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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第95章 神の書編

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第2421話 魔術の王国 ――人選――

 魔術都市『サンドラ』。エネフィアでも有数の魔術師達が集まる都市であるこの地からの要請を受けて、数年先を見据えた研究に協力する事になったカイト。そんな彼はそれから数日に渡ってスオーロやアユルらを訪れていたまた別の使者との間で話し合いをしながら、色々な根回しを行っていた。というわけで根回しを行った彼であったが、そんな彼の根回しは冒険部ではなくこの二つの家への物だった。


「というわけで、来週から二週間。閣下や瞬くん、ルリアちゃんと共に『サンドラ』に行って来なさい」

「へぇ!?」


 自宅にて父のブラスから呼び出されたリジェであるが、そこで告げられたのは『サンドラ』行きが決定したという話であった。が、これは勿論彼には告げられず予定されていたもので、心底仰天していた様子だった。


「え、学校とかは?」

「それならすでに学園長から許可が出ている。他、クズハ様の承諾書もある。勿論、『サンドラ』評議会からの許諾書も」

「うわー……」


 根回し完璧かよ。リジェは完璧としか言い様のないカイトの手腕に頬を引き攣らせる。そして流石に彼とて貴族の令息だ。現状が詰んでいる事は理解していた。していたが、一応の抵抗は試みてみた。


「え、えーっと……それって拒否権あったり」

「しませんね。閣下が根回しをされている時点で拒否権なぞ無いに等しいでしょう……勿論、閣下の詰将棋の駒になって遊ばれたいのであれば、止めはしませんが」

「ですよねー」


 父の明言にリジェは聞くまでもなかったと肩を落とす。なにせ相手は勇者カイトにしてマクダウェル公カイトだ。その手腕は他の誰でもなく腹心中の腹心であるバーンシュタット家の長男である自身がわかっておくべき物だ。話が来た時点で詰みと理解しておくのが精神的にも楽だった。が、それとこれとは別とリジェが問いかける。


「てかなんで俺? 瞬が一緒なら姉貴の方が良いだろ」

「どうやら閣下はリジェの魔術の腕がどれほどか気になられたみたいですね。私も、そう思います」

「ぎゃ」


 変な声が出ましたね。ブラスは潰れたカエルのような声を出した息子にそう思う。言うまでもないがブラスにはリジェの現状は報告されている。

 現時点でそもそも準軍属だし、将来的にはリィルとどちらかはバーンシュタット家を率いてもらわねばならないのだ。若干武術偏重気味なリジェを心配していた事もあり、カイトの要請を有り難く受け入れていた。


「まぁ、せっかくの機会です。『サンドラ』へ行き少しでも魔術の腕を磨いてきなさい」

「うぁぁ……」

「あはは」


 それが嫌だからウルカに留学してたのに。そう言わんばかりの息子の顔を見ながら、ブラスは笑う。そうしてバーンシュタット家が半ばいやいやという具合で受け入れたのに対して、ヴァイスリッター家は対照的に近かった。


「というわけなんだが……どうだ? 受けてみるか?」

『それ、断ってなんとかなるの?』

「まぁ、お前についてはおまけみたいなものだから断っても良いだろう」

『ああ、ううん。別に断るつもりはないよ。単に聞いただけ』


 実際、ルリアとしては断る理由は特になかった。というのも彼女の学ぶ治癒系の魔術はどうしても大本になる症例を知っておく事が重要になる。

 なので魔術が集まる『サンドラ』の魔術は興味がある所であり、そこに行けるのであれば断る理由なぞどこにもなかった。というわけで、彼女の承諾を受けてエルロードも一つ頷いた。


「そうか。なら、そう伝えておこう」

『うん……でもリジェかー。元気してた?』

「ああ。元気そうだった……ああ、そうだ。学園長にはすでに話が通っているから、明後日の朝一番の便でこちらに戻ってきなさい。国外に出る以上、寮にある用意だけでは足りないだろう」

『はーい』


 基本的に神殿都市の神学校――学園長もこちらの学園長――に居るルリアであるが、基本的な物資は神殿都市の寮にある。が、それはあくまでも寮生活に必要な分だけであり、国外に出るのに十分なわけではない。

 勿論、国外に出る以上は戦闘もあり得るため、そこらの調整も必要だった。というわけでそこらの手配をするためにも、一度マクスウェルの自宅に戻らねばならなかったのである。そうして、マクダウェル家側からの人員としてリジェとルリアの二人が参加する事が確定するのだった。




 さて明けて翌日の朝。カイトは公爵邸の自身の執務室にてアルとリィルの二人からそれぞれの弟妹の参加を聞いていた。


「そうか。なら、これで終わりか。リジェは兎も角、ルリアちゃんはあまり話さないからどうか少し不安だったが受けてくれてよかった」

「『サンドラ』は調剤にも優れているからね。ルリアとしちゃ願ったり叶ったりだったみたい」


 どうやらリジェとルリアの参加が今回の使節団の最後になったらしい。おおよその用意が整った事で僅かに安堵を浮かべるカイトに、アルが昨夜の事を告げる。そんな彼がどこか意外そうに告げた。


「にしても、リジェを連れて行くんだ」

「ああ……先輩から良く武術面は聞いてたが、魔術面はいまいち聞かなかったからな。前に親父さんからも少しの懸念を聞いた事があったから、ここらで一度しっかりと学ばせとかないとな、とな」

「すいません、わざわざ……」


 カイトの発言に対して、リィルが頭を下げる。実際彼女としても武術面は良く話を聞くリジェが魔術面は大丈夫なのだろうか、と思う事はあったらしくそこにわざわざ気を回してくれた事に感謝しかなかった。


「次の芽を育てるのもオレの仕事だからな……まぁ、それに。あまりバーンタインにばかりリジェの修行を任せるわけにもいかん。武術を任せた以上、こっちで魔術はしっかり見ておくべきだろう」

「はい……というわけで、リジェ。しっかり学んできなさい」

「は、はい!」

「あはは……そんなガチガチにならないでも」


 ガッチガチに固まったリジェに、アルは半ば引きつった笑いを浮かべる。それもそのはず。ここはカイトの本来の執務室だ。なのでカイトもいつもの学生としての姿ではなく、公爵としての本来の姿だった。

 リジェからすれば本当の意味で初めて見るマクダウェル公カイトの姿で、今まで実感が沸かなかった勇者カイトという存在にようやく実感が湧いたという所であった。そしてそんな彼にカイトもまた笑う。


「あはは……で、アル。ルリアちゃんは明日の昼には戻るんだな?」

「あ、うん。昨日連絡を取ったら、朝一番の便で戻ってくるって」

「そうか。なら明日はルリアちゃんと一緒にギルドホームに来てくれ。話を聞く限り道に迷う事はないとは思うが……」

「まぁ、久しぶりだからね。一応は一緒に来るよ」


 かつて語られていた事であるが、今現在冒険部がギルドホームとして活用している施設はその昔は街の子どもたちが秘密基地にも似た扱いで活用していた物だ。なのでルリアやリジェも何度か来て遊んでいたのであるが、それはかなり昔のことだった。覚えていなくとも無理はなかった。


「頼んだ……良し。じゃあ、これが二人の渡航許可だ」

「あ、ありがとうございます!」

「あはは……なんかこの姿で会う人会う人がそうなるなぁ……」


 仕方がないんだろうが。カイトはガチガチに固まっているリジェのそう思う。そしてこれについては今後も変わる事なく、彼が公職に復帰してもそのままなのだった。




 さてマクダウェル公爵邸にていくつかの書類仕事を終わらせリィル、アルの二人と共にギルドホームに戻ったカイト。そんな彼は戻ってすぐに今度は冒険部側の人員の選定に許可を下ろす事になっていた。


「良し……ティナ。この面子で良いんだな?」

「うむ。今回は研究の前段階としての使節団になる。本格化するために、と言うても良い。そもこれは『サンドラ』側にも問題がある事じゃが、『サンドラ』の文化風習に関してはさほど外には伝わってこぬ。結果、こんな事前調査の更に事前調査が必要となってしまうんじゃ」


 やれやれ。どこか呆れるようにティナが語る。そしてそういうわけなので今回は人員は最低限。カイトとティナを含めても天桜学園からは五人――灯里は引率役なので除く――になっていた。そんな彼女に、カイトは肩を竦める。


「さいですか……で、人員はオレ、お前、先輩に楓、東雲か。東雲は久しぶりだな。連合会の会頭の推薦という事だったが」

「うむ……ま、千早(ちはや)は優秀じゃぞ? 余が保証しよう」

「そうか……ま、これ以上増えてもフォローしきれんか。連合会の会頭の推薦が一人で助かった」


 そうじゃのう。ティナはカイトの言葉に一つ同意する。これ以上多いと向こうもフォローしきれないし、カイトもティナも別の案件を抱えているのでフォローが難しくなる。

 今回はあくまでも事前調査である以上、安全策を取っておくべきだった。と、そんな話を聞いていた瞬が怪訝そうにこちらを向いた。


「ん? 連合会の会頭というと……文化部の方か?」

「ああ」

「なんだ。あいつは来ないのか」


 基本冒険部では運動部連合会が主力に近いので語られる事は少ないが、文化部は文化部で連合を組んでいた。過去形なのは今は運動部側に対して有名無実に近いからだ。

 そしてその会頭もまた存在していたのであるが、彼と瞬は部活連合として意見を取りまとめるために話をする事があった。なので知り合いといえば知り合いなのであるが、であればこそ来ない事が意外だったようだ。


「ああ。研究施設の準備に忙しい、との事だ。彼が名代として東雲を……って、先輩はわからないか」

「ああ……知り合いか?」

「中学時代の同級生だ。高校からは別クラスだったんだが……今回、偶然選ばれたらしい」


 文化部連合会の会頭も件の東雲という女生徒がカイトと同級生だったとは知らなかったらしい。なのでそう口にしたカイトへとティナが口を挟む。


「いや、偶然ではないぞ。学業の面であればあれは学内でも有数じゃぞ?」

「そうなのか? いや、賢い事は知ってるが。ぶっちゃけ、転移前のオレじゃ手も足も出なかったっぽいからな」

「うむ。基本定期考査では首席が余。次席が桜、その次が瑞樹となるのであるが、千早はトップ10には必ず名を連ねておるよ」

「「へー……」」


 順位なぞ興味がないカイトと共に別学年であるが故に別学年の順位なぞわかるわけもない瞬は揃って感心したように頷く。どうやらそれぐらいには優秀な生徒らしい。


「というか、ユスティーナも知っているのか?」

「いや、一応余も同級生じゃ……それに研究班所属じゃからのう。戦闘には参加せぬ裏方じゃから、お主が知らぬでも不思議はあるまい」

「あ、そうなのか」


 どうやらクラス替えに際して繋がりがほとんど失くなったに等しいカイトに対して、ティナの方は同性かつ所属が近い事もあり比較的繋がりがあったらしい。

 実はそちらの線もあり、彼女が選ばれたとの事であった。というわけで納得した瞬に対して、カイトは書類に自身のサインを記載すると、それを処理済みの箱に入れておく。


「まぁ、東雲ならオレとしてもやりやすい。灯里さんもそうだろうし」

「呼んだ?」

「ぎゃぁ!?」


 ぴょこっと顔を出した灯里に、カイトがいつものように悲鳴を上げる。どうやら相変わらず忍び寄っていたらしい。というわけで、びくっと跳ね上がったカイトが声を荒げる。


「だから忍び寄るな言うとろうに!」

「読めないあんたが悪い……で、それはともかく。何?」

「ああ、東雲の事だ。文化部の連合会会頭の推挙で今回の使節団に参加になった。聞いてるか?」

「ああ、東雲さん? 彼女なら安心だわー」


 どうやら東雲なる女生徒の事は灯里も知っていたらしい。一つ安心した様子を見せる。が、そんな彼女がふと思い出す。


「あ、でも彼女あんまり精神面強くないっぽいからフォローしっかりしてあげないと駄目よ?」

「それはわかってる。一応、同級生だからな」

「あ、そっか。そういやティナちゃんが言ってたわね」


 ティナと同級生である時点で、カイトもまた同級生だ。それを思い出した灯里は納得したように一つ頷く。そうして、灯里が来た事で改めて使節団についての話を行う事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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