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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2428話 幕間 ――暗闇の中の会合――

 魔術都市『サンドラ』。すべてが魔術の腕で決まるその都市国家に招かれたカイト達であったが、その入国審査はのっけから独特と言えば独特なものだった。というわけで本来必要な検査をすっ飛ばして格の違いを見せ付けた形で終わらせた後、一同は『サンドラ』に入国していた。

 そんな一同を他所に、今回の入国審査での騒動は即座に各所に報告が入っていた。そしてそれは勿論、カイト達を意図的に呼び寄せた者たちの所にも入っていた。


「なんと……」

「ほぅ……」


 それはすごいものを持ってきてくれたものだ。暗闇の中、報告を受けた者たちは揃ってどこか喜色を浮かべていた。が、そんな彼ら彼女らに対して、報告した者はかなり怯えた様子を見せつつ問いかける。


「どうします? あれだけの魔導書……奪うのも容易ではないと思うのですが」

「何を今更。元々遺跡で見付かった魔導書のようだ、というのは最初からわかっていた事だ」

「というより……そもそもそれを目的として呼び寄せているのに何を言うのやら」


 はははは。楽しげに笑い合う声が暗闇の中に響く。カイト達が狙われたのは何かの意図が働いた、というわけではない。そもそも彼らが活動していたのはカイト達がエネフィアに来るより前だ。

 なのでかなり昔からルナリア文明や更にその前の遺跡の調査を行う者たちを張っており、カイト達を狙ったのもその一環だった。基本トップが武術主体のカイトや瞬であるため、魔術であれば御し易いと考えたのである。


「にしても……やはり勢いに乗るギルドというのは色々と引き寄せるものだな。まさか古代文明の遺跡からああも珍しい魔導書を発掘するとは」

「約十冊……全くもって羨ましい」

「言うな。せっかく持ってきてくれたのだ。ありがとう、と言うべきではないか?」

「あはははは。いやいや、それでもさっくり見付けられるあの強運は羨ましいものではないか?」

「「「はははは」」」


 暗闇の中、再び何者かの笑い声が響き渡る。勿論の話であるが、彼らとて必要に応じて遺跡へ出向きオークションへ出向き、合法的に手に入れる事もある。

 単にそれでは手に入らない魔導書や魔道具があればこそ、それを求めてこんな暗躍をしているのである。その点で言えば、この羨望は心底のものであった。そうして一頻り笑いあった彼らであったが、少しだけ笑みを収めて問いかける。


「……それで。どうする? 一応、真っ向から持ちかけてみるか?」

「やらない方が良いだろう」

「ああ……我々も警戒されつつある。昔のように最初は穏便な手を、というのはしない方が良いだろう」


 そうだろう。暗闇の中、一同は今までの事を鑑みてそう判断する。そもそもティナに報告が入った時点で数年前。そこから調査が行われこの数年で似た様な事件が起きている、と判断されている事件も少なくないのだ。下手に自分達が怪しまれる事になる動きはしない方が良いだろう、と流石に彼らも判断していた。


「とはいえ……どうする? 流石にこの二人を同時に相手にするのは骨が折れる。しかも片方が持つ魔導書はおそらくこの『サンドラ』でさえ類を見ない人工的に魔導書に精霊を付与してみせたという魔導書だ」

「「「……」」」


 一人の問いかけに、一同は息を呑む。が、その視線は誰もが欲しい、という垂涎の色が強かった。と、そんな中で部屋の中央に座っていた一人が杖で地面を小突いて注目を集めた後、口を開く。


「この場のルールは先着順……もしくは希望が被った場合は交渉し、なるべく遺恨を生まないようにする事が我々の目的だ」


 侃々諤々という塩梅であった場であったが、その一人はどうやらこの一件における中心人物と言って良い人物らしい。彼なり彼女なりが言葉を発する間は誰もが口を閉ざしていた。そうして、その一人が一同に滔々と語りだす。


「そして知っての通り、表に出れば後ろめたい事をしている。今回の相手はすでに皇国で切れ者として知られている人物だ。そしてもう片方は情報が足りない……誰か一人が先走りしくじれば、下手をすると皇国もマクダウェル家も動く可能性はある。おそらく今回の一件でマクダウェル家からヴァイスリッター家の長女とバーンシュタット家の長男が動いたのはそれ故だろう。十分に気を付けねばならない」


 誰しもの目に見えた欲望の色を抑制するように、中心人物は一同に注意喚起を行う。当然だがもう数年以上動いていて、事が公になっていないのだ。裏には政府組織にも影響を与えられる家がある。

 それ故にこそ政治的なあれこれはよく理解しており、ここで欲を掻いて皇国やマクダウェル家を敵に回す意味を理解していた。そしてそれ故にこそ、と中心人物が提案した。


「どうだろう。今回は特例的ではあるが、全体で利益を共有するとするのは」

「マクダウェル家ごときを恐れると?」

「マクダウェル家如き、か。面白い事を言う」


 魔術こそを史上とするのが『サンドラ』だ。なので古い名家の中には大精霊の威光を傘にしたとマクダウェル家を見做している家はなくはなく、特にカイトもティナも居なくなった今はもはや恐るるに足らず、と影で――流石に表立って言うとカイトを信望する精霊学の学者からバッシングを受けるため――言う者は少なくなかった。が、どうやら中心人物はマクダウェル家を侮るわけではなかった。


「かつて『サンドラ』に集った魔術師達は唐突に現れ魔族を統一した魔帝ユスティーナを嘲り、ただの一度もその外套を揺らす事さえ出来ず敗れ去った。その魔帝ユスティーナの薫陶を受けたのは何も勇者カイトだけではない」

「随分買われるのですね」

「かつてその薫陶を僅かなりとも受けた者が身内に居たものでね。決して甘く見てはならない、と伝え聞いている。私はそれに従っただけだよ」


 一人の問いかけに中心人物は家訓に従っただけと笑って口にする。が、それに触れられればこそ、この中心人物も決してマクダウェル家を甘く見ようとは思っていなかった。


「とはいえ……だからこそ甘く見てはならないと思う。下手を打てば痛い目に遭う。事が露呈して困るのは諸君らも同じはず。それに一度誰かが失敗すれば彼らも警戒するだろう。すでに相手は警戒している可能性が高い以上、下手にマクダウェル家に連絡されても面倒だ……そうだな。敢えてはっきりと言ってしまおう。面倒はよしてくれ。後始末をするのも楽じゃないんだ」

「「「ははは」」」


 それが答えか。中心人物のどこか面倒くさそうな発言に、その場の全員が愛想笑いや心底の同意の意味で笑いを浮かべる。そうして少しだけ場の雰囲気を弛緩させた後、中心人物自身も少しだけ肩の力を抜き、しかし冷酷な事を告げた。


「言ってしまえば、私としてはいっそバレて貰っても構わない。その時はその時でその家をトカゲのしっぽとして使わせて貰おう。隠し通すにも限度があるからね。そろそろ、どこか一つぐらいトカゲのしっぽとして切り落としても良いだろう」

「「「……」」」


 努めて威圧的にならないように述べているが、この中心人物であれば確実にやるだろう。周囲の者たちは誰ともなく生唾を飲んで緊張を滲ませる。

 この言葉の端々に滲む優雅さもこの人当たりの良い雰囲気も全て、この中心人物が属する家が世界に受け入れてもらうために身に着けた処世術に過ぎない。中心人物が属する家を知っているからこそ、誰もがこの中心人物の言葉が単なる脅しではないと理解していた。


「まぁ、それは良いだろう。誰もがそうならない事を祈っているよ。では、君達の意見を聞きたい。ここは合議制の場だ。この意見はあくまでも、私の意見に過ぎないのだからね」


 あくまでも。中心人物はあくまでも自分も会議の参加者の一人に過ぎない、という建前を口にする。が、この場の誰一人としてこの彼の言葉がそのまま真実とは思っていなかった。

 そうして、一応は合議制の体を取る関係上話し合いは開始されるものの、誰一人として中心人物の意見に反対する事なく、表向きは全体として同意を得た形で会合は終了する事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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