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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第94章 子鬼の王国編

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第2416話 子鬼の王国 ――帰還と報告――

 『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』の崩壊を受けて、『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』の掃討という任務を完了させたと判断された冒険部。そんな彼らを率いるカイトはベルクヴェルク伯爵の撤収に合わせ、一旦はベルクヴェルク伯爵領に移動し後任となるギルドへの引き継ぎを行っていた。


「以上が、今回の任務における現状となります」

「なるほど……そいつぁ……いや、ぶっちゃけウチが初手で受けてなくてよかった」


 撮影された戦闘時の映像――学術的な側面から『王』について調査が必要なので撮影されていた――を見ながら、合同部隊を率いる隊長の一人が盛大に顔を顰める。彼の戦闘力としてはランクB。冒険者としては十分な力を有していたが、それでも『王』と戦うなら単騎は不可能と断ずるほどだった。そんな彼がカイト達へ告げる。


「まぁ、とりあえず状況は把握した。護衛についちゃもう問題無いだろう。おおよそは討伐されてる、って感じか」

「おおよそ、かつ調査も完璧とは言い難いのでその点には注意された方が良いかと」

「そりゃ、こっちの仕事だ。そこで手抜かりやっちまっておっちんでも文句は言えねぇさ」


 カイトの忠告に対して、先の冒険者は笑って首を振る。そうして粗方の確認を終わらせた後、カイトは用意した資料を手渡す。


「それで、こっちが一応今回の任務における資料です。任務開始前に確認しておいてください」

「……おう」


 今までは前のめりに話をしていた冒険者達であったが、差し出された資料には思わず及び腰になっていた。まぁ、冒険者達は基本こういうものだ。なので彼らはすぐに学者肌の冒険者に資料を渡す。


「こいつ頼むわ。俺は見たくねぇ」

「はぁ……わかった。こちらで確認しておこう。ありがとう。おかげでこちらの作業はやりやすい」

「いえ……ですが十分にお気をつけを。数日の経過観察はしていますが……件の『王』はやり手と言って良い腕を持っていた。何が起きても不思議はないでしょう」

「十分、承知している。何分、新種の魔物の調査もやる事が多い仕事でね。未知の相手に情報が少ない状態で挑むのは慣れているさ」


 カイトの言葉に対して、先に資料を渡された冒険者は一つ笑って首を振る。やはり学者肌と言っても冒険者。特に魔物学になると荒事は避けられない。学者だから、と甘い考えだと痛い目に遭う事は多いのである。というわけで、そこらはわかっているカイトも相手が専門家の集合であるため、これ以上は不要と判断する。


「そうですね……一応、わかる限りの内容は書き記しました。何か参考になれば」

「ありがとう……まぁ、今回の相手がどこまで自然発生した魔物と考えるべきかはわからないが……少なくともそういう進化をさせられる、という点は鑑みた方が良いのだろう」

「はぁ……」


 一応、カイトは魔物学の専門家ではない。なので冒険者の言葉に曖昧に頷くだけであった。そうして、彼はそれからも暫くの間引き継ぎを行う事になるのだった。




 後任となる冒険者達への引き継ぎから暫く。カイトはベルクヴェルク伯爵に呼ばれ、彼の執務室へと入っていた。


「失礼します。お呼びとの事でしたが」

「ああ、来てくれたか……まず、先程振り込みについて同意する書類にサインしておいた。早ければ今日中。遅くとも明後日には振り込まれているはずだから、確認しておいてくれ」

「ありがとうございます」


 今回は報酬額が報酬額だったため、即座の振り込みとはいかなかったらしい。とはいえ、こんな事はいつもの事なので、どちらも確認として話していた程度でしかなかった。


「それで、被害状況について報告を聞いた。けが人多数なれど死者無し。見事な手際だった」

「いえ……軍を参考に部隊を整えさせて頂いただけです。犠牲者を減らすのであれば、軍の動きを参考にするのが一番でしたので」

「なるほど……確かに、今の軍の救助部隊はユニオンにも参考にされているものだ。君の発想は当然のものではあったか」


 そもそもその救助部隊もマクダウェル家が考案した物だったしな。カイトの発言にベルクヴェルク伯爵は納得して頷いた。カイトが冒険部に設けている救援部隊や即応部隊であるが、これは当然マクダウェル公爵軍でも採用されている。まぁ、どちらもカイトやティナが考案し運用しているのだ。組織体制が似ているのは当然だった。

 が、その実用性から今では皇国でも一般的に運用されており、その実績を受けてバルフレア――元々カイトから聞いていた事もあったが――もユニオンの直轄に部隊を設けたのである。


「まぁ、それは良いだろう。それで呼んだのは他でもない。今回の作戦において、裏で暗躍していただろう組織について君の意見を聞いておきたくてな」

「組織……ですか」

「うむ……ああ、そういえばその後倉庫の事は聞いたかね?」


 倉庫とは間違いなくスリガラ率いる部隊が調査をしていた倉庫の事だろう。ベルクヴェルク伯爵家で今回の一件が人為的に引き起こされた可能性が高い、と判断されたのもそこに偶然ゴブリン種の魔物の死体が残っていたからだ。それについてはカイトも聞いていたが、『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』の討伐があったので詳しい事は聞いていなかった。


「いえ……」

「そうか……ひとまずあの後も地下の調査は行われたのだが……大した情報は残っていなかったそうだ」

「なるほど……おそらく人為的に引き起こされた物と掴まれる可能性は想定していたのかもしれませんね」

「かもしれん」


 今回の撤退は急に行われた物だと考えてよかっただろうが、それにしては情報の抹消がかなり入念に行われていた様子だった。必然、カイトが考えた通り人為的と露呈するのは想定内だったと考えた方が自然だった。


「おそらく、そんな奴らにとって想定外だったのは君の手腕だろう。最後のワンピースだけ、奴らはしっかりと確認出来なかった」

「ありがとうございます……それで、回収したゴブリンの死骸は?」

「うむ。これについては中央に回して、確認をして貰った。通常のゴブリンより脳が少し肥大化している様子だった、との事だった」

「肥大化……」


 今回の一件はカイトが報告した事もあって、皇都の中央研究所も全面的なバックアップを行っていた。なので送られた死骸は優先的に解剖され、調査が行われたらしい。これについてカイトは戻ってから報告を聞くか、と思っていたので知らなかった。そんなわけで偶然に近い形だが報告を受け険しい顔になった彼に、ベルクヴェルク伯爵が告げる。


「うむ。おそらく知性の発達に関連し、頭脳が肥大化したのだと思われるとの事だ」

「なるほど……確かに『王』は勿論のこと、『近衛兵』の知性も侮れるものではなかった。直に話も出来ました。こちらのサブマスターからの報告書は?」

「読んだ。驚くべき事だと思う」


 ゴブリン達が人語を話すことそのものはさほど珍しい事ではないが、人と同様の意思を示すのは驚くべきというしかない。故にその報告を受けたベルクヴェルク伯爵も驚きを隠せないでいた。


「こう言うと恐れているように捉えられてあまり公にはできんのだが……魔物に知性を与えるなぞ。まだ一体だけになら、多少の危険視で良い。が、その側近にまであれほどの知性を与えたのであれば、比較的汎用的に使用出来ると考えて良いのだろう」

「ええ……これが大火とならねば良いのですが」

「ああ……」


 知性を持つ魔物の軍勢が出来上がるというのだ。この厄介さは為政者である二人はよく理解しており、どちらもただただ頭を抱えたいとばかりに深い溜息を吐いた。と、そんな所でベルクヴェルク伯爵が笑って首を振る。


「っと……すまない。こんな話を君にした所で、だな。まるで私と同じ為政者のような反応をしてくれたものだから、つい話してしまった」

「ああ、いえ……どうしても組織の上に立つと、そういう所にも視点が向いてしまったのかと」

「ははは。なるほど。そういう意味でいえば、確かに君も為政者か」


 実際には為政者なんですが。カイトは笑って自身の言葉に理解を示すベルクヴェルク伯爵に愛想笑いを浮かべておく。そうして少しの話を交わしたわけであるが、流石にこれ以上の意味はないか、と仕事の話に入る。


「それで、今回の一件を中央に報せるとやはり詳細な情報が欲しい、との事だ。また君の所にも中央研究所から人が来ると思うが……」

「構いません。この情報は共有するに値する情報かと思います」

「ありがとう」


 皇国の名代として、ベルクヴェルク伯爵はカイトの感謝に礼を述べる。そうして一通りの打ち合わせを交わした後、二人は諸々のやり取りを終えてそれぞれの仕事に戻る事になるのだった。




 さてカイト達がマクダウェル領に戻るべく帰路に着いていた頃。カイト達が取り逃がした組織の研究者達の情報をすでに掴んでいた者が居た。


「クラウンさん。件の実験。無事に逃げられたみたいですよ。安全の確保を完了した、と先ほど連絡が」

「それは良かった……話せますか?」

「勿論」


 道化師の問いかけに対して、彼の下で働く研究者の一人は笑って装置を起動させる。すると、組織に潜り込んでいた密偵の一人との通信が繋がった。


『クラウン様』

「お元気そうで何より。今はどちらに?」

『南国リゾートの真っ最中です』

「肝が冷えた後だ。良く身体を温めてくださいね。そのために観光客に偽装したのですから」

『あはは……ココナッツミルクが美味しいですよ。あの日は本当に生きた心地がしなかった』


 道化師の冗談に対して、研究者は陽気に応ずる。実はこの彼。カイトが真上に居た時にもまだ組織に潜り込んでおり、あの現場で唯一カイトの正体を知っていた。

 故に何時カイトに見付かるかとヒヤヒヤとしており、彼がリトスを捕獲して撤退してくれた事に心底安心していたのである。が、相手はカイト達だ。一歩油断すれば敢えて見逃されたとなる事も有り得た。

 数日は不安で料理の味がしなかったそうである。が、数々のチェックをクリアした事で逃げられたと判断。ようやく接触を取れた、というわけであった。


「で、どうでした?」

『実験結果については上々、という所でしょうか。実地試験としても十分な成果が上げられたと言って良いかと……主任も喜んでるでしょう』

「データを見てからだな。とりあえずはご苦労だった。お前ももう戻ってこい」

『あはは……ありがとうございます。ええ、早くそっちに戻りたい。こっちの職場環境はあんまり良く無いですからね』


 まぁ、基本は裏で暗躍する非合法組織だ。それで労働環境が良いと言うのは中々に珍しいだろう。というわけで彼が潜り込んだ組織もあまり良いものではなく、実は存外働きやすい環境――道化師にとって重要な組織だからでもあるが――らしい道化師の研究施設に戻りたがっていた。というわけで、そんな環境を作った道化師が問いかける。


「あはは……で、運用についてはどうでした?」

『あれだけできれば十分かと。実験はフェーズ2に移行して大丈夫と思います』

「だからそれはデータを見てからだ」

『俺もデータを見ながら話をしていますよ』


 主任の言葉に、部下の研究者は首を振る。とはいえ、彼がデータを持っている事は事実だし、データの大きさから転送も難しい。なので道化師が告げた。


「貴方はそのままそこで待機しておいてください。こちらから回収の人員を手配します」

『わかりました……こっち(組織)についてはどうします?』

「どうでも良いでしょう。怖いなら壊滅させておきますが?」

『あはは。やってくれるなら』

「やりません。面倒が増えますからね」


 今回の組織には確かに一部技術を提供して、『王』を作れるように手配はした。が、自分達が裏で暗躍していた事は教えていない。なのであくまでも自分達が作れたのだ、と思わせるためにもそのままにするつもりだった。


『あはは……ああ、そうだ。それとどさくさに紛れてサンプルを一つ奪取しておきました。それで検証も出来るかと』

「上出来です……では、また」

「……にしても、魔物を改造していた組織なんてそう都合よく見付かりましたね。ウチの下部組織の一つですか? ウチもやってますけど……」


 通信を終わらせた道化師へと、主任が興味本位で問いかける。これに、道化師は首を振った。


「いえ。あそこはウチとは関係の無い組織です。これから暫く、勇者殿にはあの組織を追って頂く事になりますからね。下手に繋がっていてこちらの喉元にナイフを突きつけられるのも面倒だ」

「あー……確かに」


 それを考えれば確かに別の方が良いか。主任は道化師の言葉に納得する。が、それ故にこそ主任は少し苦笑する。


「が……それなら哀れですね」

「あはは……ま、そこは運が悪かった、と」

「あはは」


 なにせこれからカイトに睨まれるのだ。カイトこそを主敵として動いている自分達は覚悟も出来ているしわかっていたので良いが、そうではない組織からしてみれば悪夢でしかない。少しだけ、主任も哀れに思ったようだ。そうして彼らは自分達が潜り込ませた研究員が持ち帰った情報を基に、また新たな動きに向けて動き出すのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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