第2411話 子鬼の王国 ――黄金の神撃――
『子鬼の王国』を率いた『王』との問答を終えて、遂に始まった戦い。その中でソラは自身と同じく重武装の『近衛兵』の一体との戦いだった。
「ふぅ……」
「『王』ガオ認メニナラレタソノ腕……見セテ貰ウゾ」
「お前も喋れんのかよ」
『王』ほど流暢ではないものの言葉を話せる『近衛兵』の一体に、ソラは思わず驚きを得る。そんな彼と『近衛兵』であるが、武器は同じ片手剣と盾だ。故にお互いに盾を前に僅かに突き出して片手剣を後ろに引いていた。
『小童。油断するなよ……あれは強い』
「わかってるよ……不安視はしてねぇしな」
<<偉大なる太陽>>の忠告に対して、ソラは肌身に感じる威圧感から油断するつもりは一切なかった。とはいえ、実のところ彼自身のやる気は満ち溢れていた。
「ふぅ……」
『あまり気負うな……月の神使殿はああであるが故に一個の存在として一個の存在に敬意を払っているだけだ。お前まで相手に意思が感じられるからと流される必要はない。そうしたければ、相手を圧倒出来るだけの力を持て』
「すんませんね、雑魚で……」
じりじりとすり足で間合いを測りながら、ソラは<<偉大なる太陽>>の注意に軽口を返す。と、そうして先に動いたのは『近衛兵』側だった。
『オォ!』
「っ! <<輝煌装>>」
来る。雄叫びと共に自身からすれば両手剣にも見える片手剣を振り下ろそうとする『近衛兵』に、ソラは地面に足をしっかりと着けて盾を僅かに引いて衝撃に備える。
そうして、『近衛兵』の片手剣が激突して地面が大きくひび割れる。が、ソラの使った技により彼自身には一切のダメージが無く、そして鍛錬の甲斐あって即座に攻撃に転じられた。
「はっ! っぅ!?」
『ハッ』
痺れるような腕の痛みを受けて顔を顰めるソラに、『近衛兵』は面白げに笑う。ソラは空いた胴体目掛けて横薙ぎに<<偉大なる太陽>>を振るったのであるが、胴体を覆っていた重厚な鎧に阻まれて出来なかったのだ。それに、<<偉大なる太陽>>も僅かに驚いた。
『む……我が刃を食い止めるか。ソラ。気を付けろ。高々ゴブリンの精錬と思うと存外痛い目に遭う』
「あいよ! <<風よ>>!」
『オォ!』
刃を弾かれ一瞬の硬直を生んだソラであるが、彼はその時点で自身の不利を悟って風の加護を展開。再度の振り下ろしから距離を取る事で対処する。そうして振り下ろされた片手剣が地面を砕き、その衝撃波が彼を追撃する。
「やるぞ! アーブル流発展……<<蛇の刃>>!」
アーブル流発展。それはエルネストの遺してくれた剣技をソラが独自に発展させた剣技の事だ。発展といってもそこまで器用な事をしているわけではなく、単に彼が手に入れている風の加護等を含め改良したというに過ぎない。
なので今回はエルネストの剣技にソラの風の加護の柔軟さを加えたものだった。そうして<<偉大なる太陽>>の刀身に緑色の光が宿り追撃する衝撃波を蛇が獲物に絡み付くように絡め取ると、その威力を合算してソラが<<偉大なる太陽>>を振り下ろす。
「おら……よ! お返しだ!」
『!? 見事ダ!』
緑色の蛇が動くようにニョロニョロとした動きで迫りくる斬撃に、『近衛兵』は思わず称賛を口にする。流石にこの挙動が掴めない斬撃では剣で相殺する事も難しい。故に、『近衛兵』は持っていた盾を突き出し、その威力を乗せて斬撃を消し飛ばす。と、そこにソラが地面を蹴って空中から襲いかかる。
「おぉおおおお!」
『グッ!』
雄叫びを上げ全体重を乗せて襲いかかるソラに対して、『近衛兵』は片手剣を振り上げてそれを受け止める。が、成人男性の平均体重より少し重い――筋肉と背丈の高さがあるため――ソラの体重に加え、その身を覆う完全金属の鎧だ。重量は100キロを優に上回る。
その威力はとてつもなく、『近衛兵』の顔が僅かに歪む。が、即座に『近衛兵』は身体強化の魔術を使用。すぐに持ち直した。と、そこで。『近衛兵』はソラの顔に薄い笑みが浮かぶのを見た。
『!?』
ずんっ。そんな感じで一気に圧を増したソラに、『近衛兵』は僅かに目を見開く。そうして改めてソラの姿を見てみれば、その理由はすぐに理解できた。と、『近衛兵』が理解すると同時だ。ソラが更に気合を入れて、鎧の各所に取り付けられたスラスターを全開にして押し込んだ。
「おぉ!」
『グゥ!』
ソラが押し込んだ事により、僅かに『近衛兵』の姿勢が揺らぐ。が、これで仕留めきれるほど、『近衛兵』も甘くはなかった。
『ッォオオオオオオ!』
雄叫びを上げて総身に力を漲らせ、『近衛兵』が崩れかけた姿勢を持ち直してソラを押し返す。そうしてその圧力により今度はソラが崩れ、彼はこの流れでの勝ち筋が無いと判断。押し返される勢いを利用して大きく跳躍してその場を離れた。
「っと、やっべー……」
自身が唐突に離れた事により振り抜かれた片手剣であるが、そこに込められていた力は『近衛兵』のほぼほぼ全力と言って良い力だったらしい。その一撃の余波により天高くにあった雲がすっぱり切れていた。それに一瞬呆けるソラであったが、そんな彼の眼前に一瞬で『近衛兵』が肉薄する。
『ハァ!』
「っ」
盾を前に突き出しながら突進してきた『近衛兵』に対して、ソラもまた盾を前に突き出して盾同士を衝突させる。体格差があれど、体術や身体強化であればソラに分があったらしい。
『近衛兵』の突進は食い止められ、そしてお互いの盾の衝突により盾は上にかちあげられる。そうしてがら空きになった胴体へと、両者は同時に片手剣を横薙ぎに剣戟を放った。
「<<風よ>>! 更にリミット・ブレイク!」
『グッ!』
先に剣戟を叩き込んだのは、風の加護に加えて鎧の限界突破機能を展開したソラだ。ブロンザイトとの旅路の後に再調整されたこの機能であるが、ソラの飛躍的な強化により遂に時間制限を取っ払った状態での使用が可能になったらしい。
更に上のオーバーブーストについては鎧の耐久面から制限があるぐらいで、こちらの性能向上に関してだけなら無制限となっていた。とまぁ、それはさておき。急加速して叩き込まれた斬撃であるが、これは『近衛兵』の鎧に傷を付けながらも貫通は無理だった。そしてそれでソラは問題なかった。
「おぉおおおお!」
雄叫びを上げて、ソラは『近衛兵』の巨体を押していく。そうして遂に堪えられなくなったのか『近衛兵』の身体が僅かに持ち上がり、『近衛兵』が思いっきり吹き飛ばされた。そこに、ソラは間断なく攻め込んだ。
「おぉおおおお!」
盾を腕に装着し固定。そうする事で両手でフリーにしてしっかりと<<偉大なる太陽>>を握りしめ、反動で地面が砕けんほどの力で地面を蹴って追撃する。そうして空色の光を纏う一条の弾丸となったソラに対して、『近衛兵』は地面を急制動。その反動をも利用してしっかりと地面を踏みしめて、盾を構える。
『……』
何かを呟いた。ソラは自身の放つ魔力が放つ轟音の中、『近衛兵』が何かの技を展開した事を理解する。何かはわからないが、少なくとも防御系。そう察した彼に、<<偉大なる太陽>>が問いかける。
『何かを使ったが』
「一気に突っ込む!」
決まれば勝利確定の威力を込めているのだ。そして避けられる状態ではない以上、ここは気合を入れるだけである。というわけで総身のブースターを点火して更に加速し、彼は一気呵成に突っ込んだ。
「おぉおおおおおおおお!」
『グッ……ヌゥウウウウウ!』
ソラの雄叫びと、『近衛兵』の苦悶にも似た雄叫びが極光の中で響く。そうしてソラの切っ先から極光が吹き出して『近衛兵』を飲み込むわけであるが、その次の瞬間。まるでそれに呼応したかのように『近衛兵』の盾から赤黒い極光が放出。ソラはこれに飲み込まれる。
「ぐっ!」
『ヌゥ!』
閃光に飲まれた両者が、弾き飛ばされるように飛び出した。いや、ようにではなく正しく弾き飛ばされたのだ。そうして吹き飛ばされながらも若干の手傷でなんとか持ち堪えたソラへ、<<偉大なる太陽>>が僅かな驚きと共に告げる。
『驚いた……今のは<<反壊人>>か? 中々厄介な……』
「<<反壊人>>……? っ」
<<偉大なる太陽>>の呟きを聞くと、ソラの脳裏にエルネストの声が駆け巡る。
『<<反壊人>>ってのは敵の攻撃を反射してそっくりそのままお返しするって技だ。結構むずいそうだぜ、あれ』
「……」
とどのつまりカウンターというわけか。ソラは攻勢防御とでも言うべき技を理解し、一度だけ首を振る。自身の知らない知識が勝手にインストールされ、勝手に解凍されるのだ。何回やっても慣れなかったし、あまり心地よいものでもなかった。そうして違和感を振り払ったソラであるが、そんな彼に<<偉大なる太陽>>が問いかける。
『前任から聞いたようだな……どうする。どうやら完璧には返せなかった様子だが……あれを何度も連発されるとあまり有り難くはないぞ』
「どうする……ね」
どうしたもんかね。ソラは<<偉大なる太陽>>の言葉に僅かに考える。実際、防御力に長けた彼だ。かなり全力の一撃を防がれ更にカウンターまで叩き込まれている以上、中々に厄介な状況と言えた。そうして浮かんだのは苦笑だ。
「あいつは俺を殺せりゃ良いけど、こっちはあいつ以外にも戦わなきゃなんないからな……なんとか、確実にあれを破りたいけど……」
『手を貸してやろうか?』
「なんかあんの?」
『無論だとも』
どこか得意げかつ自慢げに、<<偉大なる太陽>>はソラの問いかけにはっきりと請け負う。どうやらやりたくて仕方がないらしい。それをソラも察する。
「じゃ、頼む」
『うむ……言葉を続けよ』
「は?」
『詠唱せよ、と言っている。貴様が我の力を解き放つなぞ夢のまた夢よ』
言われた事を理解できず困惑したソラに対して、<<偉大なる太陽>>はどこか呆れるように告げる。それに対して、ダメージであればこちらの方が圧倒的に蓄積している『近衛兵』は呼吸を整え傷を一気に回復させていた。
「……流石魔物……マジかよ」
意思を交わせ言葉を交えようとも、『王』が選んだように所詮は魔物だ。なので『近衛兵』の肉体は完全に魔素で構築されており、一瞬一瞬で高熱の水蒸気を発しながら再生していた。それにソラは呆れながらも、<<偉大なる太陽>>の指示に従って詠唱を行う。
『「闇に射す一筋の天光よ」』
意識を研ぎ澄ませ<<偉大なる太陽>>の言葉をそのまま口にする。そして、次の瞬間。ソラは異変に気が付いて、思わず目を見開いた。
「!? なんっ……だ!?」
今までとは段違いの神気と圧を感じ、ソラは大慌てで腹に力を込める。が、それに呼応するかのように<<偉大なる太陽>>もまたさらなる力を解き放つ。
「なん……だ、これ……!? ぐっ!」
持っている自分自身が押しつぶされそうだ。ソラは<<偉大なる太陽>>から放たれる圧に必死に耐える。そんな彼に、<<偉大なる太陽>>はどこか嬉しそうに告げた。
『やはりな……そのまま一気に突っ込め。何、安心しろ。今のお前なら英雄にも負けはせん』
「む、無茶苦茶言ってくれやがる!」
メラメラと太陽の炎を思わせる黄金の輝きを放つ<<偉大なる太陽>>に、ソラは思わず悪態をつく。そんな黄金の光はソラ自身を包み込んでおり、彼自身にも変質を与えていた。それはわからずとも、彼はもう行くしか無いと判断した。
「うぉおおおお!」
『ヌゥ!?』
黄金の光を纏いながら突進してくるソラに、『近衛兵』は思わず目を見開く。が、驚いてばかりもいられない。故に『近衛兵』は回復した体力と肉体をフル活用して盾を構える。そこに、<<偉大なる太陽>>が激突する。
『グワッ!』
「ぐっ!」
爆ぜるような轟音と共に、『近衛兵』の持つ盾がそれを支える腕ごと消し飛んだ。その激痛に耐えながら、『近衛兵』は追撃を防ぐべくソラへと片手剣を振りかぶる。が、それを察していたかのように、<<偉大なる太陽>>から黄金の光が伸びてその腕を切り落とす。
『ヌゥ! 見事ナリ!』
これは英雄と言って良いだろう。『近衛兵』は太陽の輝きに飲まれながらソラへと称賛を口にする。それがソラに届いたかは定かではないが、その次の瞬間。極光を思わせる<<偉大なる太陽>>をソラが大上段から振るい、『近衛兵』の片割れを消し飛ばすのだった。
お読み頂きありがとうございました。




