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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2426話 魔術の王国 ――入国――

 魔術都市『サンドラ』からの要望と自身の数年後の天桜学園の展望を受け、『サンドラ』からの招聘を受ける事にしたカイト。そんな彼は冒険部からの人員として瞬達、マクダウェル家からリジェとルリア、教国からヴァイスリッターの兄妹を連れて『サンドラ』へと向かっていた。

 というわけで道中瞬らの魔術の調練に付き合いながら時間を過ごしていたカイトであるが、一同を乗せた飛空艇は出立から翌日の朝には『サンドラ』の街のすぐ外に設けられていた空港に到着していた。


「さて……全員、提出するリストは持っているな? リストに抜けが無いかだけ、もう一度確認しておけ」


 カイトは荷物をまとめ降りる準備を整えた一同にそう告げる。といってもこのリストは先に提出して貰っていたリストで、カイトの承認印が必要だったので一時的に預かっただけだ。

 なので飛空艇ですべてのリストにサインを入れた後は各自に返却しており、入国審査に備えていた。というわけで全員がリストを再確認し問題無い事を確認した事を受けて、カイトは一つ頷いた。


「良し。じゃあ、行くか」

「カイトー。入国審査って時間掛かるー?」

「あー……まぁ、入国審査だから時間掛かる場合は掛かるし、掛からん場合は掛からんなー。なんかあんの?」


 灯里の問いかけにカイトは首を傾げる。流石に良い年の大人である以上、彼女も今更トイレに行きたい、なぞ言うわけもない。それ以前に先程行った事をカイトは知っている。というわけで、そんな彼の問いかけに灯里が告げた。


「うんにゃ。単に時間短縮とかないかな、ってだけ」

「無いな。『サンドラ』の入国審査、厳格って聞くし」

「そかー。お昼どうすんのかなー、ってだけだけど」


 それなら諦めるかー。灯里はカイトの返答にそう答える。とはいえ、そうは言っても招かれた側だ。なので完全に他と一緒というわけでもなかった。


「そう言っても、オレ達は招聘された側だから専門の窓口での審査だ。待ち時間は少ないだろう」

「じゃー、外で食べられそう?」

「だろうな。後は、窓口が今どれぐらい混んでるかにもよりけりか」


 てくてくと歩きながら、カイト達はそんな事を話し合う。そうして搭乗口から飛空艇を降りて案内に従って入国審査の窓口へと移動する。と、そこで当然こちらも招待された側であるジュリエットと再会する。


「ん? あら……って、そりゃそうよね」

「そらな」

「お久しぶりでーす」

「あぁ、久しぶり……って、灯里も来たの?」


 ジュリエットと灯里はどちらもマクダウェル家に外部で協力している人員に近い。なので公爵邸地下の研究施設で顔をあわせる事があり、話した事があったようだ。


「そーなんですよー……入国審査待ちです?」

「ええ。今回は招聘された人が他にも居たみたいだから、もう少し待ちね……ああ、それならさっさと番号札取ってきた方が良いわよ。他の便来るとまた増えるだろうから」

「それならもう貰ったから問題無い」


 ジュリエットの助言に対して、カイトが告げる。この番号札で一つの集団に対応出来るため、誰か一人でも取ってくれば問題なかった。番号はジュリエットのすぐ後の番号だった。


「あ、そう」

「どれぐらい待ちになりそうなんですか?」

「んー……今待ちが大体一時間で……私何回か来てるから十分ぐらい……まぁ、ざっと一時間から二時間ぐらいで貴方達は終わる頃かしらね」

「昼には、って所ですか」


 自身の問いかけに答えてくれたジュリエットの言葉に灯里は腕時計に視線を落とし、大体の予定時間を把握する。というわけで、一同は暫くの間入国審査が始まるまで待つ事になるのだった。





 さて一同は入国審査を待つべく用意されていたスペースで待っていたわけであるが、ジュリエットの言葉通り一時間ほどしてジュリエットの番号が呼び出しを受ける事になる。


「っと……ジュリエットが呼び出された所を見ると、次はウチか。全員、荷物出してたんなら仕舞っておけ」

「ジュリエットさん、早いの?」

「何回も来ているからな。向こうも<<知の探求者達(シーカー)>>の幹部だと分かればさっさと通してくれる」


 灯里の問いかけに対して、カイトは立ち上がりながらそう告げる。そしてその言葉通り、ジュリエットの入国審査は一同が準備を終わらせ移動をした頃には終わりつつあった。


「ジュリエット・ゲニウス様。審査、只今終わりました。今年もよくおいでくださいました」

「良いわ。こちらもウチの人員が世話になるし、私も本屋を見ておきたい頃だったし」

「ありがとうございます」


 もしかしてホテルのコンシェルジュが入国審査でも行っているのではないか。そんな丁寧な対応をジュリエットはされている様子だった。

 そうして入国審査で預けた荷物を返却して貰い、ジュリエットはゲートを通って内側へと去っていった。そして数分後。ジュリエットの審査記録が専用の所に収められ、調査の者が交代した所でアナウンスが流れた。


『V7番の方、Vゲートへとお越しください』


 Vゲートというのは『サンドラ』側が招いた客を専門に応対する窓口だ。なので対応も基本は丁寧にしてくれる所で、審査も優先的に行ってくれる事になっていた。というわけで案内に従ってカイトは班を代表して窓口へと語りかける。


「V7番です」

「ありがとうございます。ようこそおいでくださいました」


 カイトの提示した番号札を見て、女性の係員が頭を下げる。応対は先程のジュリエットほどではなかったものの丁寧で、十分真っ当な対応をしてくれていると言えただろう。というわけで、そんな彼女がカイトへと問いかける。


「皆さん、ご一緒でよろしいですね?」

「ええ……代表者はカイト・天音。私です。次いでサブの代表は灯里・三柴」

「……確かに確認いたしました」


 係員は専用のメガネを掛けて入国審査の書類に貼り付けられた写真とカイト達の顔を見比べて、全員が同一人物である事を確認する。ここまでは地球でもよくある旅券の写真と見比べるだけの作業だが、メガネには幻影を解除する効果のある物が使用されており偽装して入国という事が出来ないようにされていた。


「どなたが最初に?」

「では私からで」


 ここで別の者がやるのもおかしいだろうし、別に順番の後先なぞどうでも良い。それにカイトとしては疑問が出るだろう事もわかっていたため、自身が最初にしておく事にしていたようだ。というわけで、そんな彼の言葉に係員も一つ頷いた。


「かしこまりました。ではリストのご提示をお願いいたします」

「こちらです」

「ありが……とう……え?」


 提出されたリストを見て、係員の顔がみるみる歪んでいく。そうして目がこぼれ落ちんほどに見開いた彼女が、カイトへと問いかける。


「え、いえ、あの、これ……本当……ですか?」

「一応、大使館にてお借りした検査キットを使い検査しましたが……何か?」

「い、いえいえいえいえ! た、大変失礼いたしました!」


 きょとん、とした様子で問いかけるカイトに、係員は大慌てでぶんぶんと首を振る。そうして、そんな彼女が先程までのジュリエット同様にどころか更に丁寧な様子でカイトへと問いかける。


「い、一応、ご提示をお願いしてもよろしいでしょうか」

「ええ……まずこれが刀」

「……」


 ごくり。そんな音が聞こえんほどに緊張を滲ませ、係員はカイトの提出した刀に検査キットを接触させる。が、表示されたのはエラー。検出不能という文字であった。


「……検出不能……申し訳ありません。規則ですので、専用の機材に掛けさせていただきます」

「どうぞ」


 別に拒む理由はない。そう判断していたカイトは近接武器に関しては殊更厳重な検査がなされるため、その専用の装置に掛ける事に迷い無く同意する。そうして数秒後。一瞬だけ閃光が放たれた後、装置の中から刀が出てきた。


「……ほっ……」


 明らかに安心した様子がある。一同は係員が何かを理解して装置から出てきた刀を手にしたのを確かに見た。そうして、カイトへと刀が返却される。


「ありがとうございます。こちら、お返しいたします」

「ありがとうございます……すいません、特殊な素材で」

「いえいえ。冒険者もなさっているご様子。こういう品もあるのでしょう」


 どうやら検査キットがエラーを表示したのは、カイトの持ち込んだ刀の素材に原因があったらしい。概念的な検査を行った結果、原因がそれと表示された事で係員も安堵したのであった。

 とはいえ、これが行えるのはあくまでも武器に関してだけ。ここから先が気を抜けるというわけではなかったのだが、それでも係員は少しだけ肩の力を抜き応対を再開した。


「それで、次ですが……こちらも規格外?」

「ええ……この二冊です」

「お預かりします……確かに、二冊とも規格外のご様子です」


 簡易キットで二冊の魔導書に検査を行った係員であるが、これは元々提示されたリストに記載されていた内容が改めて表示されていただけだ。というわけで係員は先程と同じく、しかし今度はまた別の検査キットを取り出す。


「概念測定を行わせて頂きます。流石に中身の変質があり得る検査機には掛けられませんので」

「どうぞ……測れるのであれば」

「……」


 どうやらそこまで自信のある魔導書を持ってきたらしい。係員はカイトのどこか挑発的な言葉にそう判断する。とはいえ、こんなものは空港で入国審査官をやっていればよくある話で、魔術都市『サンドラ』の最新の検査機はそんな者たちの自信を尽く解き明かしていた。その自信があればこそ、係員はいつも通りやるだけだ、と検査機の上にアル・アジフを乗せて、今度こそ我を忘れる事になった。


「……え?」


 カタカタカタ。コンソールを必死になって操りながら、係員は何度も表示される検査結果に偽りが無いか確認する。


「あり得ない……この検査機は最新型よ? なんで全項目測定不能なんて結果が出るの……?」

「……」


 どこか楽しげに、カイトは一切の調査を受け付けないアル・アジフに必死になる係員を見る。そうして彼女はもはや自分の一存では何も出来ない、と判断したようだ。横に備え付けられていた受話器を取ってどこかへと連絡をする。


「……大丈夫なのか?」

「別に問題はない。魔導書で規格外の物を持ってきたとて、『サンドラ』の規約上拒めないからな」


 瞬の問いかけに、カイトは獰猛さを隠しながら笑って明言する。これは『サンドラ』の特色であり、同時にそれ故にこそ仕方がない事だった。そうしてすぐにスタッフルームから上司と思われる係員が駆けつける。


「すいません。おまたせしております」

「いえ……何か問題でも?」

「あはは。そういうわけでは……どきなさい」


 カイトの問いかけに愛想笑いを浮かべた上司であるが、彼は少し急ぎ気味に女係員を横にどけると装置に何かをセットする。そうして閃光が放たれ、再度エラーを発した瞬間だ。まるで怒ったかのようにアル・アジフがその力の一端を解き放つ。


「っぅ!?」

「きゃぁ!」

「あーぁ……ナコトにしときゃよかったか」

『いい加減、たるいぞ。無駄な事はやめておけ……この程度の検査機で測れる私達ではない』

「「……」」


 言葉を失うとはまさにこの事だ。若干の苛立ち混じりに響くアル・アジフの声に、上司も係員も揃って言葉を失っていた。そうして面倒極まりない、とばかりにアル・アジフはカイトの手の中に戻り、それに合わせるかのようにナコトもまた勝手に彼の手の中に戻った。


「はぁ……すいません。こいつら、堪え性がないんで。だから最初にしたんですが……」

「い、いえいえいえいえ! よ、ようこそおいでくださいました! 『サンドラ』は貴方様のご来訪を歓迎します!」


 ざんっ。まさにそんな擬音が付くかのように丁寧な様子で上司はカイトに深々と頭を下げる。検査機でどれだけ調べてもエラーしか出ないのだ。

 しかも今度は材質云々ではなく、正真正銘魔導書の力が強すぎて測れないという『サンドラ』の歴史でも数えるほどしかない異常事態である。魔術都市と冠する『サンドラ』にとってその魔導書を招き入れられる事ほど喜ばしい事はなく、どうやら魔術師らしい上司はそれこそジュリエット並の応対だった。


「ありがとうございます……では、次からもお願いしますね」

「か、かしこまりました。君、くれぐれも、失礼の無いようにね」

「は、はいっ!」


 上司はくれぐれも、という言葉を殊更に強調し、緊張を滲ませる係員に告げてその場を後にする。流石に彼も一応は職務という関係上、仕事が終わったら去らねばならなかったようだ。そうして、その後はすぐ後ろに居た灯里らの入国審査が開始される事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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