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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2437話 魔術の王国 ――講習――

 魔術都市『サンドラ』に招かれ、もしかすると数年後に起きるかもしれない交換留学への事前調査の一端としてサンドラ教導院にて二週間の体験学習を行うことになったカイト。そんな彼はサンドラ教導院生徒会の会長シレーナやその兄ゲンマ、二人の幼馴染にして先代の生徒会長ルークらと出会うことになる。

 そうして、そんなサンドラ生徒会関係者一同との出会いから明けて翌日。カイト以下今回の体験学習に招かれた面々はこの日から実際の体験学習となっていた。というわけで、この日は朝から各々に割り振られた世話役と共に一限目の講義に臨むことになっていた。


「そういえば……精霊学を取得するのに貴方は精霊を連れてないのね」

「まぁ……別に常に従属させてなきゃならない、ってわけでもないだろ?」

「まぁ……それもそうだけど」


 カイトの問いかけに対して、シレーナは一つ頷いた。かくいう彼女は先にカイトが指摘した通り、常に三体の精霊を付き従わせており、有事の際にはその精霊達が呼びかけさらに多くの精霊がシレーナの指示に従ってくれる。こういう風に精霊学や精霊魔術を学ぶ者は常に精霊を付き従わせていることが多く、逆にカイトのように一体も傍に居ないという方が珍しかった。


「でも一体も傍に居ない、っていうのはすごい珍しいわ。別に契約していないわけじゃないんでしょう?」

「まぁな……一応、契約者の証もあるし……見せないぞ?」

「見せられても……場所によっちゃ困るし。私もあんまり見せられない場所だし」


 少しだけ冗談めかしたカイトの言葉に、シレーナは特段興味はない様子で首を振る。契約者の証、というのは例えばカイトの有する契約者の指輪や大精霊の加護を得た者に浮かぶ紋様のことだ。

 これと似た形で精霊と契約を結んでいる者は身体のどこかしらに契約していることを示す証が現れることが多く、シレーナもその例に漏れずであった。


「あ、見せられない場所なのか」

「見せられない、ってわけじゃないんだけど……流石に、って感じの所」


 こういった精霊との契約で浮かぶ紋様の場所がどこに現れるか、というのは誰にもわからないらしい。それこそ大精霊達でさえ加護の証がどこに現れるかはやってみるまでわからないそうで、顔にデカデカと現れることもあれば常には衣服で覆われる部位に現れることもあった。

 シレーナもそういう所だったのだろう。そんな彼女は少しだけ恥ずかしげに胸のあたり――正確には胸の谷間のあたり――をとんとん、と叩いており丁度そこにあるのだと察せられた。


「あー……また変な所に」

「そうなのよ……なんでこんな所に、って感じで……まぁ、顔とかに出なくてよかったっちゃ良かったんだけど。いや、お尻とかも嫌は嫌なんだけど」


 こういった契約者の証が出る場所というのは精霊と契約を行う者にとって悩みのタネの一つだった。なのでその例に漏れずシレーナも悩みを抱えているようで、しきりにため息を吐いていた。

 なお、顔が嫌というのは注目を集めてしまうためだ。さらには精霊の力を発動する際には紋様が輝くらしく、戦闘時などでは顔面が光るということになる。とまぁ、それはそれとして。そんなことを告げたシレーナが少しだけいたずらっぽい笑みで問いかける。


「で、貴方は?」

「あ゛……ちっ、乗せやがったな」


 先程は聞きたくない、というような口ぶりで話しながら敢えて自らの場所を明かすことにより、カイトの契約がどんなものなのか聞き出そうとしたらしい。上手い手だった。

 無論、それでも本当にヤバい場所ならそれで良いだろう。これにカイトは呆れながらも、手の偽装を一部だけ解除する。といっても、見せるのは契約者や祝福の指輪ではなく、かつてある少女から貰った指輪だった。


「別に良いんだけどさ……オレの契約は指輪を介して行う」

「へー……珍しい指輪ね。これは……翡翠……に近いわね。となると……森の精霊かしら。エルフ以外で森の精霊からこういうの貰った人、初めて見た」


 どうやら気付かれなかったか。カイトは少しだけ危うい橋を渡りきったことに安堵する。彼の右手にはどうしても外せない契約者と祝福の指輪が嵌っている。なのでその更に横に敢えて分かりやすくこの指輪を嵌めておいたのだ。魔術都市に来るとなって念の為仕込んでおいたのである。なお、こういった契約の証などについては流石に術者の秘匿事項に当たるため、『サンドラ』側に提示は不要だった。


「ああ……だから精霊魔術も使えるわけなんだ。中高位の精霊と契約していれば、自動的に下位の精霊も力を貸してくれるからな」

「なるほど……確かにこれぐらいの格を持つ指輪なら精霊達も従ってくれるわね。でもこれなら隠さなくても良いんじゃない?」

「冒険者だからな」


 確かにこれなら隠さなくても良いといえば良い。なのでシレーナの指摘にカイトも頷きつつも、冒険者として手札を隠している体を装う。それにシレーナもそういえば、と思い出した。


「あ、そういえば……ああ、それでここが今日の精霊学の講習が行われる門ね」


 どうやら話している間に精霊学の講習が行われる門の前に到着したらしい。居並んだ生徒達と共にカイトとシレーナもまた列に並んで台座に学生証をタッチ。出欠記録を取っておく。


「これが、ね……どこに通じているかは」

「入ってからの」

「お楽しみ、か」


 あまりやりたくはないが、ひとまずゲンマの信頼を得るために迂回してシレーナの信頼を得なければならない。カイトは意を決して門を潜る。すると見えたのはだだっ広い草原だった。が、ただの広大な草原というわけではなかった。


「これは……すごいな」

「あー……そうね。視えてれば、そうなるわね」


 今でこそシレーナも慣れてしまったが、彼女自身この講義の受講当初は思わず圧倒されてしまった。それを彼女は思い出す。とはいえ、カイトの方はそれ故にこそ気になった。


「どうやったんだ? これだけの数の精霊……集めようとして集められるものじゃない。大規模な制約付きの契約をやらはいと到底集められないぞ」

「詳しいことは私も知らない。けれど、教導院が学院全体で契約しているみたい」

「なるほど……すごいな」


 再度、カイトの口から素直な感嘆が溢れる。それもそのはず。この異空間には数十数百ではなく、数千体もの小精霊が集まっていたのである。何をどうやって契約したかは定かではないが、魔術都市の名に恥じぬ壮大な光景であった。というわけで、カイトは完全に興味本位で大精霊達に問いかけてみた。


『なぁ、誰かこれどうやったかわからないか? 確実に破ったらヤバい類の制約が仕掛けられてると思うんだが』

『そうですね……おおよそ破ってはならない制約は第一に空間の破壊。第二は一度制約が破られた場合の再契約が不能……そういった類でしょうか。また同時に第一の制約を破った者は自動的に第二の制約を履行する義務を負うことも含まれているみたいですね。他にも小さな物がいくらか……強制退室と条件付きの二度と入れないような制約が自動付与されるようなものもあります』

『マジか。そりゃまた……』


 面倒なものをやったものだ。カイトはウンディーネの返答に納得しつつも、同時に厄介な制約を仕掛けているものだと思う。が、それぐらいはしなければならないだろう、と納得していた彼は故に別の問いかけを行う。


『維持は相当面倒じゃないのか? これだけの小精霊に危害を加えられない空間を維持するんだ。相当大規模な術式を設け、といろいろとしないと駄目だろう』

『そうですね。相当高度な魔道具を使っています……星造魔道具を使っていますね』

『うっわ……それ持ち出したか』


 それなら不可能じゃないだろうが。星の造った魔道具を持ち出した以上、『サンドラ』もこの教導院に相当な熱意を注いでいることが伺い知れるな。カイトはそう思う。

 星造魔道具は大国でさえ持っていない場合があるのだ。それをこの空間の維持だけに使っているのだという。精霊学は魔術において重要な学問の一つであるが、それ故に相当な力の入れようだった。というわけで、それを理解した彼は感嘆の吐息を漏らす。


「はぁ……こりゃすごい。これだけの空間……なんだって出来ちまうだろう」

「魔法でなければ、大半のことは出来るでしょうね」

「外でないのが惜しまれるね」


 これが外ならおおよそどんな大魔術だって発動したい放題だ。が、ここは異空間であり、そして異空間を用意したからこそ精霊達を集められたのでもあった。と、そんな彼であったがふと生徒達の姿は見えども教師の姿が無い事に気が付いた。


「そういえば……先生は? チャイムが鳴ってからか?」

「……あぁ、そう言えばすっかり言ってなかったわね。先生なら時間ぴったりにいらっしゃいます」

「ふーん」


 シレーナの返答にカイトは一度視線を時計に落とす。するともう数十秒で授業の開始という所であった。というわけで、おとなしく授業の開始を待つことにしたわけであるが、それから数十秒。始業のチャイムが鳴り響いたと同時に、彼女は現れた。


「……みなさん、おはようございます」

「「「おはようございます」」」

「っ」


 マジかよ。カイトは顕現した教師に思わず息を呑む。そして同時に納得もした。これだけの数の小精霊を集めている以上、束ねるのなら相当高位の精霊が必要だ。その精霊の姿が見えなかったが、単に高位の次元に引っ込んでいて見えなかっただけであった。そしてその精霊こそが、教師であった。


「今日は外からの方もいらっしゃっているみたいですね」

「あ、あはは……」

「驚いた?」


 驚かねぇわけねぇだろ。カイトは小声で楽しげに問いかけるシレーナに内心でツッコミを入れる。精霊に精霊学の教師を頼む、ということをしている学校は両手の指で数えられるほどだろう。

 仰天されても無理はなかった。というより、カイトでなければここまで静かなこともなかっただろう。そして同時に、彼はこの時点で仕込まれていたことを察していた。

 そもそも大精霊が常駐している彼に小精霊が群がってこない時点で気づくべきではあっただろう。圧倒されてしまっていて彼が気付かなかっただけであった。というわけで、精霊の教師が生徒達へと告げる。


「さて……本日も本日でして頂くことはいつもと一緒。私達の力で作り上げる大迷宮から脱出して頂くだけです」

「大迷宮?」

「見ていればわかるわ……ああ、それと班ごとでの行動になるから、その点だけ気を付けてね」

「りょーかい」


 語るより実際に体験してくれ、という所のようだ。カイトは精霊の教師が何をするか見守ることにする。そうして、彼の見守る前で精霊の教師が手を一振りした。


「今日は外からお客様もみえられていることですから、少しだけ難易度を上げてみましょう」


 下げるわけじゃないんだ。生徒達は精霊の教師の言葉にそう思う。が、彼らにもそれに従うしかない。そうして宙を舞う精霊達が動き回り、大気が揺れて大地が鳴動する。


「おっと!」

「きゃあ!」

「今日は一際でかいぞ!」

「マジ!?」


 天地鳴動。そんな様子がよく似合う異空間の中で、生徒達の困惑の声が響く。一部には言っているだけで本当はいつもより楽になるのでは、と思っていた者も居た様子だが、この様子で誰もがその言葉が真実だと理解したようだ。そうして、数分。大地が盛り上がり何処からともなく深い霧が満ち木々が生い茂り、としてあっという間に巨大な迷路が出来上がった。


「……これが、大迷宮……なんだけど。いつもより先生気合入っちゃってる……」

「でしょうねー……」


 周囲の困惑を見て、カイトはシレーナの言葉――若干困惑気味――が本当だと理解する。と、そんな次の瞬間。精霊達が再度動き回り、一同の身体を持ち上げる。


「おっと! なんだ!?」

「班分け! 精霊達が各自の適性を読み取って、班分けしてくれるの! 後は自動でスタート地点まで飛ばされるから、舌噛まないようにね!」

「あいさ!」


 カイトが応じるや否や、精霊達が彼とシレーナの身体を何処かへと猛スピードで運んでいく。そうして、二人は精霊学の実習に臨むことになるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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