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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第94章 子鬼の王国編

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第2406話 子鬼の王国 ――突入――

 時は遡る。それはまだ瞬がウルカに留学していた頃の事だ。そこで彼は盗賊の討伐依頼を筆頭に数々のマクダウェル領では受けられない――様々な事情はあるが――依頼を受けていた。その中には酸鼻を極める依頼も少なくなかった。


「ん? おぉ、瞬。お前これから依頼か?」

「あ、バーンタインさん。はい。これから南へ」

「そうか……遠いのか?」

「いえ……半日ほどです。単なるゴブリンの巣の殲滅依頼ですよ」


 この時瞬が受けた――正確にはリジェやシフらが主導し瞬はそのパーティメンバーの一人――のは、数カ月後の『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』よりかなり小規模なゴブリン達の巣の掃討作戦だ。とはいえ、これは比較的ありふれた依頼であったため、バーンタインもさほど気にする様子はなかった。


「あぁ、ゴブリン共の巣か……あいつら少し目を離すとすぐに繁殖しやがるからなぁ……定期的な清掃は大切だ」

「あははは。本当に」


 冒険者の中にはゴブリンの討伐をゴミ掃除や清掃活動と言う者も居るぐらいだ。なのでバーンタインもそれになぞらえて、今回の瞬の依頼をそう口にしたようだ。というわけで自身の冗談に笑う瞬に、バーンタインが重ねて問いかける。


「どんなもんだ、規模としちゃ」

「えっと……百数十体という話です」

「っ……お前、そりゃ……」


 特に気にした様子の無い瞬の様子で、バーンタインは何かを察したらしい。盛大に顔を顰めた。


「……あー、もしかしてお前がここで突っ立ってるのってあれか? ユニオンの手配待ちか?」

「あ、はい。よくわかりますね」

「はぁ……あんのバカ……」

「?」


 バーンタインは何かを理解し、盛大にため息を吐く。それに瞬は首を傾げるのであるが、バーンタインはそれを気にせずどこかへと連絡を入れた。


「おい、シフ」

『おう、親父か。どうした?』

「話は聞いた。依頼出るんだろ? お前なぁ……瞬から話聞いてんのか? 多分何も知らねぇぞ?」

『え、マジか? いや、受けてるだろ』


 バーンタインの呆れるような指摘に対して、シフはあり得ないとばかりに笑う。が、これについては仕方がない側面もあった。バーンタインは<<暁>>のギルドマスターとなるにあたり、マクダウェル領の神殿都市にて支部長を経験している。故にマクダウェル領の実情も身に沁みて理解していたのだ。


「マクスウェルでんな依頼が起きるかよ。年数件だ。受けてる方が珍しいんだよ」

『マジか。流石マクダウェル領ってかなんってか……マジか』


 マクダウェル領は流石カイトのお膝元というだけあり、治安の良さは群を抜くのだ。しかもカイトの逸話等も相まって冒険者達の聖地にも近い。こういった依頼が発生し難い土壌はあったのである。が、それを知らないシフはバーンタインの指摘にただただ仰天するしかなかった。


「あー……まぁ、どうせそんなだ。フォローはなんにも考えてねぇだろ」

『あー……まぁ』

「はぁ……あんま贔屓の引き倒しってのはしたかぁねぇが……任されちまってそこで下手すると東の奴らを笑えねぇからなぁ……」


 出来る事なら瞬に関しては大半をある種身内に近いリジェや教導役であるシフに任せておきたい所であったが、その教導役に不手際があればその始末を付けるのはギルドマスターである自分の役目だ。なのでバーンタインは丁度手が空いた事もあり、仕方がないと判断した。


「俺も行くわ。流石に叔父貴に頼まれちまってそれで不手際やっちまったら申し訳ねぇ」

『わりぃ』

「いや、こいつぁ本部にずっといさせちまった俺の手際の悪さってのもある」


 シフの謝罪に対して、バーンタインは苦い顔でどうしたものか、と考える。こういった風に各地の支部からウルカの本部に留学じみた形で移動する<<暁>>のギルドメンバーは少なくない。

 本部に預けて修行してもらおう、という判断だ。そして本部も支部の要請は大半受け入れている。が、この指南は基本教導役だ。なのでバーンタインも実情をはっきり認識していなかったようだ。


「……あー、瞬。ちょっと悪いが、今回の依頼は覚悟決めてもらうぞ」

「あ、はぁ……」


 何がなんだかさっぱり。そんな様子の瞬に対して、バーンタインは非常にバツが悪い様子だった。そうして、この半日後。瞬はなぜバーンタインがそんな顔を浮かべたのか、という事を理解する事になるのだった。




 さて時は進んで秋も終わり。瞬はウルカでの初任務以降幾度か経験した似た様な依頼を思い出しながら、今回の『子鬼の王国(ゴブリン・キングダム)』討伐に臨んでいた。


「カイト!」

「第二部隊、合流完了!」


 瞬と共に戻ってきたソラであるが、彼は一旦の休息を挟んだからか魔力も気力も共に充足しており、十分な戦闘が可能な状態にまで復帰出来ていた。それに、坑道入口の火炎を維持しつつ合流を目指していた瞬ら第一陣の支援を行っていたカイトは頷いた。


「よし……二人共、けが人は?」

「単にここまで駆け抜けただけだから、ほぼゼロだな。怪我してるやつは今回復薬ぶっ掛けてるだろ」

「だろう」

「か……『電磁柵』も問題無いな」


 ソラの報告に同意した瞬とそんな二人を見てカイトは一つ頷いて、展開された『電磁柵』を確認する。この『電磁柵』は軍事行動においては対応策を取られるのであまり使われないが、今回のように大規模な魔物の巣の討伐作戦であれば退路の確保等のためによく使われるものだった。


「瑞樹。『電磁柵』は上からなら越えられる。そこだけ注意しておいてくれ」

『わかりました……まぁ、そう言っても数体程度。ライダー系もすでに狙撃しておりますし……特段、問題はありませんわね』

「か……が、油断はしないように。アル、リィル。外の部隊の統率は任せる」

『『了解』』


 カイトの指示に対して、アルとリィルが一つ頷く。そうして一通り指示を飛ばした後、カイトは隊列を整えさせる。


「第一班、オレと共に中央を進軍! 第二班、ソラと共に右ルートを突破! 第三班、一条先輩と共に左ルートを突破! 内部のゴブリンについては全て殲滅! ただし、どこかに要救助者が捕らえられている可能性が非常に高い! そちらを見つけ次第、要救助者の救出に尽力しろ!」

「「「おう!」」」


 カイトの指示に、冒険部のギルドメンバー達は声を揃えて承諾を示す。それを受けて、カイトはソラ、瞬の二人と共に頷きを交わす。


「よし……各員、武器を取れ! 最初の目標はこのすぐ先! 待機所の確保だ!」


 ざんっ。カイトの号令と共に、小休止として武器を鞘に収めていた者たちが各々の一斉に武器を抜き放つ。


「ソラ、先輩。おそらく初手は乱戦になる……そこを勘案し、坑道に突入しろ」

『『おう』』


 カイトの最後の助言に、ソラと瞬は一つ頷いた。そうして、カイトは自身が地面を強く踏みしめると同時にカウントダウンを開始する。


「カウント合わせ! トリン、テン・カウント!」

「はい!」


 ぶぅん。カイトの指示を受けたトリン――ソラの補佐で突入部隊に志願した――が映像を投影して10秒前である事を明示する。そうしてカウントが一秒ごとに減っていき、丁度十秒後。カウントが0を指し示すと同時に、カイトが維持していた火炎が消える。


「「「おぉおおおお!」」」


 雄叫びと共に、カイトを先頭にして冒険部の戦士達が坑道へと突入する。そうして入って真っ先にたどり着いたのは、かつて鉱夫達が様々な作業用具やトロッコ等の物資を置いていた大きな広場だ。

 そこには火炎の効果範囲ギリギリまでゴブリン種の魔物達がひしめき合っており、待ち構えていた。そこに、カイトは<<縮地(しゅくち)>>で切り込む。


「ふっ」


 初手を取らせるわけにはいかない。カイトは意識を高速化し、自分達の突撃と共に武器を前に突き出したゴブリン種達に対して大鎌による神速の抜き打ちを放つ。そうして、三日月状の斬撃が放たれ、突き出されていた無数の武器を細切れに切り落とす。


「おぉおおおお!」


 次いで攻撃に入ったのは、速度であればカイト達を除くと最速である瞬だ。彼は雄叫びを上げて進軍すると、カイトが作った隙間に潜り込んで<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>に力を込める。


「喰らえ、<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>!」


 瞬の指示を受けて、敵を食い殺す瞬間を待ちわびていた<<赤影の槍(シャドウ・ランス)>>が赤黒い力を解き放つ。それはまるで牙のようにギザギザの形に変形。瞬の横薙ぎに合わせるかのようにして伸長し、武器を失い無防備にその身を晒すゴブリン種の魔物達を飲み込んで、飲み込んだ箇所を消滅させる。そうして穴を更に広げた所へ、ソラがルーファウスと共に割り込んだ。


「ルーファウス!」

「合わせる!」


 ソラの要請を受けて、ルーファウスは一つ強く頷いてそれぞれが瞬と斜め四十五度になるような位置へと移動する。そうして、二人は同時に盾に力を込めて半透明の巨大な魔力の盾を生み出した。


「「<<双盾強撃ツイン・シールドバッシュ>>!」」


 生み出された巨大な魔力の盾を二人は待機所の中央で交差させて思いっきり振り抜いて、ゴブリン達の隊列を打ち崩す。無論、これは単に魔力の盾で強打しただけだ。なので討伐には至らない事がほとんどであったが、多くのギルドメンバー達が突っ込めるだけのスペースを作る事に成功した。


「よし! 俺達も続け!」

「行きますよ!」

「魔術師部隊! 前線の支援だ! 洞窟の中でブッパすると全員お陀仏だからな!」


 それぞれの部隊を率いる隊長達が一斉に指示を開始して、待機所で群れを成すゴブリン種の討伐を開始させる。それに混じり、カイト達初撃を行った面々も戦闘を開始した。


「暦、アリス。二人共、今回は突入部隊に加わっているが、基本はオレの指揮下で戦え」

「「はい」」

「よし……っと」


 ダンッ。カイトは二人の支援に徹する事を決めると、それに適した武器として魔銃と魔導書を選んだらしい。かなり独特な選択であったが、これは彼だからこそでありそして最善と考えていた。が、独特過ぎて誰にも理解はされなかったし、暦もその一人だった。


「……なんですか、それ」

「魔導書と魔銃だが」

「いえ……なんでそんな妙な組み合わせで」


 戦うつもりなんですか。暦はカイトの手にする魔導書――今回はナコト――と魔銃に首を傾げる。これにカイトは説明した。


「ああ、これか。魔導書の展開した術式を魔銃にインストール。直接敵に叩き込めるようにしてる。カートリッジチェンジより効率的に属性の変換を行えるし、出力の高い魔弾を放つ事も出来る。更には術式の選択次第で回復も出来るし、補佐も可能だ。二人の補佐をするならこれがベストだろう」

「はぁ……っ」


 カイトの返答にそうなんですか、と気の抜けた返事を返した暦であったが、彼女とて剣士だ。殺気を感じると共に即座に刀を抜き放ち、仕掛けてきたゴブリン種を切り捨てる。


「……お見事です」

「いえ……少し油断してました。気付くのが遅れました」


 一瞬で切り捨てはしたものの、若干の反応の遅れで間合いに入られてしまっていたのだ。暦はその点について反省点としておく。そうして、話してばかりもいられない、と三人もまた討伐に加わる事になるのだった。

 お読み頂きありがとうございました。

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