 なんか一気に親近感が湧いた。唐突に明らかになる開祖にして始祖マグナスの人柄に、シレーナも生徒会の少女もなんと言えば良いかわからない、という様子ながらもそう思う。と、そんなことを話したノイであったが、少しだけ寂寥感(せきりょうかん)を滲ませる。


「今ならもっと楽しくお話出来ると思うのだけれど……人はいつも突然居なくなっちゃうものね。だから、何かあったら来てくれて良いのよ?」

「あ、はぁ……何かあったら」

「ええ……うーん……やっぱりまだ時間掛かりそうね」


 なんとも言えない寂しさを醸し出すノイにありきたりな返答しか出来なかったシレーナに対して、ノイ自身は特に気にすることもなく教師としての役柄に戻ることにしたようだ。が、そんな彼女が迷路を見ればまだ誰もここに来れる様子はなかったらしい。そんな彼女に、カイトが問いかける。


「目安、どれぐらいで設定していたんですか?」

「えーっと……授業時間に対して今回はいつもより難しいことを鑑みて時間の停滞は四倍にしてるから……大体二時間と少しぐらいあればたどり着ける人はたどり着けるかしら。一応遅い子のことも考えて、三時間でリミットね」

「「「……」」」


 それは待てど暮らせど誰もたどり着かないわけだ。カイト達が到着したのは開始から一時間程度。これでも少し遅かったかな、と思ったほどであったが実際にはその反対。とんでもなく早かったらしい。故にシレーナが問いかける。


「え、えーっと……私達、相当早かった……んですか?」

「ええ……まぁ、貴方達の場合は……彼が正解を無意識的に選んでしまっていたから、というのが最大の要因でしょうけど」

「オレですか?」

「ええ……例えば二つ目の大樹の試練。あそこで精霊を集めたわけだけど、それは想定では皆で協力して。その後の水の試練。あそこはシレーナだけれど……一応お客さんだから補佐の子と一緒に、としたのだけれど……それが功を奏した、というか災いした、というか……」


 どうやら指導者や精霊学においては並ぶ者無しであるカイトと、教導院では最高の精霊魔術の使い手にして生徒会長であるシレーナが一緒だったこと。カイトが指示しやすい千早、シレーナが動かしやすい生徒会役員の少女(ウィルラ)が一緒だったこと。

 それらが上手く噛み合った結果、想定よりものすごい速さでの攻略になってしまったようだ。これに関してはノイも困り顔だった。


「これはちょっと失敗したわね。まさかこんな早かったなんて……まぁ、そのおかげで私も時間が出来たから良かったのだけれど……」

「「「あ、あはは……」」」


 これは体感時間にして一時間ほどは誰も来そうにないらしい。一同はノイの本当に困った様子にそう思う。というわけで、仕方がないのでノイを含めた一同はその後もしばらくの間適当に交流会――という名の雑談――を行うことになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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