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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第94章 子鬼の王国編

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第2408話 子鬼の王国 ――幼体――

 ベルクヴェルク伯爵領に発生した『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』討伐作戦に臨んでいたカイト率いる冒険部。それは開始前には様々なトラブルに見舞われながらも、カイト達による作戦の軌道修正があったからか作戦開始からはさほど目立ったトラブルもなく順調に進んでいた。

 というわけで、『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』の占拠する坑道に突入したカイト達は隊を三つに分けて坑道を制圧せんと進んでいた。そんな中。ソラは三つの道の内右側のルートを進み、要救助者が居る可能性があると言われている休憩室にたどり着いていた。


「……」

「……」


 休憩室の扉の前にて、最前列を行くソラは中列に居るトリンと視線で会話を交わす。そこで彼は同意を得ると、他の面々にもジェスチャーで合図。突入までスリーカウントと定め、指で合図を送っていく。そうして、三秒後。ソラとは正反対の位置に立った藤堂が扉を開いて、ソラが休憩室の中へと突入する。


「っ……ちっ」


 気合を入れて突入した次の瞬間。ソラは盛大に顔を顰めて舌打ちする。幸か不幸か、部屋の中にゴブリン達は居なかった。ここで休んでいられる余裕は彼らにもないのだろう。が、すえた匂いで何があったかは察するにあまりあり、嫌悪感を隠せなかった。と、そんな彼の真横を、何か小さな物体が転がった。


「ソラ」

「え? っ、なんだ!?」


 トリンの声に気が付いてそちらを振り向いたソラであったが、それとほぼ同時に背後で迸った閃光に思わず驚愕する。が、彼自身には何も起きず、という塩梅で危険はほとんどなかった。それに、トリンが告げる。


「ごめん……でもこうするのが鉄則だから」

「……そうだな」


 苦い顔のトリンに対して、ソラもまた嫌悪感を隠さずに同意する。休憩室の中であるが、確かに要救助者はいた。そして生きてはいる様子だった。が、生きているのと無事である事は違う。無事ではなかった。というわけで、ソラは自身の補佐をしてくれたトリンに一つ謝罪と感謝を述べる。


「悪い……それとありがとう。今のは俺の判断が遅かった。状況を見た瞬間、昏睡弾を使うべきだった」

「そうだね……総員、部屋の周辺警備を開始! 合わせ第四部隊! 外部の第五部隊に通達! 護衛部隊の出動を!」

「っ、了解!」


 自身で中が見えないように隠すトリンの指示に、外の面々もおおよそ中で何があったかを察したらしい。険しい顔で即座に行動に入る。その一方、一同に同行していたユニオンの救助部隊が部屋へと入ってくる。


「……要救助者、確認しました。即座に応急処置に取り掛かります」

「お願いします」


 険しい顔で作業に入る事を報告したユニオンの救助部隊の隊長に、ソラは一つ小さく頭を下げてそうしてもらう。そうしてトリンの投げ入れた昏睡弾により昏睡状態に陥った要救助者達へユニオンの救助部隊は手早く魔術を使用し、昏睡状態へと移行。移動の衝撃で目を覚まさないようにしっかりと眠らせる。と、それを流れで見守る形になってしまったソラへと、救助部隊の一人が告げた。


「天城さん。手を貸してください」

「あ、はい」

「これを扉の端へ。布で部屋の中を隠します」

「はい」


 扉を閉めた方が良いのは良いが、閉めたら外の状況がわからなくなる。ここが戦場である以上、それは愚策だった。故に布で中を隠すに留めるのだ。というわけで布で部屋を隠す作業の手伝いを開始したソラであるが、そんな彼の足に何か小さな物が接触する。


『アァ……ァァ……』

「っ! こいつは!」


 そこに居たのは、本当に小さなゴブリンだ。まだ生まれて間もない事が見なくてもわかるほどに小さい個体だった。幼体。言ってしまえばそんな個体だった。そんなゴブリンの幼体を見ながら、トリンが冷酷に告げる。


「幼体……だよ」

「っ……」


 人間の赤子と同じ様に四つん這いで動くその姿は非常に非力なもので、危害を加える様子は一切無い。というよりも、そんな力も無いのだ。危険は一切無い。人の子だったとて殺せるほどに弱いまものだった。と、そんなゴブリンの幼体に向けて、トリンは容赦なく手のひらを向けた。


「っ……」

「罪悪感は抱かない……お爺ちゃん、そう言ってたはずだよ」


 一瞬嫌悪感や罪悪感等様々な感情を顔に浮かべたソラに対して、トリンは冷酷にそう口にする。相手が幼体、赤子とはいえ魔物なのだ。それを放置すればどうなるか。彼はそれをわかっていた。


「……ゴブリンでも、成体なら子供は殺せるよ。それでも、止めるかい?」

「……いや、止めない。わかってる。ソル」

『くっ……ゴブリンの幼体に我を振るおうなぞ、歴代でも片手の指でも足りんぞ』

「……すまん。でもお前なら、完璧に消滅させられるからな」


 苦言を呈しながらも応じてくれるあたり、<<偉大なる太陽(ソル・グランデ)>>もソラの事を少しは認めてくれているのだろう。そうして、意を決したソラはトリンと共にその部屋に潜むゴブリンの幼体を一匹残らず始末していく事になるのだった。





 さて。休憩室にて要救助者の確保に成功したソラであったが、彼は休憩室の中で生まれたゴブリンの幼体を一匹残らず始末すると、抵抗する力の無い魔物を一方的に始末する後味の悪さを飲み下し他の二つの隊へと連絡を取っていた。


『そうか。お疲れ……というには少し早いな』

「少しどころか全然だろ……先輩。そっちどっすか?」

『こちらも、休憩室で要救助者を発見した……発見したんだが……』

「なんかあったんっすか」


 どこか苦味のある言い方に、ソラは首を傾げる。それに、瞬は告げた。


『昏睡弾が通用しなかった人が居てな。少し手荒な事になった。それでも、まだマシと言える状態だったが……』

「……そっすか」


 もはや言うまでもない事であるが、要救助者の状態なぞ察するにあまりある。度重なる陵辱の果て、精神が壊れていても不思議はない。それ故に救助時に暴れられる可能性は十分に有りえた。

 それを予防するために昏睡弾を使用して昏睡状態にしてしまって、というわけなのであるが、相手が冒険者だと効果が薄い場合がある。そういう場合は腕ずくで気絶させるしかないのだが、瞬の所ではそれが起きたのだろう。というわけで、それを察した彼は嫌悪感から逃れるようにカイトへと話を振る。


「カイト。そっちは」

『……さほどそっちと変わらん。まさか、三つのルート全てで救助部隊の出番があるとはな』

「『……』」


 ヤバいな。ソラも瞬もカイトの声のトーンにかなりの激情が乗りつつあった事を察する。とはいえ、実はヤバいな、と察せられる段階ならまだ大丈夫だ。

 彼が本当に激怒すれば会話も無いし、それ以前に殲滅が始まっている。これが魔物だから、この程度で済むのである。魔物はそういうものと考えているからだ。


『まぁ、良い。兎にも角にもそちらも外の救助部隊が到着次第、奥へ進め。が、最奥に到達しても交戦は可能な限り避けろ。現状の戦力だと不安が残る』

「あいよ」


 カイトの助言に対して、ソラは一つ頷いて了承を示す。そうしていくつかの手配をしていると、気付けばそれなりには時間が経過していたらしい。救助部隊の隊長がソラへと声を掛けた。


「天城さん」

「あ、はい」

「収容準備、完了しました。また護送の方も」

「よぅ」

「先輩……すんません。頼んます」


 ソラがこちらに向いたのに気が付いて手を挙げた上級生に、ソラが一つ頭を下げる。一応、道中は掃討して進んでいるのでそれなりには大丈夫だと思われるが、それでも安全が担保されているわけではない。なので護送が必須だったが、ソラ達に人員の余裕があるわけでもない。別部隊に護衛は任せていたのであった。


「ああ……そっちも気を付けてな」

「うっす……藤堂先輩。怪我の治療は?」

「出来てるよ。良い塩梅に小休止になってくれた」


 ソラの問いかけに、トリンと共に補佐として就いてくれている藤堂が現状を報告する。一応これ以上戦わない方が良いと判断された人員については、先の護送部隊の到着に合わせて交代の人員がやって来ているので問題はない。なので人員の損耗についてはほぼ回復出来たと言ってよかった。


「うっす……じゃあ、進みますか」

「ああ」


 ソラの問いかけに、藤堂は一つ頷いた。そうして、一同は再度最下層を目指して進む事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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