第2410話 子鬼の王国 ――子鬼の王――
自身の過去世の記憶を見た事により、自ら滅びの道を歩まんとする『子鬼の王国』の『王』へと問いかけを行ったソラ。そんな彼に『王』は自らの道に一切の後悔なしと断言する。
そんな『王』にかつての自身を重ねてさらなる問いかけを行おうとしたその時。数分遅れでカイトがやって来た事により、ソラと『王』との問答は終わりとなる。と、そんな終わりとなり刀を抜き放ったカイトに対して、『王』は一つ問いかけた。
「さて、英雄よ。貴公は聞きたい事があるのではないか?」
「ほう……確かに無いと言えば嘘になるが。それに対する答えは用意されているのか?」
刀を抜き放ったカイトであったが、彼にも聞きたい事が無いわけではない。が、こちらはソラのように私人としての問いかけではなく、公人として聞いておかねばならない事だった。
「然り」
「ふむ……であれば、一時刀を収める理由にはなる。ならば、今度はオレが問わせて貰おう」
「……くっ」
どうやらそこの少年の問答はおおよそ最初から聞かれていたらしいな。『王』はカイトの口ぶりからそれを察する。そうして僅かに口角を上げた彼へと、カイトが問いかける。
「お前をそうした奴らは何者で、お前はどこから来た」
「ここより更に西。どことも知らぬ草原を越え、どことも知らぬ山を越え。どことも知らぬ川をいくつも越えた先に大きな砂漠があった。そこより、我は逃げ出した」
「……ふむ」
ここより西の砂漠。カイトは該当する砂漠を思い浮かべようとして、しかし一つしか無い事に気が付いた。そしてそれは、その砂漠に縁のある瞬も一緒だった。
「ここより西の砂漠……まさか、ウルカの大砂漠か?」
「それはわからぬ。が、朝日を目印に進み続けた我はここに来るまでに砂漠はその一つしか見なかった」
「それはわかった。ウルカの大砂漠には今法治国家は無いに等しい。確かに、お前を改造するような組織の秘密基地があっても不思議はないだろう」
険しい顔を浮かべ事態が厄介な状況に陥っている事を理解したカイトであったが、彼は『王』の言葉に頷いた。彼の指摘している通り、不思議はなかったからだ。
「で、その上での問いかけだ。何者だ?」
「……それはわからぬ。身なりが良いかと言われれば、おそらく盗賊共より身なりは良かろう。彼奴らの身なりが良いにしても金をふんだんに使った品の悪いものだ。それとは全く違っていた」
「……なるほどね」
どうやらどこかの国だか組織だかは裏でウルカの大砂漠を支配する盗賊達に裏で協力しているらしい。カイトは少しだけだが敵が絞れた事に一つ頷いた。というわけで、彼はこれについてはこれで良いかとずっと気になっていた事を問いかける。
「わかった。お前を改造した奴の事はそれで良い……それで、最後にもう一つだけ聞きたい」
「良かろう」
「その杖は、どこで手に入れた?」
「これか」
カイトの問いかけに、『王』はまるで王の錫杖のように常に自らの横に立て掛けていた杖を見る。それは先端に赤い宝石が取り付けられた、一見すると高価そうな杖だった。それを見ながら、『王』は楽しげに笑う。
「我を改造した者達の所で、我に与えられたものだ。まぁ、これを使い自らに反逆されるとは思ってもいなかった様子だがな……見くびられたものだ」
「奪ったものではないのか?」
「もとより、我に与えられたものだ。これを使い同胞を操れ、とな。なので我はそうさせて貰っただけだ」
「なるほど」
おそらく『王』はこの『杖』とセットになるように作られたという事か。カイトは楽しげな王が握りしめる杖を見ながら、そう理解する。と、そんな彼に『王』が笑う。
「この杖がほしくば、奪ってみせよ。これは我の王たる証。死ぬまで手放さぬ」
「そうかい……それならそうさせてもらおう」
元々相手は魔物だ。ならばカイトとしても遠慮はするつもりはなかった。そうして闘気を漲らせるカイトと『王』がその闘気をぶつけ合う中。誰もが戦いが始まるかと思ったわけであるが、そこでふと瞬が問いかけた。
「……一つだけ、俺も良いか?」
「ふむ……まぁ、物の序でだ。良い」
「ありがとう」
「……くっ」
調子が狂う。『王』は魔物相手にも関わらず礼を述べた瞬に僅かに笑う。これが単なる癖なのか、それとも自身に敬意を払っての事かはわからない。が、それでも心地よかったのは事実だった。故に、『王』は自身に敬意を払ったと思う事にした。そんな『王』に、瞬は問いかける。
「……なぜ質問に答えてくれた?」
「……なるほど。どうやら我はそこの少年を見くびり、お前は若干過大評価していたらしい」
「ぐっ……」
簡単な事だと思うのだがな。『王』は言外にそう語る。実際、ソラもカイトもその理由に気が付いていた。その上で、二人共各々の目的に沿って『王』の思惑に乗ってやっただけだ。
故に少しの呆れを乗せた視線をカイトへと『王』は向ける。それを受け、カイトはまるで質問に答えてくれた対価とでも言わんばかりで答えた。
「……単なる時間稼ぎだ」
「は?」
「ここにこっちの主力を集中させる事で、力の無い同胞を逃がす算段だろう。先輩も知ってるだろ? ゴブリンの最下層は最弱の魔物だ。こいつは最初から自分が助かろうなんてこれっぽっちも考えちゃいねぇよ。こいつはここで死ぬつもりだ。この『近衛兵』達もな」
「っ……」
瞬以下、『王』の思惑に気が付けなかった者たちは周囲に集結している『子鬼の王国』の『近衛兵』達の覚悟に思わず息を呑む。
もはや人と同等の知識と覚悟を持つ一つの生命。そう否が応でも認めねばならない覚悟だった。が、これに『王』は呆れるように笑う。
「その覚悟を見た上で、殲滅の覚悟を示した貴公には敬意を表しよう」
「……それが、お前が選んだ道だろう」
「否定はせぬ」
カイトの指摘に対して、『王』は軽く笑い飛ばす。『王』は一切合切が殲滅される可能性は理解しつつ、その上で一体でも多くの同胞が生き残れる可能性に賭けたのだ。それに対して、カイトは人の為政者としてそれを阻止するべく包囲網を構築させた。『王』の希望を理解しつつ、である。
「ま、その上で言えばオレや先輩がここに釘付けになっている間、ゴブリン達にとっちゃ逃げる可能性は僅かでも上がる。数千数万居れば、一体ぐらいは生き残れるかもなって程度だが……それを阻止するべくこっちも包囲網を構築したが」
「実に見事な包囲網だ。内側には水も漏らさぬように。外側では死角を無くし、どこにどうおけば最速で増援に駆け付けられるか……」
カイトの発言に対して、『王』の顔に苦味が浮かぶ。『王』が夜になると外に出ていたのは、ベルクヴェルク伯爵軍の配置を確認するためだ。これが誰が仕組んだのかは本来はわからないはずだが、『王』は直感的にカイトだと理解したようだ。そしてだからこそ、カイトを認めもしたのである。
「……仕事なんでな……さて。流石に義理立てってのもここらで良いだろう。こっちは聞きたい事は聞いてるからな」
「……そうか」
やはりそうなるか。『王』はカイトが質問に応じたのはあくまでも彼の利益に適うからこそだと理解していた。そして『王』とてこれ以上提供できる情報が無い事も理解している。であれば、こうなるのは必然だった。と、再び刀を抜き放つカイトに対してそれを察した『王』が杖で地面を小突いた。
「「「!?」」」
「ほぉ……面白い事が出来るじゃねぇか」
自分を筆頭にした冒険部の面々。『王』や『近衛兵』達が軒並み転移したのを見て、カイトはしかしさほど驚かなかった。そもそも何者かが転移術やそれに類する魔術が使えるだろう、というのは最初から想定されていた事だ。そこに、空中から周囲のゴブリン種の魔物達を撃破していたアルが連絡を入れる。
『カイト!?』
「ああ、問題ない……が、ちょっとこの『近衛兵』は厄介そうだ。お前とリィルも手が空いたら手を貸してやってくれ」
『了解! 姉さん! 指揮はお願い!』
『わかりました』
カイトの要請に対して、どうやらアルが専任して請け負う事にしたようだ。確かに外に居るのはさほど強くないゴブリン種の魔物ばかり。砲撃でなんとか出来ている部分も多いため、リィルに指揮を預けておけば一人抜けた所で問題はさほどなかった。
「ホタル。アイギスに照準は任せ、お前もこっちを頼む」
『大丈夫ですか?』
「各個撃破で良い。というより、こっちの被害が出た方が面倒だ」
『了解』
カイトの指示にホタルが頷き、ウェポンパックのコントロールをアイギスに譲渡。自身は飛翔して一直線にこちらに移動する。そうして手早く支度を整えた所で、カイトは瞬とソラに告げる。
「ソラ、先輩。二人はあの側近を。今の二人なら倒せるだろう」
「あの王様は……無理そうだな」
「ああ……トリン、ルー。冒険部の統率を任せる。まぁ、ぶっちゃけトリンになるだろうが。ルー、お前は彼の指揮下で全体の防衛を頼む」
『『了解』』
「うっしゃ……じゃあ、やろうか」
『王』が外に転移した理由なぞわかっている。単にまだ坑道内に残る同胞が坑道の崩落に巻き込まれるのを厭っただけだ。そして冒険部側としても外の方が有利に戦える。こちらの方が良かった。そうして、カイト達はすべての問答を終えて『王』とその『近衛兵』達との戦いに臨む事になるのだった。
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