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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2438話 魔術の王国 ――迷路――

 魔術都市『サンドラ』に招かれサンドラ教導院の授業を体験することになったカイト。そんな彼は一番最初の講義として精霊学の授業を取得希望としたわけであるが、そんな彼を待ち受けていたのは高位の精霊による授業だった。というわけで、彼女が作り上げた巨大な迷路のスタート地点へとカイトは運ばれていた。


「……で、ここからどうせいと?」

「簡単よ。この迷路の何処かに居る先生を見つけ出せば良いの。どこに居るかは完全にランダム……かしら」

「……規模は?」

「さぁ……時間と空間は歪んでいるし、当然この迷路の外壁も内壁も破壊不可能……勿論、外壁の外はこんな様子だしね」


 カイトの問いかけにシレーナは肩を竦める。そんな彼女が指し示す後ろ側であるが、そこは真っ白い霧に覆われ一寸先も見えなかった。まぁ、霧そのものは迷路を満たしてもいるので一緒といえば一緒だが、濃さは断然背後の方が濃かった。そんな背後を満たす濃密な霧をカイトは見る。


「……」

「……あれ? あれ? ちょっとカイトさん?」


 おそらくそうなるだろうな。そう思いながらもカイトはジェスチャーでシレーナを横に移動するように指示しながら、自身は投擲用のナイフ――ただし危なくないように先端は潰している――を投げ放つ。


「ひゃあ! ひゃ!?」


 投げ放たれたナイフが再び自身の真横を通って戻ってきたことにシレーナが再度驚きの声を上げる。そうして戻ってきたナイフであるが、カイトが柄を掴んで受け止める。


「なるほど。脱出は無理と」

「考えればわかるでしょ……」

「だからだよ。考えればわかる……普通はここから脱出出来ない、ってな」

「だから?」

「だからそれを逆手に取られると永遠にさまようことになる」


 それを確認するためにわざわざあんな危険な方法をしないでも。カイトの言うことに道理を見ながらも、シレーナは少しだけ不満げだった。が、自分で行かないには行かないなりの理由はあったし、収穫もあった。


「で……一つ聞きたいんだが、今までお知り合いで霧に突っ込んだ方は?」

「一応、居ないと思うけれど……皆、魔術で解析とかはしたけど」

「みたいだな……ほらよ」


 カイトは掴んだナイフの柄に添えられていた手紙をシレーナへと手渡す。


「これは……何?」

「先生とやらの手紙だ。今期の授業において物理的に調べた人数、だそうだ」

「……」


 これは笑えない。シレーナは生徒会長として提示された結論に僅かに赤面する。結論から言えばカイトがやるまでこの一年、誰一人として物理的に突っ込んだ生徒は居ないとのことであった。


「……少し意識改革を考えます」

「そうした方が良いだろうなぁ……マジでそうだった場合は詰むからな」

「詰む?」

「入ってからしばらくして入り口が出口だった、なんてなったら目も当てられん……戻れるほど、この大迷宮ってのは楽なのか?」

「……」


 違う。シレーナは今まで一年近くもこの講義を受けてくればこそ、カイトの言葉に空恐ろしいものを感じる。確かに最初数回は迷っても大丈夫なように戻れるようにしてくれていたが、何回目からは一度通った道が戻れなくなっていたことも少なくない。その中でもし一度でも進んだらアウトだったら、その時点で全滅もあり得た。


「こりゃ魔術師の癖っていうか……魔術師ってのは肉体面に自身が無いからこそ魔術で何でもしちまおうとする癖がある。逆もまた真なり。武闘派の面々は肉体でなんとかしちまおう、ってしちまうからな。魔術をおろそかにしちまう……ま、だから連れて来たんだがな」

「……」


 負けた。シレーナはカイトの見識を聞いて、素直に指導者として自身が彼に劣っていることを理解する。実際、教導院の生徒会でも何度か疑問が出たことがあったのだ。

 なぜ冒険部でも有数の武闘派として知られている瞬やリジェが含まれているのか、と。その意図がここにあるのなら、見抜けていなかったと言うしかなかった。そうして意識を切り替え真面目に彼から学べる点を学ぼうとするシレーナに対して、カイトは改めて迷路の攻略に取り掛かる。


「そういえば今回は班ごとでの攻略、って言ってたな? 班つっても二人しか居ないが?」

「え、あ、ああ……そうね。おかしいわね……いつもなら四、五人に分けられるはずなんだけど」


 カイトの問いかけにシレーナもそういえば、と首を傾げる。どうやら今回はいつもと違う様子らしい。と、そんな二人であるが、ひとまず進むことにする。


「とりあえず進んでみるか。そうしないと何もわからんしな」

「そうね……攻略方法としては基本的に道中に居る精霊達に力を借りて、という感じになるから私や貴方なら困難にはならない……と思うわ。いつもなら」


 いつもなら。それ故にこそシレーナはどこか不安げだった。が、カイトからすればいつも通りにも近い。なので彼の方は平然としていた。


「戦闘は?」

「起きるわ」

「その場合の対処は?」

「各自に任せる、とのことよ。精霊魔術を使っても良いし、使わないでも良い」

「そうか……それは有り難い」


 全てを精霊魔術でやれ、と言われればカイトとしては有り難くなかった。自身のシステム的な立ち位置(世界の代行者)や大精霊達の兼ね合いもあり、精霊達がやりすぎてしまうかもしれないからだ。というわけで、カイトは懐に忍ばせた魔導書を媒体に呪具を一つ取り出す。


「<<バルザイの偃月刀>>」

「え?」

「魔導書に記されている呪具だ……問題は?」

「え、あ、いや……」

『ありません。魔術を基礎として使う以上、それは魔術を用いた攻略に該当します』


 どうなんだろう。困惑するシレーナに対して、精霊の教師が回答する。どうやら魔術を使って編み出された物であれば使って良いらしい。


「良し……ありがとう」

『いえいえ……では、お頑張りを』


 カイトの礼に精霊の教師が笑う。そうして彼女の気配が何処かへと去っていった一方で、カイトは偃月刀片手に攻略を開始する。


「まー、とりあえず出来ることをやってみたいわけですが……ふっ!」


 がぁん。轟音を上げて偃月刀と迷路の内壁が激突する。が、内壁には一切の傷が付かず、明らかに何かしらの守りが付与されていることが見て取れた。


「純粋物理は無理、と……シレーナ。この内壁だがどの程度の調査をやった?」

「えーっと……上位魔術まではやった、って先輩達から聞いたことがあるわ」

「となると……オレがやっても無駄足か」


 流石にここでカイトは上位の魔術まで使えるようには設定していない。なのでやるとすれば魔導書の助力を必要とするだろう。というわけで、アル・アジフが問いかける。


『どうする? 私達なら解析出来るかもしれんが』

「やめとけ……精霊が作った壁を解析しても良いことは起きん」

『それもそうか……なら、私達は寝ていることにしよう』

「ナコトはもう寝てるがね」


 アル・アジフの言葉にカイトは笑う。どうせ彼女らが寝ていても困ることと言えば魔導書側からのサポートが受けられないぐらいで、魔導書に記されている魔術そのものは調べれば使うことが出来る。問題が無いと言えばなかった。


「……誰と話してるの?」

「ああ、魔導書だ……別に『サンドラ』なら意思を持つ魔導書なんて珍しくないだろ」

「め、珍しくないことと持ってることは別よ!? 持ってるの!?」

「この通りな」


 どうせ意思を持つことそのものは入国審査でバレているのだ。なのでカイトは隠す意味を見出していなかった。というわけで、思わずシレーナが問いかける。


「貴方、一体何をどうやったらそんなめちゃくちゃな物ばかり手に入れられるの……?」

「……聞く? それ聞いちゃいます?」

「……なんかごめん」


 明らかに尋常ではない品々を保有するということは、それに対していくつもの大騒動があったということだ。必然的に一方ならぬ苦労が存在しているはずで、それに関してカイトも語りたくはなかった。

 実際、アル・アジフの入手に関しては彼自身が瀕死の重傷を超えて一度死んでおり、彼もなるべくは思い出したくもなかった。


「はぁ……まぁ、オレが悪いんだけどさ。でもさ。まさかこうなるとは誰も思わねぇよ……」

「……と、とりあえず行きましょ?」

「……うーっす」


 やる気が目に見えてだだ下がりしたカイトであるが、実際には意図的にそう見せている風もある。なので少しすると演技も面倒になった――半ば本当もあったので――らしく、普通に進んでいた。が、その内心には感心と関心があった。


(なるほど……ここまで精霊達が集まれば聖域と同等とまではいかんでも、擬似的に大神殿と同じことが出来るのか。とどのつまり、この迷路は試練……の練習か。浬達が地球でやったってのと似た感じか……これは多分、この異空間を構築する際に契約者が立ち会ったな。大神殿の攻略を最終目標として当初は建造されたわけか。なるほど、ここまで大規模なのも理解出来る……となると、これはおそらく……)

『シルフィ。この空間の作成。お前立ち会ったな?』

『ピンポンピンポーン! 大正解! 正確に言えば僕の契約者がこの異空間の製作を行って、その際にその子との契約にも立ち会ったよ』

『なるほどね』


 それなら筋が通る。カイトはシルフィの返答に納得する。この数百年で契約者が誰も居なかったわけではない。そのうち一人が、この『サンドラ』の関係者だったのだろう。というわけで気を取り直したカイトはシレーナに問いかける。


「……それで順当な攻略方法としてはどうするんだ? 精霊という話だが、その精霊が見当たらないんだが」

「要所要所に精霊は居るのだけれど……来て」


 シレーナの呼びかけを受けて、彼女が従属させている精霊達が小精霊を呼び寄せる。


「今回の班……私達二人だけ? それとも何か意図があるの?」

『……』


 シレーナの問いかけに、精霊達が彼女にのみ聞こえる声で状況を報告する。そうして、彼女がそれをカイトへと教えてくれた。


「どうやら最初に他の班員と合流しないといけないみたいね。最低四人は必要な障害がこの先に待っているそうよ」

「ということはまずは合流を目指して、そこからか……で、他の班員は?」

「わからないそうね……あの霧に阻まれてどうしようもないみたい」

「なるほど……単に上からは見えませんよ、としているわけではないと」


 シレーナの視線に合わせて、カイトもまた視線を上に上げる。そうして見える空であるが、これまた白い霧で覆われていた。完全に魔術も物理も通さない白い霧。これにカイトは見覚えがあった。


(<<無垢の霧(イノセント)>>か……一切の魔術を無力化してしまう魔術の霧。しかもそれをこの規模で展開か。その更に先はループも加えられてるな……魔術師として見るならば、ティナレベルか? いや、魔術を発生させれる精霊と対等って時点であいつがおかしいか)


 見てわかったが、やはりあの精霊教師は相当高位の精霊らしい。カイトは使われている術式の一つ一つが超級と言える魔術師に匹敵するものだと理解する。システム側の面目躍如、という所だろう。と、そんな所から精霊の力量を把握する彼であったが、それ故に一つ気になった。


「そういえば先生はなんて名前でどこの精霊なんだ? あれほどの精霊ならどこかの概念を守護する存在だろう?」

「あー……先生の名前は誰も知らないわ。教員名簿にも無いし。それでどこの……そういえばどこのなのかしら」


 どうやらシレーナはあの精霊教師について何も知らないらしい。ふと頭に浮かんだ疑問に首を傾げていた。


「聞いたこと無いのか?」

「いや、そりゃ勿論疑問に思ったことはあるけれど……でもあの精霊先生。ウチの先生方が生徒だった頃から先生なさってるから、皆先生って呼んじゃってて誰に聞いてもさぁ……って答えなのよ。あれだけのお力をお持ちなのだから、相当高名な場所を守護されていらっしゃるとは思うのだけど……詳しくはさっぱり」

「良いのか、それで……」


 曲がりなりにも教員だろうに。カイトは教導院の大雑把な姿勢に僅かに呆れる。が、これは仕方がない側面というか、精霊でもあけすけに聞ける彼がおかしいだけであった。


「いや、でも聞けないでしょ」

「まぁ……確かにな。でもそうか……名前と場所がリンクしてることもあるもんなぁ……」


 そうなってくると確かに隠す時もあるか。カイトも害意ある存在から身を守るための処方術なのかもしれない、と考える。それ以前に意図的に人の世に忍ばない限り名前を持たない精霊は少なくない。

 というよりこうやって定常的に関わってくれる精霊の方が稀過ぎて、名前が必要な方が非常に稀なのだ。後はシレーナのように従属させている精霊を区別するために便宜的に名前を与えることがあるぐらいだった。


「でしょう?」

「……そうだな。うん。まぁ、オレも気にしないことにするよ」


 確かに意図的に語っていないなら深く突っ込むわけにもいかんか。カイトは自身の立場を鑑みて、深くは追求しないことにする。大精霊と関わる彼が聞くと答えざるを得ないようなことになりかねなかったからだ。というわけで、カイトとシレーナはこの話題を切り上げ、改めて精霊達に導かれながら迷路からの脱出を目指すことにするのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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